以前より、懇意にしている人物から、「また自分の国に来て貰えないか」―――との、打診を受けたリリアは、
ならば今回は、日頃親しくしている、市子や蓮也も招待してやろう・・・と、思い、彼らにその相談を持ちかける為に、先ずは、蓮也の屋敷を訪れたものでした。
すると、偶然にも、そこには市子も居合わせており、これは好い機会だと思って、例の話しを切りだそうとしていました。
片や―――市子に蓮也も、例の「噂」のことを知っているか、リリアに質そうとしていました。
嘗て、自分達の故郷にて、猛威を揮っていた、畏るべき術の遣い手・・・その人物が、
故郷遠く離れた、この異国の地にて、今まさに混沌を招こうとしている―――その事実を。
その為には、先ず、落ち着いた環境の方が望ましいと思ったからか、予め一席を設けていた蓮也は、リリアにも勧めてみたのです。
すると―――・・・
リ:おっ―――こっ、これか・・・いやははは、参ったな、こりゃ。
市:・・・何か問題でも?
リ:え? いやぁ〜・・・実は、以前にも蓮也に勧められて、飲んでみたことは、飲んでみたんだけどなあ〜・・・
蓮:―――どうぞ・・・
リ:あっ、はい・・・―――うっぐ、にっぎゃ〜い。
やっぱ、この味苦手だわ・・・好きになれそうにもないや。
この大陸にある、「遥か東の異国の国」―――そこの、主に「武家」と呼ばれる者達の間で、嗜まれていた嗜好―――「茶道」。
その、そこで良く飲まれていた「抹茶」なるモノの、ほろ苦い味に、思わずも眉を顰めてしまうリリア。
それと云うのも、こうした独特の味をした嗜好品は、元々この国にはなかったモノであり、
よくこんなモノを平気で啜っていられる、市子や蓮也達に、半ば感心をしていたのです。
閑話休題―――
さて・・・幾分か、話題は主旨から逸れたものの、互いに話すべきことは話しあい始め・・・
リ:いや、実はな、今回あんた達を招待したいところがあってな。
ナニ、気にすることはない、そこは以前、私やソフィアも行ったところなんだからな。
蓮:おお―――なるほど、そう云えば、伝え聞きましたところによると、リリア殿が大きく変わられた契機でもあるとか・・・
そのような場所に、拙者や市子殿を招待いたしたいとは・・・いやはや、身に余る光栄にござる。
市:それに―――やはり、リリアさんには、それだけの器量が備わっていたのですね。
二人から褒めちぎられると、流石に照れ臭そうに頭を掻き、笑ってその場を濁そうとするリリア―――
本来は一国の王家の娘で、庶民とそう変わりはない市子達と談笑すると云う事など、殊更、身分制度が厳しかった封建制の社会に於いては、通常では考えられないことでした。
しかしリリアは、そんな事が、本当は間違いではないのか―――と、気付き始め、自ら率先して、型破りなことをしていたのです。
或いは、庶民の格好をし―――
或いは、庶民の喋る言葉を遣う―――
本当は、王族と云えど、一人の人間―――自分は、こんなにも人間臭いことだと云う事を、下々の者達に知らしめようとしていたのです。
それに、庶民達も、それとなく気付き始めたのか・・・それまで敬遠勝ちだったリリアに、徐々に相談を持ちかけ始め、
その事が講じてなのか、報酬を金銭で請け負う―――「傭兵」の様な事までし始めていたのです。
さておき―――リリアからの用件は、二人とも聞く処となったわけなのですが、それでは、二人の用件とは・・・?
蓮:実は―――ですな、この噂自体は、既にリリア殿の耳にも入っているとは思うのですが・・・
市:ここ最近、人々の口に上っている者のことなのです・・・。
蓮:それがですな、この者の正体が、拙者達が知っている者なのではないか・・・と。
市:今はまだ、被害に遭った―――との報告も、なされてはいませんが・・・
私達が知る、この人物とは、世間を畏怖に陥れた「極悪人」にして、「大罪人」でもあるのです。
この地域での活動が、よもやここまで表沙汰になろうとは―――
そう、多寡を括っていた、ここ最近話題になっている噂の人物は、自分のことをさも知るが如くに話すこの二人に、これから注意を払わなければなりませんでした。
未だ犠牲は出してはいない―――或る者の行方を探しだす為に、この大陸での捜索を始めたばかりなのに・・・
それを、自分をよく知るこの二人によって、自分を緊縛する縄目が、背後にまで迫ってきている・・・
しかも、その二人は、自分のことを詳しく知っていたものと見え、次には更なる情報の開示・・・その人物自身の名前が、白日の下に晒されたのです。
市:ですが・・・この人物は、私達が産まれる前―――随分な過去に、処刑・・・死んでしまっているはずなのですが、
まさか、この地にて、その名を聞くことになるとは思ってもいませんでした。
而して、その・・・「極悪人」にして、「大罪人」の名は―――
第四十一話;加東段蔵
蓮:市子殿が、斯様に云われますのも、既にこの世にいないはずの人物が、現実として、この地にて席捲をしている―――
それが、彼の噂の特徴にございましてな。
宜しく他者の姿を模しつつも、実体ではない―――その加東本人も、この噂によく似た幻術を駆使する者だった・・・と、そう、拙者は聞いておりまする。
時代の流れと共に、風化したモノと思われた、伝説の幻術師―――
それが実は、風化などされておらず、陰ながらにして、脈々とその畏るべき業が伝えられてきた―――
その場での市子と蓮也の会話は、そのことを如実に物語っていたのです。
逆にその事を、冷汗ながらに聞き耳を立てているのは、その名を受け継いだ人物―――
やはり、市子と蓮也の両者が危惧した通り、その業は、確たる後世に継がれていたようなのです。
しかし―――ここで気になるのは、この噂の人物の名が、「男性」を示すモノであること・・・
それに、云ってしまえば、この場にいた「男性」は、実は蓮也のみ・・・
だとすると―――・・・?
その人物は、蓮也達に気取られぬよう、こちらの様子を伺っているのか・・・
果てまたは、常人には及びもつかない術を駆使し、その場に佇んでいるのか・・・
真相までは判りませんが―――
ともあれ、この噂の人物の件に関しては、実害が出ていないと云う事で先送りにされ、
市子と蓮也が、パライソ国に行く準備が急がれたのでした。
=続く=