自分は・・・このまま・・・人間の天敵である「淫魔」の強力な術によって、未来永劫、淫らの牢獄に閉じ込められ、

精も根も・・・命さえも、尽きるまで吸われて逝くのだ・・・

そうエルムは覚悟をしました。

 

それにもう一人・・・こんな未熟な自分に付き合わせたお陰で巻き添えを食わせてしまった、

最近知り合えた者に対し、「申し訳ない」―――と、思っていた最中(さ な か)・・・

 

思いもよらず術が解けてしまい、その原因を探ろうとしていた処、すぐにその原因は判ってきたのでした。

 

なぜならば―――・・・

 

 

 

エル:(・・・)あっ??

 

ロ:おばさま〜〜! おばさま〜〜!!

 

 

 

先程まで優位に戦いを進めていた者が、どう云うわけか地面へと倒れ込み・・・

その者を心配して、側に駆け寄る少年が・・・

 

そして―――・・・

 

 

 

誰:―――ふむ、思っていた通りだったが・・・まさか「淫魔(サキュバス)」だったとは・・・な。

エル:え? あ・・・あの、あなたは??

 

ス:フ・・・私だよ、フロイライン・・・。

  私の種族は、「普段」と「特殊な場合」とでは、存在が逆転してしまうのだ。

 

 

 

そう・・・その時、地べたにへたり込んでしまっているエルムの前に現れたのは、既に臨戦態勢に入っているスターシアなのでした。

 

しかしエルムは、スターシアに初めて会った時には、彼女は幼女の形態をしており、

それが今は、自分と一緒にいたヱリヤと同等か・・・或いはそれ以上の成熟した軆つき、

それに光り輝く鎧を纏っている姿に驚きを禁じえないでいるのでした。

 

それに・・・当初からの思惑通り、獲物は警戒を解き、巣穴から出てきたものと見え、

ここにこうして、何ら労する事もなく捕縛か―――と、思われたのですが・・・

 

 

 

ロ:ヤメロっ―――おばさまにちかづくなっ!!

ス:フフ・・・坊や、おイタが過ぎるぞ―――

 

エル:あの・・・すみません、ちょっと待って下さい!

 

ス:・・・ほぉう、「待て」―――だと?

  あの方の配下になりたてのお前が、よくぞこの私に指図が出来たモノだ・・・なあ?フロイライン。

 

エル:(うぅっ・・・く―――)

   そ・・・その事に関しては、まこと僭越(せんえつ)にして差し出がましいとは思っています・・・。

   ですが、私からの話しも聞いて頂きたいのです!

 

ス:フン・・・甘いな―――

  喩えお前や私の娘が、瞬きの間とは言え、この者の術式に陥ってしまったのは曲げられようもない事実・・・だ。

 

エル:ですから・・・そこをなんとか―――・・・

 

 

 

ここで、少年が勇気を奮い立たせ、当時をして「龍皇」と云わしめたスターシアの前に立ちはだかったのです。

それにエルムも思う処があり、スターシアに意見をしてみるのですが・・・

 

とは云え、「新参」と「古参」の云い分では、どちらが優っているのかを判っていた為、程度の抵抗しか出来ずにいたのです。

 

すると―――・・・

 

 

 

大:フフ・・・余の娘を、余りいびらないで頂こうか・・・

ス:―――マグラ・・・か。

 

エネ:(マグ・・・ラ―――)「Ma」の宙域に君臨する・・・「貴族」の一人・・・

 

ス:ほぉう、こいつの事を知っているとは、やはりお前は―――

 

エネ:フッ・・・フフフ・・・この私も・・・ヤキが回って来ちまったもんだ・・・

   最後の最期で・・・ヘマをこいちまうなんて・・・ね・・・。

 

ロ:(!)おばさま―――!!

 

エネ:ロデリック・・・ちゃん・・・私は・・・私は―――あなたと一緒に・・・静かな余生を過ごしたかった・・・

   けれど・・・それも、もう・・・おしまい・・・

   もう・・・私には・・・あなたを抱く・・・力すらも・・・残ってやしない・・・

 

ス:お前―――「淫魔(サキュバス)」のくせに・・・

 

エネ:フ・フ・・・お笑いだろ―――・・・

   そうなのさ・・・私は・・・この子の精を吸えやしない・・・

   こんな―――地球人ではないと判ってはいても、私に対して悪い顔一つしない・・・清らかなこの子の精は、逆に私にとって毒だったのさ!!

 

   それに・・・フフフ・・・この惑星は、「清らか」なのさ・・・

   「空気」も「水」も「大地」も―――そして「人」も・・・

   だから、この私もここまで弱っちまったのさ・・・

 

 

 

第二百七十二話;「清き」ゆえに・・・

 

 

 

「エネマ」と称する者からの独白により、どうして自分達に仕掛けられた術が、自然と途中で解かれてしまったのか・・・の理由が判明しました。

 

そして、エネマにしてみれば、ロデリック少年と、この先短い余生を共に過ごしたかっただけ―――・・・

それを、この時既に地球へ入植し、管理している「事業団」の事を知り、

いつかは、「自分」と云う「管理登録されていない存在」を感知した場合、どのような行動に及ぶかも承知をしていました・・・

 

それが、今を以て、自分を取り巻いている「フロンティア」の職員達が、現実を物語ってはいるのですが・・・

 

「入管施設」を通っていない存在の処遇は、規定により「惑星退去」と決められていた為、

すでに自分の所有艦を失っていたエネマにしてみれば、その事すらも難しかった・・・

 

ならば・・・少しの抵抗をして、その隙に逃れよう―――とはしたのですが・・・

運悪く力尽きてしまった・・・

 

それに、最後の力を振り絞って行使した「催淫術」の所為もあり、生命の灯火が消え逝くのも促進させてしまった・・・

 

ただ一つの心残りと云えば・・・残りの人生で、最後に愛した少年の成長を、見届けられなかった事だけ・・・

 

こうして、淫魔・エネマの生涯は、幕を閉じた―――・・・

 

 

・・・と、思われたのですが?

 

次にエネマが意識を取り戻した時には、どこかの研究室の生命維持装置の浴槽の内でした。

それに、気付いてみれば少しばかりの活力も戻ってきている―――・・・

 

すると、そんなエネマを感知したかのように、生命維持装置の浴槽から解放されたエネマは・・・

 

 

 

エネ:(ここは・・・どこなんだろう? 随分と大層な機器が並んでいるようだけど・・・)

   それに・・・私―――てっきり死んだと思っていたのに・・・

 

 

 

現在、自分が置かれている状況を、どうにか把握しようとしているエネマ・・・

―――と、そこへ、そんな彼女の前に現れたのは・・・

 

 

 

誰:あら・・・もう、すっかりと元気そうね。

エネ:(?!)あなた・・・は?

 

誰:あなたがここへかつぎ込まれた時、私はてっきり「手遅れ」だと思ったんだけどねぇ〜

  それを・・・ある子が、自分の生命力を、ほんの少しあなたに分け与えてくれたのよ。

 

エネ:(!!)まさか・・・ロデリックちゃんが?!

 

 

 

一瞬たりとて油断できない―――それは、体力の弱まっている現在ではなくとも、

精命力を吸い尽くしてきた全盛期に措いても、敵わない―――と判断できるだけの威圧(プレッシャー)を与えてくる存在・・・

その事が判ったからこそ、エネマも、その存在の前では下手を打とうとはしなかったのです。

 

それに、その存在からの言質では、自分が快復出来た次第も、とある人物からの取り成しもあった事を仄めかされ、

その事をエネマは、即座に自分の事をよく慕ってくれていた「少年」の事だと思うのでしたが・・・

 

しかし、それは―――・・・

 

 

 

誰:それはちょっと違うわね。

  あなたをそこまで快復させたのは・・・この子よ。

 

エネ:(!!)あんたは―――あの時の!?

 

エル:元気になられて・・・なりよりです。

 

 

 

てっきり・・・自分を捕まえる為に現れたと思っていた、未熟(ビギナー)なヴァンパイア―――

その彼女が、自分の生命を永らえさせる為に、自分の強い生命力の一部を分け与えてくれた・・・

 

それを自分は―――・・・

 

ああ・・・なんてことをしてしまったんだろう・・・

この者達は、周囲の住民達とは違い、救いの手を差し伸べてくれた―――にも拘らず・・・

自分で自分を追い込む事をするなんて・・・なんて自分は恥知らずなのだろう・・・

 

だからエネマは、エルムにその事を詫びようとした処・・・

 

 

 

エル:いえ・・・逆にお礼を述べるのは私の方です。

   私は・・・永らく「マハトマ教」に仕えてきました・・・

   そしてそこで、私が信じてきた宗教には、あなた方の様な「魔族」には、人間の様な(いたわ)りの心は備わっていない―――と、そう教わってきたのです。

   それが・・・あなたの様な存在を目にし、それは間違いなのだと諭されました・・・。

   お恥ずかしい話しですが・・・私が今までに信じてきた宗教にも、時として間違いはある・・・欠落がある・・・と云う事を、あなたを通じて判る様になるなんて・・・

   だから、私の方からお礼を云わせて下さい―――ありがとう・・・

 

 

 

最上級の魔族と云われているヴァンパイアの娘から、聖職者然とした言葉を紡いでくるモノとは・・・

エネマもそうは思ってもいなかった為、彼女は少しばかり思考が停止したモノでした。

(のちに事情の説明があり、どうにか納得はできたようなのですが・・・)

 

それにしても―――そもそも現在、自分の身が置いているこの場所は・・・と、思った時に・・・

 

 

 

エネ:それより・・・ここは一体どこなんだい?

 

誰:ん―――? ああ、ここはね・・・私の艦内・・・「ソレイユ」の、ね・・・。

 

エネ:(ソレイユ???)

   ―――つて、それって「フロンティア」の主力戦艦にして、旗艦ぢゃあ〜りませんか???

 

誰:ウッフフフフ―――まあぁ・・・なんてサービス精神の旺盛な人なのかしら♪ 私は気に入ったわ♪

 

エネ:(ほえ・・・)―――て、ゆうか!! その艦の持ち主て・・・ええええ〜〜?!

   も・も・・・もしかしなくっても―――あにゃた・・・「マエストロ・デルフィーネ」?!!

 

ジ:うぅ〜ん♪ ご名答〜♪

  今後ともよろしくね―――エネマ=ヨーニ=マトカリア・・・殿。

 

 

 

自分が小悪さ(売春行為や誑し込みetc)を働いていた時分、要注意をしなければならない―――そんな場所に人物を目の前にした時、

エネマは、その時が自分の「命日」だとしか思う外ありませんでした。

 

それと云うのも、この当時でもフロンティアに所属する「ソレイユ」は、この宇宙でも一・二を争う戦闘力を誇り、規模もまた最大級でもあったのです。

 

だからエネマは、自分が何のために生き永らえさせられ、あたかも「死の宣告」を待つばかりの死刑囚にも似た存在であるのか・・・と、思うしかありませんでしたが、

実はエネマが生き永らえられたのにも、ある理由が隠されていたから・・・なのでした。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと