この度図らずも、隣国はオデッセイア国の姫君リリアによって、サライ・オデッセイア共和国の君主となってしまったソフィアは、

リリアが(あらかじ)め用意していた計画に基づき、自身も―――以前リリアが来たことのあると云う「パライソ」と云う国に来ているのでした。

 

そこで彼女は・・・やはりリリアも見たと思われる、この国の繁栄ぶりを目にし、(さなが)らに感じ入るのでした。

 

「凄い―――まるで、技術の先端の見本市の様だ・・・」

「この国は、文明に優れ・・・私達の様に争いに明け暮れていた処とは違う―――」

「やはりあの人の云っている事に、間違いはなかった・・・」

 

その頃ソフィアは、侯爵・マキによって、シャクラディア城・大ホールに到着しており、

この壮大とも云える建物の一部分を目にしても、自分達の国よりも遙かに先進の技術を駆使し、永い間争いの絶えなかった自分達とは違う「平和」と云うモノを実感していたのです。

 

確かに・・・当初はリリアに(はか)られた事が頭にあり、半信半疑ではありましたが―――・・・

実際に目にして、納得する部分は大いにあった―――

しかも、国家の機能としての機構―――治世が民衆の側にあり、それがこの国を治めている立場の人間によって、意図的にそうされているのだと云う事を知った時、ソフィアは・・・

 

 

 

マ:しっつれぇしま〜〜ッす☆ ―――って・・・あれ?

総:なんだ・・・今は重要な書類に目を通している最中だぞ―――

 

マ:どぉ〜もすいません・・・ところであの―――大皇(おおきみ)サマは?

総:ふむ―――あの方ならば、細々(こまごま)とした決め事は総て私に押し付けて・・・ここの処5日も顔を見せてはおらん。

  ところで・・・そちらの方はどなたなのだ―――侯爵様。

 

マ:まったまたぁ〜〜そぉゆう(かた)い事は云いっこなしですよ―――総統閣下w

 

 

 

「総統」―――とは、総ての官庁・軍事・警察権等を掌握し、「選挙」と云う手法を用いて広く万民の(なか)より選出される者のこと・・・

そう―――この建物の、恐らく「大皇(おおきみ)」と呼ばれる人物の政務・執務室の(なか)には、人民から選出された「総統」も机を並べて日々の政務に励んでいたのです。

 

しかし―――・・・

 

そう・・・しかし―――その部屋には、なぜかもう一人の存在・・・

この国の行く末の方針を決めるべくの「最高意思決定」をする人物が欠けている事に、ソフィアは疑念に駆られたのです。

 

第三十話;見聞録―――@

 

しかしこれにはそれなりの理由が存在していたのでした。

(かつ)てパライソ国は、この大陸・・・「ガルバディア」の覇権を賭けて「カルマ国」と大規模な戦争を行い―――そして勝利しました・・・

その後、パライソ国の政治形態は急激に変わり、この国の先代の「(おう)」―――「女皇(じょおう)」が崩御すると、次代を担う者達の手により民主化が促進されたモノでしたが、

ならばどうして―――「大皇(おおきみ)」などと云う、皇位の継承が成されたのか・・・

 

確かに、民衆の代表とも云える「総統」がいれば、事は足りるとは思われるのですが・・・

実は、当初発足されたばかりのこの体制では不安要素があるモノとして、「皇制」を「最高意思」の「決定機関」として位置づけ、

「政治力」を全く持たさない・・・つまり、この国の「象徴」として奉りあげてはどうか―――と、云う案で、現在の今日(こんにち)まで至っているようなのです。

 

けれど・・・未だもってその人物の政治的影響は強いらしく、ここにこうして民衆の代表である「総統」が、「大皇(おおきみ)」を監視しているのだ―――と、ソフィアは感じるのですが・・・

片や、総統と呼ばれた女性は、そうだとは思ってもいないらしく・・・

 

 

 

総:それは見解の相違―――と、云うモノだな・・・

  私などは、あの方に比べれば実に足下(そ っ か)にも及ばんよ・・・寧ろ、いつも方針を決める際に参考にさせて貰っている次第だ。

  それに・・・仕事部屋を一緒にさせて頂いているのも、余りに聞くことが多いのでね―――ならば、いっそ近くにいればいいではないかと云う結論に辿り着いた次第なのだよ。

 

  それより・・・紹介が遅れたようだ―――私が、表向きにはこの国を統治している立場と云える「総統」である・・・「ミトラ=ブリジット=ランカスター」と、云う者だ。

  それで・・・あなたは―――?

 

ソ:あ、はい―――私は・・・私の名は、ソフィア=エル=ホメロス・・・「エクステナー大陸」にある「サライ国」の女王です。

ミ:ほう・・・「サライ」―――

 

ソ:え? あの・・・ご存知なのですか?

ミ:ああいや―――この大陸にも、そんな国があったものでね・・・

  それより、話しが幾分か()れてしまったが・・・そうか、「エクステナー」と云えば確か・・・

 

 

 

「サライ国」―――その国名を聞くに及び、ミトラは懐かしさを感じていました。

元は友人を援助する為に立ち上げた団体が、心無い内通者によって私物化されてしまった傀儡の国―――

けれど今となってはパライソ国に帰属し、細々とした布教活動をするだけに留まっている・・・

 

それは、ミトラの懐古の一部ではありましたが、今重要なのは、ミトラも耳に入れている「南の大陸」からの大事な客人だと云うこと・・・

そこはソフィアも判ったものと見え、以前旧知の知己がこの国に見えた時、何を見聞したのかを聞いてみた処・・・

 

 

 

ミ:ああ・・・それを知りたいのならば、やはりあなたは私の友―――ああ、いや・・・この国の本当の主に会わなければならない・・・。

  だが、生憎、今はご覧の通りでね―――けれど、市井(し せ い)に出れば簡単に捕まえられるものさ・・・

 

 

 

総統・ミトラは、「大皇(おおきみ)」から例の計画についてよく話を聞かされているものと見え、ソフィアが以前この国に来たリリアの事について尋ねた時、

そのことについては直接本人から聞く方がいいだろう―――と、助言し、しかし当人と云えば本来自分が居るべき場所にいないまま・・・

するとミトラの次なる言葉には衝撃の事実が―――なんと、最高の権力を有する者が・・・市井(し せ い)で簡単に捕まえる事が出来るのだと云うのです。

 

その事を聞くと、ソフィアは真っ先にある特定の人物を・・・リリアの事を思い出していました。

 

あの人も―――日頃は民達の着るものを着、食べたいものを食べ、そして民達の使う言葉を口にしていた・・・

けれどそれは―――あの人が特別なだけであり、決して誰かの真似や模倣をしているわけではないと思っていたのに・・・

もしかすると―――自分だけが、頭の(かた)い事を云っているのではないだろうか・・・

 

大皇(おおきみ)」の噂を耳にする度、重なっていく(ふる)くからの知己―――

あれは・・・彼女だけが自由奔放―――豪放磊落なわけではなく、ソフィア自身が狭い視野の持ち主だった・・・と、そう思いたくもなったのです。

 

それに、ミトラも自身の職責―――「総統」としての仕事が後を押しており、ソフィアの案内を出来る立場ではなかった・・・

加えて―――ソフィアをこの国へと連れてきた侯爵・マキも、いつしか姿を見せなくなってしまっていた・・・

つまり、見知らぬ土地でソフィアは、文字通り一人ぽっちになってしまっていたのです。

 

けれども彼女はそこで挫けることはせず、持ち前の機転の好さで早速、「大皇(おおきみ)」探しに―――と、市井(し せ い)に出てみることにしたのです。

 

それにはまず、腹ごしらえが先決だ―――と、ばかりに、城下にある街の食堂に入った処・・・

そこは丁度昼時と云う事も相成り、利用客で煩雑しているのでした。

 

これでは他の食堂を探したほうがよさそうだ―――そう思っていた処に、とても気さくな・・・恐らくは農作業の帰りに寄ったものと思われる、一人の農民の女性に出くわし・・・

 

 

 

農:ああ―――ちょっと・・・今ここに入ろうとしてたでしょ。

  丁度席が空いたようだから、合い席でいいならどうかな・・・

ソ:え―――ええ・・・構いませんけど・・・

 

農:それは良かった―――すみませ〜ん、こちらに注文を取りに来て・・・

 

 

 

なんとも気さく―――と、云うか、人当たりの好いと云うのか・・・

初対面であるはずのソフィアに対しても、何の分け隔てなく接してきて、あっという間にソフィアとのコミュニケーションを取ってしまった、一人の農民・・・

 

それにしてもよく働いていたものと見え、爪の間にまでも土が入り込み・・・流石にそのままで食事をするのは(はばか)られる気がしたので、ソフィアがそれとなく注意をしたところ・・・

 

 

 

ソ:あの―――すみません・・・手・・・

農:え? ・・・あ―――ああ、ゴメンゴメン。

  すみませ〜ん、ちょっと手洗い場を貸してもらえないかな―――・・・

 

 

 

その瞬間―――ソフィアは、自分が大国の主だと云う事を忘れていました・・・。

自分もまるで、この国の民の一人であるかのように、下々の人間と接するこの感覚―――・・・

ソフィアが・・・母国では、今一歩踏み出せなかったこの感覚―――・・・

 

そうなのだ、ここは異国の地―――

ここでは、自分も一人の人間に過ぎない・・・

それに、この市井(し せ い)に紛れていると云われている、この国の「大皇(おおきみ)」も或いは・・・

 

まだ見ぬ、謎めいた人物に―――ソフィアの興味は尽きる事はありませんでした。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと