「その者」は、傷付き・・・弱っていました―――

五体満足に動けるモノではなかったのに、それでも自分の事情を知らずに、匿ってくれた人達に・・・

これ以上の迷惑はかけられないと、お礼も―――況してや行き先さえも告げずに、その場を離れたモノでしたが・・・

 

やはり、無理と云うモノが祟ったと見え、それでも傷付いた身体を野に晒すまいと、

どうにか辿り着いたのは、一軒の廃屋だったのです。

 

 

そこで・・・傷付いた「獣」は、ゆっくりと身体を休める事にしました・・・。

傷が癒された暁には、自分を傷つけた者達に、然るべきの報復を胸に誓って・・・

 

フランソワがそうしている間―――ミリヤにリリアにたまもは、エクステナー大陸の、ある地域にある、

壁や屋根が崩れかけた廃屋の前に来ていました・・・。

 

 

 

た:ふぅむ・・・ミリヤ殿、そなたがこれから会わんとしている御仁が、こんな処に住んでおるのだと??

ミ:「住んでいる」・・・という表現は、似つかわしくはないですが・・・。

  私の「月詠」は、確実に、件の当事者の気配を、この廃屋で捉えているのです。

リ:うっへぇ〜〜それもまた、気が気じゃないなぁ―――・・・

  だとしたらさぁ、その人のプライベート・・・果ては、あんた以外の他人の・・・は、どうなっているんだよ。

 

ミ:それは、思い違いも甚だしい―――と云う処です。

  何も私も、任務以外に私的流用した事はございません。

 

  そう・・・ならば今回の事も、任務の一環と云う事。

  今、「彼女」を手懐(て な ず)けられればそれでよし・・・しかし、もしこの交渉が失敗に終わり、私の身に危険が及びそうになった時・・・

 

リ:あ〜〜はいはい・・・そう云う意味での「私」―――だったわけね・・・

  チッキショ〜〜安請け合いすんじゃなかったかなぁ〜〜

 

ミ:そもそもあなたには、過ぎる程の報酬を、それも「前払い」でしましたからね。

  相応の働きはして貰いますよ。

 

リ:(・・・)なあ〜〜最期に、も一辺・・・

 

 

 

すると次の瞬間、ミリヤに「ぐぅ」で殴りつけられ、大粒の涕を目にため込むリリアの姿が・・・

そんな有様を見るにつけ、「仕様のないヤツよの」とする、たまもではありましたが・・・

 

実の処を云うと、今回のミリヤの人選は、間違ってはいなかった―――・・・

けれどそのことは、ミリヤやたまもは、知る由などなかったのです。

 

ですが・・・リリアだけは―――・・・

 

そんな事とは露知らず、傷付いた「獣」が、傷を癒す為に潜んでいる場所に、

「傷付いたあなたを保護する用意がこちらにはあります」―――との交渉を切り出す為、

ミリヤ達は近付いて行ったのですが・・・

 

 

 

フ:(!!)―――誰?!

ミ:お久しぶりですわね、「ピース・メイカー」・・・

 

フ:「ディーヴァ」の「ラクシュミ」・・・確かにあなたには、私の方から依頼の発信をしたモノでしたが・・・

  その様子では・・・少々事情が違うようですわね・・・

ミ:ええ―――・・・その通り・・・

  あなたほどの利用価値のある存在を、私は存じ上げておりません。

  その事は、逆説的に云えば、敵に回せば、これほど恐ろしい存在はあったモノではございませんが・・・

  ならば、この状況は、最大限にして活かすべきだ―――と、そう私が判断したのです。

 

フ:フ・・・フ―――この私が・・・あなた達の「飼い犬」になれ・・・と?

 

ミ:率直に云えば、そう云う事になります―――

  「猛犬」・・・いえ、「猛獣」にも等しいあなたに、最低でも「鈴」を付けておいた方が、不意なエンカウントは避けられる―――

  と、私がそう判断したまで・・・

 

  何しろメイは、あなたを見つけ出す為に、未だ私の下へと戻ってきてはいないのですから・・・。

 

フ:フフフ―――・・・私の弟子ながら・・・とんだ不始末を・・・

  ですが―――・・・

 

ミ:やはり・・・この要求は受け入れられない―――と・・・

  残念ですわね・・・。

 

 

 

傷付いた「獣」は、自分の身を護るため、素早く身を起こし反撃に備える体制を整えました。

そして、自分の目の前に現れていたのは、ある意味で自分達「暗殺者」にとっては、商売敵とも云える「秘密捜査機関」・・・

「ディーヴァ」のサブ・リーダーでもある「ラクシュミ」だったのです。

 

しかし実は、フランソワは、以前―――ミリヤに「依頼」の打診をしており、難なくこの事案は片付くものと思っていたようでしたが・・・

どうも現在の状況から鑑みるに、事態は思うようには行っていなかった・・・

 

ミリヤは、フランソワからなされた「依頼の打診」を利用し、フランソワを「ディーヴァ」の一部に取り込もうと目論んでいたのです。

(この部分のみを見ると、ミリヤの人物像を疑われそうなので一言・・・この判断は、ミリヤの「組織人」としてのモノであり、ある意味では間違ってはいない。

不意・不用意のエンカウントをしてしまう危険性を孕んでいる存在と、ある一定の距離を保てるならば、こうした判断も致し方のない事が伺えるのである。)

 

しかし・・・現状に措ける自分の状態では、もうどうする事も出来ない・・・と、観念するしかないフランソワでしたが、

やはりその矜持は頑なままでした・・・。

 

喩え、痩せても枯れても、他に(くみ)する様な事は、しない―――・・・

 

そこの処を、ミリヤも一定の理解は示していました。

けれど、「もしかすると」・・・「万が一」・・・そうした可能性も否めない為、こうして危険を顧みずに、交渉の場に姿を晒していたわけなのですが・・・

 

やはり―――大方の予測通り、「決裂」に終わってしまった・・・

 

ならばこの上は、すぐさまにでも、その場を離脱することが先決にして、賢明な判断―――なのでしたが・・・

 

まさに「こうした時の為」に依頼をしていた人物が―――・・・

なぜか、ミリヤがいくら促せようとも、微たりとも動こうとはせず―――・・・

 

 

 

ミ:(!!)ちょ―――ちょっ・・・リリアさん! なにをしていらっしゃるの?!

  もう、用は済んだのですから―――・・・

 

 

 

今回―――ミリヤがリリアに、この依頼(は な し)を持ちかけてきたのは、間違いではありませんでした。

 

なぜならば、「その事」―――・・・

ミリヤも、たまもも、況してやフランソワも、思いもかけなかった出来事が、その場では起きていたのですから・・・

 

しかし「それ」は、「ある人物」の内で、燻っていた「何か」を覚醒させる、「きっかけ」ともなっていたのです。

 

 

それに・・・確かに、ミリヤの「用」は、「もう済んでいた」―――・・・

ならば―――???

 

次に、リリアの口から出てきたモノは、「この宇宙」にはない、「未知の言語形態」―――・・・

しかも「それ」は、たまもは元より、ミリアですら初めて耳にする、奇妙な「言葉」なのでした。

 

 

 

第二百九十九話;“非”標準言語形態

 

 

 

リ:「カノナ ンレイサ ガタンア アナ」

 

ミ:(??!)リ・・・リリア・・・さん?? あ・・・あなた―――??

た:リリア・・・? おぬし・・・何を喋っておるのじゃ??

 

フ:―――・・・。

リ:―――・・・。

 

 

 

ミリヤも・・・そしてたまもも、はっきりと判った事と云えば、急にリリアが自分達の知らない「言語形態」で喋っていたことと・・・

その対象が、フランソワだけ―――と、云う事でした。

 

しかし、当のフランソワも、自分に何を話しかけているのか、理解し得たような感じではなく・・・

 

―――と、そう思っていたら・・・

 

 

 

リ:(・・・)なあ―――違うのか。

 

フ:(!)あなた・・・は?

  私は、あなたが何者かは知らない・・・けれど、今、あなたが云っていた事は不思議と判るわ・・・

 

ミ:(!!)

た:なんと?? どう云う事なのじゃ・・・

 

 

 

なぜか、フランソワには―――今リリアが話しかけてきた内容が理解出来ていたようでした。

けれどフランソワも、永らく「この宇宙」に在住している存在・・・

 

それがまさか、どこの宙域とも知れない「言語」を話す、リリアの云っている事が理解出来ていよう・・・などとは―――

 

けれどそのことは、ミリヤやたまもは元より、フランソワ本人でも驚いていた事なのでした。

 

なぜ・・・自分は・・・この人が云っている事が、理解出来たのだろう・・・

 

しかし、それは「本能」―――本来、持ちうべく能力・・・

 

ですが、世代交代や全く違う言語形態の地域で、永らく暮らす事により、本来の能力の方が必要ないモノと捉えられ、隠れてしまった・・・

それが、「ある者」の出現によって、その封印が解かれてしまった・・・と、するならば?

 

それにしても、どうしてリリアが―――・・・

 

 

 

リ:実は、ある人から頼まれ事をされててさ―――

ミ:え? でもそれは、私が・・・

 

リ:あ〜〜悪ぃ、ミリヤさん―――あんたからじゃなく、それよりもずっと以前に・・・さ。

  その「ある人」が云うにはさ―――・・・

  『(なれ)らの星域の内に、「歌姫」の一人「サイレン」が潜んでおる。』

 

ミ:(!!)「歌姫」―――!!

た:いかがした?ミリヤ殿・・・その「歌姫」とやらはいかに??

 

ミ:(・・・)ある「歌劇」の演目の一つに、その事を題材にしたモノがあるのです。

  その登場人物の一人に、「サイレン」の名が・・・

 

た:(!!)なんと?! それではリリア―――おぬし・・・

 

リ:さぁ〜てな、私もその事は知らなかった。

 

ミ:(?)それではどうして・・・この方が「サイレン」だと・・・

 

リ:ああ―――それは・・・さ、「こいつ」のお陰なのさ。

 

 

 

そうリリアが云うと、(おもむろ)に自分の目に入れていた「ある物」を取り出したのでした。

しかし、それは紛れもなく―――・・・

 

 

 

ミ:「コンタクト・レンズ」・・・

 

リ:そ・・・。

  でも「こいつ」は、ある特殊な構造になっているらしくてな、ある人のお仲間である「インヴェクター(発    明    王)」から、そう云われたんだと。

 

ミ:(!!)「インヴェクター(発    明    王)」・・・!!!

た:ミ・・・ミリヤ殿??

 

ミ:まさか・・・あなたの依頼主―――とは・・・「賢下五人」なのですか!!?

 

 

 

するとリリアの口元が、微かに不敵そうに緩むと、その事だけでミリヤは立ち所に理解しました。

 

しかし・・・それにしても、「歌姫」の一人である「サイレン」が、フランソワだったとは・・・

それに、リリアが見抜けた理由と云うのも、リリアがしていた「コンタクト・レンズ」に、当該者であるかどうかを見極める構造が為されており、

そうした反応をする人物に対し、リリアが予め「ロア・マスター(話    術    師)」から授けられていた、件の「言語」によって確認を取っただけの事だったのです。

 

それに―――・・・

 

 

 

フ:けれど・・・急にそんな事を云われても―――・・・

 

リ:だろ〜〜な、私にもさっぱり判らんちんダヨ。

  けれど、云われた事はやらなくちゃいけない・・・私ゃまだ、生命が惜しいし、蛙にもなりたくはないんでね・・・。

 

 

 

今回の出来事の発端は、「人探し」をミリヤがリリアに申し出た事にありましたが、

実はリリアも、ミリヤよりも先達(せんだっ)て、「ある人物」から「人探し」を依頼されていたのです。

 

けれど、その人物像は定かではなく、その人物の見極めを、「ある人物」と同じ「賢下五人」の「インヴェクター(発    明    王)」の手により生み出された「コンタクト・レンズ」により判別し、

こうして確保できたと云うのですが・・・

 

よもや今回の出来事が、現在の「この宇宙」の命運すら握っていた事に・・・

当事者たちですら知る由などなかったのです・・・。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと