疑惑の夜が明け、一路、ユーニス城を目指すリリア達―――
けれど、その様相は、天候と同じ様に、晴々としたモノではありませんでした。
リ:・・・なぁ、市子―――ちょっといいか。
市:なんでしょう。
リ:もう、その辺にしといてやれって。
私ゃ、気も漫ろだよ。
市:リリアさんは、知らないからそう云えるのです。
それに私は、昨日の一件にて、確信いたしました。
もうそろそろ・・・自分が何者であるか、語っては頂けぬものでしょうか。
それでも尚、この期に及んでも、黙秘と貫き通すと云うのであれば・・・よろしいでしょう、ならば私が直接感じている事を述べてみるまで。
しのさん―――あなたは、「忍」の者ですね。
し:・・・・・・・・・・・。
リ:「忍」―――?
そう云えば、いつか蓮也も・・・
蓮:実は拙者も、この者のことを、「そう」ではないかと、疑っておった処です。
しかしそれも、昨日の一件にて、明るみになったと、そう思うのでござる。
あれほどの、神妙の抜刀術を―――躱す・・・いや、躱す程ではないことを、この者は既に見切っていたのでござる。
普通の娘御ならば、嬌声を上げ、尻もちを搗くモノを・・・なぜ、お主はそうしなかったか、
それは、修羅の場数を、幾度となく踏み越えてきたからでござろう!
市子の抜刀を、躱さなかった理由―――
それは、この少女が、市子の抜刀の軌道を見切っていたから。
そして、そのことは同時に、幾つもの死線を踏み越えてきていたから。
この国や、この少女、市子に蓮也の国にいるような、庶民の娘では、会得するはずもない技術。
そのことを試すかのように抜かれた市子の刃に、つい、そうした反応を示してしまったしの。
けれど少女は、そうした指摘を背中で受け流すかのように、また歩を進め始めたのです。
その事を市子は、咎めようとはしましたが、またもリリアからの抑制があったのですが―――
確かにリリアも、これまでの経緯で、この少女のことが、朧げながらも、判ってきたに違いはない。
けれど、少女自身から、そのことについての弁明也を聞かない内には、これ以上の進展は有り得ないとしていたのです。
とは云え、そうしていられるのも、今の内でした―――・・・
それと云うのも、次第に、刻々と状況は変化して行き、そうしなければならないほど、事態が逼迫してきてしまったのです。
ユーニス城まで、あと一息―――と、云う処で、最期の小休止を入れる為、近くのせせらぎで水を汲んでこよう―――と、リリア自らが提案し、その同伴にしのを指名しました。
いずれにしても、自分以外の者と、しのを一緒にしてしまえば、関係が更に気拙くなること、この上ない事が判っていた為、そうしたわけなのですが・・・
四人分に分けられるだけの量を、器に汲み取り、市子と蓮也が待っている場所まで戻ろうとした時―――
リ:気を悪くしないでくれ。
市子も普段は、ああじゃないんだけどな―――・・・
し:・・・・・・・・・。
リ:(反応は、なし・・・ね、参ったわ、こりゃw)
し:(!)―――・・・。
何者かの気配を、敏感に感じ取ったしのは、歩を進めるのを止めると、周囲の異変を感じ取る為、神経を集中し始めました。
しかし、その様相は、しの自らが、普通の庶民の娘ではないことを物語っていたことであり、
リリアも、いち早くこの異変に気付き、素早く対応できるように身構えたのです。
すると―――・・・
誰:フ・フ・フ―――ようやく見つけたぞ・・・
しかし、よもやこんな処にいたとはなぁ・・・
リ:(!)誰だ―――姿を見せやがれ!
空間に反響させるようにさせ、自分の位置を特定させ難くさせる術―――「木霊」
姿・実体は見せないのに、四方八方より、某かの声が聞こえてくるモノとなれば、誰しもが不安に駆られようと云うモノ。
而して、そう云ったモノは、忍術に於いても初歩の初歩、云わば基礎とも云えた為、本来そんな心得のないリリアにとっては、戸惑うばかりが先に立ってしまったのです。
けれど、この少女―――しのは・・・
し:・・・源蔵、そう―――最初の刺客は、お前か・・・
リ:は? ゲンゾー?? いや、私の名前はリリアなんだけど―――
し:・・・違います、今、あたし達を囲んでいる連中を率いている者のことです。
「初めて口を利いた・・・?」
いやしかし、それにしても、正体を判らなくさせる術を使う者の名を、こうまではっきりさせられるなんて―――
リリアが先ず驚いたこととは、そこでした。
少女が無口なのは、何も少女が「唖」や、交流を不得手とする者ではなかった―――
やはり、市子や蓮也の云っていたように、自分の正体を知られたくない―――他人と、ある一線を越えての深い関わりを持ちたくはない―――持ってはならない・・・
そうした特殊な環境の下に、身を置いていたからに他ならなかったのです。
そしてリリア達の前には、しのの呼び掛けに応じるかのように、「源蔵」と呼ばれた者と、その一党が現れ。
源:フン、手古摺らせおって。
それに、現地の人間を盾に取ろうなどとは―――安い考えだ。
し:なんとでも云え・・・ただ、あたしは―――
リ:ちょ〜いと待った。
えと・・・何? お前ら仲間じゃないのか?
源:・・・黙れ、小娘めが。
邪魔立てをするようなら、貴様から始末をしてやる。
し:止めないか! その人は、あたし達とは関係ない! お前が直接あるのは、あたしだけだろう!!
源:フ―――・・・どうやら、覚悟は出来ているようだな・・・
では、掟に従い、死んでもらう―――!
リ:だから、ちょっと待て―――って、云ってんだろうが!
お前らの話しの流れが、読めねぇっつうの!
第一、なんだって、お前がこの子を殺める謂れが―――
源:フン・・・つくづく物好きな奴よな―――
だが、まあよかろう、二人しての、死出の旅路の思い出にするがいい・・・
よいか、この者こそはな―――
第四十三話;抜け忍
ある「掟」に従い、限定された特定の「部落」や「集落」の内々のみで、「忍術」などを練磨する集団―――「忍」・・・。
而してその者達は、特定の「主」を持たず、何かしらの依頼をしてくる人物の、提示してきた報酬に応じた働きをする・・・
云わばそれは、先頃のリリアと同様の、「傭兵」と、そう変わりないことをしていたのです。
しかし、そうした「部落」「集落」は、得てして閉鎖的でもあり、外部からの侵入や―――時としては内部からの離反者に対しても、厳しい仕打ちが待ち構えていたのです。
そして、そう―――この少女・しのも、とある忍の集団から抜けようとしていた、「抜け忍」であることが知れたのです。
=続く=