事態がこうなる以前に―――リリアは、ある人物から云い含まれていた事がありました。
ミ:竪子よ、これから吾が云う事を、よくその心に留め置くがよい。
汝が、これから対峙せねばならぬ相手こそ、「不和と争いの女神」と云われる、エリス・・・
そして・・・エリスこそは、汝が敬い慕う、ジョカリーヌのもう一つの姿・・・
リ:―――・・・
ミ:反応を、せぬ―――と云うのは、この事実の告白が、汝にとって余程の衝撃だったか・・・
あるいは、「勇者」としての「宿」を受け入れていたからなのか・・・
リ:・・・いや、両方だよ―――
〜〜ったく、あのタぁコ、一番肝心なとこ伏せて私によこす・・・だなんて、ありえねぇったらねえぜ。
ミ:それでも、汝は受け入れたのであろう。
「勇者」の―――ソロンの背負いし「宿」を。
リ:「受け入れた」〜〜つて、事情をよく知ってりゃ、そうしなかったのかもなw
けど・・・今更―――てな感じもあるしな。
それに―――・・・
ミ:「それに」?
リ:あ〜〜うん・・・ジョカリーヌさんには、借りてるモン一杯あるあるからさ・・・
それに、私は「貸す」のも「借りる」のも厭だから、過ぎた報酬は受け取らない事にしてんだ。
けどな・・・ジョカリーヌさんには、借りてるモン一杯あるからさ・・・だから、一つでも返すのが「筋」だと思ってるのさ。
その時ミリティアは、口にこそは出しませんでしたが、心底では・・・
「その考え方そのモノこそが、「勇者」の「宿」なのだ・・・」
と、リリアを評価していたのでした。
そう・・・リリアは、以前、天帝・ダンテとの別れ際に、「あるモノ」を引き継いでいたのです。
それが・・・「いつか」は再会することとなる、エリスの想い人―――「勇者」ソロンとしての役割・・・
天帝・ダンテは、その役割が、日頃こなしている業務以上に「重き荷」であることを理解していたから、
その役割を「后」であるリリアに押し付けたのかもしれない・・・
しかしリリアは、そこの処の深い事情を知らないまま、その役割を請け負ってしまった・・・
いわゆる、「安請け合い」―――と、他人は云うかもしれない・・・
確かに、そこにはそう思うだけの事実がありましたが、同時にリリアは、天帝・ダンテから・・・
「君がこの役割を請け負ってくれたら、君が尊敬している「あの人」にも、少しくらいは恩返しができるんじゃないかな・・・」
その一言に、一理あると思ったから、その役割を引き受けたのではないでしょうか―――・・・
それはそうと―――・・・
ミ:そこまで判っているのならば、吾からは、もう一つ二つ助言を与えるだけ・・・
一つ目は、これから汝を待ち受けておる試練は、険しい茨の道程・・・
なれど、そこで「諦め」てはならぬ―――なぜならば・・・
『「諦め」が人を殺す、なれど、「諦め」を已めた時、人は・・・人道を踏破する存在となれるのだ』
リ:ああ―――それ、エルムさんの親父さんが、よく口にしていた弁だよな。
ミ:然様なるか・・・なれば、最後に―――
最後に会ってから・・・もう幾歳になるのだろうか―――・・・
永らく会っていない気もするけれど、その高揚感は、まるで昨日会っていたかのようだ・・・
「それ」はまさしく、恋焦がれていた、「恋人」の「それ」でした・・・
そして―――・・・
リ:色々と―――借りてたもんを返しに来たぜ・・・
それと、返してもらうモンも、な。
エ:ふむ―――卆がそう云うのならば、返すモノは返して貰わねば・・・な。
されど―――借りてもおらぬのに、返せ・・・と云うのは、些かおかしくはないモノかえ。
リ:あ゛〜〜そだな・・・じゃ、取り敢えずアレだ―――「大きなモン」は、口にしなくても判るだろ・・・
だけど、「小さなモン」・・・あんた、「人質」を取ってるだろ。
エ:これは他人聞きの悪い事を―――そういう卆らも、妾の同胞を「質」に取っているのではないかえ?!
リ:・・・そうなのかぁ? そこんとこの事情は、あんまし良く判んねえんだけど―――・・・
エ:フン・・・じゃがまあ、妾も「卑怯者」と謗られるよりはまし・・・況してや、煩わしいモノを持っていては、足手纏いもいい処・・・じゃからな。
そう云って、エリスは―――何か「丸い球体の様なモノ」を、リリア達の方に投げてよこしたのでした。
そして、「ぼとり」と落ちたモノをみてみると・・・
「それ」は、「丸い九体の様なモノ」―――なのではなく・・・
市:(・・・え? こ・・・これ・・・は―――?)
蓮:(!!!)
市子に蓮也が目にした「それ」には、「毛」の様なモノが・・・
でもそれが、人間の頭である事に気付くのに、そう時間がかかるモノではありませんでした。
そして・・・その―――・・・
あまりにもの残酷な為されように、市子は思わず金切り声をあげ―――蓮也は、人間の馘らしきモノを、凝視する有り様だったのです。
しかし―――・・・
市:そ・・・それは〜・・・もしや、人間の・・・女の子の・・・生首??
蓮:幼子を・・・なんと惨たらしい事を―――!!
エ:卆らが、「それ」を見て何を思うかは、妾の与り知り置く事では、ない・・・。
じゃがな―――そやつらは、遙けき過去に、妾の身を引き割いた張本人共の一人・・・と、こう云えば、少しは納得したかえ。
市子の言葉に、総てが要約されていました。
頭には金の巻き髪があり・・・その先端には、馘を落とされた際に付着したと思われる、少女のモノと思われる鮮血が・・・
ただ・―――唯一救いだったのは、表情が地に伏せられてあり、垣間見れなかった事だけ・・・
この少女は・・・逢瀬に―――逝く時に・・・何を思っていたのだろう・・
迫りくる凶器に―――畏れ戦き・・・得も言われぬ表情をしているのかもしれない・・・
そんな残酷な為されように、一時はエリスへの批難が集中するのでしたが・・・
エリスにも言い分はあったのです。
それが―――149億年もの遙かな過去に、自身が受けた罰・・・
それを受けるのには、あまりにも重過ぎたのではないか―――と、エリスは主張したのです。
するとその時―――・・・
ミ:何故に吾を放置し、傍観しおるか―――さっさと拾うがよい!竪子めが!!
リ:あ゛〜〜はいはい・・・
市:(―――え??)
蓮:(な・・・なんと??)
リ:よいこらせ―――っと・・・
ヤレヤレ、首だけになったから、ちっとは大人しくなったもんかと思ってたけど・・・私にそれだけ悪態つけれりゃ、世話ねぇようだなww
ミ:嗤っているようだな・・・このような様になっている、吾を見て嗤っているのだな!竪子!!
ええい・・・おのれ・・・==§蛙化§==
リ:どぉわっ―――! あっぷねえ〜〜
おいっ! ちょっとコラ!! あんた、折角助けてやる―――っちゅうのに、ナニ危なっかしいモン吐いてるんだよ!!
ミ:ちぃ・・・逃げるのばかり、巧くなりおって―――
フン・・・少しばかりの「茶目っ気」ではないか。
リ:(「茶目っ気」で済む事かぁ〜?)
・・・ま、そんな事より―――私らも、あの人達の「人質」取ってんだってぇ?
私ゃ初耳だぜ。
ミ:それは、見解の相違―――であるな。
こちら側としても、あ奴の野望を阻止せんが為に、各方面に協力の要請をしておるのでな・・・。
無論、それは「フロンティア」の代表として―――な・・・。
リ:とは云うモノの・・・あんた、文字通り「首」だけになっちまったもんなぁ〜〜
そこら辺は、「責任を取る」―――つっても、少しばかり厳しいんじゃねえの??
市:あのぉ〜〜―――ちょっと・・・?
リ:はい? なに・・・市子―――
市:あのぉ〜〜リリアさん、何事もなかったかのように、普通に会話してらっしゃるみたいなのですが・・・
リ:(・・・)ああ〜〜この人?! この人「賢下五人」の一人だから、首だけなっても別に平気なんだよ〜〜w
―――つて・・・私、説明してなかったっけか?w
蓮:拙者は・・・初めて聞き申すが―――・・・
市:私も・・・ですけど―――・・・
リ:アッハハハ〜w いや、まあ―――そういうことだからwww
これもぉ〜ちょっとした〜〜茶目っ気ぇ?w
市:嗤い事では〜〜・・・
蓮:済まされぬ・・・ような・・・
ミ:今度は、外さんぞ・・・
リ:あ゛い゛い゛・・・今、ちょっとそれ勘弁さぁ―――・・・
ミ:まあ、それは良いとして・・・判っておろうな―――
リ:ああ―――・・・「期待」は、していないよ・・・
ミ:それで結構、要らぬ感情は逆に「枷」となろうからな・・・
市:(・・・え?)期待を―――しない??
蓮:なにを・・・で、ござる?
首だけの存在になったとしても、「賢下五人」でもあるミリティアは、存在を紡げたものでしたが・・・
あたら首だけの存在が、リリアと丁々発止を繰り広げられるモノとは、市子や蓮也は思いも寄らなかったのです。
(それにしても、「話術師」の「言の葉」の威力は最たるもので、この時リリアに向けられて発せられたモノは、的を外したとは云え、宙空を飛んでいた怪鳥に当たり、「蛙」と化してしまったとは・・・
それを目撃してしまった市子に蓮也は、流石に声も発せられなかった様子のようで・・・)
しかし―――今重要なのは、この宇宙の命運は、リリア・市子・蓮也・・・そしてミリティアに委ねられていたと云っても過言ではなかった・・・
それなのに、リリアは一向に気負う様子すら見せず、それどころか「期待をしない」・・・その一言のみ・・・。
その事に市子に蓮也は、疑問を深めるばかり・・・なのでしたが―――・・・
事態がこうなってしまう以前に、リリアはミリティアから、最後の助言を受け―――・・・
ミ:「期待」を、してはならぬ・・・
リ:(!!)なんで?? ジョカリーヌさん取り戻すのに、期待しちゃいけない―――つて、どう云う事だよ!!
ミ:「そう」云い置いているのでは、ない・・・が、「そう」だとも云えるのだ・・・。
リ:なんだよそれ・・・いくらあんたでも、説明するんが難しいんじゃ、頭が悪い私は一層・・・
ミ:「そこ」なのだ、竪子よ―――
汝は、汝自身が「無知」である事を知っている。
なれど、「そこから」理解しようと努めるのが、汝―――リリアなのだ。
それに、汝も感じた事があるのだろう・・・「期待をされた」その後の事を・・・
リ:(・・・)ああ―――あるよ・・・それも、「王侯貴族」の連中から・・・な。
だけど、「庶民」たちはいい―――あの人達は、飾りっ気なんかなくて・・・私が嫌いな奴は、その事を包み隠さず私にぶつけてくる・・・
だけど、こうも思うのさ―――だからこそ「体当たり」で・・・私が嫌いな奴にぶち当たって、私の事を理解してもらおうと思って・・・な。
ミ:そう―――「それ」なのだ・・・
それこそが、吾が汝に与える最後の助言・・・
第三百十話;期待はするな、しかし与えて勝ち取れ
市:期待は・・・するな―――しかし・・・
蓮:与えて勝ち取れ・・・とな、ううむ―――なんと、含蓄に富んだ言葉なのでござろうな・・・。
リ:ああ・・・その通りさ、市子に蓮也―――
そりゃ確かに、私には与えるモノは少ないのかもしれない・・・
けれどもこいつ―――エリスの内に燻っているジョカリーヌさんに届けば、それでいいと思っているのさ。
『期待はするな、しかし与えて勝ち取れ・・・汝の「友」を、汝の大切な人々を・・・』
『与えられた時間を有意義に使うがよい・・・やがて征く闇への旅路には、思い出の他には、何も持っていく事は出来ぬのだから・・・』
それが―――ミリティアがリリアに与えた、最後の助言の全容でした。
これからの、一大決戦を前にして・・・その言葉は、少しばかり酷に聞こえたモノでしょう・・・
けれど、全身全霊―――全力で体当たりでぶつかり、理解しあえば、現在は小さくなっているジョカリーヌの存在を、再び揺り動かせるものと思っていたのです。
そして・・・そう―――・・・
そこには、そこにいた者達でさえ推し量る事の出来ない・・・
そこにはまさに、師弟関係をも超えた「絆」の様なモノが、確かに存在していたのですから・・・
=続く=