北方の雄「プロメテウス」を降し、エクステナー大陸は、ほぼサライ・オデッセイア共和国がその支配下に置く処と成りました。
その結果、周辺各地の小豪族たちは皆、その威に服す処と成り、ここにサライ・オデッセイア共和国は、名実ともにエクステナー大陸を統一することと成ったのです。
しかし、その事をもってしても、リリアの描く計画の「序盤」・・・
これからが、計画の「中枢」であると、リリアは一層の気を引き締めるのです。
第三十四話;変わり行く世に
では、リリアが描いていた計画の「中枢」―――果ては、「今まで」の旧態依然とした制度の根底を揺るがしかねない「大改革」とは・・・
今も、そのことにより、リリアが改革の強行採決をなしたことで、その事に不服を抱く官吏達が詰め寄り・・・
官:い―――いかなる所存ですか・・・げ、現在の我らの定員数を半分まで削減・・・とは・・・
リ:ん〜? 同じような仕事を重複させなくてもいいだろ―――だから、余分な省官庁は省いた・・・それだけのことだ。
官:そ、それは判るにしましても、我々の俸給を大幅削減―――これでは、明日からの我々の生活が成り立ちゆきませぬぞ!
リ:だったら、生活の水準を落とせばいいだけの話じゃないか。
まあ、この国も大所帯になってしまったからな・・・民草が困窮している時に、私達だけが贅を満喫していると云うのは、合わない話だとは思わないか。
官:とは申しましても―――! だからこそ我々は、重大なる責任を・・・
リ:「負っている」なら、尚更だとは思うが―――なんだかお前、云っている事とやろうとしている事が激しく違ってやしないか。
リリアが推進させる「大改革」に、今まで甘い汁を吸い放題だった連中は挙って「反対」を口にしましたが、
これまでにも類を見ないリリアからの「正論」に、皆誰しもが閉口せざるを得ませんでした。
この「一例」を見てのように、リリアは一国の当主・・・しかも「良君」としての資質は十分に備えていたのです。
それに、リリアの考え方の根底としては、この大陸を隈なく歩き潰したことで、下々の生活ぶりをその目に収めていたことにも、大きな要因があると云えました。
自分達王族や、仕える官吏達は、何不自由なく暮らしていると云うのに、彼らの生活水準の低さと云ったらどうなのか―――
こんなことは間違っている―――
こんな事は、いつかは誰かが変えてやらなければならない―――
そんなに遠くない過去に、一宿一飯の恩を与ったことのある一戸の家庭で、民草の暮らしぶりの低さと云うモノを実感していたリリアは、この時点でこうした考え方に到達していました。
けれど当初は、リリア自身がする事ではないとの認識の方が高く、「いつかは」「誰かが」・・・いわゆる「他力本願」的な処が強かったのです。
けれど、ここ最近で会った人物の影響力が加味され、そうした事は自分がやらないといけない―――と、思うようになり始め、
手始めに、「オデッセイア国」と「サライ国」を一つにし、エクステナー大陸を統一制覇―――またこれを機会に、以前から自分が違和を感じていた「制度改革」に着手し、
多少の反対が上がっても断行する強硬姿勢を貫いたのです。
それから・・・エクステナー大陸全土の統一から二カ月余りが経った時、某国に出奔していたあの人物が戻ってきたのでした。
その日もまた、新たなる法令を施行する案を出し合う会議が成されており、白熱した議論が改革派と保守派に分かれて討論されていました。
その最中に―――本来ならば中途の入退室は認められていないはずだったのに、なぜか扉は開き・・・その事を「元」鉄腕宰相であるギルバートが咎めようとしたところ、
扉口に立っていたのは、「本来」の自分達の君主である処に、議場は水を打ったように静まり返り―――・・・
リ:おう―――戻ってきたようだな・・・で、どうだった。
ソ:それはもう―――勉強をさせて頂きました。
リ:そうか・・・だが今は大事な取り決め事の最中だ―――
ソ:ですが、この国の「王」は、私であるはず―――
ソフィアがそう述べると、それまで議長席に座っていたリリアは、徐に席を外れ・・・代わってソフィアが国王兼議長に就いたのでした。
この二カ月と云う期間、遠き異国の地に出向いていた、サライ・オデッセイア共和国の真の主―――「国王」・・・
ソフィアの突然の帰還に、それまで塗炭の苦しみを味わわされていた官吏達は、歓喜に沸き立ちました。
これで自分達は、元の生活に戻る事が出来る―――
これまでと同じように、何もしなくても安定した生活を―――
それが赦された、「特権」としての立場を―――
ソフィアならばそれが判ってくれるはず・・・何より彼女は、生粋の「王族」―――
リリアのように、民衆に「被れた」人間ではないのだから―――
けれど、彼らは知りませんでした。
この二カ月と云う期間、ソフィアが出向いていた「遠き異国の地」の実情と云うモノを。
そしてそこで、ソフィアは「勉強をしてきた」と云った・・・
一体、何の「勉強」を―――
それらを要約させた、次のソフィアの言葉に、官吏達は耳を疑ったのです。
ソ:あなたが進めてきた改革―――遠き彼の地でも耳にしました。
なによりも、そのことをお聴きになっていた大皇様は殊の外大喜びで、知り合いである私は非常に鼻が高かったです。
リ:ほ・・・そうか、あのお方が私の事をそんなにお褒め下さっていたか! いや、なんだか照れ臭いもんだな。
ソ:それに・・・これがどうやら、先程まで話し合っていた法案の様ね。
・・・なるほど、今は目を通しただけにすぎませんが、議論する余地はあると見ましたね。
リ:だろう〜? ま―――その分、誰かが割を食わないといけないんだけどな・・・
「その覚悟ならばできています。」
その言葉は、共和国の国王であるソフィアが、リリアからの提案を容認した一言と云えました。
エクステナー大陸に名立たる王家の出身で、王族としての習慣が身に浸みついていると思われていた人間からの―――
意外にも呆気なく、高貴な暮らしぶりを放棄すると云った言葉に、前言の撤回を申し出ようとする官吏達・・・。
「民衆被れ」のリリアならばまだしも、「生粋の王族」であるソフィアがよもやこの考えに達するとは・・・
リリアの改革を、「良し」とはしないまでも、苦々しく服するしかなかった者達。
それでもソフィアが帰還するまでは―――と、耐えてきたモノだったのに、頼みの綱であるソフィアが「民衆側」に立つとは・・・考えてもみませんでした。
しかし―――そう・・・
ソフィアも、「遠き彼の地」にて、「民主化運動」についての「勉強」を、二カ月と云う期間をかけてしてきたのです。
だからこそ判る、リリアが推し進める改革―――
「遠き彼の地」においては、まだどこか手緩いように感じるけれども、「民主化」さえ浮かばなかったこの地においては、大躍進にも似通っていたのです。
とは云え、今までの「甘い夢」を忘れられない連中は、「それでも」―――と、見苦しくソフィアの足元に縋りついて見せるのですが、
最早そうした考えが「旧い」事であると知ったソフィアの面は、再び彼らに向く事はなく、
等しく彼らの周囲りには、秋風が吹き荒ぶのみ―――だったようです。
=続く=