気になる人物を、遠目で見ている・・・そんな、やもすれば犯罪行為(ス ト ー カ ー)ギリギリの事をしなければならない事に、市子は反対でした。

が―――・・・次第にその事に正当性がある事が判り始めてきたのです。

 

それと云うのも・・・

 

 

 

た:それで・・・どうなのじゃ

リ:ん~~? まあ・・・なんか違うんだよな―――

  確かに、容姿(すがたかたち)は私らの知ってる、あのエルムさんなんだけど・・・喋り方や仕草とかがさぁ・・・

市:では・・・私達がこの時代に来た所為で―――

 

リ:いや・・・そうじゃないんじゃないか―――と、私は思う・・・

  とは云っても、どこを確信させてそう云ってるのか説明しろ―――て云われてもなぁ。

 

た:しかし、それがお主の直感と云うのならば、今はそれを頼るしか他はなさそうじゃの。

  ん・・・? 何ぞか動きがあったみたいじゃな。

 

 

 

容姿(すがたかたち)は、自分達がいた時代に知っている人そのまま―――なのに、どこか・・・

喋り方とか、立ち居振る舞いとか、性格・・・と云った様な、内面的な部分が違う事に、

市子は、自分達がこの時代へと来てしまった影響で、既に歴史が変わり始めているのではないかと思ったのです。

 

しかしリリアには、直感的にそうではない事が判っていました。

 

それと云うのも、事態がこうなってしまう以前に、ミリティアからこんな事を仄めかされていたからなのです・・・。

 

 

 

ミ:竪子、(なれ)に問う―――「歴史が変わる」と云うなれば、何を指してそう云わしめるか。

リ:はああ?? 何をまた訳の判らん事を―――

  でも・・・歴史―――って、そう簡単に変えれるモノなのか?

 

ミ:確かに―――簡単・・・では、ない。

  だが―――簡単に、出来てしまう者がいた・・・と、すれば?

 

リ:う~ん・・・なんかそいつ―――厭な奴だよな。

  だってさ、「あの時やったことが(まず)かった・・・」てことで、毎回そんな事を繰り返していたら、まず成長できないと思うぜ?

 

ミ:ほう・・・(なれ)にしては、稀にして関心な事をいわっしゃる。

 

リ:いやあ~~だってさ・・・私ってほら、失敗なんかしょっちゅうだし―――w

  けど、そこから学ぶ事も多くあったから・・・さ。

 

ミ:いかにも―――それが、(なれ)人間(ヒューマン)が成長していく過程・・・なり。

  なれど、忌むべきは己の都合のよい宇宙(せ か い)を創造しようとした者が、我らの内から出で、

  その新しき宇宙(せ か い)を創造する際、その者は我らの枠組みより外れた・・・

 

  この宇宙(せ か い)は、産まれてより138億年―――だがその者は、そうなる以前に我らと袂を別った・・・

  その者の名こそ「エリス」―――この宇宙中心核より145億年離れた、その者自身の名を冠した「惑星型牢獄」に封印をされし者なり。

 

リ:はは・・・そう云う奴がいるんだ―――

  で? さっきあんたが云ってた事・・・て、結局何が云いたかったんだ?

 

ミ:縁も所縁もない者が出会う―――なれど、お互いが意識し合わぬ内には、何ら作用することは、ない。

  なれど・・・互いが意識し合わせた時・・・

 

 

リ:『歴史は変わってしまう』―――そうその人は云っていたんだ・・・。

  まあ~~なんにしても面倒臭い話しさ。

  しかも、今の状況では、私らがエルムさんの事を、「そう」だと認識してしまっている―――・・・

 

た:なるほど・・・な。

  それで今回お主が決めおいた事とは、「ならばせめて見守ってやる」―――と・・・

  この時代に、この時代の存在ではないわしらのことを、エルム殿が認識してしもうたら・・・

  未来の―――わしらの元いた時代に、影響を及ぼすやも知れんでな。

 

蓮:う~む・・・ややこしいでござるな・・・

 

リ:だろう~? 全く・・・変な事になって来ちまったもんよ。

 

た:それよりも・・・じゃ―――

  ならばなぜお主は、この時代のジィルガ殿やジョカリーヌ殿と面通しをしたのじゃ?

 

リ:そこは、心配ねぇんだよ。

  それと云うのもだな、「もし」こんな事態になった場合、まずあの二人を(おとな)え―――て・・・

 

た:そう云う事であったか・・・

  つまりジィルガ殿は、前(もっ)てわしらが訪ねてくる事を承知であった・・・と。

  ではジョカリーヌ殿は? ジィルガ殿が申し立てておったのには、お主に何らかの「(しるし)」を見ておった―――とのことじゃったが・・・

 

リ:ま・・・そう云う事さ―――あんな面倒臭ぇことが、こう云う時に役に立ってくるもんとはな・・・何があるか、判りゃしねえなw

 

 

 

「歴史を意図的に変えてしまう」―――とは、そう云うほどには簡単ではなく、また構造も複雑にして奇怪だったのです。

 

それに・・・そんな事をしてまで、自分に都合のよい結果を得よう―――だなんて・・・

 

しかも自分達は、その者の身勝手に振り回され、害を被っているのですから。

 

ですが今は、状況が好転しそうもないので、成り行きを見守ろうとしていたのです。

 

 

それからしばらくして、件の事態(淫魔・エネマの件)が発生し、その一件も遠目から見護ろうとしていた処・・・

どうも、このエネマなる人物が、後のエルムの人格に影響しているのではないか・・・との推論が成り立ち、

その後の推移を見護ろうとしていた処―――・・・

 

 

 

リ:あれは・・・この前エルムさんに絡んでた人じゃないか。

市:それに、彼女を慕っているロデリックなる少年も・・・

蓮:なにはともあれ、良かったでござるな。

 

た:(・・・)果たして、そうかの―――

リ:(・・・)なんか感じるのか、たま―――・・・

 

た:まあの、あのエネマとか申す者、一命は取り留めた・・・とは云え、それは所詮姑息的手段に過ぎぬ。

  どうやらあの者は・・・この地球との相性が最悪だったものと見ゆる。

(ここで多くの人が勘違いしているかもしれないが・・・この「姑息的手段」と云うのは、たまもが使った例が正しい。

普段私達が謝って引用している「卑怯、狡賢い」と云う意味ではなく、「一時凌ぎ的に」と云う意味が正解なのである。)

 

蓮:「相性」? と申されると・・・

 

た:うむ・・・個人が生きて行くのに、生きてゆけぬ環境であった―――今は、それしか申すべくしかあるまい。

 

市:そんな・・・それでは―――・・・

 

た:酷な事を云うようじゃが・・・話しに聞くには、エネマとやらの乗ってきた乗り物は、修繕が不可能なほどに壊れておった・・・そうではないか。

 

リ:なんだか・・・そう云うのを聞くと、居た堪れねぇよなぁ~~

 

た:そうか? わしはそうは思わぬが・・・

 

リ:(!)おい―――そりゃどう云う・・・

 

た:見ての様に、今のこの時代のエルム殿は、わし等の知っているエルム殿ではない・・・

  じゃが―――あのエネマとやらを見るにつけ、わしらの知っておるエルム殿の所作が見え隠れしておる。

  つまり・・・じゃ、エネマとやらが、この地球に不時着したのも、なにかの「縁」―――・・・

  リリアよ・・・(ひとえ)に申せば、今ここにわしらが集いしも、「(えにし)」のなせる業なのじゃ。

 

 

 

その日もまた・・・いつものように、自分に(なつ)いてくれているヱリヤと共に(くつろ)いでいた処・・・

この度知り合った淫魔の女性と、その淫魔の女性を慕う少年が、エルム達の前に現れたのでした。

 

その様子を、リリア達は遠目で目撃していたわけなのですが・・・

 

自分達の眼では普段通りに見える淫魔の女性を、たまもは的確に見抜いていたのです。

 

そう・・・たまもの見立てでは、今現在でも淫魔・エネマが生き永らえられているのは、一時凌ぎでしかない・・・

 

この人物は、地球とは相性が悪い・・・

つまり、エネマ自身の身体能力では、とてもこの先も生き永らえて行くのは厳しい環境に、自分が載っていた宇宙艦の故障―――そして墜落・・・と云う不運が重なり、

この惑星で死を迎える―――と云う選択肢しか残されていなかったのです。

 

ならばこの時・・・互いに「縁」を発生させた者同士が、一同にして会し合うのは、「あの時」のお礼とお詫びも兼ねて・・・と、思いきや―――

 

 

 

ヱ:おばたん? どちたの―――?

 

エネ:(・・・)あの時は・・・どうもご迷惑をおかけしました・・・。

   しかし私の方も、この惑星へと堕ちてしまった時―――地元の住人達から迫害された事もありまして・・・

   あなた達も、そうした者達だと勘違いしてしまったのです・・・。

 

エル:(・・・)いえ・・・それにしても、ご苦労なさったのですね―――

 

エネ:そんな処に・・・親を失ったこの子が現れて・・・

   お互い身寄りのない者同士・・・この私の、残り少ない半生は、総てこの子につぎ込もうとした矢先・・・

   あなた達「フロンティア」の関係者が現れて・・・

 

   私は・・・私の命脈は、もう尽きたと思いました。

   なにしろ私は、「不法侵入者」も同然だったのですからね・・・。

   だけど・・・こうも思いました・・・。

   ならばせめて、この子の引き取りを―――あなた達にお願いしよう・・・と・・・

 

ヱ:どちたの? おばたん―――どこか いたいの?

  エルムのおねえたん・・・このちと ないてるを?

  (!)おねえたんも―――ないてるを・・・どちて・・・どちてなの?

  ヱリヤも・・・なんだか かなちくなってきたお・・・

 

 

 

「だってそれは、あまりにもこの人が不憫過ぎるから―――」

 

けれどその言葉は、エルムの口から出る事はありませんでした。

 

それと云うのも、ヱリヤが云い終らないかの内に、エネマがその場に倒れ込んでしまったから・・・

 

その事に、エルムはエネマを担ぎあげ、急遽現在自分が住まいとしている屋敷へと連れ込んだ処・・・

 

 

 

エル:(!!)エルムドア様・・・

大:遅かったな・・・待ち兼ねていたぞ。

 

エル:(待ち兼ねて??)あの・・・それってどう云う―――

大:エルム・・・死にかけの、その女の命を、断て―――

 

エル:(!!)そん・・・な―――そんなむごい事・・・

大:フ・・・さて、むごいのはどちらなのだろうな。

  死にかけておきながら死なれもせず・・・生きてゆくのに過酷な環境の下で生き永らえさせられると云うのは、「生き地獄」にも似たものであろうに・・・

 

エル:そんな・・・そんなことって・・・

大:(・・・)だがしかし、やはり無理であったか―――

  汝はまだ、ヴァンパイアになって日も浅い・・・そこでこの事態だ。

  すぐに飲み込め―――と云うのも、無理な話し・・・

  そこで―――マエストロから、こんな提案があるのだが・・・

 

 

 

第二百七十五話;存在の同化

 

 

 

未だ「父」とは呼べぬ、ヴァンパイアの「大公爵」―――エルムドア=マグラ=ヴァルドノフスク・・・

その彼が、「娘」となったエルム達の帰りを待ち侘びていたのです。

 

そう・・・エルムドアは、喫緊に事態がこうなるであろうことを予測していました。

 

その存在にとって、生きて行くには過酷な環境・・・そんな処で、未だ生を紡ぎ続けていると云うのは、どんなにか辛かろう・・・

それに、いくらかの施術はしても、それは所詮気休め程度にしかならず、その事は更に彼女を苦しめる結果となる・・・

 

だから、早く楽にしてやる様に―――と、促せたものでしたが・・・

エルムは、自身がヴァンパイアになる以前に、敬虔な宗教人であり、自らの手で他人の生命の灯火を消す事など論外だったのです。

 

しかし、エルムドアは、エルムがこうした反応をするのも既に予測済みだったモノと見え、

自分の師匠筋にあたる人物からの提案を、彼女達にしてみたのです。

 

 

そして・・・それから・・・数時間後―――・・・

 

 

 

エル:(お?!)おお・・・おおお―――凄い! 凄いじゃないかよ~~コレ!!

   ああ~~コレだよ、コレ!! 生きてる―――って、実感するよねぇ~~♪

 

ヱ:おねえ・・・たん?

  ちがぐ―――ヱリヤのちってる エルムおねえたんとは ちがく―――!!

 

エル:違わないよ・・・ヱリヤちゃん。

   お姉ちゃんと私とは、一緒になったんだ・・・。

 

ロ:そ―――それじゃ・・・エネマおばさまも??

 

エル:そうだよ・・・ロデリックちゃん―――

   けどもう・・エネマって存在は、この世には存在していない・・・

   だから今度からは、エルム―――って、そう呼んでおくれよ・・・

 

 

 

その「提案」と云うのは、大方の予測通り―――エルムとエネマの、「存在の同一化」・・・

そうすることにより、「生体」のエネマの存在は消失してしまうモノの、エネマがこれまで得てきた経験・・・知識などは、そのままエルムへと引き継がれていったのです。

 

そしてその事は、エルムにとっても理に適ったものでした。

 

それと云うのも、まだこの当時のエルムは、自分がヴァンパイアになってしまった事に気が動転しており、

それよりもまだ更に告げられる「真実」・・・

 

 

「この「惑星」―――?」 「宇宙艦―――??」

「何の事を云っているの・・・この人達・・・」

「ここは、「グリーシア」(「ヴァルドノフスク城」のある場所)と云う場所で、「ワクセイ」等と云う場所ではない・・・」

「それに・・・「ウチュウ」?? 何の事なの―――・・・」

 

 

未だ「この時代」に、自分達が一つの宇宙を構成している惑星の一つに住んでいる事など、誰も認識すらしていませんでした・・・

そこで、それを知る者達の常識的な会話の内で出てきた単語に、エルムは更なる混乱に陥るのでしたが・・・

 

 

 

エル:あ~~・・・それより・・・私と同化しちゃった人、結構色んな事を知らされていなかったんだねぇ~。

大:うん? なんだ、そうだったのか。

 

エル:(いや・・・「そうだったのか」じやなくてぇ~~・・・)

   あ~~・・・だったら一つだけ聞いてもいいです?

   因みに、この惑星の文化レヴェル―――て・・・いくつくらい?

大:ふむ、最近「ランクE」に、登録された・・・ばかりだと聞く。

 

エル:「ランクE」て・・・最低レヴェル―――しかも、「最近登録されたばかり」・・・ですか・・・。

   よくもまあ・・・「フロンティア」が入ってるって云うのに―――・・・

 

大:それも仕方のない事―――汝も「カルマ」の事は聞き及んでいよう。

 

エル:「カルマ」・・・ああ~「(エネマ)」が静かに暮らしていた処でも、余り好い噂は聞かなかったねぇ。

   大体さ―――そんな奴らと一緒だと間違われて、こっちとしてはいい迷惑だったんだよ!

 

大:フ・フ―――まあ無理もない・・・(エネマ)はこの惑星の者ではないのだから・・・な。

 

エル:まあ~~確かにそうなんだけどさ・・・

   だったらなんで、あんた達や「フロンティア」の人達は―――・・・

 

 

 

つまりは、それが「支配率」の問題でもあり、その「現在」でもなお、フロンティアとカルマは、地球に措いての「支配率」を巡る、不毛な争いを続けていた・・・

しかも聞く処によると、その時代から更に1000年も前に、以前栄えていた文明が崩壊してしまった―――・・・

その事も相俟(あ い ま)って、現在の地球に措ける文明レヴェルの低さに繋がっているのだ・・・と、エルムはようやく理解に至ったのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと