誰:ロデリックちゃん・・・

ロ:おばさま・・・マトカリアおばさま・・・

 

 

 

その二人は―――その地方「コクトー」に住む、一組の男女でした。

 

女性の方は美しく、その美貌目当てで云い寄ってくる男は後を断ちませんでしたが、なぜかどの男性にも(なび)く事はありませんでした。

一方の男性の方は、女性よりも歳若く、云ってしまえば「少年」なのですが・・・身寄りは一人もおらず、

それでこの少年が「孤児」だと云う事が判るのです。

 

だとすれば、赤の他人同然のこの二人が一緒に住む理由とは・・・?

 

一つに考えられるのは、女性が身寄りのない少年の事を不憫に思い、引き取っている・・・と、云う事なのですが―――

 

また一つ、この女性には好からぬ噂が付いて回っていたのです。

 

それと云うのもこの女性・・・元々の、この地方の出身者なのではなく、どちらかと云えば「流民」同然・・・

それでも、その女性が一歩外へ出ると、他の男性―――「既婚」「未婚」に関わらず惹かれずにはおれなかった・・・

しかも「未婚」ならばいざ知らず、「既婚」だった場合には「妻」達からの嫉妬を宜しく買い、

「色香を売り物にする者」―――「魔性の女」―――などと、女性を誹謗中傷する噂が引きも切らなかったのです。

 

つまりは・・・「皇」である女禍の耳にも届いた(くだん)の噂も、まさしくその女性を誹謗中傷する噂そのモノであり、

女禍も、他人からそんなにまで悪く云われるのは何かしらの原因があると思い、

そこで、その噂の発生時と発信源を調査していた段階で、例の・・・コクトー付近に墜ちたと云う「落下物」の報告と前後していた為、

真偽のほどをスターシアとエルムドアの二人に確かめさせようとしていたのです。

 

しかし・・・実際に現地へと赴いたのは―――・・・

 

 

 

ヱ:わぁ〜い♪わぁ〜い♪ エルムおねぇたんと、いっちょに りょこーた〜♪

エ:(アハハハ・・・いいわね・・・無邪気でいられるのって・・・

  でも、この子にとっては、今回私達に課せられた任務・・・それくらいしか取ってはいないのでしょうね・・・。)

 

 

 

なんと、この度仲良くなった(??)ヱリヤとエルムの二人―――・・・

 

しかしどうして―――今まで面識もなかった二人が、見ず知らずの土地に出向く事になったのかと云うと・・・

 

実は、エルムの父となったエルムドアの、こんな思惑があったのです。

 

 

 

大:余としては、反対―――だな。

  退屈窮まる・・・

ス:なんだと? お前・・・女禍様からの―――

 

大:喩え、「お願い」・・・と、してもだよ。

  それに・・・ククク―――お誂え向きのならば、ここにいるではないか・・・。

 

女:なるほど―――つまりお前としては、経験も兼ねて・・・と、云いたいのだな。

  (・・・)判った、申し訳ないがエルム女史、来てくれたばかりで戸惑うことばかりだとは思うけど、

  今回だけは私の云う事に従って貰えないだろうか・・・。

  これは、「命令」ではなく、飽くまで私からの「お願い」だ。

 

エ:ええっ?! ま・・・まあ―――確かに・・・未だに疑問に思う事は多くあるのですが・・・

  それに、あなた様から「お願い」をされたのでは、断るわけにはいきませんからね・・・。

 

 

 

「エルムドアの思惑」―――まあ確かに、彼やスターシアくらいのレベルになると、その程度の任務など取るに足らないことだった・・・

しかし、こうした経験の浅い者たちだったならば、どうだろうか―――

決して易しくはないけれども、「良い経験」になる・・・

 

それに、未だに自分の事を割りきれていないエルムにとっても、「良い機会」なのではないか―――と云う、女禍の判断でもあったのです。

 

 

しかし・・・実際の処は―――・・・

 

 

 

ス:健気なモノだな・・・逆にその健気さが痛々しい―――

  それにしても、また随分と思い切った事をしたモノだな、マグラ・・・

大:フッ―――未熟なあ奴らなら、向こうも容易に尻尾を出すと云うモノ・・・

 

ス:なに? お前・・・まさか―――・・・

大:汝こそ、白々しい真似は止せ―――

  それに、あ奴も多くまでは云わぬが、今回のは紛れもなく「宙外(そ と)から来た者」だよ。

 

ス:(!!)やはりそうなのか・・・だとしたら―――・・・

大:あたら、余や汝の様な熟練(ベ テ ラ ン)の猟犬が出ていては、獲物の狐は穴倉から出てはきはすまい―――

  だが、余の娘や汝の娘のような未熟(ビ ギ ナ ー)な猟犬だと、獲物の狐は気を赦す・・・のではないかな。

 

 

 

その、大公爵からの思惑を聞かされた時、スターシアは納得はしましたが、可愛い自分の娘の事を思うと、やはり心配せずにはいられませんでした。

 

しかし、結局のところ大公爵に(なだ)め透かされ、エルムとヱリヤはコクトーへと赴いたのです。

 

 

そしてそこで、彼女達を待ち構えていたのは―――・・・

 

 

 

マ:ロデリックちゃん・・・私は、もう、あなたなくしては生きられないの・・・

ロ:おばさま・・・それは僕もだよ。

  身寄りもなかった僕を引き取ってくれて・・・ありがとう。

 

 

 

バラが咲き誇るお屋敷に住む―――いかにも薄命・薄幸そうな美女・・・に、寄り添う活発な少年。

 

一見しても、事情を知らない赤の他人から見れば、孝を尽くす美談なのですが・・・

実はこの二人、血の繋がりなど全くなかったのです。

 

ならば、この少年は、少しでもその美人の為にならん事・・・とする為、無償(ボランティア)で尽くしているかのようにも見えるのです。

 

しかし・・・その少年に見覚えがあったエルムは―――・・・

 

 

 

エ:あら? あなたは・・・ロデリック=フェデラー=クズィールフ??

 

ロ:えっ? ・・・お姉さん達―――は???

 

マ:(!)あんたたち・・・フフ―――そう云う事かい・・・。

  どうやら気付かれちまったようだ・・・

 

ロ:え?? おばさま・・・?

 

エ:いえ―――私達は・・・

 

マ:フ・・・隠さなくってもいいよ・・・。

  あんた達は、上の人達から、「私を捕まえてこい」―――か、「抵抗するようなら抹殺()してこい」―――

  そのくらいの事は云われているんだろ。

 

  けどね・・・私も、このままむざむざと死ぬわけにはいかないのサ!!

 

 

エ:―――うっ!! こっ・・・これは・・・!!(「催淫術」??)

 

 

 

エルムには、その少年―――ロデリック=フェデラー=クズィールフには見覚えがありました。

それと云うのも、エルムの生前に、ロデリックは「あること」をお願いする為、エルムが元所属していた「マハトマ教」の、ある教会に来た事があるのですから。

 

そう・・・その時のロデリックからのお願い―――「コクトー近郊で、カルマの名を騙る人さらいが横行している」・・・

 

この一報がきっかけでエルムは命を落とし、ヴァンパイアとなってしまった・・・経緯を創った当人でもあったのです。

 

 

そんな彼と―――今回話題となっている噂の人物・・・「エネマ=ヨーニ=マトカリア」

その彼女とが一緒にいる現場を、エルムとヱリヤは抑えたのでしたが・・・

 

エネマは・・・自分の存在が「フロンティア」に知られてしまい、その為の調査員が二人・・・事情を聴取する為に訪れたのだろう・・・と思ってしまったのです。

 

それに・・・エネマは―――・・・

 

 

 

エ:うぅぅっ・・・・く―――あはあぁぁ〜っ!!

  (な・・・なんなの・・・この感覚・・・触手達に弄ばれていると云うのに・・・き・・・気持が良過ぎて抵抗ができな・・・い!!)

 

 

 

エルムも、ヴァンパイアの真祖になった―――とは言え、所詮は「なりたて」・・・

未だ人間だった頃の感覚は抜けてはおらず、図らずもエネマが仕掛けた「幻夢」―――・・・

 

エルムの足下から無数の不気味な触手達が生え、エルムの軆の淫らにして敏感な場所を(まさぐ)って行く・・・

それに抵抗をしようとしても、頭の内が痺れたようになり、手足の先までも自分の意思で動かせられない有り様だったのです。

 

それに、一緒に来ていたヱリヤを見ると、成熟な体つきを幼い感性でよがらせ、快感の度に身悶え、痙攣している始末だったのです。

 

 

そう・・・エネマこそ、「当時の」エルムやヱリヤにしてみれば、強敵同然の一人・・・

人の「夢」に入り込み、「精」を喰らい「淫」に堕とす「魔族」―――・・・

 

 

第二百七十一話:『淫魔(サキュバス)

 

 

だったのです。

 

 

ところが―――・・・

 

 

 

エ:(?!)あっ・・・?(と、解けた・・・)

  でも、どうし―――(!!)

 

 

 

そんな淫らな感覚に陥ったのは、現実の時間にして数分程度・・・

それにエルムは、「宗教人」だったからこそ、こうした「魔族」と呼ばれる者達の事を知っていたのです。

 

だからこそ・・・そんな・・・自分達人間の「天敵」であるはずの、魔族からの強力な術が・・・途中で解けてしまったのは、なぜ・・・?

―――と、そう思っていたら・・・

 

術を仕掛け、優勢だったはずのエネマが、地に伏せてしまっていたのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと