その紙の上には、様々な―――実に、多種多様な「線」が描かれ、

かつ、区切られた「区画」内で、これもまた様々な「表情」を現す者達がいました。

 

或いは「喜び」、或いは「怒り」、或いは「哀しみ」、或いは「楽しむ」・・・

 

しかし、そうしたモノを創作していくのも、一方(ひとかた)ならぬ苦労があり、

現在―――殊の外『ラン・カータ』の名前で連載中のエリーゼは、まさにその苦境に立たされていたのでした・・・。

 

そう・・・「締め切り(デッド・エンド)」と云う名の―――

 

だから、自分の「原稿」を仕上げてくれる「助手(アシスタント)」を、大量に希望・・・してはいたのですが―――

なんと、エリーゼの仕事場に現れたのは・・・

 

 

 

メ:「手伝え」? ハハハッ―――私も、嘗められたもんよねぇ…

  私は、こんな変な画を描く為に、ここに来てるわけじゃないんだっ!!!

 

イ:(!!)

ト:(!!)

キ:(!!)

サ:(!!)

 

ハ:お―――おい! ちょっと、あんた・・・うちの先生になんて事を―――

  あ・・・ああ〜〜あのですね? せんせぃ・・・

 

エ:「変な画」〜〜て、うちの??

 

メ:ああ〜そうさ・・・こんな画なら、うちの連中の方がよっぽど―――

エ:ほぉなんじゃ〜♪ ほじゃ、これとこれにペン入れ―――あとそれからぁ〜これとこれにはベタ、あとこれにはホワイト―――で、あとこれにはトーン貼り・・・

 

メ:・・・て、ちょっと待ちなよ―――なんで私らが、「手伝う」運びになってんだ??

  お前、ちょっと頭おかしいんじゃないのか??

 

イ:とは言っても〜〜・・・

ト:つべこべ言わず、さっさと手伝え―――

キ:意外と・・・目にくるのよねぇ〜〜

サ:それより、集中―――集中―――・・・あっ!また、はみ出ちゃった・・・

 

ハ:ちゃんとやって下さいよ〜? もう、いつ来てもおかしくないんスから・・・

 

 

 

元はと云えば、「アンフィスバエナ」のメンデルスゾーンが、エグゼビア大陸の「ヴルートゥス台地」に来ていたのは、

遙か過去に、因縁を紡いでいた何者か・・・今となっては、「ToMa」と云う、ヴァンパイアの一種族の生き残りとの、対決の為に・・・とのはずでしたが、

 

それが、いつのまにやら、漫画家の手伝いを自分の手下共々やらされようとしている・・・?

しかも、あの場で会っていた四人も、自分達と闘争を紡ぎたがっているモノだと思いきや、「コレ」目的で集められていた・・・?

 

こんな・・・愚にも付かない、取るに足らない事の為に、自分達は地球へと来たわけじゃあない・・・

 

その思考は、すぐさまメンデルスゾーンを、「ある行動」へと導いてしまい・・・

しかし、その「行動」こそは、「漫画家」にとっては、まさしくの「禁忌」・・・

 

 

 

メ:ふっざけんじゃないよ!! 何のつもりかは知らないが、こんなモノは・・・こうしてくれるっ―――!!

 

イ:げっ?!!

ト:・・・やって、しまったな―――

キ:な・・・なんてことしてるの?? あの人〜・・・

サ:空気の読めねぇ奴も、いたもんだよなあ・・・おーい、チーフ!

 

ハ:を゛おぉい゛っ!! あんた、なんてことしてくれたんだ!!

  あぁ〜〜いや・・・せ、先生―――あ、あの人・・・どうやら手元が狂ったらしくて〜〜・・・

  ほ、本当、どうかしてますよねぇ?w

  せ・・・先生?先生??

 

  せ―――・・・

 

 

 

「ヤバい・・・これは―――本格的に、ヤバすぎる(暴  走  の  兆  候  だ)・・」

 

そう思ったハンスは、自己防衛のため―――いや、本能の赴くまま、じわじわと退避行動をとっていました。

それに、そんな(ハンス)の行動を見て、イリス・トーマス・キリエ・サヤの四人も、一人も声に出さずにハンスに准じたのです。

 

なぜなら・・・そう―――・・・「それ」をやられると、エリーゼの「本性」というものが・・・

 

 

 

エ:あ゛〜〜? うちの・・・うちの魂が入った原稿が??

 

  ・・・おんどりゃあ―――ナニしくさってくれとんのんじゃあ゛!

 

メ:(な・・・っ?! こっ―――こいつは・・・

  そうだ! 思い出した!! こいつの・・・この形相は!!)

 

 

 

知ろうはずも、ありませんでした―――・・・

メンデルスゾーンが知っていたのは、まさしく「物を壊す事に酔いしれた巨人」・・・

 

先程までは、どんなに失礼な事を云われても、相好を崩すことなく、実ににこやかに振舞っていた、

ほんのちょっぴり周囲より身体の巨きい(3m)女性―――だったのに・・・

 

メンデルスゾーンが腹いせ紛れに、エリーゼの原稿を破いてしまった事で、

とうとうエリーゼの本性・・・「破壊神(ジャグワーノート)」としての凶暴性が、顔を覗かせてしまったのです。

 

 

そう・・・つまり、イリス達四人は、エリーゼの、この変化と云うモノを知っていました。

以前に、同じような事をやってしまった、ハンスの口伝によって・・・

 

 

 

ハ:ああ゛〜〜バカバカ・・・ヤベぇヤベぇ・・・

  あん時ゃまだ、「締め切り」に余裕があったからなのに〜〜

 

キ:(・・・)タイム・リミットは―――?

サ:あ゛〜〜3時間切ってら―――・・・

イ:3時間・・・で、40p超を、仕上げろ・・・と??

ト:ふむ―――・・・

  お先、失礼しま〜す、お疲れでした―――

 

サ:おい!お前・・・一人で逃げようとしてんじゃねぇよ??

キ:そうですよ・・・最早私たちは運命共同体―――なのですから・・・

イ:それよりトーマス? 今、私を置いて行こうとしましたよね??

 

ト:フッ―――・・・私の本能が告げているのだ・・・早く逃げろと!!!

 

 

 

ハンスも、以前に・・・エリーゼから「手伝って欲しいの〜〜」と云われ、断る際に―――メンデルスゾーンと同じ行動を起こした事がありました。

 

しかし―――その当時は、今回の様に「締め切り」には、まだ余裕がみられていた為、「半殺し」で済んだのでしたが・・・

 

今回は、そう云うわけにはいかない―――・・・

最悪の場合、今回は「原稿落ち」と云う事になり、急遽、他の作家の作品と「差し替え」ということになり・・・

いや、しかし、この時最もエリーゼが怯えていたのは、差し替えられた作品の方が評判がよく、

もしかしたら・・・ゆくゆくは、自分の作品は「打ち切り」―――ということに・・・???

 

事実、最近のエリーゼの作品の評価は低迷しており、何度も何度も編集の担当から尻を叩かれて現状を維持してきたわけなのですが・・・

 

それが、今回の事情がどうであれ、締め切りに間に合わなかったとなると―――・・・

 

 

すでに、エリーゼの頭の中では、負の連鎖が渦を巻いていたのでした・・・

 

 

 

第三百五話;渦を巻く 負の連鎖(カオス ・ スパイラル)

 

 

 

エ:おんどれらぁ・・・こん責任、絶対取らしてくれちゃるんじゃけぇね!!

 

メ:くっそ・・・それにしても、どうして「破壊神(ジャグワーノート)」が、こんな処に??

大:その辺の事情なりは、余が説明してやらねばならんようだな・・・

  まあ、早い話しが、そちらのお嬢さんは、「出禁」になってしまったのだよ。

  そこで、保護を求めた処、この荒野で―――と云う事で、ようやくの許可が得られたのだがね・・・

 

メ:・・・なんだ? その―――煮え切らない表現は・・・

大:その点に関しては、この国の元首様が、この場に来ておるのだが・・・

  さてさて、汝はどう思っているのかね。

 

イ:正直・・・トーマスの弟さんの云う通りにして良かったです。

  最初に求められた時には、私は街中でも良いと思ったのですが・・・これではちょっと―――・・・

 

サ:「ちょっと」処の話しじゃ、なくなって来てるんですけど・・・

キ:それより・・・どうしたら、この窮地はしのげるわけ??

 

ト:ふむ・・・やはりここは、原稿の早期完成こそが、総ての近道となろう―――

ハ:そ〜れができりゃ、世話ねえんだよ―――兄貴!

 

エ:な〜にをごちゃごちゃと・・・やかましいんじゃわいね!!

  それより、手伝うんか手伝わんのか、はっきりしんさいや―――!!

 

 

 

最早・・・エリーゼの頭にあるのは、「宇宙(せ か い)」の未来よりも、自分の原稿の事のみ・・・

だから自然と、その時に出た言葉が・・・「手伝う」のか「手伝わない」のか―――その二者選択を、メンデルスゾーンに迫ったのです。

 

そして・・・メンデルスゾーンが導き出した答えが―――・・・

 

 

 

メ:や―――やはり断る!!

  第一なんで、私がこんなバカらしい事・・・

 

キ:(あ・・・)

サ:(終わっ・・・た―――)

イ:(フ・・・この私の命と引き換えに、永らく不毛であったこの地に町が出来、やがて発展していく事になるでしょう・・・)

ト:あ・・・諦めてはいかん―――諦めてはいかんぞ!!?

ハ:(兄貴ィ〜一番最初に逃げ出そうとしたあんたが・・・そりゃねぇぜ)

 

大:しかし―――フフフ・・・いやしかし、実にいい言葉だ・・・

  「諦めが人を殺す、諦める事を止めた時、人は人道を踏破する存在に」―――・・・

サ:るせぇ〜よ! じじい!!

  ンな、悠長な事云ってるバヤイじゃねぇ〜つの!!

 

 

 

なんとも、連れない返事に―――またしてもの「禁句」に、周りにいる「観客(オーディエンス)」達は口々に囃し立て、

(つい)には、怒れる「破壊神」を―――・・・

 

 

 

エ:はぁああ? 断るぅ〜?

  おんどりゃあ―――そがいなことが、今更通用すると思うちょったんかい!!

  だいたいおんどれらは、一番やっちゃあいけん事をしてくれたんよ・・・

  の五の云わず・・・おんどれらが台無しにしてくれたの・・・ちゃんとしてから、カバチでもたれぇい!!!

 

 

 

圧倒的な力の差・・・今回は、護るべきとしての対象がなく、いつぞやのように、最早「破壊神(ジャグワーノート)」の手を煩わせる存在などなかった・・・

 

だからこそ、如何なく発揮された、『破壊蹂躙』の顕現(チ カ ラ)―――

 

 

28,000年前は、まだ未熟だった「Diva」達の支援の為、その顕現(チ カ ラ)も半減させて使用したモノでしたが、

こうも遠慮なく発揮されたと云う事実は、あの当時、「歌姫」の一人を確保できなかった自分達に、

もう既に「今日(こんにち)」という未来が投影されていたのだと、メンデルスゾーンは・・・己の身に迫る、危険の塊に―――

ただ、ただ・・・悔いるばかり・・・だったのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと