振り下ろせば、肉も骨も砕け散らんばかりの、異形の一撃を・・・タケルは苦も無く捌いてしまいました。
そしてその現実は、タケルのことを軽く見ていたリリアにとっては、衝撃的でもあったのです。
リ:あ・・・あいつ―――
婀:そう、肩を落とされるな、お主の武も中々のモノじゃよ。
それは、妾にも云えた事じゃがな・・・総じてしまえば、妾の夫の武が、ずば抜けておる―――それだけのことなのじゃよ。
自分にも逼迫するだけの実力を持つ婀娜那が、どこか諦めにも似た表情で、自分の夫を評価する・・・。
いつしか人は、自分の限界という「枠」を知ってしまう時が来る・・・
その現実を知ってしまっているかのような、婀娜那の一言―――
ならば自分は―――・・・
その事は、リリアの前にも、「そうではないのか」―――と、突き付けられた瞬間でもあったのです。
そんな外野達とのやり取りとは関係なく、実際に刃を交えている両者は―――
鬼:グ・フ・フ・フ―――やはり、思った通りだ。
その剣、ぬしには相応しくはない、さっさとオレ様によこすがいい・・・!
タ:(ふぅむ・・・それにしても、我らの設置している網の目を掻い潜って、既にこれだけの者が・・・
これは、今回の事案も含めて、あの方に奏上して、詳しい調査をしなければ・・・)
鬼:―――おい! ぬし・・・聞いておるのか!
タ:うん? いやすまん、少々考え事をしておったのでな、聞いていなかった・・・
先程の一撃が、「小手調べ」とでも云うように、タケルの「挑発」にも聞こえた一言によって、猛った異形は、
今度は全身全霊を込めて打ちかかり始めたのです。
しかし、それでいても、タケルは涼やかなモノで・・・
けれども、その表情とは裏腹に、その剣の最大の特徴が、その場に発現してきたのです。
そう・・・柄の両側から延びる―――光の刃・・・
リ:あ・あ―――あれが・・・あの剣の真の姿・・・
婀:勝負は既に見えましたな。
何人たりとて、あの刃を防ぐ手立てを知らぬ・・・。
今、現実を目にして、初めて分かった事―――
それは、如何にして自分が知る世界が小さく、未知の世界が広大であるか―――と、云うこと・・・
しかも、武の長者たる者は、小手先―――と、云うような、小細工を弄するまでもなく、たった一撃のみで・・・
異形である「鬼神」を葬り、轟音と共に崩れ去っていく巨体を見て、リリアが実感していたことでもあったのです。
第三十八話;伝承
こうして―――自分達の国を荒らし回る賊を退治出来はしたのですが・・・
その反面、リリアはどこか後ろ髪を引かれる思いだったのです。
その事を、タケルに詫びようとすると―――
リ:う〜〜・・・あの、その・・・すまなかった―――な・・・
タ:ん? 何のことです。
婀:フフ―――リリア殿は、当世随一の武人の活躍ぶりを見て、感傷に浸っておるのですよ。
あんなに巨い図体をしてるのに、危険な事は奥方に任せきり―――
そんな奴が、自分が認めた「あいつ」と同じ名―――だ、なんて・・・
詰まる話し、先程までリリアがタケルのことを軽く見ていた原因とは、そこでした。
しかし、リリアのそんな思いは、自分達でも手に負えなさそうな相手を、たったの一撃で葬った漢の武を見た時に、打ち据えられたモノでした。
それにしても、こんな自分に小莫迦にされたところで、その人やその人の奥方は怒るでもなく、しかしこれでは一層、自分が無礼者の様に思えてしまうのですが・・・
まだ更に、驚かされたことには―――
タ:いえ、逆にお礼を述べねばならぬのは、ワシらの方です。
いや、実にいいモノを見させて頂きました。
お陰様で、今回のワシらの旅の目的も、本懐の成就を遂げられると云うモノです。
今回の、今までの一連の流れとして、一つのテーマとしてあったのは、タケルと婀娜那の、果てしない「旅」の、その「目的」・・・
一体この夫婦は、なんの「目的」をして、「ガルバディア大陸」から「エクステナー大陸」へと流れてきたのでしょうか。
その「最大」の「目的」と云うのが―――・・・
タ:リリア殿、あなた様には、この剣を授かって欲しいのです。
リ:・・・は?え?? い―――いや、なんでそうなる?? こんな大層なモノ・・・受けられやしない!
リリアは、耳を疑いました。
振れば、須らく敵を薙ぎ払い、敵からの攻撃も、防ぎ切ってしまう―――そんな万能の剣・・・
その剣を、身体の一部の様に操れると云うのに、その優れた特徴を、今のこの場で知った自分が、元の持ち主と同じように操れるわけがない。
けれど―――・・・
それは、リリアの葛藤でした。
一見しただけでは、「木の枝」か「棒」のように見えてしまうモノでしたが、その実は、究武者の誰しもが、その所有を夢見る、幻の武具であることを知った時、
リリア自身も、胸の内では、そうした思いがない―――としたわけではなかったのです。
しかも、タケルからは、まだ更に一言が―――・・・
タ:そこまで拒まれようとも、あなた様にはその資格があるのです。
それに―――この事自体は、現在の所有者であるワシの意思ではなく、この剣の意思によるモノだからなのです。
リ:その剣の―――「意思」・・・?
その剣には、自分なりの意思と云うモノを備えていると云うのか??
未だに信じられない現実・・・
その「剣」―――いわゆる、無機物に等しい存在が、自らの意思を持って、リリアを新たな主に選定したと云う、事実・・・
期せずして、最強の武具との噂の、誉れ高い「剣」が―――現在、自分の手元にあると云う、事実・・・
まるで夢だ―――そうだ、これは何かの間違い。
夢の中での出来事。
そう思ったリリアは、自分で自分の頬を、思いっ切り抓ってみた処・・・
リ:あ痛たたた・・・ゆ―――夢じゃなぃい?!
婀:あっははは―――当たり前じゃ。
それにしても、妾が思うておったよりも、愉快者であったようじゃな・・・現在のリリア殿は。
リ:(はあ?)はあ〜・・・それにしても、なんだか気が引ける話だよな。
あんたみたいに、自在に使いこなせる自信がないよ・・・。
タ:いえいえ―――無理に、ワシと同様に扱わなくともよいのです。
あなた様には、あなた様の――――総てを護りし剣が存在します。
それもまた、その剣の意思でもあるのです。
なんだか―――判ったような、判らないような・・・
しかし、リリアのその疑問は、現在の時点では半分正解だったのです。
その剣は、現在の所有者の持つ特性に合わせられるからこその、一つとして同じ形容を持たず・・・
それでいて、「総てを護りたい」―――と、云う、「所有者」と「剣」の「意思」が同調した場合に限り、
攻防において、他に並ぶべきモノは莫いと伝えられる、「緋刀・貮漣」の潜在能力が引き出されてくるのです。
=続く=