未だ、達せられていない、自分の目的・・・
この世で、たった一人しかいない、「父親」を殺した仇敵を見つけ、その罪を贖わせる為、
しのは、エクステナーの広大な大地を、行く宛てもなく、ただ彷徨い続けていました。
しの―――こと、「加東紫乃」は、今更ながらではありますが、「九魔」と云う、忍びの里の出身であり、
しの自身は、里の棟梁である「加東段蔵」の血筋を引く閥に産まれ、行く行くは、将来の「九魔」を背負って行く宿命に育てられてきたのでした。
しかし―――・・・それは、ある日のこと。
いつものように、里で修業に明け暮れていた時、父である「加東段蔵」の訃報を知るに及び、
その噂の虚実を見極める為、父訃報の地まで足を運ばせた処・・・その「噂」は「真実」であることが判った―――
優秀な忍であると同時に、年相応にしては若かった、しのの父―――「加東段蔵」・・・
その早すぎる死に、しのは泣き崩れました。
誰が自分の父を殺したのか―――
故郷でなされている、例の噂―――あれは、過去の昔語りだったはず・・・
だとしたら、一体、「誰」が―――「何」のために・・・
しのは、父の直接の死因を確かめる為、何度も現場を改めてみました。
そして、終に―――
「これ」が、父を直接殺した「原因」だろうと云う事が判る、「証拠」を見つけました。
それが―――・・・
恐らくは、父である段蔵が、今わの際に残した、自らの血で綴った「血文字」―――
しかし、通常の人間が目にしても、何が書かれてあるのかまでは判らない・・・
けれど、それは当然だったのです。
それと云うのも、その場に残されていた「文字」こそは、彼ら・・・「忍」の間にしか通用していない「忍文字」でもあったのですから。
そして、そこに書かれた「証拠」こそ―――「カイエン」・・・
つまり、しのは、父の仇敵である「カイエン」を探し出す為に、自分すら未知である、この土地に足を踏み入れていたのです。
それに、しのには判っていました。
父の仇敵を追う為、「里を抜ける」―――と、云う事は、「そうした対象」に、充分なり得てしまう事を。
それが喩え、九魔忍軍棟梁の嫡流だったとしても・・・
―――とは云え、いざ勇み立って、しのの故郷である「常磐」から出てはみたものの、
如何にせよ、未知なる地は不案内であるが故か、立ち処にしのの意気地も挫けそうになるのですが、
既に里を抜けている事もあり、「抜け忍抹殺」の為の追っ手・刺客も差し迫ってきていたこともあり、遮二無二、前に進むしか選択の余地は残されていなかったのです。
それに、そこでしのには、ある一つのことが、気懸りとして残されていたのです。
それが、しのがまだ幼少の砌にて、修業に明け暮れていた時、友誼を結んでいた、「たまも」と名乗る存在・・・
そんな理解者にも、里を抜けると云う事を、予め告げず、行為に及んでしまった事に、しのは後悔することになるのですが―――
一方のたまもも、不意にいなくなってしまった友の、この突発的な行動原理を、里の長から聞くに及び、矢も楯も堪らなくなり、すぐさま後を追う事になったのです。
その後の顛末として、追っ手である源蔵に追いつかれてしまったものの、当時知り合ったばかりの、リリア達の援けを借りれることになり、
どうにかこれを退けることは出来た―――
しかし、同じ「常磐」出身者である、市子や蓮也から疑われたこともあり、
現在はこうして、どこに潜んでいるのかも定まらない父の仇敵を探す、行く宛てのない旅を―――不案内な、広大な土地を、彷徨い続けていたのです。
周囲りの、目にするモノ総てが目新しく、目移りしてしまっている間に―――
どうやら、道に迷ってしまったらしく、加えて、疲労も溜まっていたこともあり、しのは行き倒れてしまいました・・・。
そして、再び意識を取り戻すと、そこは―――・・・
第四十八話;汝求めよ、されば救われん
こじんまりとはしているものの、どこか所有者の趣味の良さが伺える、建物内の限定された空間。
いや、その前に―――自分は、道に迷った挙句、体力が尽きてしまった為に、行き倒れてしまったのではないか・・・と、思われたのでしたが、
現在、自分が置かれている状況を推察してみて、きっと、どこかのお人好しが、自分を介抱する為に、お人好しの家に連れ込んできたのかもしれない・・・と、思うようになったのです。
すると、果たして―――しのの思惑通りか、恐らくは、この家の所有者と思われる「お人好し」が、しのの容態を見に来たものと見え・・・
誰:おや―――気が付いたかい。
し:あ・・・の―――あなた―――は?
誰:ああ、道のど真ん中で、ぶっ倒れてるあんたを、見棄てておけるほど、薄情には育ってきてないもんで・・・ね。
あんたを、ここへと連れ込んだ―――「お人好し」・・・さ。
言葉遣いは、「粗暴」―――どことなく、あのリリアを彷彿とさせるモノでしたが、
困っている者を、放ってはおけない―――と、云う、その人物本来の優しさ・・・
いや、昔から、そう躾られてきたことも、関係はあるのかもしれませんが・・・
取り敢えずは、そうした処に好感を持てたしのは、助けてもらったお礼を、そこで述べたのです。
し:あの・・・ありがとう―――
誰:いいってよ―――別に・・・。
そんなことより、お礼をするなら、ここの家主にするんだね。
し:えっ・・・でも―――
誰:私の出身てさぁ、ここじゃなくって、もっと離れたところなんだ。
それに、今回は、上からのお使いでね、「サライ・オデッセイア共和国」ってとこからの帰り―――に、倒れてたあんたを見つけたってわけよ。
いやぁ~あんときは往生したもんよ。
なんたって、あんた、衰弱しきってたもんなぁ~。
そこで、知り合いでもある、ここに連れ込んでみたところ、家主の人も、あんたの介抱を快く引き受けてくれてね。
し:そう、だったんですか・・・。
それにしても、お使いの途中で、こんなことになってしまって―――真に、申し訳ございませんでした。
この娘の話し方―――自分が知る地域でも、しのが口にするような話し方・・・所謂、「訛り」や「方言」は、耳にした事がなかった・・・
けれども、取り分けて、警戒を意識させる様な事もしていないので、取り敢えずの処、その人物「子爵」は、頭の片隅にでも置いておくことにしました。
そう・・・ご多聞に漏れず、しのを救っていたのは、ヴァンパイアの一族である、「子爵・サヤ」―――だったのです。
・・・と、云うことは―――
しのとサヤが、現在いる建物は、もしかしなくても「皇城・シャクラディア」―――なのではないか・・・と、思われるのですが、
実は、そうではない事が、次第に明らかとなってきたのです。
=続く=