最早・・・こじれた関係は、修復できないまでに、なっていました。
それに―――「この機会」・・・で、その関係すら終焉りにしようとする為、ロデリックが仕掛けていた事とは・・・
ロ:お前は・・・恐ろしく強い。
しかもそれは、総ての「聖剣技」を修めたオレですら、足元にも及ばん・・・
だから、仕掛けさせて貰ったのだ、お前の動きを封じる術を。
エ:(・・・)いいよ―――それほどまでに、私の事が憎いんだったら、そうしても構わない・・・
けれど、ロデリックちゃんは、本当の処はどうなの?
本当の処は、判っているんじゃないの?
ロ:(・・・)お前は―――美しいままだ、な・・・
オレと会った時そのままだ・・・
それなのに・・・オレを見てみろ。
お前と別離れて40年―――お前との隔たりは開くばかりだ・・・
それに、お前と別離れるように説いてくれた、マハトマ教の司祭―――キュクノスの云う通りになったな。
エ:(え・・・キュクノス??)
今・・・なんだって? 「キュクノス」??
そんな・・・まさか・・・
ロデリックちゃん―――目を覚まして! あなた、騙されているのよ?!
ロ:黙れぇ―――! そう云うお前はどうなのだ!
10年もの間、オレの事を騙していたではないか!!
エ:違う―――それも違う!
私は・・・決してあなたの事を、騙していたワケでは―――・・・
ロ:フッ・・・果たしてそうかな―――
エ:(え・・・あっ?!)ああっ―――なにを・・・?!
ロ:フ・・・フフフ―――どうだ・・・ヴァンパイアの好物の、鮮血だ・・・
欲しかろう・・・
エ:(う・・・っ・・・)ううっ―――・・・
何かしらの負荷が身体にかかり、地べたに座り込んでしまうエルム・・・
どうやらロデリックは、計画的にヴァンパイアであるエルムを討ち滅ぼす為、何かの施策を以て臨んでいるようでした。
「この子は・・・本気だ・・・」
「本気で、私の事を滅しようとしている・・・」
「けれど、この子に討たれるのなら本望・・・」
エルムは、こんな状況になってしまっていることに、悔やんではいませんでした。
寧ろ、可愛がっていた者に討たれる事すら望んでいたのです。
しかし―――唐突に告げられた事実・・・
エルムも、ロデリックが自分の下を去った時、マハトマ教の関係者と秘密裡に接触していた事は知っていました。
けれど・・・その「マハトマ教の関係者」が、マハトマ教から・・・自分から・・・そして人間から離脱をした、あのキュクノスだったとは・・・。
その事を知り、エルムは、ロデリックがキュクノスに騙されている事を、切に説きました。
が・・・時すでに遅し―――
ロデリックは、自分の目の前にいる存在が、他人の生血・・・鮮血を啜って活きている「化け物」だと云う事を判らしめさせる為に、
自らの剣で自らの腕を切り裂き、そこからは新鮮な生き血が・・・滴り落ちているのでした。
しかもエルムは、それを見た途端、一瞬目が眩んでしまいました・・・。
けれどエルムは、理性でそこから先の欲望の、一歩先を踏みとどまった・・・
そして自分に・・・
「いけない・・・こんな事で、自分の本能に負けてしまっては・・・」
「何のために、今まで・・・生き血を啜る事を我慢してきたのか・・・」
「こんな事で・・・こんな事で―――・・・」
「私は・・・本物の「化け物」なんかに、成りたくは、ない・・・」
エルムは・・・ヴァンパイアとなってこの方、人間の・・・況してや生きている動物の血すら、啜った事はありませんでした・・・
(ここでの、「ヴァンパイアとなってこの方」とは、エルムが本当の意味で、自分自身の存在がヴァンパイアである事を認識した時の事を示している。)
けれど、さすがに可愛がっていた者の鮮血は、意味が違っていたようで・・・
図らずも、欲望を剥き出しにした・・・爛々とした目つきで、見ていたのです。
ロ:フッ・・・どうやら、本能の方が優ってしまったようだな。
見るがいい―――今のお前の姿を。
お前は、お前自身がどんなに否定をしようが、「化け物」そのモノなのだ!!
それに、そんな「化け物」を倒すのは、いつだって「人間」なのさ・・・
いや、だからこそ「人間」でなくてはならないのだ!!
第二百八十二話:人間の証明
エ:うぅっ・・・う・う・う―――・・・
ロ:それに、お前は強い・・・ならばこそ、このオレも全身全霊で闘わねばならん・・・
オレには何がある? お前には、何が・・・?
身体を変化させ、他人の血を啜り、己の命の糧とする―――・・・それが「ヴァンパイア」だ・・・。
だが・・・生憎と、このオレには、なにもない・・・
なぜならば、このオレは・・・「人間」だから・・・だ。
最早、エルムには為す術もない―――
このまま馘を断ち切られ、滅せられるまで・・・
(余談として・・・本当の意味での「ヴァンパイアの真祖」となった存在は、馘を断ち切られた程度で存在は滅せられない
ただ・・・この当時のエルムは、まだそうした意味では、本当の意味での「ヴァンパイアの真祖」とはなっていないので、滅せられる事が可能だったとされている。)
けれどエルムは、「それでも構わない」とまで、思っていました。
そう・・・「その瞬間」まで―――・・・
ロ:だが、せめてもの情けだ、お前を抑えつけている戒めを解いてやろう。
おい、術の結界となっている「神祇官」に、術の行使の中止を伝えろ。
エ:(「神祇官」・・・?)ちょっと待って―――今・・・なんて??
ロ:フッ・・・今更命が惜しくなったのか―――
エ:ううん・・・違う・・・
今、ロデリックちゃんが云ってた「神祇官」て・・・本当??
ロ:(うん?)ああ、本当だとも・・・
今回お前を―――ヴァンパイアを滅する為だと云ったら、喜んで協力を申し出て来たぞ。
「おかしい・・・それは、おかしい―――」
「だって、「神祇官」と云う存在は、確かに術を操る事に長けてはいるけど・・・」
「こうした「戒縛」の術は、彼らの専門外の筈・・・」
「いや・・・むしろ、こうした術を得意としていたのは―――」
エルムは、元はマハトマ教でも、ある機関に所属をしていました・・・。
そう・・・「異端審問官」―――・・・
その部署は、「異端」を見極め、須らく「折伏」を行う為、「異端者」を制圧する為に寧ろこうした「縛り」の術が得意だったのです。
また逆に、「神祇官」とは、神に仕える巫女にして、神のお告げを告知するのが専門・・・
それなのに―――・・・
だからエルムは反射的に―――
エ:違う・・・それは全然間違ってる―――!!
神祇官は、こんなことはしない!!
ロ:なんだと? どうしてお前がそんな事を―――・・・
エ:知っているわ・・・だって私、元はマハトマ教の「異端審問員」だもの!
まさに・・・真に迫る言葉―――
それを、助かりたいだけの一心で吐いている言葉とは、どうしてもロデリックは思えませんでした。
すると・・・そのことを裏付けるかのように、かのロデリックからの伝言が届いたモノと見え、
術によってエルムを縛っていた「神祇官」の、思念波を通じての映像が宙空に現れ・・・
神:「なにをしている・・・この機会を逃してはならん!」
ロ:(・・・)あんたらか―――
エ:(!!)やはり・・・あなた達は違う―――
その神祇官の装束は、あの人・・・キュクノスがカルマに奔った時のモノだわ―――
ロ:なんだと?? では・・・
エ:ええ・・・「今」は違うわ・・・
マハトマも、離反者を出した事に大いなる遺憾の意を表明し、以降こうした事のない様に装束の総てを一新したのよ。
その事を知らないのは・・・マハトマと密な関係にある国以外と、一切他国との交流を持たないカルマだけ・・・
ロ:(くっ・・・)ならばどうして、このオレをも謀ろうとした!!
神:「(ち・・・)バレたか―――だが、まあいい・・・」
「お前が出来ぬと云うのであれば、このオレ達が、そのヴァンパイアの馘を断ち切ってやるわ!!」
エルムは・・・だからこそ知っている事がありました。
それに、だからこそカルマの謀略を見抜き、しかもその謀略が誰のモノであるかを特定出来ていたのです。
しかし・・・依然としてエルムの身体は動かないまま・・・
このまま易々と、カルマの走狗に馘を断ち切られてしまうしかないのか―――と、そう思えば・・・
エ:(・・・ん?)動く―――動けるよ??
ロ:ナニ? しかし奴らは・・・
エ:そんなことは・・どうだっていいだろ―――
ロ:―――・・・。
エ:もう・・・どうあっても退けない―――闘うしかない・・・と云うんだね。
ロ:そう云う・・・宿命だからな・・・。
エ:「宿命」・・・だなんて、そんな哀しくなる様な事は云わないで―――・・・ロデリック・・・
私は、本当は、あなたとは・・・
ロ:(・・・)ちゃんと、構えろ・・・。
このオレとて、闘争の流儀は心得ている・・・
無防備な奴を手に掛けるほど、そこまで莫迦じゃないさ―――・・・
あとは、刑の執行を待つばかり―――と、そう思われましたが、
なぜか急に、エルムを戒めていた術の効力が失われ、身体の自由が利く様になったのです。
のは、良かったのですが―――・・・
逆に、エルムとロデリックとの関係は、「待ったなし」・・・
どうあっても、この件での「決着」を付けなければならない・・・としているロデリックを前に―――
エルムは果たして・・・
=続き=