その機関は―――「金融機関」・・・
顧客の財産を与り、増やす為の運用をして、顧客の信用を・・・また顧客の笑顔を獲得する―――そんな「機関」・・・
そして更には、「上お得意様」と云った様な、少し特殊な顧客には、その顧客が持つ「秘密」・・・
それを堅守する、そんな「機関」でもあったのです。
それが「宇宙銀行」・・・
そしてフランソワも、自らの身に危険を感じ、それまで蓄財してきた全財産を引き出す目的で、
宇宙銀行のとある支店に足を運んだモノでしたが・・・
そうするまでに―――彼らの手が・・・ここにまで及んでいたモノとは・・・
第二百九十三話;謀略の死角
その事をフランソワが感じたのは、今まさに、宇宙銀行支店の地下に設置されてある、自分の貸金庫の前で―――なのでした。
それと云うのも、普段ならば自分の銀行の特性を、滅多と・・・そんなには口に出さない支店の頭取にあったのです。
銀:いや〜っはっはっは―――私どもは何より、お客様の事のみを考えて、お客様の私財を与り受け、日々その私財を増やすことだけに邁進しておりますです。
それは勿論、フランソワ様も例外ではございません―――ですが、その事を他の業界の連中は、
やれ「金の亡者」だの・・・「守銭奴」だのと、私共を罵りますが・・・斯く云う彼らの私財も、私共が管理しておるのですよ。
しかし―――そうした「秘密」を、絶対外部に漏らさない・・・と云うのも、私共の務めでありますれば・・・。
なにしろ、そんじょそこいらの、国家の「秘密保持能力」よりも、堅いですからなあ〜〜
それに第一 ―――・・・
フ:(・・・)頭取、年齢を取り過ぎたわね。
銀:は―――はい??
フ:喋り過ぎだわ。
まさに饒舌・・・新規の顧客にするべきセールス・トーキングならばまだしも、フランソワは永い間、宇宙銀行を利用してきた「上お得意様」・・・
そんな顧客に対して、疑惑を抱かせざるを得ない様な支店の頭取の態度に、フランソワも猜疑心を一層強くしたのです。
しかも・・・「それ」は、すぐに顕在化をしてきたのです。
それは―――フランソワが、自分が所有する地下貸金庫前に来た時・・・
フ:(・・・ん?)ちょっと待ちなさい―――
銀:え、は・・はい?
その・・・地下貸金庫内部には、フランソワ本人以外の何者も進入を赦さないよう、赤外線が張り巡らされていました・・・。
その事は勿論、フランソワ自身も承知のはずなのですが―――・・・
云うなればフランソワは、その場所で、少しの差異を感じていたのです。
しかも―――・・・
銀:あ・・・あっ!そ―――そのような写真・・・いつの間に!!
フ:その事は、どうだっていいでしょう・・・。
それより、この写真にはないモノが幾つか混ざっているようだけど・・・
この事に関する、明確かつ簡略な説明はして頂けないものかしら?
(ここでフランソワが云っている、「この写真にはないモノ」とは、「赤外線」の事は前述をしたが、それとは全く「似て非なるモノ」の事を指している。)
銀:い・・・いえ・・・それは〜〜そのぉ〜〜―――
と、当行も、セキュリティの面を考慮致しまして〜〜
で・・・ですから―――ほんの少し変えただけなのですよ!!
自分には、何一つ疚しい事などない事を声高に主張する支店の頭取・・・
しかし、その主張とは裏腹に、その態度は不審そのモノ・・・
まるで、自分達が仕掛けている罠に対し、決して見破られてはならない・・・と、ひた隠しにする為に焦っているかのよう―――
こんな時に・・・「月詠」が使えるミリヤならば、立ち所に彼の嘘は見破られるのだろうに・・・
だけど自分には―――そんな御大層な感応などない・・・
だからこそ問い詰めるのです。
フ:それはおかしいわね、あなた方は永年に亘って裏打ちされた信用に、そうなるべくしてのノウハウも培ってきているはず。
それをなぜ・・・こんなにも急に―――それも「ほんの少し」などと?
銀:で・・・ですから〜〜―――
フ:それに・・・「ほんの少し」変えた事を、顧客に「秘密」にするのが、現在のあなた方の「主義」なのかしら・・・
銀:あ・あっ・・・う・う〜〜っ・・・
フ:自分達に疾しい事が何一つない―――と云う証しを立てる、唯一の手段を教えてあげましようか・・・?
銀:え? ほ―――本当ですか?
フ:ええ・・・あなたが、この私より前に入るのよ。
銀:(!!)え―――・・・
フ:(・・・)――――。
銀:あ、な・・・なにを―――
(!!)あ―――あ・・・
永年に亘って培われてきた、技術に信用を・・・「ほんの少し」のことで変えようとしている―――
しかも、その「ほんの少し」の事も、詳らかにはされようとしていない―――
そこでフランソワは、この自分よりも先んじて、支店の頭取に、地下貸金庫内部に入り―――安全を証明して見せるよう促せたのです。
するとやはり―――躊躇をした・・・
まるで・・・「ほんの少し」変えた事が、フランソワを抹殺するように仕組まれていた―――かのように・・・
だからフランソワは、貸金庫入口付近まで足を進めると、徐に手にしていた写真を投げ入れたのです。
すると・・・その写真は、跡かたもなく―――塵にすらならず消滅してしまった・・・
そう・・・つまり、フランソワを狙っている何者かは、何れフランソワが、こうした行動を起こすモノと考え、予め罠を張っていたのです。
そして・・・その事を知ったフランソワは―――
フ:(・・・)これでは、どんなに説明を尽くしても、遁れる処ではないわね。
銀:ああっ・・・も、申し訳ございませんっ―――!
わ・・・私共も、極力はこんな事はしたくはなかったのですが・・・
ど―――どうかっ・・・命ばかりはっ!!
フ:あなたの命を奪う前に・・・少しばかり聞きたい事があるわ。
それに素直に応えてくれたなら、今回の事は大目に見てあげましょう―――
厳しい罰ばかりを与えるのではない・・・時には、相手のこうした弱味に付け入り、自分に有利な情報を引き出す術を、フランソワは心得ていました。
それが、彼女を「超」一流―――たらしめた証拠・・・
現実に、フランソワに弱味を握られてしまった支店の頭取は、何者かによってフランソワ抹殺を指示されたのだ・・・と、自白をしたのです。
而して―――その「何者か」・・・とは
その事実を知り、フランソワも眉を曇らさざるを得ませんでした。
それと云うのも―――・・・
銀:(?)あ・・・あの・・・? ふ、フランソワ様―――??
フ:(・・・)いえ、なんでもないわ―――
フランソワでさえも、眉を曇らせた事実―――それが・・・「ローゼン・クロイツ」
「この宇宙」の暗黒史を物語る上で、欠かすことのできない「犯罪組織」・・・
(斯く云う「UP」や「ディーヴァ」も、この組織と何度か激闘を繰り広げている)
しかもフランソワ自身、「アンフィス・バエナ」と云う、得体の知れない組織とも因縁を構築させているとあっては、
この「事実」は、あまり好ましくはない事実だと云えたのです。
けれど・・・こう云った不利な状況に追い込まれた際でも、「焦り」こそは禁物である事をフランソワは知っていました。
いや・・・不利に追い込まれた時にこそ、「冷静」に―――かつ「沈着」に・・・
そして、相手も「思いも寄らない」行動に移す事こそが、状況の「破局点」を産み出す事も知っていたフランソワは、
まさしくの、誰もが「思いも寄らなかった」行動を―――
それは―――・・・
ミ:―――はい、もしもし・・・
フ:『主よ 御許に近づかん――― 上る道は 十字架に ありとも など――― 悲しむべき 主よ 御許に近づかん―――』
ミ:あら・・・ウフフフ―――誰かと思いましたら・・・
それに、その詩篇・・・確か、あなた自身が依頼を受ける時のモノではなくて?
それを―――あなた自身が使う・・・と云う事は・・・
フ:「理解が早くて何よりです。」
「そう、今回は私の方からあなた方に依頼をしたいの。」
現在は地球に在住をしているミリヤの下に、一本の連絡が入ってきました。
しかも相手は、やもすれば自分達の「商売敵」とも云える存在・・・
そしてその時の連絡先の向こうでは、さある宗教が「讃美歌」として歌っているモノの一つ・・・
しかしその詩篇は、清らかなモノとは裏腹に、使われれば必ず誰かが死に至る・・・
ですが今回は、「商売敵」から自分達に、依頼したい事がある―――と云う事で使われた・・・
(ここで、「ピース・メイカー」「ディーヴァ」の双方が「商売敵」だとするのも、「ディーヴァ」はフランソワの様な・・・云わば「テロリスト」を取締まる側であるから。
それが一時的とはいえ、そうした「テロリスト」側から依頼がくるモノとは、誰しもが思わなかった事でしょう。)
ですが、その依頼は、快く「ディーヴァ」の「ラクシュミ」であるミリヤより受け入れられ、
こうして奇妙なまでの協力関係が構築されたのでした。
(ではなぜ・・・「ラクシュミ」であるミリヤは、「ピース・メイカー」であるフランソワからの依頼を、快く受け入れたのか・・・
そこは、「大人の事情」と云う一辺倒で片づけるよりも、フランソワが既に「アンフィス・バエナ」に狙われている―――と云う情報を、
「サラスヴァティ」であるジゼル経由で受け取っていた事もあり、何より知らない間柄でもある・・・と云うことから、寛容な態度を見せたモノと思われるのです。)
(しかも、「こうした出来事」によって、「アンフィス・バエナ」「ローゼン・クロイツ」達の描いていた謀略は、
「ディーヴァ」と「ピース・メイカー」を結び付かせる結果となり、云わば彼らの「想定外の出来事」を召喚せてしまっていたのです。)
=続く=