その国は、いつの間にか「一つ」となっていました・・・。

それも、この国の民や官達が知りもしないうちに―――・・・

 

当事国となった「サライ」と「オデッセイア」は、それぞれが代表する二人の人物の談合によって、「サライ・オデッセイア共和国」と名称を変え、

当初その国主にはサライ国の女王だった「ソフィア=エル=ホメロス」が就任し、オデッセイア国の姫君だったリリアは、その補佐兼代行を執り行う事が決められたのです。

 

とは云え・・・そんな重大な決定事項が、すぐにでも二国間に住む人間達―――とりわけ官吏達に受け入れられるわけでもなく・・・

今も、密約同然で結ばれてしまった条約の破棄を求めて、「サライ・オデッセイア共和国」の主都となった「ユーニス城」内部の「女王の部屋」に詰めかけた者達が見たモノとは・・・

 

 

 

官:なっ―――そなたは・・・

官:オデッセイアのリリア様ではありませんか・・・

官:それにしても、そなたは我がサライに侵攻戦を仕掛け・・・しかもソフィア様に敗北を宣言したと云うではありませぬか??

官:そうだとも―――だからサライとオデッセイアが一つになって・・・

官:いや、そんな事よりも―――だ、新たな国の王となられたソフィア様はどこにおられるのだ。

官:こんな密約も同然の条約・・・我々にも何の相談もなしに決められたのでは敵わん―――即刻の破棄を求める・・・と、そうリリア様からも申されてはくれぬか。

 

 

 

「全くもって・・・五月蝿い連中だ―――」

「だけど、こう云った反発も織り込み済み―――」

「あとは―――・・・」

 

 

密かにオデッセイアの軍旗だけを持ち出し、サライ国王城前に陣取ったリリアは、サライ国女王ソフィアと何かしらの密約を結ぶと、そのままユーニス城に居座ってしまいました。

そして今も、大事な取り決め事を吟味している最中に、この国・・・サライ国のみならず、自分の国・・・オデッセイア国の官吏達がこぞって、

自分達にも内緒で大事なことを決定した、新たなる王とその補佐兼代行役となっている二人の人物に意見を陳述に押しかけたのです。

 

しかし―――この程度の抵抗・批判は、既にリリアの頭の中にあったようで、何食わぬ顔をしながら適当な返事を繰り返し、(つい)には彼らからの追求を振り切ってしまったのです。

 

けれど、この後顔を見せに来た、元・サライ国の宰相であるこの人物には―――・・・

 

 

 

ギ:ようやく・・・静かになりましたね―――

  それにしても、こんなにも大変なことを・・・よくあなたが決断なされたものです。

リ:ああ―――・・・だけど、いつかはこうならなければならない・・・

  私が「今」やらなければ、いつかは誰かがやってくれていたことだろう・・・。

 

  だけどな―――ギルバート・・・大変なことを知ってしまったからには、そんな悠長なことは云ってられやしない・・・

  この私がそう思ってしまったんだ・・・それはもう―――「大変」なことさ・・・

  だから「これ」は、私の「焦り」なんだ―――今私がやってしまわないと、きっと後悔してしまう事になる・・・

  そう私が思わざるを得ないほどに、私達は時代遅れなんだ・・・その事は、恐らくあいつも感じることになるさ。

 

 

 

いつになく真剣で、真面目な言葉を紡ぐリリアに、「鉄腕宰相」とも称されたギルバートは、耳を傾けないわけにもいきませんでした。

そして・・・やはりこの人物こそは、云いようのない危機感をその肌身に感じ、自分が体験してきたことを、自分達の国主にも促せた・・・

そうした上で、以前までは面倒臭いことだと割り切って中々手をつけようとはしなかった「国政」などに着手し、その優れた能力を発揮しようとしている・・・そう思うようになったのです。

 

ですが―――・・・

 

そのこと自体は、ギルバートも賛同するのですが・・・彼の最大の疑問としている事には―――

ならばなぜ、新たなる王の姿がここにはない―――と、云う事なのですが・・・

するとリリアからは―――・・・

 

 

 

リ:ああ、あいつならここしばらくは―――そうだな・・・二カ月は戻して貰えないな。

  だけど、その間にやってしまうぞ―――私は、あいつの代行としてこの国を・・・

  いや―――この「大陸」を与った以上、手早く次段階へと進めなければならない。

 

 

 

ギルバートは、そのリリアの言葉に驚きもし―――感心し―――また、自分の人を()る目に間違いはなかったと思うのでした。

 

そう・・・この人物―――リリア=デイジィ=ナグゾスサールこそは、自分を含めるどの人間よりも器量が大きく、いずれは自分達の手の届かない高みへと昇っていく・・・

 

では―――どうして今まで・・・そうしなかったのか・・・ならなかったのか・・・

 

恐らく―――リリアだけには判っていたのです。

 

頭の・・・考え方の(ふる)い人間が治める国は、やはり(ふる)いままで人間が育ってしまう

しかし、そこで目新しい事を云ってしまうと、それは立ち所に「異端」だとか「常識外れ」にされてしまう・・・

 

けれど、そう云った考えの人間が、急に行動に移そうとした原理とは―――これがまた至って、至極簡単なことであり・・・

つまり、そう云った考えそのものが、他の未知の国からしてみれば既に時代遅れであり、

この(ふる)い考え方を改めないままでは、自分達は孤立し―――時代に取り残されてしまう・・・

それが、リリアが感じてきた危機感そのものでもあったのです。

 

それにはまず―――自分達が周囲(ま わ)りから取り残されない為にも、国を治める立場の人間から意識を変えなくてはならないと思い、

無謀を承知で今回の行動に踏み切り、ソフィアを説得した上で自分と同じモノを見て貰う為、自分の身が知るあの国―――

そう云った事が一番進んでいるあの国に行っているのだと、リリアはギルバートにそう伝えたのです。

 

第二十九話;変わり行く国―――変わり行く主―――

 

それに、今のリリアに残された課題―――

その課題も、そのまま放っておくことはできませんでした。

 

リリアが描く構想の初段階には、「エクステナーの全土統一」―――これを欠かすことはできませんでした。

しかし、云い方を変えるなら、「この大陸の意志を一つにする」―――そうするには、残る障害となっているあの国家・・・

北方の脅威ともされている「プロメテウス」を、どう攻略するか・・・に、あるのでした。

 

これが以前では、国を挙げての一大事業にも思えたモノでしたが、今の自分に運が味方をしているなら、あの二人は未だこの国に残ったまま・・・

そう思い、侯爵・マキと云う伝手(つ て)を使って、プロメテウスの撃退に一役買ってくれたあの二人を再び招集したのです。

 

 

 

ヱ:―――この私達を呼びつけるなんて・・・

  あなた一体、いつから私達の主人になったつもりなの。

エ:ど〜も済まないよね―――w この人ったら、すっかり腐っちまってサ・・・

 

ヱ:私は・・・腐ってなんかいないわよ―――

 

 

 

「とは云っても―――(はた)から見ても、むくれてるように見えるんですケド・・・」

 

サライ・オデッセイア共和国の―――当面での当主代行であるリリアの前には、恐らくこの時が来るまでこの大陸に留まっている、

さある超大国の将軍―――ヱリヤとエルムが呼ばれていました。

 

しかし少女は、どうやら自分が思っていたよりも以上に当てが外れたからか、少しばかりむくれている感じさえしていたのです。

それもそのはず―――どうやら彼女は・・・

 

 

 

リ:―――もう怒られるのが判っている??

  ・・・誰に―――

 

エ:大皇(おおきみ)様にだよ。

  そりゃまあ〜ねぇ〜〜戦争なんだから―――出ちまうのは判ってるんだけどさ・・・

リ:仕方がないじゃないか―――それが戦争と云うもんなんだろ。

 

ヱ:判っていないわね、あなた―――

  それではダメなの、それにあの方ならきっとこう云うはず―――・・・「人一人(あや)めようが、幾千幾億(あや)めようが、命を奪うことに違いはない・・・」ってね。

 

 

 

そこでリリアは、また大皇(おおきみ)の思慮の深さに触れ、少女が発した大皇(おおきみ)の言葉を胸に深く刻みました。

 

確かに、戦争では数多の敵兵の生命を奪えば「英雄」・・・果ては「救国の士」などと持て囃されるけれど、反面―――人一人を(あや)めれば、それは重大犯罪・・・

同じ「生命を奪う」と云う事に、些かの違いなどあるモノなのか―――(おおきみ)の提起にはそれだけのモノが含まれていたのです。

 

とは云え・・・この大陸を統一する上で、最後にして難関とも云える障害ともなっているプロメテウスを攻略するためには、この二人の参陣は欠かせないと思い、

そこをリリアは無理にでも頼み込んでみるのでした。

 

 

 

リ:それは・・・大変気の毒に思うけど―――それでも今やってしまわないといけないんだ・・・

  だから万が一、死者でも出るようになってしまった場合、あんた達に無理強いさせてしまったのは私だ―――と、そう大皇(おおきみ)様に云ってくれても構わない・・・

 

ヱ:(・・・・・。)

  フ―――・・・それは要らぬ心配と云うものです。

  あの方も、本当の処では判っているのですよ・・・死傷者の出ない戦争なんて―――道化にも等しい・・・ってね。

 

  では、一つあなたに問いましょう―――ならばあの方は、なぜ私達をこの地へ・・・?

 

 

 

少女からのその言葉に、リリアは思う処となりました・・・。

 

とどのつまり、彼女達が出撃()れば、必ずや死傷者は出てしまう―――

だとしたなら、大皇(おおきみ)はなぜ彼女達をエクステナーへ赴かせたのか・・・

 

そんな大皇(おおきみ)の胸中を物語る、あるとっておきの言葉を―――その少女は紡ぎ始めたのです・・・

 

 

―――生命(い の ち)が多く(うしな)われてしまう「戦争」―――

―――こんなにも尊いモノが多く(うしな)われてしまうからこそ 私達はなお一層そのことを重く受け止め 感じて行かなければならないのです―――

 

―――生命(い の ち)の一つ一つが重いと知るからこそ それらを尊重し 護って行かなければならない―――

―――()してや 私達は生命(い の ち)が多く(ひし)めく 「国家」と云う共同体を運営しているのです―――

 

―――老いも 若きも 男も 女も 大人も 子供も 翼や鱗がある方々も―――

―――究極には同じ一つの輪で繋がっているのです―――

 

―――その事は この世に等しく生を受け 同じ空気を吸い 互いを(いた)わり合い 愛を(はぐく)みながら それぞれの安寧や子供の未来を案じ―――

―――そして必ず 生を全うして終えて逝く―――

 

―――それがこの美しくも蒼き小さな一つの天体に生を受けた 私達に課せられた定めでもあるのです―――

 

                                                          =「ガルバディア大陸統一後の大演説『XANADO憲章』より抜粋」=

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと