危うい処を助けられ、恩義を感じたからなのか、リリアの後をついてきた少女・・・。

しかし、口が(つたな)いからなのか、少女自身の名前すらも口にしないことから、どう呼んでいいか、あぐねていたリリアは―――

 

 

 

リ:それより、困ったなぁ〜。

  知らないわけじゃ、なくなっちゃったわけなんだし―――とは云っても、「おい」とか「こら」で呼ぶのも・・・

 

少:・・・・・・・・・――――――しの。

 

リ:は?え??

 

少:しの・・・・・・それが、あたしの名前・・・

 

第四十二話;少女・しの

 

今にも消え入りそうな、か細い声に一瞬耳を疑ったリリア。

「しの」―――

それが、この少女の名前のようでした。

 

けれども、それでも市子と蓮也の疑いは、全く晴らされたわけではなく、ここに奇妙な関係は出来上がってしまったのです。

 

ともかくも、リリアが計画している事の、大前提としての人員は揃えられたわけであり、

そこで最後に、サライ・オデッセイア共和国の都城である「ユーニス城」に、ソフィアを迎えに行く為、旅立つリリア達。

 

そして、その道すがらで―――

 

 

 

蓮:それに致しても、リリア殿には感謝せねばなりませんな。

リ:ん?どうしてだ。

 

蓮:いえ、なに、拙者達とてそうは見れぬモノを、今回見させて頂ける―――その事に相違ありませぬよな。

リ:まあな。

  それにな―――あれは何度見てもいいモノだぞ・・・。

  斯く云う、私やソフィアは、これで二度目になるけれども、また違った感動が、そこにはあるんだろうな。

 

  なぜか―――って、云うとな、そりゃ、最初は未体験だから、度肝を抜かれて、それでお(しま)い・・・ってな感じだけどさ。

  だったら、あんた達はどんな反応(リアクション)を、そこでしてくれるのか・・・私にしても愉しみなんだよ。

 

 

 

それは、ユーニス城までの道中、休息を入れた時に、なされた会話でありました。

それに、出立した時が、早くなかったこともあり、無理をしないで、そこで野宿をする準備をするリリア達。

 

各自の寝床を確保し、野犬や獣を寄りつかせないためにも、火を起こしそれを管理する・・・

そんな、基本中の基本の作業に、皆が没頭をしていた為か、ある異変に気付いてきたリリアは―――

 

 

 

リ:―――あれ? そう云えば・・・しのはどこへ行ったんだ?

 

 

 

助けて貰ったリリアに恩義を感じ、ここまで一緒についてきた―――と、思われた、謎の少女「しの」の姿が、いつの間にか見えなくなっていたのです。

すると、やはり、彼女に対して疑問を抱き続けてきた者達は、ここに来て一層の疑念を深めることとなり・・・

―――と、そんな時、間も悪く、どこからか戻ってきた少女に、市子は厳しい言葉を浴びせるのでした。

 

 

 

市:・・・今まで、どこに行っていたのです―――

 

し:・・・・・・・・・・・・。

 

市:それでも尚、返答(こ た)えず―――か・・・

  では―――これではいかがです・・・。

 

 

 

目を(つむ)りながらも、居合抜きの達人でもある市子は、自分が抱いていた、ある種の疑問を(ぬぐ)う為、()ずしのに問うてみたのです。

けれど、彼女からは、なんの反応もない―――()してや、返答(こ た)えすらなかったのです。

 

そこで市子は、しのを試すかのように、或る行動に出たのです。

 

それが、抜刀―――

 

けれど・・・

 

やはり、思っていた通り、喉元(のどもと)に切っ先を向けられたにも(かかわ)らず、

少女は―――しのは―――

身動(み じ ろ)ぎ、嬌声(きょうせい)のひとつも、あげはしなかったのです。

 

普通―――こう云った事をされたなら、庶民の・・・それも年頃の娘ならば、腰を抜かしてその場へとへたり込み、失禁すらしてもおかしくはないはず。

それに、この、市子の問い詰める姿に、しののことを心配するリリアの姿が、あったものでしたが・・・

今の、少女の―――少女らしからぬ反応に、思う処ともなったのです。

 

 

 

リ:・・・その辺にしといてやれ、市子―――

市:リリアさん・・・

 

リ:お前の云いたいことは、よく判るよ。

  いやぁ―――それにしても、しの、お前は大した奴だなぁ。

  市子の抜刀術を見て、眉一つ動かさなかったんだからな!

  そう云う私は・・・ちょっとチビっちゃったかなw

 

市:・・・フ・フ・フ―――それは済まぬことを致しました。

 

リ:しの・・・お前には、誰にも話したくない、知られたくない事情があるかも知れんから、ここでそれを聞くのは止めておく。

  だけどな、お前の気が少しでも変わって、知って欲しくなったら、迷わず私達の内の誰かに話せ。

  それでいいな、市子に蓮也。

 

蓮:仕方がありませんかな、リリア殿からそう釘を刺されては・・・

市:そうでございますね。

 

 

 

市子のみならず、実は蓮也までも、この謎の少女「しの」に対して、疑問を抱き続けている―――と、云うのは、リリアにも(ひし)と伝わってきました。

今回は、それが表面化してきたまでのこと・・・

けれども、自分の名前以外のことが、知られたくないのだと感じたリリアは、今は一時的にその事を不問にする事にし、明日の旅路の為の寝床に()くことにしたのです。

 

それにしても、市子の抜刀にも、身動(み じ ろ)ぎひとつしなかった少女の剛胆さに、リリアは興味を惹かれていました。

市子の抜刀の妙技は、実際に刃を交わしたことのあるリリアだからこそ、判っていたのです。

 

なのにその少女は、市子が、寸止めをする事が判っていたかのように―――動かなかった・・・。

あれはもしかすると、居合の間合いが、見えているのではないか―――と、するくらいに・・・。

 

ならば、それは同じく、市子の方でも―――?

 

いえ・・・市子は、先程の少女の反応(リアクション)を見て、「疑問」を「確信」に変えたのです。

それは恐らく、蓮也の方でも―――・・・

 

つまり、市子ほどの居合の達人の、「剣筋」及び「間合い」が、「見えている」―――と、云う事は・・・

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと