「賢下五人」の一人、『話術師』であるミリティアから最後の助言を受けていたリリアは、その言葉を胸に毅然とエリスに立ち向かうのでした。
『話術師』―――それは、数々の「言の葉」によって影響を齎せる存在・・・
そして、最後の助言によって、今回の件に関わる「突破口」を見出したモノでしたが・・・
相手も・・・エリスも、然る者―――
エ:フ・フ・フ―――これはとんだお笑い草か・・・
卆の様な、いと小かき者が、妾の奥に眠りし者を揺り動かせらるるか―――
なれば、試してみるがよい、卆らの、そのかそけき希望を、妾に与うるがよい・・・
その果てに絶望を―――・・・一度生じた歪は、最早修復すら適わぬと思い知るであろう!!!
喩え、『話術師』からの助言があった処で、何程の事があろうか・・・
そんな安い言葉で動かせられるほど、自分達が負った傷は浅くはないのだ・・・
その時のエリスの言葉は、その様にも聞こえました・・・。
「大人の都合」―――時の権力者の都合によって左右されてしまった「二人の運命」・・・
その事は、修復が不可能なほどの歪を生じさせ、やがては破綻をしてしまった・・・
そうなっては、最早元には戻れない―――・・・
そして、望まぬ対峙―――・・・
そう・・・自分達が、どんな関係だったかすらも判らなくなり、有耶無耶の内に衝突をしてしまった―――・・・
それから後は、歴史が指し示した通り―――・・・
だから、修復不可能な関係を、修復可能にするのは、どだい無理な話し・・・だとも思えたのです。
しかし―――・・・
リ:そっか―――そだよな・・・あんなに酷い目に遭わされて、今更判ってくれ・・・だなんて、ないよな。
市:(!!)リリアさん―――?!
蓮:リリア殿・・・しかしそれでは、先程云い置いた―――・・・
ミ:―――・・・
リ:だけど・・・さ―――私は、「あの人」の事を信じてる。
だってそうだろ―――「あの事」を教えてくれたのは、ジョカリーヌさんだもの。
エ:なに? 妾に潜みし人格が―――?!
リ:そうじゃないだろ・・・あんたも判ってるはずだぜ、エリス。
現在じゃ、あんた自身になっちまってるけど、その事は、裏を返せば、あんた自身の言葉でもあるんだ。
リリアだけは、信じていました。
現在では、「エリス」と一つとなっている「ジョカリーヌ」の存在を・・・
そして、ジョカリーヌから教えられた「あの言葉」を、今度はエリスの奥深くに潜んでいるジョカリーヌに向かって発信したのです。
それでは・・・リリアは、かつてジョカリーヌから何を教わっていたのでしょうか・・・。
あれはまだ・・・「大皇」だったジョカリーヌと親交を深くしあっていた頃の事でした―――・・・
「大皇」であるジョカリーヌが、兼住居としている「シャクラディア城」の一室にて・・・
ジ:さて・・・君には数多くの理を教えてきたつもりだけれど、最後に云っておかなければならない大切な事を云っておくとする。
リ:大切な・・・事??
ジ:そう・・・それに、この事をよく心得ておかないと、これまで私が教えてきた事が、総て無駄になってしまうんだ。
リ:(!!)そりゃ―――ちゃんと聞いておかないとな・・・
ジ:フフ・・・有難う。
それはね―――・・・私やリリアだけではなく、総じて皆にも云える事・・・
この世に、生を受けた者全員―――それが・・・
第三百十一話;魂を持つ者達
市:魂を―――・・・
蓮:持つ者達―――とな・・・
ミ:(フ・・・そういうことであるか)聞いたであろう、エリスよ・・・
エ:ぬううっ―――・・・
ミ:それにしても、皮肉なモノよ・・・
汝がそうなってしまう前、その言葉は、よく汝自身が紡いでいた事・・・
それが今では―――・・・
エ:ええいっ―――黙らっしゃいっ!!
今の妾には、耳障りにしか聞こえぬ!!
市:な・・・っ―――無駄だったと??
リ:(・・・)いや、そうは思わねえな―――
蓮:・・・と、申されますと?
リ:「拒絶」―――も、「反応」の一つ・・・
今の私の言葉が届いてなければ、「拒絶」「反応」すら起こさねぇんじゃねえのか・・・
ミ:フッ―――竪子も云う様になったモノよ・・・
なれど、その通り・・・それに、なぜに竪子が吾の言葉に耳を傾ける事が出来たのか、これで得心が行った。
リ:そりゃまた―――どう云う事だ???
ミ:吾の言葉とは、「賢者の教え」・・・云わば、高等な知識がなければ、何を云っておるのかすら判らぬモノ・・・
それを、何の疑いもなく聞き入れられたと云う事は―――・・・竪子よ、汝はすでに、高等な知識の教下にあった事を示しておるのだ。
既にリリア自身が、ジョカリーヌとの交流を通じて、「高等な知識」の根幹について学んでいた・・・
だから「賢下五人」からの教えについても、流動的に頭の中に入り、自分の「知識」とする事が出来ていたのだと、ミリティアは理解したのです。
しかし・・・だからと云って―――
エ:ううぬ―――み、認めぬ!! 妾は、決して認めはせぬ!!
それに、ならば卆は、「勇者の宿」を受け入れているのであろう。
リ:ああ・・・そう云ったな―――
エ:ならば! 妾と一緒に宇宙を治めようではないか?!
元はと云えば、「勇者」は妾の考えに賛同してくれていた・・・妾の事を想っていてくれた・・・
なればこそ! 此度は妾と一つとなり、古からの想いを遂げようではないか!
エリスにも「意地」と云うモノがあったからか、容易には納得はせず・・・それどころか、苦し紛れにも見える交渉を切り出してきたのです。
それが―――・・・
「勇者」と「巫女」は、互いの処遇がどこか似通った処があり、そこから交流を通じて互いの「想い」と云うのを馳せ合わせた・・・
その点を衝き、現在の「勇者の宿」を持っているリリアに、積年の思いを遂げ逢おう・・・と、迫ってきたのです。
ところが―――・・・
リ:あ゛〜〜そりゃ無理だわw
エ:ナニ―――?
リ:いや、まあ〜〜あんたの云いたい事は判るよ?
私と一つとなりたい―――てことは、つまりは私と「婚姻」の契約をするってこったろ?
けどさぁ・・・見た処―――あんたも「女」、そして私も「女」・・・
いくら私が、ジョカリーヌさんの事を「好きだ」と云っても、ジョカリーヌさんとの結婚は、まず無理だなww
それにさぁ・・・第一、女同士の結婚て、成り立つわけ??
「男」と「女」が交わって―――子孫を残す・・・って云うなら、判らなくはないけれどさぁ〜〜
エ:し―――しかし・・・ならば・・・
リ:あ〜〜そうそう―――あと、無理からに私の事「男」にしたって、ダメなもんはダメだよww
市:それはまた―――どうしてでしょう??
リ:「どうして」―――って・・・「先約」があるもんよww
蓮:「先約」?? とな???
リ:そ―――・・・あんた達も知ってるだろ・・・ソフィア―――あいつだよ。
市:ソフィア様と?? ですが―――・・・
リ:ああ〜〜まあ〜〜ややこしい話しになってくるんだけどさぁ・・・飽くまで、「私が男だったら〜」てな話しの上での事だよ。
そもそもさ―――あいつとの約束・・・って、かなりの昔で、あいつも私も小ぃちゃかった頃の事なんだけどもなw
そう、リリアは、エリスからの申し出を全面的に断ったのです。
それに、そもそも現実的には、エリスもリリアも「女同士」・・・
だから、「子孫を残さない」と云う双方の合意の下ではない限りは、その申し出に効力があるモノではなく・・・
それにまた、強制的にリリアの性別を変えたとしても、リリアには「先約」があるからと云って、またしてもエリスからの申し出を断ったのです。
それにしても気になるのは、過去に措いてのリリアの「先約」の相手―――・・・
それこそが、リリアの幼馴染であるソフィアである事を知り、一時期は彼女の下で臣下となっていた市子は、殊の外驚いたのです。
それにしても「いつ」・・・リリアとソフィアは「先約」を―――結婚を約束してしまったのでしょうか・・・
あれはまだ・・・リリア自身も―――そしてまた、ソフィア自身も自分の性別が定かではなかった頃の話し・・・
(とは言っても、ソフィアは「姫」として育てられていたから、幾分かは「女の子」としての自覚はあった様で・・・
そこへ行くとリリアは、どこか「男勝り」に育てられてしまった為、所謂・・・そこの処の「すれ違い」や「勘違い」は、往々にしてあったと思われる)
いつものように、下々の者たちへの見聞を広める為、ソフィアの城下町を連れ回していた時・・・
リリアがふと眼を話した隙に、ソフィアは町の庶民の子たちの「いじめ」の対象にされてしまっていたのでした。
それを見つけたリリアは―――・・・
リ:あっ!! こんのヤロ〜〜―――なにしてやがる!!
おい―――大丈夫か・・・エル
(この「エル」と云うのは、ソフィアの「ミドルネーム」のこと)
ソ:うん・・・でも、助けてくれてありがとう―――ナグゾスサール・・・
(最早云うでもないが、この「ナグゾスサール」と云うのは、リリアの旧姓―――
現在では「オデッセイア」を名乗ってはいるが、このお話し当初は「ナグゾスサール」が彼女の家名だった
つまり・・・ここで知れるのは、お互いをそう呼び合えるほど、仲が良かったのです・・・が・・・)
リ:へへへっ―――よせやいw
それに・・・あたしも悪かったよ―――ちょっとお前から目を話しちまって、その隙に・・・
それより―――そうだな・・・どうしたら赦してもらえるかな。
ソ:そうね・・・うん―――私は、別にナグゾスサールに謝って貰わなくてもいいんだけど・・・
あ! だったら―――私、ナグゾスサールのお嫁さんになる!!
リ:お嫁さん??
・・・ああ、いいよ―――エルは器量・・・てな奴も良いそうだし、絶対良いお嫁さんになるな!!
市:(・・・て、そんなノリで―――???)
ミ:(それは最早、口から出まかせのレベルではあるな)
蓮:良い〜〜話しでござる!! 拙者は感動致した!!!
リ:いっやあ〜〜蓮也からそう云って貰えると、照れっちゃうなwww
「蓮也さん・・・そこ、感動する処と違います―――と云うか・・・リリアさん、あなたって人は・・・」
口にこそは出さなかったけれど、市子の小さなツッコミは、この際片隅に置いておくとして―――・・・
確かにその「約束」は「口約束」程度で、何も・・・物事の分別すらついていない頃の「約束」だから、
もう一方の当事者であるソフィアに、この時の事を話したとはしても、一笑に付されてしまうのがオチだった事でしょう。
しかし―――・・・「している」のと「していない」のとでは、やはり違うモノと見え・・・
その事が今、エリスを苦しめてはいたのです。
そして・・・この事が同時に、今件を解決に導く重要な手かがりともなり得たのです・・・。
=続く=