第四話;石牢の内にて
そこは、暗い石牢の内―――その内に、鎖で壁に繋がれているリリアがいました。
しかも彼女は下着姿・・・と、くれば、なにやらいかがわしい拷問の類をつい想像してしまうものなのですが、それはやりたくとも出来ないと云うもの・・・
それというのも、そこにはそうさせないだけの―――云うなれば「番犬」のような存在がいたからなのです。
それにその存在は、艶っぽいリリアの姿には全く興味がない―――と、云いた気に、全く飽くことなく下着姿の虜囚を見つめていたのです。
そんな奴を―――まるで睨むかのように、リリアもただ彼方を見ていただけ・・・
それに、どうしたことなのか、ここまでの辱めを受けながらも、リリアは喚かなかった―――自分を捕まえた奴を罵倒しなかった―――激昂すらしなかったのです。
或いは、彼女は・・・自分を絡めた相手―――ラスネールに対し、何かを感じていたかのように、大人しく彼の縛についていたのです。
それにしてもなぜ・・・彼女ほど武勇に優れる人物が、そうしたと云うのでしょうか。
いや・・・それよりも―――
リ:・・・おい、そろそろ何か話してくれてもいいんじゃないのか―――
ラ:「話す」・・・? 「話す」事など何もありゃせんよ―――お嬢・・・。
リ:とぼけるな、お前が・・・このオデッセイアより北方の国―――「プロメテウス」からの依頼で、私の首を獲りに来たのはよく知っている。
そこを私が無理を押して、驍探索の旅に随伴わせてしまったのだからな・・・いつかはこうなるモノと思っていた―――
だったらどうして・・・すぐにこの私の馘を刎ねない!
リリアも―――いつかはこうなることを覚悟していました。
それに元々ラスネールは、オデッセイアがある大陸の北方に位置する「プロメテウス」と云う強国からの依頼を受けており、
彼らがこの大陸を統一するのに、最も邪魔な存在であるリリアを排除させる目的で、ラスネールを雇っていたのです。
そのことを、勿論リリアは知っていました。
けれど、喩え知っていたとはいえ、当時は腕の立つ者が一人欲しいと思っていたので、
自分を武闘大会で負かした驍と云う男を探す旅に同伴させる一方、四六時中自分に隙があったのなら、いつでも馘を獲ってもいい―――と、云う条件を突き付けて、ラスネールを随伴させたのです。
然しながら・・・常識的には考えられないこの条件を―――あっさりラスネールは呑んだのです。
こうして奇妙な関係は始まり、事の顛末は件の如し―――と、なったわけなのですが・・・
けれど、ここでリリアが元々の自分達の関係を暴いたところで、老練の傭兵は「我事関せず」―――とでも云いた気に、ただ黙秘を貫いていたのです。
ところで―――・・・どうしてこのようなことになってしまったのか、少し順を追って垣間見てみましょう・・・
ある日、いつものようにリリアは街中を散策していました。
するとそこへ―――いつか別れた老練の傭兵が彼女の目の前に現れ・・・
リ:―――よう、ラスネール・・・久しぶりだな。
どうした、何か用でもあるのか―――?
ラ:ああ・・・ある―――「上」からの催促が来たもんでな・・・手っ取り早く済まさせてもらう―――
そう云うと、一介の老傭兵は、素早くリリアを取り押さえました・・・。
その「早さ」に―――リリアは一瞬たじろぎ、僅かな時間に付け入る隙を与えさせてしまったのです。
それにしても・・・見かけの上では「年老いて」いるとは云え―――身体も幾分かリリアよりも巨きなこの男が、こんなにも素早く動けるとは・・・
リリアは愕然としていました―――
そう・・・今からして考えてみると、自分の馘がこの男によって獲られると云うのは、彼の言にもあったように本当に「造作もない」事だったのだ・・・と―――
彼の能力を、全くもって見誤っていたのだ・・・と―――
自分が活かされていたのは、この男の、ほんの「気紛れ」でしかなかったのだ・・・と―――
だ・・・と―――したなら、どうしてラスネールが、今にしてこの行動に踏み切ったか・・・なのですが、
彼自身が述べていたのには、「上からの催促」とだけ・・・
ならばやはり、「プロメテウス」からの―――と、思いたくもなってくるのですが・・・
一つ―――彼に関しての記述で、前回のお話しで参照にして貰いたい箇所が・・・
それは・・・ラスネールが、「同時期に相反する依頼を請け負っていた」・・・と、云う箇所―――
つまり、現在彼が動いているのは―――・・・
リ:「上」・・・なるほどな―――やはりお前は、プロメテウスの連中にせっつかれて・・・
ラ:フ・・・お嬢がそう思っていたいなら、そう思っていろ―――そこはお嬢の勝手だ。
だが・・・折角なんでな、一つだけ教えておいてやる―――
実はな・・・このワシの「主」は、もうここに来ているのだよ―――
「奇妙」―――と云えば、あまりにも奇妙でした・・・
それもそのはず、ラスネールにリリアを拐よう依頼した「主」が、もうすでにこの石牢内にいると云うのですから・・・。
そのことに、先ずリリアは「奇妙」に思うのです。
それと云うのも、この石牢自体が、元々売春宿に売られる娘を監禁しておく場所であり、事実その時も・・・身を売られる運命の、13・4くらいの少女が一人だけ・・・
だからこそ、ラスネールの依頼主がいようはずがない―――と、そう・・・思っていたら…
依:ほほう・・・殺さず活かして捉えたか―――依頼した内容とは少し違うが・・・まあいい。
リ:(!) お前は―――!
依:いい格好だな―――リリア=デイジィ=ナグゾスサール・・・
お前の父の代から、散々手を焼かされてきたが―――これでお前の領土は、我らがプロメテウスのモノだ・・・。
タイミング良く石牢内に入ってきたのは―――ラスネールにリリアの馘を獲るよう依頼していた人物でした。
しかしその彼の顔を―――やはりリリアは知っていたのです。
そう・・・大陸の北方から、常に南下を目論んでいた、「プロメテウス」と云う国の一官吏―――
それに彼は、リリアの父親にも無条件降伏を促し、なんとかしてオデッセイアを傘下に置き―――南への足掛かりを掴もうとして躍起になっていたのです。
そんな彼を・・・リリアは傍から見ていて、非常に醜いと思いました。
自分達の利権だけを見て、元からそこに居着く者達の事を考えようともしない―――
それは最早、「横暴」と云う言葉ですら生温い・・これは「脅迫」であり―――「恫喝」なのだと思っていたのです。
そんな事をする国に、従属する所以はない―――
それにリリアは、そこまで莫迦ではない―――
自分一人だけなら・・・まだしもどうにか我慢は出来るかもしれないけれど―――
自分を慕う民達ににまで、そんな恥辱を味わわせる道理が見つからない―――
こうしたリリアの考え方は、プロメテウスの官の間に瞬くの間に広まり、第一級危険思想人物視され・・・然るべきの措置が取り計らわれた・・・
そして今―――リリアは身動ぎ一つ出来ない・・・
そんな彼女の下に、プロメテウスの官の一人が―――リリアの馘を断つために、佩いていた剣を抜き、近付こうとした・・・
まさにその時―――
ラ:―――まあ・・・そう急きなさんな・・・って。
プ:き―――貴様・・・この期に及んで何をするか! 放せ!!
リ:ラス・・・ネール?
またしても、ラスネールが奇妙な行動を取り始めたのです。
それに今度は、リリアの馘を断つ為に近付こうとしたプロメテウスの官の腕を捻り上げ、容易にはリリアに近付かせまいとしていたのです。
この千載一遇に―――どうして・・・?
その疑問とする処は、すぐにでもプロメテウスの官の口からも漏れもし、今度の彼の行動に関しては、一番に不可解に感じていたリリアも、この彼の行動には虚を衝かれていたのです。
しかしながら・・・どうしてラスネールは、今をもってしても、双方にとっても理解に苦しむ行動を取り続けていたのでしょうか・・・。
=続く=