元来、「火」とは―――神々しき者達の所有物であり。
人間の様な卑俗な者達の扱える処ではなかった・・・。
然し―――その事を憐れんだ一柱の神によって、神々しき火種の一つが、人間達に下賜されたのです。
而して・・・その神の名こそ、「プロメテウス」―――
ですが、エクステナー大陸にある同名国は、彼の気高き神とは似ず、略奪・侵略を欲しい儘にする傍若無人の群れだったのです。
サライ国とオデッセイア国は、永年・・・北方に君臨するこの強国を相手に、辛酸を嘗めさせられ続けてきました。
歴とした「王国」であるのに、野蛮な輩に貢物を贈らなければならない・・・
そんな屈辱的な日々は、いつしか両国民の間の平穏に陰を落とすことにもなり、
或いは、野蛮な輩の国名を耳にしただけで震え、怯えなければならない―――卑屈な日々・・・
そんな時、ここに一国の姫将が立ち上がり、また・・・エクステナー大陸を一つに纏める為に行動を示したのです。
その行動は、奇しくも相手側が一番望む「武力解決」をもって成されようとしていました。
しかし・・・それも今となっては仕方のない事―――「話し合い」の通じる相手ではない事は、この大陸のどこの誰もが知る処・・・
とは云っても、この大陸の意見を反映させるためには、自分たち側の意見だけが集まっても仕方のないこと・・・
内には、自分たち側とは全く反対の意見を持っている者達もいる・・・そんな者達の意見も相照らし合わせたうえで、一つにしてまとめる・・・
それでも―――、一過性で、なるべく血の流れない様な、そんな絵空事の様な事は出来はしないか・・・と、模索し続けていた時、
リリアの脳裏には、或る者達の事がふと過ったのでした。
「そうだ―――あの人達ならば・・・」
そして、この大陸の方向性を決定づける「戦争」が、「サライ」「オデッセイア」「プロメテウス」それぞれの国境付近にある「ザンジバル平原」にて行われようとしているのでした。
第三十二話;ザンジバルの決戦
「サライ・オデッセイア共和国」の女王、ソフィア=エル=ホメロスの留守を預かるリリアは、
当主である「女王」不在の間に、自らの計画の一環として、プロメテウスと決着をつける為の軍を動員することを決め、
決戦の場として「ザンジバル平原」が定められ、両陣営はにらみ合いを続けているのでした。
かくして―――サライ・オデッセイア共和国の陣容は、リリアを総指揮官に仰ぎ、左右翼の陣には、ギルバートとミンクスが・・・
そして蓮也は、彼自身たっての願いと云う事もあり、先陣を切らせてもらう象となったのです。
片や、プロメテウスの陣容は―――・・・
なんと彼らは、自分達の軍の主力ではない・・ここ数年来サライやオデッセイアから浚ってきた民間人を軍隊に組み込み、共和国軍に当たらせたのです。
そう・・・云うなれば、これは「戦争」と云うモノではない―――
同じ国出身者同士の、戯れ同然の「殺し合い」―――
だからこそ、共和国軍の兵士達は、云わば親子兄弟同然の「敵兵」と、本気で争い合う事など出来はしませんでした・・・
とは云え、浚われて無理矢理プロメテウス軍に編成された者達にしてみれば、敗走して戻れば・・・そこには確実な死が待っている―――
けれど、そんな事はプロメテウスの統治者である「酷王」には関係のないこと、
もしそれで損なってしまったら、また浚ってくればいいまでの話し―――
そんな内で、一際脅威に感じていたのが、リリアの存在―――
以前彼女は、こんな軍編成の兵と当たる際に、「浚われたのだとしても、それは最早敵兵同然―――そんな事で後れを取ってやる道理などない」・・・と、訓示を発したことから、
彼女にこの手の脅しの手口は通用しないものだと、プロメテウス軍首脳達から殊更苦々しい目で見られていたのです。
(詰まる話し、傭兵を介してリリアの寝首を掻こうとしたのは、そこの処が起因されるモノだと思われる。)
こうして諸戦端は開かれ、両軍一進一退の攻防が続いたモノでした。
ところが・・・小一時間が過ぎようとしていた頃―――頃合いを見計らったかのように、プロメテウス軍側が仕掛けてきました。
そう・・・お忘れであろうか―――この国の名の元となった、「人類に火を給わった神」の名を・・・
「プロメテウス」なる国家は、彼の神と同じく・・・「火」を扱う事に長けていたのです。
そして決戦の舞台でも、実に巧妙なる手口で・・・「火計」が発動をしたのです。
少しばかり打ち合っをし、偽って逃げ―――策を仕掛けている地点に相手を誘い込む・・・
そこで待ち伏せた伏兵をして、共和国軍先陣を火の海に沈める・・・
丁度、先陣に組み込まれていた蓮也は、彼が預かる部隊共々、灰塵に帰する処だったのです。
ですが・・・一つお忘れではないだろうか―――
プ:フフフ―――かかりおったな・・・それっ、放てぇ―――!
蓮:ぬっ―――しまった、相手には火の備えがござったか!!
皆、退けぇ! 焔に巻き込まれてはいけませぬぞ!!
兵:い・・・いえ、それが―――蓮也殿・・・
兵:わ、我らの背後・・・浚われた連中が―――
蓮:ぬ・・・ぬうぅ・・・何と云う卑怯な手立てを―――
拙者達のみにはあらず、浚ってきた者達をも―――ここにて焼き殺す算段にござったか!
計略の地点まで充分に引付けた処で、よく油を浸みこませた枯れ草や布に火を着け、放ち―――敵軍を火中にて滅する・・・
それに「火」は、簡略ながらも人心を不安に陥れる効果があり、見る見るうちに蓮也が率いる部隊にも、恐怖や混乱は蔓延して行き、士気が下がり始めてきたのです。
その様子を本陣から見ていたリリアは、堪らず、馬を駆って蓮也の窮地に駆け付けようとしたのですが・・・
そこで、未だこの地に逗留している「公爵」に、次の様な事を説かれたのです。
リ:あ、あっ―――前方に火・・・それに、後ろには私達の国から浚ってきた連中が・・・
いけない、あのままじゃ蓮也が―――誰か!私の馬を・・・!
エ:早まっちゃいけないよ―――それに、心配するこたァないって♪
リ:エルムさん?! しかし―――・・・
エ:ウ・フフフ―――「相手を知り、己を知らずんば、百戦危うからず」・・・ってね。
マ:〜ん、にしても、なんか気の毒だぁネw
向こうさん、満を持しての「火計」―――なんだろけどサww
エ:ダ・ヨ・ネ〜〜あの人がいる時には、火は特に厳禁なんだって―――
何しろ、あの人の持つ特性ってのがさぁ・・・
激しい火焔の中に、共和国軍先陣は沈む処でした。
が―――・・・
逆に、その「激しい火焔の中」こそ、得意としている者がいる―――と、公爵・侯爵が口を揃えて云ったのです。
そう・・・
ヱ:ウフフフ・・・あらあら、これはこれは―――どうやら一応は礼を云っておかなければならないようね。
だって・・・以前のお遊戯で、使う予定ではなかった能力を出し尽しちゃって、生憎様、今の私の「プロミネンス」は空っ欠だったのよ。
それを・・・こんな象で補充できるなんてね―――
・・・私が何を云っているか―――だって?
いいわよ、判りやすく教えてあげても・・・但し、後になって「知らなければ良かった」なんて都合のいい事は云わないでよね・・・
私の名は、ヱリヤ―――エリヤ=プレイズ=アトーカシャ・・・。
この世に在る、総ての「火」を喰らい尽くす者―――「ファイア・ドレイク」・・・
実は―――この先陣の中に、偶々ヱリヤが居合わせていたのでした。
それに彼女は、相手が仮初にも「プロメテウス」と名乗る国なのだから・・・と、半ば期待をしていたのです。
そしてその期待は、遠からずにありました―――
文字通り、共和国軍先陣を呑み込もうとしていた火焔は、いつの間にか、燃え盛っていた形跡すら見せていませんでした。
ですが―――代わりに・・・少女の姿から、成人と化した女騎士が・・・
ヱ:以前には、こちらの姿で戦場に乱入したことはあるのだがね・・・。
蓮:(!)そ・・・そなたは、あの時の―――?!
ヱ:しばらくぶりだな、戦人―――そちらの件に関しては、後でおいおい語ってやる。
それより・・・私がここまでの大盤振る舞いをしてやったのだ―――見返りは・・・存分に期待しているぞ。
その女騎士こそ、以前のアンカレス戦役で、自分達の窮地を救ってくれた人物だった・・・
いずこかの者かは判りませんでしたが、態を変じる時垣間見た少女の姿・・・
当時、不審者として捕え、収監していたあの少女こそが、万夫不当の女騎士だった―――
そして、紅の騎士は云うのです。
「お遊びはこれまでだ」―――と・・・
一身、真紅の鑓を、小脇に抱えたまま、闘争者としての本分を抑えられぬ―――とでも云いた気に。
=続く=