昼の時間帯―――食事をサービスする処が最も忙しくなる時、とある食堂でソフィアは、この国の農民の一人と思われる女性に出会い、一緒に食事をしている処でした。

 

第三十一話;見聞録―――A

 

農:ふぅん・・・「南」の方から―――また随分と遠い処から来たんですね。

ソ:いえ・・・その事は、知り合いの方に連れてきてもらったようなものですから・・・

 

農:それで―――どうです? この国は・・・

ソ:はい・・・何から何まで、目新しいモノばかりで―――

 

農:目まぐるしい―――ですか・・・私は、永い間この国に住みついているから判らないけど、初めて来た人にはそんな風に映るんだろうね。

 

 

 

「好感触」―――人当たりも()く、自分がどんな人間か判りもしないのに、分け隔てなく接してくる・・・

そんな人懐(ひとなつ)こい、この国の農民の女性にソフィアは気を()くし、食事も終わったのに小一時間ほどそこで話しこんでしまいました。

 

この店を出るきっかけになったのは・・・煩雑時に、尻の重たい客二人を、料理長兼店主が睨んでいるのを農民の女性が察し、ソフィアを連れて出たからなのです。

 

しかし―――当面の間、この後の予定を立てていないソフィアは、この女性の仕事の続きを見てみたいと提案してみた処・・・

 

 

 

農:えっ―――別に構わないけど・・・だったら手伝ってもらえるかな。

 

 

 

見知らぬ人間に、自分の仕事の手伝い―――と、云うのもなんだろうが、これも何かの「縁」だと感じたソフィアは、別に悪い顔などせず、その女性が働いていると云う場所までついて行ってみました。

 

すると―――そこでソフィアを待ち構えていたのは・・・

まるで雲を突き抜け、天空に突き立っているかのような印象を与える、あの驚異の建造物・・・

 

 

 

ソ:こ―――これ・・は・・・

農:これは「空中庭園」と、呼ばれている処だよ。

 

 

 

通常ならば、地上に設置してあるモノだけれど、ここにはこの建物の(なか)に「それ」があると云う・・・

それに―――「庭園」と云う機能を持つ施設もあるにはあるのですが、ここは少しばかり意味合いが違っていたのです。

 

ここでは、実験的に農作物や植物を育てて、その成果を見る「試験農場」の性格が強かった―――

つまり、この農民の女性は、「空中庭園」内にある「試験農場」の職員の一人だったのです。

 

そしてこの時、ソフィアと一緒に訪れた階層は・・・根が食用となる植物の階―――

するとそこでこの女性は、(おもむろ)に記録をつけている帳面を手に取り、色々チェックをつけていたのです。

 

その事が気になり・・・ソフィアが覗いてみると―――

そこには、色々と試行錯誤をした痕跡・・・「書き込み」が所狭しとされていたのです。

 

そして、自分が記録をつけている帳面を見られている事に、この女性は―――・・・

 

 

 

農:ちょっと見辛かったかな・・・色んな処に、色んな書き込みをしてしまったからね―――もう、私自身でも判らないよ・・・

 

 

 

普通に聞けば―――(わら)(ばなし)で終わってしまう彼女の言葉も、ソフィアは素直に受け取りませんでした。

書き込んだ本人ですら判らなくなるほど、書き込んだ「それ」こそは・・・その人本人の「努力」の証し―――

現在では整然と見て取れるこの階層も、この農民の女性の(たゆ)まぬ努力によって、ここまでの成果を上げたのだ―――

ソフィアはそう思うと、農民の女性からの誘いの言葉もない内に、自ら農作業の手伝いを始めるのでした。

 

 

こうして―――陽が落ちるまで、初めて「労働」と云うモノに手を染めたソフィアは、この農民の女性と別れ、

(あらかじ)め自分の宿泊用に用意されていたシャクラディア城の部屋の一つで、深い眠りに落ちるのでした―――・・・

 

そして、その同じ城の―――別の部屋にて・・・

 

 

 

ミ:―――お帰りでしたか・・・それにしても、今日は少し機嫌が()いように感じますが・・・何かありましたか。

皇:ああ―――ちょっとね・・・

 

ミ:それはそうと―――南の・・・エクステナー大陸からのお客人には、お会いになられましたか・・・

 

 

 

すると―――この城の主「大皇(おおきみ)」は、手を休めると・・・

 

「ああ―――気立ての()い娘さんだったね・・・」

「会ったよ・・・」

「それにしても―――手伝わせてしまったのは、悪かったかなぁ・・・」

 

 

それは―――「大皇(おおきみ)」の部屋にて・・・

この国の政治の運営を司っている「総統」のミトラと「大皇(おおきみ)」が、現在この国を訪れていると云う「サライ・オデッセイア共和国」の女王であるソフィアについて、意見を交換していました・・・。

 

しかし―――ソフィアが会っていたのは、この国の農民の女性・・・

 

そのことを、「大皇(おおきみ)」が知ろうはずもないのですが・・・

 

 

明けて朝―――使いの者より、今日は「大皇(おおきみ)」が居るとの報を聞き、急いで身支度をして、諸百官の居並ぶ玉座の間まで足を運ぶソフィア・・・

そしてそこで―――彼女は威容を目にするのです・・・

そう・・・昨日会っていた、この国の農民であるはずの、あの女性が―――・・・

 

 

 

ソ:あ・・・っ―――あ・・・あなたは・・・

 

皇:私が―――この国、パライソの大皇(おおきみ)であるジョカリーヌ=サガルマータ=ガラドリエルだが・・・

  果て―――あなたとは面識がありましたかな・・・

 

 

 

昨日会っていた時とは違う―――凛として然たる立ち居振る舞いをする、この国の「象徴としての皇族」に、ソフィアは思わず息を呑みました。

 

あの時は、見知らぬ自分でさえも声をかけ、周囲(ま わ)りの民達にも心易く言葉をかけていた人が―――

それが、今は別人―――

この国は、「総統」が統治を行っているとは云うけれど・・・間違いはない―――

この人こそが、(しん)にこの国を・・・大陸を統治しているのだ―――

 

その声が(とお)れば、立ち所に雑談が止み―――その目が届かば、慄然となる―――

そこには威厳だけがあり―――而して皆は、畏敬の念を込めてこう呼ぶ・・・「大皇(おおきみ)」―――と・・・

 

そしてその時―――同時にソフィアは悟りました。

リリアは・・・この人と出会い、そして変わってしまったのだ―――と・・・

 

それにしても、権力には一番に反発心を抱いていた彼女がどうして・・・

そこにはやはり、この人物が持つ影響力―――崇高な理念によるものなのでしょうが・・・

ソフィアの前で、ジョカリーヌはそんな振る舞いをしたことがなかったので、ソフィアも知ろうとしたのです。

 

すると、その機会は意外に早く訪れました。

それは―――接見が終わった後のこと・・・

 

 

 

ジ:―――やあ、待たせたね・・・それでは行くとしようか。

 

 

 

先程自分と接見していた時とは、また違った印象・・・

まさしく国の代表として、自分と接見していた時には厳しい眼差しをしていたものですが―――

一度席を離れると、十年来の友のよう・・・

 

恐らくは、「王制封建制度」が確立していた時代ならば、まさしく「名君」の呼び声高いと思われたものなのに・・・

 

こんなにもいくつもの顔を持つ大皇に、ソフィアは徐々に惹かれていくのでした。

 

 

それにしても、この期に及んで尚、大皇(おおきみ)・ジョカリーヌは、ソフィアを案内しきれなかった場所に連れ出そうとしていたのです。

そう―――昨日も連れてこられた「空中庭園」に・・・

けれどソフィアは、そのことに言及しようとしたところ・・・

 

 

 

ジ:まあまあ―――云いたいことなら判るよ・・・けれど、少しばかり付きあって貰えないものかな。

  それに、彼女も見たことだしね―――

 

 

 

その言葉を聞くと、ソフィアはリリアの事を云っているのだと気が付きました。

そして彼女が、ソフィアに云って聞かせたことを、反復してみたのです。

 

「見て来い・・・そして感じて来い―――」

 

未だ醒め遣らぬ興奮と感動を、その言葉の(なか)に感じながら異国へと渡ることを決意したソフィア―――

(かつ)て、リリアの胸に響き・・・変わるきっかけとなったモノを、自分は目にしようとしている―――

淡い期待と、感動を抱き・・・ソフィアはジョカリーヌからの誘いに応じることにしました。

 

そして空中庭園屋上―――

急加速して上昇する転移エレベータに眩暈を感じながら、ソフィアが目にしたモノとは・・・

視界いっぱいに拡がる―――・・・

 

 

 

ソ:蒼い―――・・・あれは一体・・・

  それにしてもなんて幻想的な―――なんなのですか? この蒼い球体は・・・

 

 

 

ニュアンスは違えども―――同じように驚いてくれる客人に、ジョカリーヌは笑いを噛み殺しながらも、懇切丁寧に教えてあげるのでした。

 

「あれこそはね・・・君達をそこまで育ててくれた「奇蹟」―――」

「「地球」・・・と、云うモノだよ―――」

 

 

今まで暮らし―――息をしていた処を、眼下に収める・・・

それこそは驚異であり、また「感動」でもあるのです。

 

そしてこの後、ジョカリーヌは、リリアにはした事のない説明をソフィアにしたのです。

それが・・・過去の先人達による―――地球滅亡一歩手前の惨事・・・

そこには多少なりともの偽りはありましたが、ほぼ事実が述べられたのでした。

 

そこでソフィアは理解するまでに至ったのです。

ナゼ、大皇(おおきみ)が、空中庭園の試験農場で、汗だくになってまで作業に没頭していたのか・・・

ナゼ、リリアが、一念発起をして無謀とも思える計画を推し進めたのか・・・

 

そこにはやはり―――この・・・掛け替えのない地球の存在があったからこそなのだと・・・

 

そして、この内震える感動を胸に、ソフィアは・・・ジョカリーヌの描く壮大な計画に参加することを、堅く誓うのでした。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと