互いの技量を確かめ合った後、その「事実」は語られることとなりました・・・
ヱ:(・・・)ねえ、エルム―――ちょっと聞きたい事があるんだけど。
エ:なんだいヱリヤ、改まって・・・
ヱ:あなた―――「迷い」があるわね。
エ:(・・・)そんなこと・・・ないわよ・・・。
ヱ:いいえ、あるわ―――隠したって無駄よ、それに今ので確信をしたわ。
あなたと付き合って50年―――判らないとでも思っていたの。
エ:・・・―――。
ヱ:ほら、云い返せない・・・。
確かにあなたは、元は人間だから、あなたのお父上である「大公爵」様とは、そもそもの成り立ちが違う、
でもね・・・ここ最近のあなたときたらどうなの? 今のだってそうじゃない・・・
以前の・・・人間だった時より劣っているのは、どうしてなの??
彼女達二人の「演武」を、物陰からこそこそと見させてもらっている者達は、まずその事に驚かされました。
流れる様な体裁き―――髪(紙)一重で躱す見切り―――息を吐く様な技の応酬―――
そのどれを取ってしても、「今」の自分達には及びも付きはしないのに・・・
なのに、その時のエルムには「迷い」があり、嘗ての彼女―――人間だった頃の技量よりかは劣っている・・・とは、
それよりも、少なからず「この時代」が、「あの時」よりかはどれだけ経ったのか―――判ってきたのでした。
そう・・・「この時代」は―――
リ:はあ〜〜「あれ」で、人間だった頃よりか劣ってるんだと〜〜
だったらエルムさん、どれだけ強かったんだよ―――て話しだよな。
蓮:しかし―――そのエルム殿をしても、あのキュクノスとやらには勝てませんでしたな・・・。
た:それよりも、よもや「この時代」のことが、ヱリヤ殿の口からなされようとはの。
いやはや―――「大人の事情」と云う奴はwwww
市:(玉藻前様・・・それを申されては・・・)
しかし・・・あのエルム様が、「迷い」―――とは・・・
最初にリリア達が過去へと飛ばされた時代より、50年未来・・・
その「50年間」で、ヱリヤは成長をし、それに「事情」も・・・少なからず変化しているようでした。
そして、エルムが「迷い」を生じさせている「原因」も・・・そうした「事情」に基づくモノだと云う事が、次第に明らかとなってきたのです。
それは―――・・・
第二百八十一話;40年前・・・あなたの下から去ったロデリック―――
ヱ:それが原因ね―――・・・
エ:(!!)云わないでっ―――!!
ヱ:どうして現実から目を背けようとするの?エルム!!
そんな事、判っていた事じゃない!
それは・・・確かにあなたは、「元は」人間なのかもしれない・・・けれどね、「今は」違う―――「そう」じゃないのよ??
エ:そんな事は判ってる・・・でも、あの子に去られる時、はっきりと云われたのよ・・・「化け物」―――って・・・
そうよ・・・本当は判っているのよ・・・所詮、私は「化け物」・・・
「人間」である事に耐えられず、「鬼」となってしまった―――可哀相な「化け物」なのよ!!
そう・・・エルムの、そもそもの「迷い」の原因とは、40年前・・・ロデリックが20代前半の頃に、エルムの下から去っていた事にあったのです。
それにしても・・・自分を引き取り、育ててくれた「恩人」に対し、某言に近い言葉を吐いて去っている・・・などとは―――
蓮:ぬ・・・ぬうぅぅ・・・な、なんと不届き千万な!
拙者、その者に対し一言物申さん!!
リ:ま・・・まあまあま―――抑えて抑えて・・・
今ここで私らがあの人達に知られると、元も子もないし・・・
た:(珍しい事も・・・)
市:(あったモノですよね・・・)
リ:な・なんだよ! あんたたち―――
た:いや〜〜いつもならば、お主が無謀を申し立て、蓮也殿が諌めていたモノを・・・
真逆のモノを見せて貰うと、中々面白いモノよのぅ〜♪
リ:あんだとぉう〜? ばっけろい・・・からかうんじゃねぇや―――
市:それより・・・不思議なのは、恩を受けていた者に対し、果たしてそのような事を簡単に云えるモノなのでしょうか?
そう・・・リリア達の共通の疑問とは、まさに「そこ」にありました。
しかし、たまもだけは、もしかするとまた別の「事情」があったのでは―――と、感じていたのです。
それと云うのも、たまもは、常磐の宮中に仕えた事のある身・・・
だからこそ、自らの保身のため、容易に仕えていた者を貶めたり―――または裏切れたりする者の事を知っていたのです。
けれど・・・どうもこの場合は「それら」とは違う・・・
云わば、エルムとロデリックの関係は、「養子縁組」に近い事もあり、それが養い親に対して「化け物」呼ばわりする・・・などとは・・・
すると―――・・・
ヱ:(・・・)なぜ―――どうして・・・見て見ぬ振りをしようとするの・・・
あなただって判っていたんでしょう・・・
ロデリックが、あなたの下から去った直接の原因―――・・・
あなたが以前所属していた、マハトマ教の関係者に、あいつは唆されたのよ!!
エ:(!!)云わないでっ―――それ以上は聞きたくないっ!!
ヱ:やっぱり・・・判っていて、そうしたと云うのね―――
ロデリックと、マハトマ教の司祭が、秘密裡に接触を計っていた事を・・・
その事を知っていたあなたが、中々云い出してくれなかったから、私達もその事実を知ったのは、昨日の事だったのよ?!
どうして・・・? どうして仲間を―――信用してくれなかったの??
「仲間を信用してくれない」・・・「してもらえない」・・・
その言葉は、エルムの耳に「ずしり」と重たくのしかかってきました。
だからこそ―――現実から目を背けた・・・
しかし、その「事実」は「事実」として、エルムの内に蟠っており、少なからず技量の試し合いにも「迷い」を生じさせた―――
つまり、そこでのやり取りには、これまでの複雑な事情が、絡まりあった結果でもあったのです。
そして、「この時代」は・・・
ロデリックがエルムの下より去って40年―――
彼がエルムの下を去ったのが「20代前半」ならば、普通の人間である彼は、そろそろ「人生の円熟期」・・・最も脂の乗り切っている「壮年」の時代―――
そろそろ・・・「ヴァンパイア」である彼女と―――その彼女の下より別った彼との関係にも、「ひと区切り」があっても良さそうな・・・そんな予感がしてくるのです。
そして「その時」は、意外にも早くやってきました―――
それは、エルムが住居を構える「グリーシア地方」・・・その地方に存在する「樹海」の一部―――通称「ヴァルドノフスクの杜」近辺で起こったのです。
エルムは、「コクトー地方からグリーシア地方にかけて、カルマらしき軍勢の動きあり」との情報を聞き、その場所に哨戒・探索に出かけていました。
しかし・・・そこで待ち受けていたのは、カルマ―――などではなく・・・
騎:それっ―――かかったぞ!!
エ:(え・・・)あ・・・っ、あなた―――は??!
一見して、厳格な風貌・・・その顔に刻まれた皺や傷痕は、最早「貫禄」と云うしか他はなく、
何より光り輝くその鎧は、ある「職業」の人間である事を如実に物語っていました。
そう・・・「彼」こそは―――・・・
近年、新しく興った国家「クーナ」の初代国王にして、かの国が抱える騎士団・・・『天籟聖騎士団』初代団長―――「聖騎士」・・・
エ:ロデリック・・・ロデリック=フェデラー=クズィールフ!!
ロ:気安く・・・名を呼ばないで頂きたい・・・「男爵」エルム=シュターデン=カーミラ!!
エ:フ・・・フフフ・・・私を・・・その名で呼ぶなんて・・・
もうあなたは・・・私の下へは・・・
ロ::穢らわしい事を云うなぁ! 我々人類に害を齎す「魔性の者」よ!!
まあよい・・・これを機会に、お前との「縁」―――ここで断ち切ってくれるわ!!
エ:そうかい・・・ロデリックちゃんがそうしたいと云うなら、それでも構わないよ・・・
けれど、どうして―――? この場所には、カルマの軍勢が・・・
ロ:フフ・・・まだ気付いておらぬようだな―――それは、お前を釣り出す為の「偽情報」だ。
エ:そう云う事だったのかい・・・どうやら私も、焼きが回ってきたようだよ―――
本当はね・・・気付いていた―――「偽情報」だと気付いていたのに・・・「もしかすると」ロデリックちゃんが戻ってきてくれると思って・・・
ロ:そのような「戯言」、金輪際云えない様になる・・・覚悟するがいい―――
その「彼」こそロデリック―――
しかし彼は、既にエルムを「敵」とみなしており、関係の修復など見込めない有り様だったのです。
それに、ロデリックから齎される、数々の暴言に、物陰に隠れて聞いていた者達は―――・・・
リ:むっかあ〜〜なんなんだよ!あいつ!!
まるっきりエルムさんの事を悪く云いやがってえぇ〜〜!!
蓮:ま・・・まあまあま―――リリア殿、ここは抑えて・・・
市:(フッ・・これが本来の姿―――ですよね・・・)
それにしても・・・玉藻前様が、あの者の暴言の数々に、反応すらしないなんて・・・
た:意外―――ですかな?
ですがなぁ・・・市子殿・・・それにしても、なぜ「この機会」なのじゃ?
彼の者の実力なら、「この機会」でなくとも、よかろうはず・・・なのにのう―――
リ:(!)どう云う事だよ、そりゃ―――・・・
た:リリアよ、お主が気付かぬはずがなかろう。
あのロデリックとか申す者・・・「この機会」に「総て」を賭けておる・・・
蓮:(!!)―――と、云う事は・・・
そう・・・たまもやリリアには感じられていました。
ロデリックは、「この機会」に「総て」を―――
自らの生命を、「これまで」の「過ち」と「礼」を・・・「清算」しようとしていた事を―――・・・
=続く=