国の治安を乱す賊徒を討伐するため、リリアとタケルと婀娜那は、とある集落に来ていました。
・・・が―――何かの拍子で、言葉のやり取りの食い違いが生じてしまい、あたら仲間同士であるにも拘らず、賊徒共を討伐するよりも前に、こちら側で争いが生じそうになってしまっていたのです。
しかし、そこをタケルが仲裁に入り、どうにか仲間同士での争いは避けられたようなのですが・・・
依然として釈然としないのは、彼らの云い争いを目の当たりにしてしまった、この家の住人達であり・・・
民:あのぅ・・・だ、大丈夫なのでしょうか?
リ:ああ―――心配には及ばんよ。
お前達の事は、この私がきっちりと護ってやる。
けどな・・・あちらがどうかは判らんが―――な・・・
リリアには確たる自信がありました。
現在の立場に収まるまでは、自分の武技の腕を磨く為と称して、傭兵を生業としてこの大陸各地を巡った事があるのですから。
だから―――賊徒如きを討伐するのさえ、自分一人だけでも十分だとさえ思っていた・・・
そう―――それが、「普通」の賊徒ならば・・・
それはそうと、タケルと婀娜那の夫婦は―――
タ:どうしたと云うのだ・・・お前らしくもない。
婀:心配してくれておるのですか、これは有り難い・・・
ですがな、不思議とあの者を見ておりますと、妾の若き頃を思い出してしまうのです。
この頃では、余り歳は取りたくないものよ―――と、思うておりましたに・・・あの者を見ておりますと、無鉄砲だったあの頃の妾と、不思議と重ねてしまうのです・・・。
実は婀娜那も、リリアの事を揶揄うつもりなどありませんでした。
それと云うのも、婀娜那自身も、今のリリアと同じくらいの年頃に、「盗賊ギルド」の頭をやっていた―――やんちゃな時代があったのですから。
だからこそ、侠気・仁義共に弁えたリリアの事を、生温かく見守っていこうとしていたのです。
けれど・・・そんな事とは別に、こちらの事情とは関係なく、賊徒共は襲い来るわけであり―――
リ:来たか・・・
おいっ―――お前達がこの辺りを荒らし回っている連中か!
賊:だとしたらぁ〜〜?
リ:ブッ潰してやんよ・・・それこそ、お前達の欠片も残らないくらいにな―――!
またしても、飽くことなく賊共は襲ってきた・・・
けれど今回は、この賊共を、討伐目的で自分達の集落に来てくれている人達がいる・・・
だから、もう自分達は安心なのだ―――そう、この集落の住人達は認識をしました。
ですが・・・実は―――
それでは半分しか正解ではなかったのです。
確かに、リリアと婀娜那の二人の武勇には、住人達も賊共も目を見張る処がありました。
けれどそれは・・・相手が普通の人間だったから―――
―――「普通の人間」・・・?
では、この賊共を率いる「頭」の存在は、そうではないのか・・・
その真実が、今明らかになろうとしていたのです。
第三十七話;護剣
リ:やるみたいだな―――あんた!
婀:お主こそ、妾の前で大言を壮語するだけの事はある様じゃ。
リリアが得物としている「鋼の剣」―――それよりかは少し大身で、扱うとなると慣れるまでには骨も膂力も要る・・・
そんなモノを、婀娜那は自分の手足の如くに振るっていたのです。
それこそは、まさしく一騎当千の武―――
敵を薙ぎ払い、跪かせることに長けたその武は、自分にも似た処があるものだとリリアは感じました。
しかし―――自分が期待をしていたタケルは・・・と、云うと、
自分たちと同じ戦場には居合わせず、云わば後方を―――集落の住人たちと混ざっている処を、リリアは視認していたのです。
この事実に、リリアはがっかりとさせられるのですが―――
リ:なんだよ・・・あいつ―――がっかりさせてくれる。
私が知っている驍は、あんな風には―――
婀:そうではない―――得てして、猛獣の雄とはあんなものじゃよ。
それより・・・出てきたようじゃな、こ奴らの親玉が―――
「な・・・なんだ―――あいつは!」
「人間じゃない・・・」
「もしかすると、この近辺の集落を襲っていた賊共の頭と云うのも―――」
全身が、深い緑色をした異形―――「鬼神」・・・
それが、この賊たちを率いていた者の正体でした。
人ではない体色―――
人ではない骨格―――
並はずれた身体能力―――
そんな存在が、よもやこの大陸にいるものだとは、リリアも露ほども知らなかったのです。
ですが・・・それは、知らなくても「当然」だったのです。
なぜならばこの異形は、ここ最近この大陸に―――
いえ・・・正確には、この地球に流れてきたばかり―――
それに、こうした行為に及んでいると云うのも、「銀河」と云う、もう一つ広い枠組みの中で悪行を重ねていた結果、自然とそうした行為を取り締まる機関に追い立てられてしまい、
その機関から逃れるため、まだそんなに発達していないと見られるこの地球を選択した・・・それが総ての真相だったのです。
けれど、その事は「今」―――関係ありませんでした。
少なくとも・・・そう、この夫婦の前では―――
婀:さて・・・露払いはこの辺にしておこう。
お主の相手は―――ほれ、あそこに見える妾の夫がしてくれる。
リ:お・お・お・おい―――! ちょ、ちょっ・・・それ本気?!
手下のこいつらでさえ、相手に出来ない・・・
婀:それはちと違いますなあ―――リリア殿。
妾の夫は、このような雑魚共を、相手に「出来なかった」・・・のではない、相手に「しなかった」―――のじゃ。
それに・・・あの人も自分の出処と云うモノを弁えておる。
精々愉しみにしておくこと―――じゃな。
てっきり、体格がいいばかりで、存外に肝の方は小さいのでは―――
それが、リリアがタケルに対してがっかりした大きな要因でもありました。
けれど、この人物を夫に持つ妻は、自分の伴侶こそが真の強者だと嘯きました。
すると、この証言の裏付けとなるものが、この後判明してきたのです。
それも・・・賊の頭である、異形の存在から―――
タ:お主の相手は、どうやらワシらしい―――と、云う事で、一つお手柔らかに願おうか・・・
鬼:ぬしの持つ、その剣―――・・・
タ:ほう、知っていると云うかね、この剣のことを・・・
鬼:云わずとも―――その剣こそは、武を極めんとする者、誰しもが所有を夢見る業物。
リ:えええっ?! そんな・・・あんな棒きれの様なのが??
鬼:クフフフ―――これはお笑い草。
彼の剣こそは、「王者の持ち物」と云うても、差し支えのない代物。
タ:何かと取り違えているのではないかな。
そちらのお嬢さんの謂れの様に―――・・・
そう、タケルが云い終らないうちに、異形の存在は、自身の得物である大斧でタケルに打ちかかってきたのです。
ところが・・・大斧は、タケルの身体に届くことはなく―――
それが逆に、その棒きれが、只の棒きれではない証しとなってしまっていたのです。
所有者の感情・思考に反応し、万事の災厄から総てを護る万能の盾―――「晄楯」・・・
そんな優秀な能力が発揮される、その棒きれこそ、この世にたった一つ残された「聖剣」―――「緋刀・貮漣」なのです。
=続く=