物々しい陣立ての中に、当事者二人―――・・・

 

一人は、サライ国女王ソフィア=エル=ホメロス。

もう一人は、次期オデッセイア国女王と(もく)されている、リリア=デイジィ=ナグゾスサール。

 

この二人は、互いの国が近いと云う事もあり、また年齢もそう違わないことから交流も頻繁に交わしていました。

けれど、性格的には正反対であった為か、仲はそんなには好くはなかったようです。

(とは云え、二国間で紛争に発展すると云うわけではなく、どちらかと云えば個人的争い・・・要は、喧嘩は絶えなかったと云う事。)

 

そう云ったわけではないのだけれど・・・今回の騒ぎには驚かされたモノでした。

それと云うのも、一夜にしてサライ国の王城―――ユーニス城下には、オデッセイア軍旗が翻っており、物々しい陣立てまで構えられていたのですから。

 

それでも、直接的に交戦することだけは避けようと、ソフィアはリリアに対し三度に(わた)り交渉の為の使者を送りこんでみたのでしたが、

当事者の一人であるリリアは、ソフィア本人でなければ取り合わない―――と、云う、(かたく)な姿勢を崩さなかったのです。

 

そうした彼女の頑固な性格は、昔と少しも変わらないモノだ―――と、辟易(へきえき)してしまっていたソフィアではありましたが、

そうしないことには事態が好転しないモノと理解したソフィアは、譲歩をして直接リリアに会う事にしてみたのです。

 

第二十七話;偽りの敗北

 

こうして―――彼女達は、直接自分達の意見を交わすべく、対面を果たしたのですが・・・

やはりソフィアが一番に聞きたかったこととは―――

 

 

 

リ:どうだ―――中々派手だろうw

  偶然にもな、演習中の奴らが居て―――そいつらを借りて、ここにこうして陣営を築いたんだ。

ソ:「派手」―――って・・・あなたはそんな事の為に、こんな行動に踏み切ったと云うの?

  ただでさえ、プロメテウスからの不穏な空気を感じているこの時期に・・・誤解を招きかねないわ。

 

リ:いいじゃないか―――誤解しときたい奴は、勝手に誤解しておけばいいさ。

  それよりもな・・・今回の目的なんだが―――こいつをするためさ。

 

 

 

今回の自分の行動を、「派手なデモンストレーション」くらいにしか感じてはいない―――

これから、自分達の国に匹敵するくらいの国の王になろうとしている人物にしてみれば、実に配慮に欠けた行動ではないか―――と、ソフィアは批難をしましたが、

それにも増してソフィアを呆れさせ、また落胆させた事―――・・・それが今回のリリアの主目的。

 

なんとリリアは、自分達の前に―――「将棋」や「チェス」と云った(たぐい)の、いわゆる盤上で模擬戦をする遊興の「盤」を差し出してきたのです。

 

「それにしても、なんとも浅慮(あさはか)な・・・」

「そんなことならば、こんな仰々しくせず、普通に会いに来ればいいのではないか・・・」

 

そう思いたくもなるのですが・・・

 

ソフィアは―――知らない・・・

今回の、リリアの一連の行動の裏側に隠された真相と云うモノを―――・・・

 

 

それはともかくとして、ソフィアのそう云った意志とは全く関係なく、その遊興は始められました。

而して、その遊興―――「軍盤」と呼ばれるモノは、文字通り「戦争」の様子を(かたど)った「遊び」であり、

軍人は云うに及ばず、幼い子供にも早くから「考える」と云う「知恵」をつけさせるために、この地方には広く伝わっていたのです。

 

遊び方としては、「将棋」や「チェス」のそれと同様に、親玉となる大きな駒を「詰ませる」―――それでした。

 

それに二人も、この遊びに古くから慣れ親しんでいるからか、駒の動かし方も実に軽やかなモノがありました。

ただ・・・違いと云えば、そこはやはり「手筋」と云うモノであったでしょうか。

 

リリアは―――やはりその性格を反映して、序盤から次々とソフィア側の駒達を取って行く・・・「攻め」主体。

対してソフィアは―――良く熟考(じゅくこう)した上での・・・「守り」主体。

だからなのか、前半戦はリリアに手駒を取られてやや苦戦しがちに見られたのですが、往々にして相手の「手筋」を読んで行くと云う事は、実は後半戦からこそがソフィアの本領発揮―――

事実、前半戦にあれだけ優位に盤上を支配していたリリアが、後半戦になってからと云うモノは後手後手に回ってしまい、そして(つい)には―――・・・

 

 

 

リ:ああっ―――くそっ・・・もう手が思いつかない・・・

ソ:全く―――あなたはいつもそう、勝ちを焦り過ぎるのよ。

 

リ:あ〜あ・・・やれやれ―――今回は勝てる自身があったのになぁ・・・

ソ:―――だったらどうです、もう一番・・・

 

 

 

お互いに、過去に何度も指していただけに、お互いの「手筋」と云うモノは判ると云った処・・・

それにこの「遊び」は、相手の先手を読める者が絶対的優位に立てる―――と、云ったモノではなく、そこはそれ・・・本当の「戦争」のように、何があるか判らない・・・

それこそが、この「遊び」の醍醐味でもあったのです。

 

それにソフィアの方も、今の勝ちで気を好くしたのか―――もう一番勝負を申し込んできたのです。

 

けれど・・・それは無理と云うモノ―――

なぜならば・・・そのこと自体が、今回のリリアの本当の目的でもあったのですから―――

 

そう―――彼女は、ここに「開戦布告」をしに来たのでなければ、幼馴染に遊興の誘いをしたわけでもなかった・・・

それに、この遊興の一番も、今回の本当の目的の「きっかけ」に過ぎない・・・

この勝負の裏に隠された―――それこそが今回のリリアの「大一番」・・・

 

 

 

リ:・・・―――いや、止めとくよ、私の負けだ。

 

 

 

「私の負けだ」―――その一言には、実に多くの意味が集約されていました。

勿論、この遊興の勝負の行方―――と、云う意味合いもあるのでしょうが、今リリアが口にした事は、寧ろそうした意味合いをも含む、もっと大きい意味・・・

 

それに、ソフィアの方でも徐々にその事に気付き始めるのです。

自分が知る、リリアの性格上―――自身の敗北を簡単に認めたがらない人物が・・・

どうしてこんなにもあっさりと認めたのか―――・・・

 

そして知ることとなるのです、今回のリリアの一連の行動と―――ほんの少し前、巷で流れていた噂の真相を・・・

 

その「きっかけ」となったのは、次のリリアのこの科白でした。

 

 

 

リ:だから、オデッセイアは―――今のこの時点をもって、サライの属国になることとする。

 

ソ:・・・・・・はぁあ?! い―――今・・・なんて仰ったの?!! オデッセイアが・・・サライの属国―――領土に?!!

 

リ:ああ―――確かにそう云った。

ソ:あなた・・・自分が仰ったことが、何を意味するか―――

 

リ:判っていたからこそ、私自身が云ったのだ。

ソ:可笑しいんじゃないの―――あなた、可笑しいんじゃないの?!!

  その事を、オデッセイアの官や民たちは・・・

 

リ:彼らが、私の思惑なんぞ知る由もない―――また、知らなくてもいい・・・

ソ:そんな身勝手な―――・・・

  いつもそう―――官はともかく、領民たちは・・・領主の気紛れによってそのツケを払わされてしまう・・・。

 

リ:それが「戦争」と云うモノだ。

  いいから聞け―――ソフィア・・・今回の事も、云ってみれば「戦争」なんだ。

  プロメテウスが仕掛けてきた「侵攻戦」にしても、私のように「紛い物」であったとしても・・・

  だったらソフィア―――お前は、この大陸を一つにしていくのにどちらがいいんだ・・・

  人が多く死んで逝った方がいいのか―――それとも、一人も犠牲を出さない方がいいのか・・・

 

 

 

真面目な顔をして、幼馴染は云う・・・

そんな者の口から、ちょっとした心情の吐露が成されたのです。

それが―――「この大陸を一つにしていくのに」・・・

 

・・・「この大陸を一つに」――――??

 

その一言を受けると、今までのリリアの不可解な行動の謎が、一気に氷解して行くかのようでした。

 

そう・・・今回の、オデッセイア軍によるユーニス城包囲陣は、紛れもなくオデッセイアの「侵攻」―――でした。

 

しかしそれは、先般の様なプロメテウス軍による大々的な「侵攻戦」ではなく、どちらかと云えば穏やか且つ緩やかなモノだった・・・

それに―――今回のことで、サライを獲ろうなどとは、リリアの胸中には微塵もなかったのです。

 

ただ・・・自分の幼馴染であるサライ国女王との、一対一(サ  シ)の勝負を遊興で挑み―――

そこで「敗北」を宣言するだけで良かった―――

 

余りもの出来事に、目を丸くする勝者を前に―――まさに「してやったり」の満足げなる表情を浮かべる敗者・・・

こんなにも対照的ではありながらも、エクステナーはまた一歩・・・大きく一つになる為に動いて行くのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと