リ:な・・・なんだと―――お前・・・もう一度云ってみろ!
見知らぬ土地から来た、一組の夫婦―――・・・
しかし、「夫」と見られる男性の名を聞くに及び、リリアは不思議な縁を体感しているのでした。
それと云うのも、なんとこの男性の名前が―――・・・
リ:タケル・・・お前も、あいつの名前と同じだと云うのか・・・
妻:ほぉう―――お主も、妾の夫と同じ名の御仁を知っておいでか。
して・・・その御仁は、今いずこに?
「タケル=典厩=シノーラ」―――・・・
てっきり、お互いが知らない間柄同士ばかりだと思っていれば、同じ名前なれど違う人物と親交があったことに、両者は驚きを禁じ得ませんでした。
それに、リリアにしてみれば、その名前の男性は、自身の「好き」「嫌い」と云う感情以前に、「好敵手」として意識していただけに、その驚き様は尋常ではありませんでした。
とは云え、リリアも―――またタケルも、そこで冷静になってみたのです。
取り敢えずの処は、お互いの名前は判った―――に、しても、縁が深いのは当人同士の事であるとし、何より名前以外は同じところが一つとしてない・・・
顔立ちや性格、それぞれの「個」と云うモノが、互いが知る縁の深い人物とは違うことを認識しあったのです。
第三十六話;悋気
閑話休題―――
タケルはリリアの出で立ちを見るなり、前日会った頃よりは武装している点を鑑み、これからこの町の外へ、何かをしようとする為に出かけるところだ―――と、判断したのです。
その事を訊かれると、リリアは・・・
リ:―――ああ、なんだか最近、賊の一味が横行しているらしいからな、そいつらを懲らしめてやろうと・・・な。
全く、この大陸を一つにしたってのに、苦労は絶えない・・・つか―――
タ:そう云う事でしたか。
では・・・ワシらもあなた様にご同行いたしましょう。
ナニ、一人よりは二人―――二人よりは三人、気休めとは云え、心強き事にはなりますでしょう。
リ:はあ? あんた、正気でそんな事を云ってんのか?
あんたんとこの奥方は―――まあ使えるにしても、あんた自身は腰に差してる・・・木の枝?・・・ッぽいのしか持ってないじゃないか。
この時、リリアが疑問に思っていたのが一点だけ―――
それが、タケルの妻である婀娜那は、大層な拵えの大剣を装備しているのに対し、
タケル自身が、先ず他人がどう見ても「木の枝」にしか見えない棒を、腰に差しているのに過ぎなかった・・・
だから、これから賊徒の討伐に向かおうとしているリリアにしてみれば、到底滑稽なモノにしか映らなかったのです。
しかし、タケルの妻である婀娜那は―――
婀:お主がそう見てしまうのも・・・まあ、無理らしからぬ所じゃろう。
じゃが、妾の夫は、妾よりも強い―――それも格段にな。
それに、物は試しと云う事もあるじゃろう、行く行く妾共々使ってみてはいかがかな。
自分が慕う伴侶が、どこか軽く見られがちになったこともあってか、婀娜那はタケルの事を弁護しているようにさえ見えました。
確かに、母国では知勇共に名を馳せさせた有名人ではあっても、新天地でもあるこの土地では無名にも等しい・・・。
しかも、得物が只の棒きれの如くに捉えられたとあっては、最早道化か虚仮脅しの様に見受けられても仕方のないことだったのです。
それに、実はリリアの方も気にはなっていたので、邪魔をしない程度ならば同行することを許可し、ここ最近巷で噂になっている、件の賊徒が出没する集落に来てみたのです。
リ:ここが・・・そうらしいんだが・・・―――人っ子一人いやしないな。
既に略奪の限りを尽くされた後だった・・・からなのか、その集落からは、人がいる気配と云うモノが感じられませんでした。
しかしタケルは、確実に認識したほうがいいと主張し、渋るリリアを説得して各戸を訪れて回ったのです。
すると、とある一戸で異変を感じたタケルは、その家の出入口から出たすぐの処で、家の内部を伺うようにしてみた処・・・
リ:だから・・・もう誰もいなくなってるんだって―――、一足遅かったんだよ、きっと・・・。
タ:リリア様、ここから少しよろしいですか―――面白いモノが見れますよ・・・。
今回の件はガセだったのか・・・それとも、一足遅かったのか―――
その事に意気消沈しているリリアに、タケルは窓から内部の様子を覗いてみるよう促してみれば、果たして―――
集落の外部から来た者達がいなくなったのを感じたからか、その家の床板の一部が外れると、そこからはその家の住人達の姿が・・・
すると、その事の一部始終を見ていたリリアは―――
リ:・・・おい―――
民:あっ、しまっ―――・・・って、奴らと違う?!
リ:ヤレヤレ―――賊と私とを見間違われるとは・・・私って、そんなに人相悪いか?
婀:ハハハ―――中々にな、賊共も裸足で逃げるような面構えをしておるぞ。
リ:にゃんだとぉう〜?!
はンッ―――そう云うお主も、私と張り合うくらいに強面をしておるものじゃぞ。
婀:お主―――妾の事を揶揄いおるか・・・
タ:婀娜那・・・その辺にしておきなさい。
それに、今はお互い同士が争い合っている場合ではない。
それにしてもリリア様にはご迷惑をかけてしまいましたかな、何分我が妻も聞き分けが悪い方ではないのですが―――
リ:別に―――いいよ・・・
「私は・・・この二人に対し、どうして感情的になり、何を意識してしまっているんだろう。」
「確かにこいつは、私が以前、好敵手だと認めたあいつと同じ名前をしているけれど、所詮はあいつではないのに・・・」
「なのに、なぜかこいつの奥方の云う事に、いちいち反応をしてしまう・・・」
リリアは、自分の内で反省をしていました。
その場を和ませる為に、婀娜那が冗談交じりで云ったことに、つい向きになってしまっている自分がいる―――
目の前には、この家の住人達がいるのにも拘らず、二人とも大人気ない態を見せびらかしてしまっている―――
それに、確かにリリアも、タケルと婀娜那の夫婦仲が羨ましくもあったのです。
だから・・・これは・・・云うなれば、リリアの嫉妬―――
嘗ての好敵手にして、異性を意識した初めての男性と同じ名前を持つ人に、自分の想いを重ね合わせたから―――なのかもしれません。
=続く=