自分の事情を、周囲りの人に話せなかった背景は、どことなく判って貰えた・・・
けれど―――今度は、そのことで他人を巻き添えにしようとしている・・・
「こんなはずでは―――」
しのにしてみれば、先ず一番最初にしなければならなかったのは、自分の身の安全の確保であり、
かと云って、「用心棒」を雇うにしても、先立つ物を持っているわけではなかった為に、
ならば・・・と、云う事で、少しでも腕の達ちそうな者の後をついて行き、有耶無耶の内に行方を眩ませる・・
しのは、自分の故郷から、この国に入ってくるまでの間、そうした手順で追っ手から逃れてきたのです。
そして、そうしている内に、リリアと遭遇し―――彼女に助けられ、またいつものように、「自分」と云う存在を隠しながら、情が移る前に消え去ろうとしていた・・・
ただ、想定外だったのは、リリアの仲間には、しのと出身地を同じくする二人―――市子と蓮也がおり、次第に、自分に向けられる疑惑の眼差しが強まってきていたのです。
そんな時、退っ退きならない状況―――「九魔」の・・・里の追っ手が、しのを捕捉してしまった・・・。
そこで暴かれる、しのの正体―――
先頃の、市子と蓮也の暴露により、二人の出身である地にて、猛威を振るっていた「極悪人」の名が、露呈してきてしまいました。
その「極悪人」こそ、しのこと、「加東紫乃」の父である、「加東段蔵」・・・
畏るべき幻術の遣い手として、世を混沌に貶めた、「大罪人」・・・
しかし―――その伝説は、遙か遠い過去の出来事のことであり、巷に流れている語り草も、脚色の色濃いモノだったのです。
なにより―――この伝説で語られている「加東段蔵」も、「遙か遠い過去」の人物・・・
つまりは、しのの父である「加東段蔵」が、全く同じき存在ではなかったのです。
それに、しのにしてみれば、「修行」には厳しくとも、それ以外では優しい「父」でした。
だからこそ、市子からなされた云われようにも、「それは違う」―――と、声高にして云いたかったに違いはありませんでしたでしょう。
けれど、それを云ってしまえば、すぐさま自分の正体がばれてしまう・・・
だからこそ、しのは、そんな時でも言葉を「ぐっ」と、咽喉の奥で堪え、黙秘を続けたのです。
でも―――・・・それも、もう、ここまで・・・
終に自分は見つかり、「裏切り者」の烙印と共に、果てるしかないものか―――と、そう思われた時、
こんな自分を救ってくれたのは・・・
リ:蓮也―――ゴメン! 腰のモン、一つ貸して?
蓮:構わんでござるが・・・もしやすると?
源:フッフッフ―――これはお笑い草だ、この女を助けるにしても、得物らしきモノを持っていないのではなぁ!
況してや、腰に差してあるのは、木の枝とは・・・ハッハハハ―――!
リ:るっせい奴だなぁ・・・こっちにも事情っちゅうもんがあんだよ!
市子も蓮也も、現在リリアが帯びている、「伝説の名剣」のことは知っていました。
「振れば、この世にて斬れぬモノは莫し」―――
さりとて、明確なまでの「刀身」は存在せず、持ち主自身の能力に、比例をすると云う・・・
しかもリリアは、この時点でも、刀身を発現させることは出来てはいなかったのです。
だからこれでは、大見得を切った割には、何も出来はしない、無能の輩と同じ―――
そう思われたくない為か、一時の恥とは知りながらも、蓮也の「脇差」を借りることにしたのですが・・・
蓮:リリア殿、参りますぞ―――それっ!
リ:よしっ―――・・・って、あああっ! なにしやがんだ、この野郎!
源:フフ―――知れたこと。
みすみす、手を貸すのを見過ごせられようか・・・
貴様達は、このまま・・・己の無力さを感じながら死んでいくのだ!
リリアに協力する為、自分の脇差をリリアに投げた蓮也ではありましたが、
その武器は、リリアの手に届くまでに、源蔵達によって阻まれ、しかもリリアの手の届かない処に落ちてしまったのです。
これでは圧倒的な不利―――しかも、リリア達を取り巻く、数多の忍達の正体が・・・
リ:(なっ―――なんだ・・・あれは?! 私は・・・悪夢でも見てんのか??
蓮也や・・・市子に斬られても、斬られても動けるなんて・・・
―――まさか? あの、源蔵とかいう奴らの背後には、エルムさんやマキさんみたいな存在が・・・?)
珍しくも、リリアが動揺した事実―――
それは、市子や蓮也に斬られても、また動き出す忍達・・・
そんなモノを、普通に見させられたら、リリア自身が以前から知っている、ヴァンパイアの「公爵」エルムや、「侯爵」マキの存在のことを疑ってしまったのです。
けれど、彼女達は、これまで幾度となく、自分達を助けてくれた・・・
それが、今更になって、自分達を見離す謂れが―――・・・
それは、リリアのみが知る事情で処理しようとしていた為、生じてきた疑問点だったのです。
けれども、そのことは、次第に払拭されていきました。
それと云うのも、この「死なずの忍」の正体を、知っている者がいて、その樞枢を明かしてくれたのです。
し:・・・なるほど、敵に回すと、これほど厄介になるとは―――
リ:しの・・・お前、アレの事を知ってるのか??
し:知っていますよ―――
だって・・・コレは、あたしの里で培われてきた、忍の業なんですから・・・。
いいですか、アレは人なんかじゃない―――況してや、生物ですらないんです。
だって・・・アレは―――
第四十五話;傀儡―――死なずの忍
この―――死なずの忍達の正体を暴いたのは、やはりその忍術が培われてきた里の出身者である、加東紫乃でした。
しかし、この、しのの行為は、源蔵にしてみれば面白かろうはずもなく、更なる侮蔑の言葉を浴びせかけてきたのです。
「卑怯」―――自分が助かる為なら、里が秘匿としてきた「術」の正体をも暴露する・・・「恥知らず」。
なぜ、忍の術や業などが、地域限定なのであり、秘匿とされてきたのか・・・
その理由の一つとして、「不明瞭さ」などが挙げられるのではないでしょうか。
それと云うのも、術の効果が現れるまでに、愕々しい印契や、呪の類を唱えれば、相手が隙を見せたり、混乱に陥ったりしてしまう・・・
そこで、まだ更に煙幕を焚いたり、火花や燃え盛る火焔などを用いれれば、その場を未曽有の混沌に持ちこむことさえできるのです。
しかし、その種が判ってきてしまえば、そうした混乱に対しての処理が出来ようと云うモノなのです。
けれども―――・・・
こうした「まやかし」ではない、「真実あるモノ」を見せられてしまった時には・・・
=続く=