とどのつまり、「対“戦”相手」と対峙する―――相手する―――とは言っても、何も無抵抗なままではいない・・・
それが、リリアの心で決めていた事なのでした。
それを証拠に、矢継ぎ早に繰り出されるエリスからの攻撃を、「晄楯」を展開させて防御するリリアの姿が・・・
市:リリアさん―――!
ああっ・・・こんな時に、見守る事でしかいられない、この私の・・・何と無力な事か・・・
蓮:それはっ―――拙者とて同じ想いでござる・・・市子殿。
市:蓮也さん―――・・・
蓮:拙者達は無力! 喩え助太刀と称して参じても、リリア殿の足手まといになるのは必定であるが故に!!
歯を食いしばり、必死になってエリスからの攻撃を凌ぎ切るリリア―――・・・
本来ならば、リリアの秘めたる能力「无楯」を展開させてしまえば、この不利な状況は覆るのだろうに・・・
なのに、リリアはそうしなかったのです。
それと云うのも―――・・・
ミ:心配など要らぬ。
あれしきの事で竪子は屈したりはせぬ。
そのことは、この吾が見極めたのだからな・・・。
市:(ひっ?! く・・・首??)あ・・・あの・・・??
蓮:なんと・・・面妖な―――
ミ:(・・・)吾は、「賢下五人」が一人、「話術師」の・・・ミリティア=ミスティ=ミザントロープ―――
不死の身であるが故に、こんな姿になろうとも、存在は紡げられているのだ。
市:(!)ミリティア―――・・・では、あなたは・・・
蓮:ふむ、どこかミリヤ殿の面影が見えますな。
ミ:ふむ、そのことは竪子も紡いでおったな。
だが、今大切な事はそこではない。
そこで・・・だ、汝らが竪子の為に何かを為したいのであれば、少々協力をするがよい。
未だ・・・首だけの存在になろうとも、存在を紡ぎ通せる「不死者」・・・ミリティア―――
その彼女こそ、「賢下五人」の一人でもあったのです。
けれど現在、重要だったのはそんな事ではなく、現在を以て尚、戦火を免れている「ある者達」の確保だったのです。
そんなことに・・・この激し過ぎる闘争に、割って入る事が叶わず地団駄を踏んでいる市子と蓮也に、
ミリティアは、ある協力を申し出てみたのです。
そう・・・それは、紛れもなく―――・・・
市:え・・・? 私達が・・・ですか??
蓮:無謀・・・ではござらぬか?
ミ:「そう」云ってしまえば、「そう」かも知れぬ・・・
なれど、「そう」思ってしまえば、喩え出来るモノも出来はしない・・・そうは思わぬか。
市:(!!)―――・・・
蓮:(!!)―――・・・
「出来る」事を「出来ない」と思ってしまえば、達成率は引き下がってしまう―――
それが「真理」であることを、ミリティアは説きました。
それに・・・その事は、事態がこうなってしまう以前に、ミリティアがリリアに云っておいたことだったのです。
リ:えぇえ〜〜っ?! そんなん―――無理無理!
ミ:まだやりもせぬうちから、負の言葉を吐くな、竪子。
リ:だ・・・だってぇ〜〜その〜〜エリス・・・って奴??
ジョカリーヌさんと同じ・・・って云うんだろ?
それを〜〜・・・一方的にあちらから攻撃仕掛けてくるってのに、それを凌ぎ切れ・・・って―――
ミ:汝には「晄楯」があるではないか。
リ:ああ〜あれねぇ・・・
まあ〜あれが出てくれさえすれば、可能性は―――無くはないと思うけど〜〜・・・
ミ:はあ〜〜・・・ヤレヤレ・・・際になって頼りのない言葉よ・・・
なれば仕方無い、特別に汝にはこの言葉を授けようぞ。
よいか、『決して「出来ぬ」等と云う言葉は、使うではない・・・何より、汝には「出来る」ことなのだから』
それこそが、「話術師」が使える顕現―――そして、その顕現に中ったリリアは、自在に「晄楯」を展開「出来る」ようになったのです。
しかもそれは・・・「無意識下」の内に・・・
つまり、ミリティアがリリアに掛けた言葉とは、未だリリアの心の内に蟠りかけていた「障害」を取り除いたモノだったのです。
(ここで補足するとすれば、「未だリリアの心の内に蟠りかけていた障害」―――と云うのは、リリア自身が「出来ない」としていたワケではなく、
コレはある種の「封印」が、正常に働いていたと云う事。
つまり・・・以前の説明で「无楯」とは、かつての「勇者」の異能として取り上げられていたが、それは今を以て尚・・・であり、
云ってしまえば、「无楯」こそは、顕現の中でも頂点に立っていると云う事。
まだ更に云ってしまえば・・・未だここでは詳しい説明は差し控えさせて貰うが、この時点で使用してしまえば、危険極まりない・・・と云う事。
つまりは、その「封印」とは、「无楯」・・・さらには、それに付随されている「晄楯」をも、自在に引き出させない様にしていると云う事。
ならば・・・それを自在に引き出させるようにした―――と云う事は・・・?
無論リリアは、その事については自覚してはいない・・・)
そして今度は・・・市子と蓮也に、何らかの計画を打診するミリティア・・・
しかし、その計画を打ち明けられた二人にしてみれば、まさしく「無謀」のなにものでもなかった・・・
―――の、でしたが・・・
そこで再び、ミリティアは「可能性を秘めし言の葉」を、二人に対しても掛けたのです。
しかして・・・ミリティアが打診した、「無理難題」ともいえる計画―――とは・・・?
市:(気・・・気付かれない様に〜〜ジョカリーヌ様達を、確保せよ・・・だなんて〜〜・・・)
蓮:(あの様な禍の渦中に飛び込むなぞ、「無謀」の極みと云うモノ・・・だがしかし―――)
市:(云わば、私達は、「モノの数」には入ってはいない・・・そう云われてしまうのは悔しいですが、寧ろ今となっては喜ぶべきなのでしょうね・・・)
それは―――・・・未だエリスの近くにて、蹲っている「ジョカリーヌ」と「ユリア」の二人・・・その確保―――と云う、
恐らくは、この現場にて、一番簡単そうに見えて実は最難関の任務―――をこなさなければならないと云う事。
今回の元凶であり、「Odysseia」上、最凶最悪の敵とも云える「不和と争いの女神・エリス」の注意を惹くことなく、
こちら側の最重要人物である二人を確保すると云うのは、まさしく「無謀」そのモノであると云えた事でしょう。
しかし、ミリティアからの「言の葉」の支援を受けた市子と蓮也の二人も、次第に使命感の様なモノが産まれ、
自分達でも「出来る」ことを、自分自身に言い聞かせるようにして事に望んだのです。
けれども・・・やはり―――と云うべきか・・・
市:(なるべく・・・気配を殺して・・・)
蓮:(あと一息・・・に、ござる―――)
エ:(・・・)なにをしておる―――
市:(!)しまっ―――・・・
蓮:(!)気付かれもうしたかっ!
「あと一息」・・・と云う処でエリスに気付かれてしまい、今や、攻撃の対象はリリアから市子と蓮也に―――・・・
ですが、「これ」もまた、ミリティアの策謀でもあったのです。
そう・・・ミリティアは、エリスの攻撃対象は、なるべく多い方がよい―――と、そう考えていた節があったのです。
(それと云うのも、攻撃対象が多ければ多いほど、注意は散漫となるから。
そのことを事前に云っておかなかったのは、意識「している」のと「していない」のとでは、やはり気の発散が微妙に違ってくるから。
つまり、ミリティアの策謀が、直前まで露見しにくくなる事を指しているのである。)
それに・・・なにより、リリアには「あの」顕現が―――・・・
エ:フン・・・妾を謀ろうとしていたようじゃが、妾がその事に感づかぬとでも思っておったか。
ククク・・・なんとも可愛きことよ―――先に、涅槃にて友を待っておれ! ――=蟠魂盤=――
ミ:(!)今だリリア―――「无楯」の展開を!!
この隙・・・いや―――これ「も」隙・・・
エリスが、自身の持つ顕現の一つを解放させようとした時こそが、「隙の付け入れ時」だと、ミリティアは考えていました。
そして、「エリスの隙」を創り出す為の「囮」を・・・なんと市子と蓮也に課し―――
総てはミリティアの思惑通りに・・・
そう―――今まさに、友二人に、命の危険が差し迫ろうとしていた時・・・
リ:(!!)させるかあぁ〜〜―――!!!
「そう・・・これが、本来の「无楯」の使い方・・・」
そうとでも言いたげに、戦場全体に巡らされた「无」の力・・・
そう、その場には、最早リリアを除いては、顕現を発揮できる者などいなかったのです。
況してや、一番近くにいたエリスは―――・・・
エ:(?!)ど・・・どうしたというのじゃ? わ・・妾の「蟠魂盤」が発揮せぬとは??
ええい―――ならば・・・ ――=離魂盤=――
ミ:無駄・・・だ、エリス―――既に汝にも判っておろう・・・
エ:ま―――まさか・・・本当に、「あの顕現」を、その娘が使いおったと云うのか?
知らぬのか・・・? その顕現は、「顕現を持ちし者」の顕現を無効してしまうものなのじゃぞ??
それも、永久に―――・・・
だからこそ、あの人は・・・ソロンは使うのを躊躇ったと云うのに・・・
それを、卆の様な小娘が!!
リ:ごちゃごちゃとうるせぇ!
思い出話も結構だけれどさ、あんた、何か勘違いしてやしないか・・・。
私は、その―――ソロンてなヤツじゃねぇんだぜ。
それに・・・そんなウジウジした奴の気持ちなんざ、判りたくもねぇ・・・。
それに―――云ったろ、私は・・・あんたと「闘う」為に来てるんじゃない・・・ってな。
云わば「争い」―――話し合いで決着ぁ付ける為に来てるのさ。
エ:何を解せぬ事を・・・「闘い」もせず、「争い」とな?
何が云いたいのじゃ・・・
第三百十四話;「争い」の定義
リ:(・・・)私は―――「もう一人」のあんたである、「ジョカリーヌ」て人から、こう聞かされたことがあるんだけどな・・・
「この世に、「私」一人ならば、「争い」と云うモノは生まれない・・・「私」と「あなた」と云う存在があるから、「争い」と云うモノは生まれると、私はそう思っている。」
「つまり・・・「あなた」は「私」ではないわけだから、思想も思考も違ってくるのは当たり前の事・・・」
「だけどね・・・だからと云って、顔を突き合わせるたびに衝突ばかりしていては、何も生まれないし進化もしない・・・」
「まあ―――確かに・・・破壊のあとの生産性については、最早云うべく処などないのだけれどね・・・」
「だから私は・・・「私」ではない「あなた」に出会って、衝突もしながら意見を交換し合う・・・そして仲良く歩を進めて行きたい―――と思っているんだ。」
「そう云う事も・・・云ってみれば、「争い」の一部―――なのだからね・・・」
―――て、な・・・。
その事を知らないあんたじゃないだろ・・・だって、さっきまでジョカリーヌさんと一緒だって云ってたじゃないか!
こんな素晴らしい事を云ってのけれる人と「同じ存在」と云っときながら、「知りませんでした」なんて・・・おかし過ぎるぜ?
だって、そうだろう? こんなにも「争う」事の愚かしさを知ってるジョカリーヌさんと同じであるあんたが、「その事」を知らないなんてな!!
「无楯」こそは、顕現を・・・云わば「神の御業」を喪失させてしまう、畏るべき顕現なのでした・・・。
そして、この顕現の畏ろしさと云うのを、「勇者」は知り得ていた為、悪堕ちしてしまった「巫女」と対峙した時、割り切って使う事が出来なかった・・・
けれど、リリアはソロンではない為、そんな事は関係ない―――と、し、割り切って使う事が出来ていたのです。
しかし・・・そうすれば―――その場にいる「賢下五人」・・・だけではなく、他の「歌姫」達をも巻き込む恐れがある・・・と、エリスはそう指摘をしたのです。
ですが・・・その「賢下五人」が、その覚悟を―――
五人各々が、持ち得る顕現を喪失なう覚悟の下、参じていたならば・・・?
そしてリリアは―――以前にジョカリーヌから教えを受けた事のある、「争いの定義」と云うモノを、エリスにぶつけてみたのです。
=続く=