ここは―――・・・「第11号宇宙」・・・

「銀河系」や「太陽系」のある、「第71号宇宙」とは、別の宇宙(せ か い)・・・

 

その宇宙(せ か い)に、「ロビン=サルヴァトゥーレ=アルフォート」と云う、一人の気立ての好い娘がいました。

 

そして、この娘こそは、「五人の歌姫」の一人・・・「トゥルヴァドゥール」としての宿命に早くも目覚め、

自分のこの能力を、多くの人々の為に役立てようと、日々精進をしていたモノでした・・・が―――

 

そんなある日の出来事―――・・・

 

 

 

ロ:(・・・あら? あの人は・・・)

 

 

 

ここ数日、ロビンは同じ人物を見かけていました。

 

日差しも好く、暑ささえ感じると云うのに・・・長く大きなボロ布を頭から被り、自分が何者かを知られたくない様な、そんな雰囲気を醸している・・・

得てして不気味で、正体不明の存在―――・・・

 

そんな人物が、自分が歌を口ずさんでいる時に限り、自分の近くに必ずいる・・・

 

「奇特な人もおられるモノだ―――」

 

そう思いながらも、自分の「歌声」には、自身を持っていたロビンは、不気味で正体不明ながらも、

たった一人の観客(オーディエンス)の為に、自慢の歌声を披露したのです。

 

すると―――・・・

 

 

 

謎:フフフ―――いつもながら、称讃に値する・・・

ロ:(え・・・)女の―――人・・・それに・・・

 

謎:(・・・)ああ、あなたの歌声は、過去にも聴いた事がある・・・。

ロ:(「過去」・・・?)でも私―――歌を始めたのは、ここ最近なんですけれど・・・

 

謎:フフフ―――これは誤解を与えてしまったようだ。

  そこは謝罪を致しましょう。

  私が云いたかったのは、あなたの、その「歌声」で、「我々」は苦杯を呑まされたのですよ。

ロ:(!!)まさ・・・か―――「エリス」の?!!

  ぐふっ―――!

 

謎:(思っていた通りだ・・・「トゥルヴァドゥール」は覚醒(め ざ め)ていた・・・。

  だが、「真の覚醒」までには至ってはいなかったようだ・・・。

  それに、ここ数日―――この娘の歌声を聴いていた私に、何らかの作用があって然るべきの筈なのに・・・それがなかった―――と云う事は・・・)

  フフフ―――まさしく重畳の至り・・・というべきではないか。

 

 

 

その「声」を聞くだけでは、女性―――と云う事は判りましたが・・・

しかし、性別が判らない格好でもあったが為に、ロビンも、その「声」を聞くまでは、その人物が女性である事は判りませんでした。

 

しかしながら、ロビンが奇妙に思っていた事は、その謎の女性が、「過去に」自分の歌声を聴いた事がある・・・?

 

それにしても「過去に」・・・?

そんなはずはない―――自分のこの歌声を褒められたのは、ここ最近の事であって、それまでは披露した事さえないと云うのに・・・?

 

けれど・・・そう・・・ロビンが「トゥルヴァドゥール」として自覚し始めたのは、お休みの日にある、教会での「讃美歌」を歌った際に―――

ロビンの歌声を聴いた、教会の幹部からの「お告げ」を聞いた時から・・・

 

「私は・・・世界を救った事のある存在の、生まれ変わりなのだ―――」

 

そう自覚したロビンは、一日も早く「トゥルヴァドゥール」として覚醒(め ざ め)るよう、日夜たゆまぬ努力をし続けました。

 

が―――・・・

そんな矢先、不気味な、謎の女性に連れ去られてしまった―――

 

 

そしてようやく意識を取り戻した時、自分を連れ去ったと見られる謎の女性が―――

例の「長く大きなボロ布」を取り、自分に差向かう様にして坐っていたのです。

 

 

 

ロ:(!!)ここは―――それに・・・あなたは??

 

誰:(・・・)ほう、この私の事がまだ判らぬか―――やはり、「真の覚醒」には至っていなかったと見受けられる。

  ならば自己紹介を―――私は・・・エリス様に仕える『三候』の一人・・・

  「リント・ヴルム」のグレーテル=ネメシス=オルトロス―――と申し上げる・・・

 

ロ:(!!)「リント・ヴルム」・・・! それに『三候』?? すると、やはり―――・・・

 

グ:ふむ―――どうやら状況の方は呑み込んで頂けたようだ・・・なによりだよ。

  ああ―――そうだ・・・お前は・・・いや、お前「達」は、今度は私達の為に働くのだ・・・

 

ロ:(!)そんなこと―――出来る筈がありません!!

  それにあなた達は、数ある他の宇宙を、自分達の意のままにしようと企てる・・・云わば「侵略者」!!

 

グ:ああ、「侵略者」で結構―――そちらの方が判り易かったかな? お嬢さん・・・

  だが、既にお前は私によって捉えられた―――もうこうなったからは、どうしようもないのだよ・・・

 

ロ:(く・・・っ―――)そんなことは・・・させはしないっ!

 

 

 

ロビンも、自分達の宇宙(せ か い)で、昔から語り継がれている「伝承」の事を知っていました。

エリスと・・・その配下と思われる『三候』の暴虐ぶりを・・・

 

だから、この状況―――自分や他の「歌姫」達を捉え、以前には苦杯を呑まされた事を、

今度は自分達に有用に作用させる・・・

 

云わば、「調略」を受けようとしていることは、瞬時に理解出来たのです。

 

すると・・・ロビンの全身にチカラが(みなぎ)り始め―――施されていた戒めを解き放ちました・・・

それを見ていたグレーテルは・・・

 

 

 

グ:おお―――おおお! 「それ」こそまさしく・・・

 

ロ:どうやら時期尚早だったようですね・・・この私が、あなた達の畏るべき計画を聞いて、そのまま放置するモノと思っていたのですか・・・

  ですが、感謝をします―――お陰でこうして、「真の覚醒」に至れたのですから・・・

 

グ:ハハハハ―――感謝はこちらも・・・だよ、『クラフト・マスター』!!

 

ロ:(!!)なぜ・・・その「称号」を??!

 

グ:「知っている」・・・か? 知らないままの方が可笑しいとは思わなかったか―――

  それに・・・私が今ここに、こうしている「事実」を!!

 

ロ:(!!)そんっ・・・な?? では「仲間達」は―――

 

グ:そこは心配することはない・・・じきに「お仲間」共々、エリス様の御前(ご ぜ ん)(つど)う事になろうさ―――

 

ロ:(・・・)では、あなたをここで退(しりぞ)けてておく事が、最善の様ですね・・・

  我が「クラフト」の力を見よ―――≪シギル≫!!

 

 

 

「真」に、「トゥルヴァドゥール」として覚醒(め ざ)め、これからグレーテルと対峙する決意を表明するロビン・・・

 

しかし―――なぜかグレーテルは、「トゥルヴァドゥール」の、「真の能力」を見抜いていた・・・

 

それこそが「クラフト」―――

 

実は、「トゥルヴァドゥール」の「歌」とは、「経典」や「呪文」のような『(うたい)』であり、「それ」を直接の効果として作用させる―――

いわば一種の「魔術師」の様なモノだったのです。

 

けれど、普通の「魔術師」と違った処は、その『(うたい)』が紡がれる限りは、対象は永久に拘束される・・・

 

つまり以前の侵略で、自分達の自由を悉く奪われてしまったグレーテル達は、勝利をあと一歩のところで逃してしまった・・・

 

「「あと一歩」・・・ほんの少し力を加えれば、「勇者」の馘を断てたモノを・・・」

 

その時機(タイミング)を逸してしまったお陰で、「猶予」と云うのを与えてしまい―――大局的には撤退を余儀なくされてしまった・・・

 

その経緯を大いに反省し、「今度」は計略を練り、自分達に苦い思いをさせてくれた「五人の歌姫」を、

自分達の側に引き入れる事が決められた・・・

 

 

そして今―――・・・「第一」の「歌姫」である、「トゥルヴァドゥール」は・・・

 

 

 

第二百九十四話;今 そこにある危機

 

 

 

ロ:そ―――そんなバカな?? わ・・・私の「クラフト」が・・・

 

グ:それは果たしてどうかな。

  お前の能力は十分に通用する―――

  だが・・・この私達が、「何もせず」に、お前の前に立ったモノかな?

  その通りだよ―――「何かしている」からこそ、堂々とお前の前にこの身を晒しているのだよ!!

  そう云う事だ・・・気付くのが遅かったようだな・・・『クラフト・マスター(ト ゥ ル ヴ ァ ド ゥ ー ル)』―――

  この私が、お前の視界に入っていた時点で、その事に気付くべきだったのだ!!

 

ロ:おっ・・・おのれっ―――『闇の騎士(リント ・ ヴルム)』!!

  だが・・・このままでは―――っ!!

 

グ:ハ・ハ・ハ―――「終わらせはしない」・・・か?

  残念だが、「このまま」終わってしまうのだよ!!

  それこそが現実であり・・・我らが(しゅ)「エリス様」が築かれる、新たな宇宙(せ か い)なのだ!!

 

 

 

自分の・・・「真の能力」であるはずの「クラフト」が効かない―――・・・

 

その原因は、既に『闇の騎士(リント ・ ヴルム)』のグレーテルの鎧に刻まれていました。

 

それこそが『呪紋』・・・

あらゆる魔法効果を遮断する「印」―――

 

それは、自らの身に降りかかる「攻撃呪文」は云うに及ばず、自分の能力の底上げを図る「補助魔法」や、傷を快復させる「快復呪文」もそうであった・・・

 

つまり、ロビンの「クラフト」を無効にする手立てを、既に打ってきている者に通用するはずもなく・・・

それでもロビンは抵抗を試みたのですが―――・・・

 

それも最早、遅きに失していた―――・・・

 

 

やがて―――・・・

 

 

 

グ:これからお前は―――その優れた能力の総てを、エリス様にのみ捧げるのだ・・・

 

ロ:(・・・)はい―――承服致しました・・・

  この「トゥルヴァドゥール」めを、力にて屈服させたあなた方には、この身も―――心も―――

  「(しゅ)」であるエリス様にのみ捧げる事を、ここで誓いましょう・・・

 

 

 

その眸には、かつて輝いていた「光」はなく―――ほどなくして「闇」に染まり上げられてしまった、「歌姫」がいるだけなのでした・・・。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと