リリアが自分の国へと戻り―――市子もサライ国女王との面会を果たしていた頃・・・
前のお話しで、リリアの同伴として一緒に旅をしていた老練なる傭兵―――ラスネールは・・・
オデッセイア国境付近にある町・・・「アーリオ」にある酒場で、何者かと会っているのでした。
ところで・・・今、ラスネールと会っている人物とは―――何者?
お忘れだろうか・・・彼―――ラスネールの元々の肩書を・・・
「老練の傭兵」―――ではなく、それ以前・・・なんの目的をしてリリアの近くにいたのか・・・
そう、元はと云えば―――・・・
依:随分と・・・契約した内容とは違うじゃないか。
ラ:―――・・・。
依:「あんな小娘の細頸など容易い」―――そう云っていたのはお前自身なんだぞ。
だからこそ、こちらもお前が最初に提示した額で首を縦に振ったのだ。
それを・・・前金だけを懐に入れて・・・あれから5年も経つのだぞ!?なんとか云ったらどうなのだ―――!!
見るからに如何わしい・・・
いかにも正体を知られたくないかのように、黒いフードを目深に被り、声色も・・・どことなく怒色を織り交ぜた依頼主を前に―――
ただ・・・ラスネールは言葉を失っていました。
そう・・・謎の人物は、ラスネールの雇い主―――
オデッセイア王国の姫君にして、第一王位継承者であるリリアを亡き者としようとしている―――
或いは組織・・・或いは他国の人間。
それにラスネールも、最初にこの人物と契約を交わした時には、恰も「嚢中の珠を取り出すが如き」だ―――と、広言憚らなかっただけに、
今にしてこの体たらくでは、流石に返す言葉が見つからなかった―――・・・モノと思えば?!
第三話;「老兵」の真実
依:ち・・・返事もなしとは―――な。
まあいい、お前と交わした契約は、今ここで破棄だ。
代わりに・・・お前より安廉で、確実に仕事をこなしてくれるこの連中に、頼むとする。
ラ:フ―――フ・フ・フ・・・止めとけ。
依:なんだと? やっと口を利いたかと思えばそれか!
いいからよく聞け・・・この連中はな、喩え金の為なら親や親友ですら殺してくれる、素敵な思考を持っている連中ばかりなのだ。
口先ばかりが達者なお前とは違うわ。
ラ:・・・まあ、その程度の事だろうが―――な。
依:な・・・っ―――この・・・フン、まあいい。
ここで連中の腕がどれほどのものか、試すのもいい機会だ。
無論―――お前自身で・・・なぁ。
バツが悪く、腕組みをしてただ静かに椅子に腰かけていた―――モノと思いきや。
不敵な笑みまで漏らして、新たな仕事人達を鼻の先で一笑に附したのです。
そんな彼の態度が余程気に入らなかったモノと見え、その依頼主は、新しい仕事人達の腕前を見るのもいい機会だ・・・と、
まずリリアの馘を頂く前に、ラスネールを始末する事に変更―――した・・・の・・・は、良かったのですが・・・
ラ:フ・・・ヤレヤレ、本当に・・・な。
口先だけの奴らはこれだから困る。
それにしてもお嬢・・・ああいや―――リリアって小娘から片付けるのだと云っておきながら、ワシに切っ先を変えようなんざ道化もいい処だ。
二流のすることは、これだから薄ら寒い―――・・・っと、今度はその前に、お前さんの方が黙っちまったなぁ。
ま・・・一応こちらも依頼を受けた身なんでね、やる事はきっちりするさ。
ただ・・・あの小娘をすぐに殺らないのは、こちらの「事情」もあるもんなんでね―――
酒場の床に転がっていたのは、老いさらばえた男の屍―――ではなく、このほど雇われた新しい仕事人達のモノでした。
てっきり「口先だけの者」・・・ばかりと思いきや、きっちりとやれるだけの事はやれる―――
ただ不思議なのは、これ程の腕前がありながら、ラスネールが請け負った当初の依頼・・・「オデッセイアの姫君、リリアを殺害する事」―――を、遂行しなかったのか・・・。
それと、先程彼自身が述べていた、彼自身の「事情」―――とは・・・何を指しているのか・・・。
未だ謎ばかりが渦巻いていたのです。
その視線は―――明らかにオデッセイアの姫君だけを見つめていました。
そしてその視線の主は、活発な姫君の様子を見て、「ああ・・・なんて可愛いんだろう」―――と、溜息を一つ吐くのです。
しかも、この「視線の主」は、ここ10年来リリアにつきっきり―――
けれどもその存在は、今までにもリリアの前には姿を、全くと云っていいほど見せなかったのです。
いわゆる処の―――遠目でリリアの姿を追っているだけ・・・
憧憬―――?
恋愛感情―――?
果てまたは、リリアの熱烈な応援者―――??
いえいえとんでもない・・・ここではっきりとした事を申し述べるに―――「それら総てをひっくるめた」・・・と、云えば、判り易いだろうか。
とどのつまり、その視線の主は、いつも・・・つかず離れず―――リリアの動向を伺っていたのです。
その事は当然―――武芸の腕の立つリリアが気付かないはずもなく・・・
蓮:―――いかがされたのでござるか。
リ:ん〜〜? いや―――まあ・・・ね。
またここんところ感じるなぁ―――って。
何・・・って―――なんだかこう・・・鳥肌が立ってくるような―――「視線」?みたいなのを感じちゃって・・・
蓮:・・・拙者には何も感じられませぬが。
リ:でしょ〜ね・・・それに、このことを周囲りの連中に話したら―――私の気の所為だ・・・って、嗤ってくれちゃうのよ。
けどなぁ・・・なんて云うんだろ、敢えて云わせてもらうなら「悪寒」に近いかな。
或る特定の人物だけを見つめながら、悶々とした・・・余り宜しからぬ「念」のようなモノがリリアの周囲りを取り巻き、彼女を一層不安に駆り立てていたのです。
それにリリアも、そんな妙な感じに付き纏われているのは、ここ最近―――なのではなく、凡そ7年前から感じていた・・・
しかもここ最近では、その視線の主にとっては「悪い虫」が付くようになってからは、その「悪い虫」に対しての嫉妬の念も織り交ざったりして、
リリアに一層の警戒の念を抱かせてしまってもいたのです。
閑話休題―――元々の依頼主との関係を修復させたラスネールは、予ての依頼の内容を遂行させる為、再びノーブリックを目指していたのでした。
ラ:フ・フ・・・それにしても、余計な道草を食っちまったようだな。
それより問題としなきゃならんのは、元々の「あの方」から仰せつかった下命・・・「南方の大陸の意思を反映できる者の探索とその保護」―――・・・
一応・・・人材としては見つかってはいるんだが・・・そいつが、ワシが馘を狙っているヤツ―――と、来てるんだからなぁ・・・
ク・ク・ク―――皮肉としか云い様があるまいて・・・。
ラスネールは、ノーブリックに向かう道中―――今回依頼されている内容を反復しながら進んでいました。
一つ目は、このお話し・・・「Odysseia」の当初からあったように―――「リリアの馘を獲る」=「殺害する」事でしたが・・・
もう一つは、この依頼内容とは相反する―――「リリアを護る」事・・・
互いに性質の違う依頼内容を、同時期に請け負ったと云うのは―――ナゼ?
矛盾しているはずなのに、どことなく嬉しそうなのは―――ナゼ?
それは・・・一つには、ラスネール自身が面白くなるような事が好きだから・・・。
それともう一つ、決定的な事を云わせてもらうとするならば・・・「リリアを保護せよ」―――
この下命の方が、彼・・・ラスネールにしてみれば、崇高且つ遵守すべきものであり、何を措いてもまず率先してなされなければならないモノでもあった―――
・・・と、くれば―――「リリアを殺害する」事と云うのは、いかにも闘争好きな主の下で飼われていた彼らしい行為であり、
また「ある存在」を臭わせるモノでもあったのです。
=続く=