「最初めての「吸血」・・・」
「あんなにも厭だったのに・・・」
「なのに・・・」
「咽喉越しに得られる、この快感は?」
「知らなかった・・・」
「これが・・・「ヴァンパイア」・・・」
「これが―――」
第二百八十四話;「人間」では なくなった「私」・・・
自らの意思で、「吸血」を行った者がいました。
それまでは・・・喩え「そう」だったとしても、拒絶をしていた者が・・・
かつての「想い人」を「想う」あまりに、及んでしまった行為―――・・・
「それ」は「もう」・・・後戻りはできない、片道切符だったのです。
そして、それからの・・・彼女を取り巻く環境も、一変しました。
「それまで」は、優しく人当たりも良かったのに・・・「それから」は、どこか―――「養父」の「ように」、
他人を近寄らせない・・・そんな雰囲気を醸していたのです。
「私は・・・いつもと変わらないのに・・・」
彼女自身はそう思っていても、周囲の人間達は「そう」思ってはいない・・・
闇色に染まった眼をし・・・
どこか・・・吸血に飢えている―――そんな目付き・・・
かつての「養父」を見る「ような」、そんな「人間達」の目付き・・・
そんな―――自分を・・・
拒絶する「ような」 批判する「ような」 否定をする「ような」・・・
そんな衆目に、彼女自身は変わらざるを得ませんでした・・・。
しかし、そんな変わり映えをしてしまった「友」を、看過できなかった「友」は・・・
ヱ:エルム―――!
エ:ああ・・・なあに? ヱリヤ・・・
なんと云う・・・目・・・
死んだ魚の「ような」・・・
何かに飢えているかの「ような」・・・
ドブ河の「ように」 澱んだ「ような」・・・
そんな・・・浅ましくも「血」を漁っている、かつての友の姿に、ヱリヤはたじろぎました。
けれども、看過は出来ない・・・その思いで、気を奮い立たせ―――「友」に諌めの言葉を送ったのです。
ヱ:エルム・・・あなた、どうしたと云うの?
あなた・・・今、自分が何をしているか、判っているの?
エ:「ナニ」・・・を? 決まっているじゃない―――私はヴァンパイア・・・「血を吸う鬼」よ・・・
だからどうしたと云うの―――ヴァンパイアが、血を吸ってどこがいけないと云うの?
それに、この「私」は、あなた達が望んでいた事なんでしょう・・・。
今までは・・・「まだ人間だ」―――と云う、間違った認識の下で過ごしてきたけれど・・・
一度経験をしてしまえば、私は「そう」だと認識出来ている・・・
それのどこが悪いの―――?
「吸血をする」私を望んでいたのは、寧ろあなた達の方じゃないの?
これで・・・堂々と指を指せるでしょう―――「あいつは「化け物」だ・・・あいつは、人間ではない、「鬼」だ!」・・・って!!
しかし、その諌めの言葉は、逆の効果を得てしまいました。
それに、その蟠りは、ヴァンパイアと成ってこの方・・・50年を過ごすエルムにとって、随分と根付いていたモノらしく、
そうしたエルムの主張に、ヱリヤは返答ができませんでした・・・。
そう、ヱリヤは、エルムに対しての誹謗中傷を知っていたのです。
「あいつはヴァンパイアだ―――」
「あいつは「人間」ではない、「鬼」だ!!」
「あいつは、「今は血を吸えない」・・・などと云ってはいるが、なぁに―――判ったモノじゃない・・・」
「いつか覚醒め、貪る様に・・・漁る様に吸い尽くすさ―――」
「なにしろあいつは「化け物」なのだから・・・な」
心にもない、そんな誹謗中傷―――
そんな誹謗中傷が―――エルム本人の耳に届かないはずがない・・・
エルム本人が、知らないはずがない・・・
それも「きっかけ」―――
そうした人間達の、捻じくれた誹謗中傷も手伝い、とうとうエルムは本当の「鬼」に成ってしまった・・・
そして最初ての「吸血」―――
その行為に及んだお陰で、今まで誹謗中傷をしてきた人間達以外の人間も、次第にエルムを畏れ・・・遠巻きにしていた・・・
たった一度の「過ち」のお陰で、自分の「友」は孤独になろうとしていた・・・
そう、「していた」のでしたが、そんな孤独な「友」を、救ってくれた者達がいたのです。
それに・・・その者達は、「人間」―――
「まだ・・・人間の内にも、こうした者達はいるのね・・・」
その事に安堵したヱリヤは、仮面を付けた、余り・・・お世辞にも巧いとは云えない「決して笑ってはいけない雑技団」の事を評価していました。
雑2:はああ〜〜・・・どうして私は―――こんなにも「芸」に関しての才がないのでしょう??
雑3:それを・・・云って下さるな! それは拙者とて同じ事! 拙者は―――っ・・・!
雑4:お二人、文句があるならあのアホに申せ! 第一わし等は見世物ではないのじゃぞ!!
雑1:まあ〜まあ〜〜それじゃ、あとは私がなんとかすっから・・・
それじゃ、私は手品を見せちゃうよ〜〜
エ:手品・・・?
雑1:そ〜〜う♪
は〜い、こちらを見て下さーい、なにもないこの帽子の中から、鳩が出てきますよ・・・
ヱ:(?!)キャッ―――ナニコレ・・・こんなグロテスクなモノが、「鳩」だって云うの??
雑1:え? あら・・・
〜っかしぃなあ・・・ちゃんと仕込んどいた筈なのに・・・
雑4:あやつ・・・本物じゃな、自ら手品のタネを明かすとは・・・
エ:(・・・)プッ―――w アハ・・・アハハハハww なにそれ・・・おかしい・・・ww アハハハハ―――www
ヱ:(エルム??)
(! もしかして・・・)
「芸」の腕前だけで評価するなら、その者達は「下の下」・・・
いや、その判定で判断するのもおこがましい位に「初心者」にして「素人」の有様・・・でしたが、
他人を愉しませる事に関して云えば、「上級者」だった・・・
今尚、笑う事すら忘れてしまったかのような「友」の顔から、零れ・・・溢れ出る笑顔に笑い声・・・
「この人も・・・こんなに笑う事が出来たのね・・・」
けれどしかし・・・その「雑技団」の、女性団長と思わしき人物は、その事をさも知るかの如くに・・・
雑1:へへへっ―――やっと笑ってくれたな。
やっぱあんたは、「笑顔」が一番だわ。
哀しくてしおれているあんたは、ホントのあんたじゃないよ・・・
ヱ:(?!)ちょっと待って―――あなた・・・私の友の、何を知っていると云うの??
雑1:(・・・)知ってるよ―――
雑4;(!)おい・・・おぬ―――
(リリア・・・?)
自分の友の、何を知っているのか・・・
そんなヱリヤからの問いに、返答えようとする「雑技団長」・・・
そんな仲間の浅慮な行動に、少し年季の入った「雑技団員」は、その「雑技団長」の言葉を遮ろうとしましたが、
「雑技団長」からは、遮ろうとする「雑技団員」の行為を、遮るモノであった・・・
なぜなら・・・「雑技団長」は知っていたから・・・
その「理」・・・
『何も知らない事を私は知っている』
ならば・・・予め知っておく事で、「予防」も出来ようと云うモノ・・・
「「無知の知」を自慢することこそ、「愚者」の所業・・・」
「竪子よ―――汝は「真の愚者」か、否か」
かつて・・・リリアに、「無知の知」を説いてくれた人がいました。
そうだ・・・確かに私は、今まで知らない事だらけだった・・・
だけど、この人の云う様に、「知らない」と云うだけで停滞してしまっていては、そこから先には進めない・・・
それに、私は―――いや・・・私「達」は、ある人に教えてもらったお陰で、
私達が生きているこの宇宙が、「そう」だと云う事を知ることができた・・・
そうだ・・・「知る」ことで、何かに役立てる事もある・・・
だから・・・私は―――・・・
「雑技団長」とその一行は、その吸血鬼が自分達の時代では「明朗活発」だと云う事を知っていました。
だから―――・・・
雑1:それにさあ・・・その人だけじゃなくて、他の人達も好い人ばかりだよ・・・。
そりゃ―――皆、第一印象だけで、その人達を敬遠してるみたいだけど、私から云わして貰えれば、そんなのは無神経で無邪気で滑稽だよなw
ヱ:(・・・)あなた・・・何者?
雑1:(・・・)ただの―――「決して笑っちゃいけない雑技団」の、「団長」ダ〜ヨww
ヱ:(!)ごまかさな・・・い―――
エ:いいの・・・ヱリヤ―――私も、少しだけど気が紛れたわ・・・
それにしてもありがとう、「今は名乗れない誰かさん」。
雑4:(!!)お主・・・知っておったのか―――?
エ:いいえ・・・「知って」はいません―――けれど、そうした雰囲気が感じられます・・・。
それは、あなた達を見ていても、そうであるように・・・
それに・・・私もいけないんだと思います。
お父様と契約を交わした時、「覚悟」をしていたはずなのに・・・それを、「今になって」―――なんて、笑いたくても笑えませんよね。
雑1:(・・・)いいや―――だからこそ、笑っていいと思うよ・・・私は。
厭だったと思えてる時でも、笑ってさえいれば、自然と沈んでた気は吹き飛ばされてくる・・・
ま、これは私の体験談だけど、なw
雑2:(!)それではあなたは―――・・・
雑1:ん〜? 知ってたよ―――私が、城下の民からどう見られてたか・・・
だからこそ、笑ってそんなのを吹き飛ばしてやっていたのさw
エ:(・・・)「強い」―――のね、あなた・・・
雑1:私が? 「強く」なんかないよ―――私が知ってる、あんたと比べれば、そんなには・・・ね。
私の知らない「私」の事を、「知っている」とその人は云う・・・
不思議ではあったけれど、私も知らない「私」に、いつかは成れるのだと、私は勇気づけられるのでした・・・
=続く=