お話しの展開を、すこしばかり以前に戻すとして・・・
ユリアが「サトゥルヌス」の手によって囚われ、一時的に行動が制限されていた時、その後「サトゥルヌス」は・・・
彼女は、「第51号宇宙」へ訪れていました・・・
そして「その目的」と云うのも、やはり・・・
ジ:(フフフ・・・見つけたわ、「プリマドンナ」
さて―――どんな手段で籠絡してくれようかしら)
彼の者達の「目的」とは、最早「それ」だけでしかありませんでした。
かつて、辛酸・苦渋を嘗めさせられ、宇宙の果てへと追いやられた・・・
この屈辱を、倍にして返す為にも、「救世の勇者」を陰ながら支援し、再び自分達の前に立たせた者達・・・
「五人の歌姫」達を、自分達の側へと引き寄せ・・・それも同意の下などではなく、強制的にでも連行しなければならないと考え、実行に移していたのです。
そして、「サトゥルヌス」のジェルソミナの前には、「歌姫」の一人「プリマドンナ」が・・・
それに、この「プリマドンナ」、どうやら―――・・・
ジ:(それにしても・・・不思議な事もあるものね、以前私達が彼女達と対立した時―――
現在から54憶年もの前の話しになるけれど・・・あの当時の「彼女」と同じじゃない・・・)
あの当時―――現在から54憶年も前にも、彼女達は逢っていました・・・
それも、「敵同士」として―――・・・
そして「現在」―――54憶年の昔と変わらず、「彼女」は、いた・・・
多くの「歌姫」達は、後世に継承の儀をなし、よろしく「代替わり」をしていたモノだと聞いていましたが・・・
しかし―――「プリマドンナ」だけは違っていた・・・
そこにいたのは、醜く老いさらばえた老婆が一人・・・
ですが、ジェルソミナは認識を違わせませんでした。
なにより、自身の感覚が―――辛酸・苦渋を嘗めさせてくれた「あの記憶」が、殺したいまでの衝動となっているのですから・・・
だから、この醜い老婆が、54憶年前の存在と、同一人物である事などすぐに判った・・・
けれども―――衝動は抑えなくてはいけない・・・
なにより、崇高な自分の主の命令に、逆らう事は畏れ多いのだから・・・
なので、そうした衝動を押し隠し、調略する為に近付いた処―――・・・
プ:・・・おや、お前さんは?
ジ:フ・・・お久しぶり―――と云った方がいいのかしらね・・・「プリマドンナ」
いえ―――バイメイニャン=カビリア=ネメシス・・・と、お呼びした方が良かったかしら?
バ:フン―――こんなにも早く、お声がかかってくるモノとはねぇ・・・。
ジ:(―――うん?)
あの頃は・・・若かった―――
若かったからこそ情熱を注ぎ、闇雲に前に突き走ってきた・・・
しかし、経験に知識がそれに伴わず、苦境に陥りそうになった事もしばしばありました。
けれど現在では、経験に知識は豊富で、代わりとして情熱や前に突き走れる推進力は衰退してしまった・・・
時間とは過酷なモノ・・・欲しいと思ってきたモノが充たされた時には、常に何か別のモノが犠牲となる・・・
しかも、得られたモノは少なく、失ったモノが多ければ、どうなのだろうか―――・・・
つまり、今の「プリマドンナ」バイメイニャンの言葉は、それまで彼女自身が受け入れたことであり、また達観した言葉でもあったのです。
そう・・・誹謗中傷・妬み・蔑み―――
自分は、宇宙を護る為に身を捧げ、奔走してきたはず・・・なのに―――
なぜ、護ってきた者達から、こんな仕打ちを受けなければならないのか・・・
・・・そうか―――彼らがそう思うのならば、仕方がない・・・
覚えておくがいい・・・自分にした、仕打ちを―――
そして特段、その場では目立った戦闘もなく、「サトゥルヌス」は易々と、「歌姫」の一人を陣営に迎え入れる事が出来たのでした。
第三百二話;堕ちた「歌姫」
それはそうと―――・・・
ジ:お前の「心の闇」―――相当深い様ね・・・
バ:フン―――そんなもんじゃないさ・・・
あたしを蔑にした事、せいぜい悔いるがいい。
根の深い「怨恨」などは、殊の外ジェルソミナにとって好物でした。
期待以上の成果を上げても、所詮は「その場限り」・・・
咽喉元を過ぎてしまえば、自分達のありがたみを忘れてしまう・・・
そして終には、奇特な能力を持っているお陰もあり、排斥・淘汰の憂き目に晒されてしまった・・・
頼みの綱と目されていた「賢下五人」も、あれ以来音信不通となり、機能をしていない感じさえしたモノでした。
寂しい・・・味方なんていない・・・
そうした鬱屈した感情は、何が正しくて何が正しくないのかの判断をも狂わせてしまい、
やがて・・・「次に、自分の前に現れるであろう、「彼女」の陣営に加担してみよう」と云う結論に至ってしまったのです。
ジ:フム・・・これであと、順調ならば「二人」―――「ディーヴァ」と「サイレン」ね・・・
バ:フ・フ―――中々、巧く事は運ばんようだの
ジ:(・・・)それは、どう云う意味かしら?
バ:なんじやい、お前さんは知らんのか―――
云わば、そ奴ら二人が、「歌姫」でも中核をなしているのだよ。
特に「サイレン」―――あ奴は危険だ・・・その名の通り、術式の効力などを掻き消し、更には詠唱すら出来なくなってしまうからね。
ジ:(!!)では・・・あの時、私の「ベクサンシオン」が効かなくなってしまったのも・・・
バ:まあ―――確かにそうだろうけどもね・・・
ならば、「沈黙」の世界で、どうやって「救世の勇者」は闘えたのだろうねえ?
ジ:!!!
バ:つまりは・・・そういうことなのだよ―――
呪文の詠唱が出来ないと云うのならば、「手指」―――更には身体を動かす事に、何らかの意味を持たせればいい・・・
それが「ディーヴァ」・・・「舞踏の王者」の為せる業なのさ。
ジ:そんな・・・
(?)でも―――確か「ローレライ」も、「サイレン」と同じ様な能力を・・・
バ:おや? まだだったのかい? 全く―――何をやっているんだ。
こんな老いぼれよりも、最優先すべき事項だろう!
ヤレヤレ・・・あんた達、本当に勝つ気はあるのかね。
ジ:(ムッ)あります―――! もう、あんな惨めな思いなんて・・・
バ:どうなんだかね―――だが、「ローレライ」を抑えておくのは必須事項だ。
あ奴を抑えて、ようやく対等に亘り合えるのだから・・・ね。
そして、畏るべき事には、「歌姫」の一人から、彼女達の内部事情と云うモノが、漏れなく提供されてしまった・・・と云う事なのです。
そう・・・「サイレン」と「ローレライ」は、似た能力を持ちながらも、相反する存在―――・・・
(つまりこれは、「サイレン」の能力で、相手の呪文効果を打ち消す―――事は出来ても、そこは味方も同じ・・・
他の「歌姫」や、「救世の勇者」の補助呪文や攻撃呪文までも打ち消すこととなり、ならばどうしたら良いか・・・
そこで考えられたのが、同室の音波を中てることによって、「サイレン」の能力を打ち消す―――
これは、喩えて云うのならば「ECM」「カウンターECM」の関係でもあり、同じ事が「ローレライ」にも適用されるのです。)
しかし、「サイレン」や「ローレライ」の能力が戦場を席巻する一方で、別の活躍・・・役割を果たしていたのが、「ディーヴァ」による「舞い」の効果だったのです。
「声」や「音波」が通用しなくなった戦場に措いて、唯一効果を発揮できたのが、手指の組み替えによる「印契」や、
足の立ち位置、身振り、手振りに、何らかの意味を持たせた「舞踏」・・・
そして、それにより支援された者は、何かしらの加護が得られていたのです。
こうした大昔の苦い経験を踏まえ、現在より2800年前、やはり「三候」達は、「歌姫」達の確保に動こうとしていたのです。
そうした彼らの動きを事前に察知した「賢下五人」との間で小競り合いが生じ、どうにかその時には阻止はできたようなのです。
(ちなみに・・・バルティアとミリヤは、この当時その闘争に巻き込まれており、よろしく当時の自分達の未熟さと云うモノを痛感させられている。)
(それと、もう一つ因みに・・・ではなぜ「賢下五人」の一人であり、武にも長けていた「ホプリタイ」や「ジャグワー・ノート」が苦戦を強いられていたのか・・・
それは、未熟なバルディア・ミリヤを庇いながら・・・では、理解して頂けるだろうか。)
そして・・・寝返った「歌姫」からの助言を受け、至急「ローレライ」の確保を急ぐよう、予め契約をしていた者達に連絡を取った処・・・
ジ:なあに? 未だ居場所さえ掴めていないと云うの??
全く―――何をやっているの・・・
薔:「そうは云うが、そうした情報は幾つもあるのだ。」
「それでも、手当たり次第、確認を急がせている処なのだがな・・・」
バ:フフフ―――やはり、お前さん達には、荷が重過ぎたようだの・・・
薔:「・・・なんだ、この老いぼれは―――」
ジ:この人が「プリマドンナ」よ。
薔:「気に喰わんな・・・なぜオレ達が、こんなヤツの―――」
ジ:まあ・・・待ちなさい。
今はこの人のお陰もあって、これからの戦略―――どう組み立てて行くか、その目処がついたのだから。
薔:「そうか・・・あんたほどの人が云うなら、ここは何も言わないでおこう。」
「だが、今度そんな口の利き方をしたら、喩え一時の同志であろうと、赦さんからな・・・」
現在、「ローレライ」の確保に動いていたのは、「三候」の一人・・・なのではなく、
この時の為に雇い入れた「犯罪組織」・・・「黒薔薇十字同盟」なのでした。
しかし―――ローゼン・クロイツ達は、「ローレライ」の現在位置すら把握できてはおらず、
「第81号宇宙」を、言葉通り・・・隅々―――隈なく・・・「手当たり次第」捜索していたのです。
そこへ、「プリマドンナ」であるバイメイニャンが、面白くもない皮肉を込めてくるモノだから、
途端に機嫌を損ねたローゼン・クロイツの首領は、契約破棄の疑いも出てきたため、ジェルソミナが宥めたモノでしたが・・・
(この場面を見る限りでは、どうやらエリス側も、一枚岩ではなかった事が伺える)
それにしても、未だに「ローレライ」の居場所が特定できないでいるとは・・・
しかしこれは、こうした事態にならないとも限らない事を予測し、予め「賢下五人」によって企てられた事である事を、
バイメイニャンから説明が為されたのでした。
=続く=