結論だけを述べると、今回のミリヤの交渉は、失敗に終わりました・・・
が―――、リリアが帯びていた指令は、果たす事が出来ていたのです。
『「サイレン」を、エリスの手の者共より、早期に保護せよ』
しかしリリアには、その「サイレン」とは、全く面識が・・・ない。
況してやミリヤは、歌劇の題材の一つに出演てくる一登場人物でしか知らなかったし、
たまもは、その事自体すら知らなかった・・・。
そこを、「ロア・マスター」であるミリティアは、自分の仲間・・・「賢下五人」の一人である、「インヴェクター」のルーシアに、
予め頼んでおいた品をリリアに手渡し、「現在の」「サイレン」が誰であるのかを見極めた上で、相手より先に保護しようとしたのです。
そして今回、そのことは成された―――・・・
それにしても、現在の「サイレン」が、フランソワだったとは・・・
けれど、その疑問を払拭させる出来事が、すぐに起こったのです。
ミ:(!!)―――来る・・・!!
リ:さぁ〜っすが・・・でも、ある意味正解だったな。
た:全く・・・お主には畏れ入るわい。
リ:そこは、感心するとこじゃねぇ〜ぜ。
ま、こうなったのも、偶然の成り行き―――
この廃屋に入る処を見られていたのか・・・正体不明の相手が、同じ廃屋に入ってきた・・・
しかもフランソワの姿を見るなり、襲いかかろうともし―――また他の、リリアやミリヤ、たまもにもその牙を剥いてきたのです。
が―――・・・
恐らくは、「その事」も、帯びていた指令には含まれていた為か・・・
リ:お〜っとと・・・人が喋ってる最中に、余計なマネはすんじゃねぇよ。
ミ:しかし―――この連中・・・
リ:(・・・)やっぱ、ミリヤさんは知っていたか―――
そうさ、こいつらが「アンフィス・バエナ」・・・身体の一部に、「飛竜」の紋章か刺青があるのが、「そう」だ―――って、教えられてたからな・・・。
これで、いよいよ以て「確定」だな。
た:どうしてなのじゃ?
リ:こいつらもさ―――狙ってんのさ・・・「サイレン」を。
その理由は、私にゃ判かんねぇけどな。
『もし、「サイレン」を確保した上で、「アンフィス・バエナ」・・・若しくは「リントヴルム」と遭遇した暁には、これの迎撃に当たれ』
二つ目の指令は、意外にも早く―――と云うより、彼の連中も「サイレン」が何者か目星は着けていたモノと見え、
(つまり・・・フランソワを執拗に追いたて回していたのが、まさしくこの理由と云える。)
しかも、フランソワも人目を忍んで隠れ、潜んでいたと云うのに、まんまとその案内役を買って出てしまった・・・
ミリヤは以前―――2800年も前に、「飛竜」の紋章をした連中と遭遇した事を記憶えていました。
だから現在も、同じ連中だと云う事が判っていたのですが・・・
ミリヤは、知っていました。
この連中が、一筋縄ではいかない事を・・・。
なにより、「賢下五人」の、「ホプリタイ」と「ジャグワーノート」を、防戦一方にした事すら、あると云うのですから。
それが・・・リリア一人で、どうなると云うのだろう・・・
そうした一抹の不安があるのでしたが―――・・・
ミ:(・・・)理由ならば、判っています。
リ:へ? そうなの??
ミ:はい・・・何よりその歌劇、「歌姫」には、「悪意ある者」と「その手下共」は、五人の「歌姫」の「歌」によって弱体化をされ、敗れ去った・・・とされているのです。
リ:なぁ〜んだ、それじゃ・・・
ミ:それに・・・今ここには、その一人である「サイレン」がいる―――・・・
た:なるほどな・・・では―――
リ:待ちなよ・・・あんた等が出る幕じゃ、ねぇよ―――
ミ:しかし、あな―――・・・
(!!)リリアさん?!!
ミリヤの不安は、一層掻き立てられました。
なぜなら、「この宇宙」の存在ではない相手に、既に闘争本能を剥き出しにしているのですから・・・
そう・・・今リリアは、「この宇宙」だけでは飽き足らず、「別の宇宙」からの強者も、歓迎状態だったのです。
リ:へへへ―――・・・つい最近までは、とんとツイてないことばっかりだと思ってたが・・・
なんだよ―――我慢して、いい子してりゃ、ちゃんと褒美があるじゃんかよ・・・w
てな訳で―――どっちが倒されても、文句いいっこなしだぜぇ・・・♪
そう云うが早いか―――早速、火花を散らせるリリア・・・
しかし―――・・・
た:あやつめ―――全く剣筋が、成っておらんではないか!!
ミ:とは云いましても・・・最早あの人の思考、「その事」で充たされているようですし・・・
た:仕様のないヤツよのう・・・どれ、一つこのわしが・・・
リ:余計な手出しはするんじゃねぇぜ・・・
今、折角いい処なんだからよぉ〜!!
その時のリリアの眸を見た時、ミリヤとたまもの背筋に寒気が奔りました・・・
何と云う目つき・・・まさに、闘う事のみに生を捧げてきた、修羅のそれ・・・
それに、そうした目つきをした者に、最早何を云っても無駄である事を、ミリヤにたまもは知っていました。
しかし、それにしても乱雑―――
リリアの、そうした意気込みは、判らなくもないのですが・・・
今リリアが相手をしているのは、武の達人でもあり、そうした意味では、手の内を読まれないリリアの「我流」は、
序盤では優位にこそすら立てたものの、次第に押され始め―――・・・
た:ああ―――・・・だから云っておるではないか!!
リ:つべこべと、うるせえぇ〜〜!!
手数は多いモノの、そのことごとくをはじかれ、その代わりに相手から繰り出される手数には対応しきれてはいない・・・
見る見る内にリリアの身体には傷が増え・・・最早、最初の優位も、幻ではなかったか―――と、思い始めた頃・・・
今まで傍観していた者のうち、その本来の能力に覚醒始めた者は―――・・・
た:ぐっ?!! な―――なんじゃ?これは??
ミ:(み―――耳が・・・鼓膜が・・・??)
第三百話;「サイレン」
「サイレン」・・・本来は、海洋に巣食う魔物の一種で、「声莫き歌声」で人心を惑わし、やがては死に至らしめる畏るべき存在・・・
そう―――その場にいた、ミリヤやたまもは云うに及ばず、闘争を繰り広げている「アンフィスバエナ」にリリアも、
「サイレン」からの「歌」の作用を受けていました。
ですが、ミリヤ・たまも・「アンフィスバエナ」には、確実に作用をしていましたが、なぜかリリアには効果がなかった―――・・・
そして、「アンフィスバエナ」の、一瞬の隙を見計らい・・・
リ:(勝機!!)おぉおりゃあ〜―――!!
ぃよっしやあ! 一本!!
リリアの刃は、確実に相手を捉え、そして行動不能に陥れた・・・
これで勝負あった―――はずなのですが・・・
今、身体の不調を訴えた者の「原因」が・・・
ミ:(・・・)フランソワ―――あなたなのね・・・
フ:(・・・)そのようですね―――
それに、こうなってしまった以上、否定はできません・・・
そう・・・この「声莫き歌声」の正体こそ、フランソワでした。
それにしても・・・そう―――「サイレン」のもつ固有能力こそ、「超音波」であり、
それによって様々な現象を起こさせる―――或いは生物に措ける身体の不調を負わせたり、
或いはその名・・・「サイレン」の如く、「術式の展開」や「呪文の詠唱」・・・さらには「封印の強制解除」と云った様な、
音声・音波で発生する現象の打ち消し効果に、多大な影響力を及ぼせる事が出来たのです。
そう・・・つまり「サイレン」は、術者に対しての完全な「カウンター・スキル」の持ち主でもあった・・・
と、云う事が判るのですが―――・・・
ふとした疑問が、ミリヤの内に擡げて来たのでした。
ミ:それにしても変だわ―――・・・
リ:ん? 何がだよ・・・
ミ:いえ―――・・・
私が知っている「歌劇・歌姫」の、お話しの展開上では、お話しの舞台となった地域に居残ったのは、「ディーヴァ」のはずなのですから・・・。
た:んん? ちょっと待ちなされよ―――?
確かその名称・・・
ミ:そう・・・たまもさんもお感じになられた様に、その名称こそは現在私が所属している「秘密機関」の名称と同じ・・・
―――だとするならば・・・
リ:あんた等の内の誰か―――てなことになるよな。
それにしても・・・この人が「この宇宙」にいるってことは・・・それ自体が矛盾してるって云う事になるのか・・・。
つまりはその通り―――
以前のお話しでも、その「歌劇」を観劇したジゼル・マリア・ヘレンは、
「悪意ある者」を追い払った後の、「歌姫」や「救世の勇者」の悲惨な末路が描かれていたのを知ったのですから・・・。
しかし―――定説によれば、そのお話しの地域に居残ったのは、「ディーヴァ」だけのはず・・・
それに、偶然か否か、その名称を冠する組織が、「この宇宙」には、ある・・・
だから、その組織の内の誰か―――と云う事は、想像に難くはないようなのですが・・・
ならば、現在確保ができた「サイレン」が、「この宇宙」に居ると云うのはどう云う事なのか・・・
それと・・・その事を示唆したリリアの依頼人の思惑とは―――・・・
事態は一層、混迷を極めて来ていたのでした。
=続く=