エ:(・・・ッ!!)こっ、これは・・・「暗黒体」?!!
まさか・・・あんたは?!!
フ:《ほう・・・どうやら、このオレの姿に見覚えがあるようだな・・・。》
《しかし、不思議な事もあるモノだ、お前は「純粋な地球人」だと云うのに・・・「Ma宙域」の、オレの事を知っているとは・・・な。》
エ:(「Ma宙域」・・・だって? すると、あの噂―――・・・)
フ:《だが、そんな事は今はどうでもいい・・・》
《お前は、オレ達の障害になりそうだから・・・な。》
《ならば、憂いが大きくなる前に、今ここで叩き潰すまでよ!!》
フォルネウスの本性・・・それは、見た目も戦闘能力も見違えるほどに凶悪に発達させた、「暗黒体」と呼ばれるモノでした。
その事は同時に、フォルネウスと同じ宙域の出身者であったエネマには、その特性を持つ存在が、どこの惑星出身者であるかを特定できたのです。
そして・・・それらに纏わる「ある噂」の事も・・・
だから、自分の目の前にいる赤銅色の魔人が、「敗残者」であることも、知っていたのです。
が―――・・・
エ:(それよりも・・・これはちょっ――― え??ちょ・・・ちょっと??
ええ〜〜っ?! な、なんてことだい・・・ど、どうしよう??)
余りにもの恐怖の為に、身が固まったようになってしまった―――のではなく、なんと云う不運・・・
なんと、今まで精神の内殻に閉じこもっていた「主人格」が、この時、主にエルム本人の肉体を操作していた「副人格」に干渉を始め、
退こうにも退けない―――そんな状況に陥ってしまったのです。
そして―――・・・
エ:あっ・・・ぐっ―――!
(まずい・・・このままだとまずいよぉ〜っ?!)
本当は、すぐにでも・・・この場を離脱して体勢を立て直したい―――
そうした意味での「離」は重要で、エネマ自身もそうしたかったのですが・・・
思うように身体を操作せられない―――・・・
事実その時、エルムは防御しようにも防御のしようがなく、ただ面白い様に、「暗黒体」化したフォルネウスからの攻撃を喰らっていたのです。
それは弄玩―――翻弄―――・・・
こんなにも「サンドバッグ」にも似た存在を、心地よく叩ける機会は「ない」とばかりに、
それまで傍観していたキュクノスも途中から加わり、文字通りエルムの身体はボロ布の様にされ―――・・・
エ:かっ・・・はあっ―――! くううっ・・・
フ:《フン・・・しぶといヤツめが―――》
《しかし、お前も不運な奴よな?》
《なまじ再生・回復できるから、楽になる事も出来まい。》
《怨むのなら・・・お前をその様に変えた、エルムドアのヤツを怨むのだな・・・》
中々楽になれない・・・「不死」と云う事は、こうした苦しみが延々と続く事でもありました。
本当は・・・早く楽になりたいのに―――そうは出来ない・・・
傷みを感じながらも、そうした箇所が自分の意思とは裏腹に素早く快復をしていく・・・
辛い―――苦しい―――・・・
どうして・・・こんなことになったんだろう―――・・・
「私」は、ただ―――・・・
こうなってしまった事の経緯をよく噛み締める為、傷みを快復させたとは云え、エルムはしばらくそのままで考えてみる事にしました・・・
ですが、それは無謀の極致―――自分の前には、これまで以上に自分を甚振ろうとしている存在がいると云うのに・・・
けれど、なぜかしら・・・向こう側からの攻撃は、「はた」と止んでしまうのでした。
第二百七十七話;闘争の本質
エ:(・・・? どうしたの・・・? なぜあいつらは、私に攻撃を仕掛けて来ないの・・・?)
その事は、エルムにしてみても、キュクノスやフォルネウスが身動ぎ出来ないでいる自分に対し、攻撃の手を休めている事が疑問に感じた瞬間でもありました。
そこでエルムは、項垂れていた顔を挙げ、彼ら二人の表情を垣間見た処・・・
二人は・・・「信じられない」と云った様な表情で、その場に佇んでいたのです。
それもどうやら―――・・・
キ:な・・・なぜ―――なぜ貴様が二人もいる?! エルム!!
「何をバカな事を・・・?」
「「私」は、「私」でしかいないはず・・・なのに―――」
「なのになぜ、「私」が、もう一人いるか・・・の様な物言いをするのだろう―――」
かつての上司であった「裏切り者」の口から吐いて出た言葉に、エルムは我に返り、彼らが見ている自分の上方に視線を向けてみると・・・
確かにそこには、自分と同じ姿をした、「もう一人の自分」が??
ですがその事を、どうやら赤銅色の魔人は知っているらしく―――・・・
フ:《(く・・・)惑わされるな―――これは奴の「幻惑術」の一つに過ぎん!!》
《そうだ・・・ヤツこそがそうなのだ―――憎き「魔貴族」の一人・・・「伯爵」エルムドア=マグラ=ヴァルドノフスク―――!!!》
《それにしてもどういうつもりだ・・・そこにいる小娘の姿を模すなどと―――ふざけるな!!》
フォルネウスだけは知っていました・・・永き「宿怨」のある「敵」―――
自分達の一族と、「Ma宙域」の覇権を賭けて争い合っていた、「魔貴族」の家系の者・・・
しかし―――この時、すぐそこに座りこんでいる「小娘」の姿を模している事に、自分達が虚仮にされている事に気付き、憤ったのです。
そう・・・虚仮―――
ですが、「彼」が「彼ら」のことを、そうすると云うのにも無理らしからぬ処があったモノと見え―――・・・
大:「ふざけるな」? ふざけてなどいない―――ふざけているのは「お前」の方だろう・・・
「私」は、「お前」の余興に付き合ってやっているに過ぎない・・・
「戯れ」にも充たない、「児戯」の・・・な。
そんなことより、なまじ無抵抗な者を、嬲り、弄玩ぶ―――「余」にしてみれば、寧ろそちらの方が「ふざけている」と思うのだが・・・いかがかね?
それに、容姿など、「オレ」にとっては何の意味も為さない・・・
何の事はない・・・結局のところ、突き詰めてみれば、こんなモノは―――・・・
ガキの喧嘩なんだよ―――
だから「お前」の「お遊戯」に付き合ってやっているのさ。
物覚えの悪い「小僧」だ・・・
「闘争の本質」とは、「それを打倒さねば己にはなれない」―――そう云うモノだ・・・
「お前」はガキだ―――初めて会ったあの頃・・・8000年前から何一つ変わってやしない、痩せっぽちのガキなのさ・・・
「彼」にしてみれば、「彼ら」のやり様が、酷く稚拙に見えて腹立たしかった・・・
「闘争の本質」とは、言い替えるなら、常に己より強きを求め―――挑み―――勝利を得る事・・・
それが「彼」の一族の伝統としていた処であり、また「彼」の矜持でもあったのです。
そんな「彼」からしてみれば、「彼ら」よりも格下の―――それも無抵抗な者を蹂躙ぶと云うのは、とても我慢がならなかった・・・
だから、いくら他者から「子供同士の喧嘩に、親が出てくるなんて」・・・と詰られても、出ないわけにはいかなかったのです。
そしてそれは、そんな「彼」の姿を見た、「娘」・・・エルムは―――
エ:お・・・お父・・・様―――
大:フ・・・ようやく余の事を「父」と呼んでくれるのかね、我が「娘」よ―――
フフ・・・なぜだか、わき腹がこそばゆいモノだが、好いモノだな―――「慕われる」と云うモノも・・・
それでは、この善き日和に、改めての誓いを―――「乾杯」!
フ:《く・・・くうぅぅ〜〜おのれえぇぇ〜〜!》
《奴のみならず、腹立たしいヤツめがもう一人増えおったわ!!》
《だが・・・まあよい・・・一人増えようが、二人増えようが・・・オレにしてみれば関係のない事だ!!》
大:おう・・・そうだなあ・・・それじゃ、このバカ騒ぎも、お仕舞い―――とするかい・・・? 糞餓鬼・・・
不遜な言葉を並べ立て・・・挑発するにしても、相手の自尊心をここまで挫くモノは、そうはなかったでしょう・・・
それに、大抵こうした事をする者は、自分の実力に見合わない者がするのが相場でした・・・
しかし―――「彼」だけは違った・・・
「彼」こそは、良質な闘争のみを好み、凡愚な者達の「お遊戯未満」なモノには、眼もくれない・・・
ただ今回ばかりは、「娘」のこともあるし―――あと、弱者を甚振って悦に浸っている者の表情を見ていると、なぜか意味もなく苛立ってきた・・・
そして、「子供の喧嘩に親が出て」みると・・・
やはり圧倒的な強さ―――先程まで傲岸不遜だったキュクノスを、一瞬の内に失神、
そしてまた「暗黒体」化しているフォルネウスも、まるで鼻先であしらうかのようにし、手傷を負わせて退散させたのです。
そんな「父親」の姿を垣間見たエルムは、次第に・・・この人物の「娘」になった事が誇りに思えてきたのです。
そしてエルム自身も、自分の「父親」の様になりたいと思い始めるのには、そう時間はかからなかったのです・・・。
エ:ありがとう…ございます・・・。
あの、それで―――どうしたらあなたの・・・お父様の様に強くなれるのでしょう。
大:うん? 実に簡単な事だ―――常に切磋琢磨・・・それに汝には、お誂え向きの相手がいるではないか。
エ:えっ??
ヱ:おねえた〜ん!
エ:ヱリヤちゃん? どうし―――・・・
ス:見させてもらったぞ・・・お前の闘争の総てを―――
エ:あ、あっ―――!?
ス:そんなに気拙い表情をすることない。
最初めは誰だって敗北するモノだ・・・
だがしかし―――同じような敗北は、認められんぞ。
エ:(・・・)判っています―――同じ敗北を繰り返さぬよう、精進します・・・
ところで・・・どうしてこの子と私とが??
大:フ・フ・フ―――同じ未熟者同士、お似合いではないかね。
その言葉は、どこか揶揄されたように感じたモノでしたが、エルム自身云い返せない位に「その通り」に感じていたので、敢えての反論はせず・・・
ただ、一刻も早く揶揄されないよう、強くなろうと誓う、若きヴァンパイアの姿があったのです。
=続く=