しのが、亡き父の仇敵を追う為、エクステナーの地を、行く宛てもなく彷徨っていた頃・・・
一方のリリア達は、当初の目的である、ユーニス城に辿り着き、今回リリアが計画している旨を、ソフィアにも伝えてみた処・・・
リ:はい? なんだって? 一緒に行けない??
なんでまた・・・
ソ:ご免なさいね、あなた達と一緒に行きたいのは、山々なんだけど・・・
リ:なんだよ〜・・・付き合いの悪いやっちゃなぁ。
ソ:でも、あなたにも判っているはずです。
何よりこの国は、一つになったとは云え、新興国家も同じなのですから。
云っている事は判る・・・判るにしても、今回は、初顔合わせとなる、市子と蓮也の二人を、自分が尊敬して已まない人物に引き合わせる為に、
その人物と、知った仲でもあるソフィアも一緒に・・・と、云う、目算がありましたが、
ソフィアの云い分も、判っていたが為に、この時点でソフィアと云い争っても意味がないと思い、
それでも、少しばかり癪だったので、程度の棄て台詞を吐いて、待ち合わせの場所まで向かった処・・・
リ:あっ、マキさんにラスネール。
今回、ソフィアの奴は、行かないんだとさ。
マ:ふぅ〜ん、・・・で、今回はそのお二人さん・・・。
ま、別にソフィアちゃんが行かないから―――って、あたしは、どーだってことはないんだけどね。
瞬間的に、場所を移転できる術を持つ、ヴァンパイアの侯爵・マキと、その従者であるラスネール―――
殊の外、マキが行使できる、この術は、特にこの時代に持て囃されました。
それと云うのも、この時代背景上、「交通網」や「手段」は、未発達な処があり、
一番速い「手段」にしても、「馬車」が精一杯であり、そうした処で、自分が有する「魔力」や「術式」にて、各地を巡る事が出来るのは、
それだけでも、他の羨望の的にもなってしまうのです。
事実、この時、マキが行使した術式により、一瞬にして異国へ到達してしまった現実を、市子や蓮也は云うに及ばず、あのたまもでさえも・・・
た:(ぬぉっ・・・なんと―――今までにも見たことのない国・・・
それにしても、この者、中々に見誤れぬ・・・言動などは飄々とはしておるが、このわしにでさえ心得のない術を、こうも容易く行使できるとは・・・)
未だ、謎めいた処の多い、女児のたまも―――
そんな彼女が、得手としていたのは、やはり、「呪」や「術」を操ることであっただろうか―――
そんな自信も、得てして、自分でさえ知らない術式を行使出来るマキに、一目置いたモノだったのです。
そして、取り敢えずの、本来の目的である、パライソ国・皇城・シャクラディアに辿り着いた、リリア達一行は、
この城の主であり、また、この国の統治者である「大皇」に、市子と蓮也達を会わせる為、一路玉座まで向かっていたのでした。
蓮:ううむ・・・それにしても、なんとも大きな街にございまするな。
た:うむ・・・まるで、一つの都が、一つの城の内にあるみたいだの。
リ:ハッハハハ―――この位で驚いてちゃ、後がもたんぞ。
斯く云う私も、初めてこの国に来た時、これ以上に驚かされた事があったからなぁ・・・。
市:すると―――云う事は、ソフィア様も見てこられた・・と、云うのは、やはりこの国なのですか。
一つの城の内に、一つの都市―――
女児の、この表現は、的を得ていました。
象徴と云える、「大宮」を中心に、八方に伸びる、整備された「大路」、
さらに、その八本の「大路」を挟んで、実に種々様々な店舗や工房―――家屋などが軒を連ね、
まさに、この国家の繁栄を象徴しているかのようでした。
しかも、こんな大都市でも、衛生面は劣る処がなく、上・下水道の完備は云うに及ばず、喩え街中にあっても、その緑の多さに、市子・蓮也・たまもは圧倒されていたのです。
すると・・・そうした処に―――
今回、リリア達と一緒に来た、たまもは、明らかに周囲とは形態を違わせている、「ある姉妹」に、眼が留まってしまったのです。
そう・・・周囲の人達には、通常有り得はしない―――「獣」の「耳」と「尻尾」を、あからさまにしている、「ある姉妹」・・・
それに、たまも自身も、苦い経験があるからか、「そんなモノ」を出し惜しみしない、その「姉妹」に対して―――
第四十九話;コみゅと乃亜とたまも
た:おい・・・お前達、なぜ隠さん―――
姉:ふみゅ? ・・・あたし達のことみゅ?
た:お前達以外に誰がおる―――!
それにお前、なぜにわしを無視しおるか!!
妹:・・・・・・・・・・・・。
姉:あははは・・・ごみんなさいみゅ―――
こら、乃亜、ちゃんと返事なさい―――
乃:・・・・・・・・・。
姉:えへへへ・・・
ねぇ〜〜乃亜ったらぁ〜〜―――
「狐」のモノと思われる、「耳」と「尻尾」を持つ、愛くるしい姉妹―――コみゅと乃亜。
すると、その事がいけないことのように、注意を促す―――たまも。
なぜこの二人は、人間にはない特徴を剥き出しにしながらも、周囲の人間達からは、なんのお咎めもなく、さも当然そうに振舞えている・・・
自分は、そうした所為もあり、周囲からの迫害を受け、「悪堕ち」した経験すらあると云うのに・・・
それは、たまもにしてみれば、理解し難いモノの、何者でもありませんでした。
しかも、間の悪いことに・・・
今現在は、単独行動ではない―――連れもいることだから、この光景を見られでもしたら、真っ先に自分を疑ってかかっていた、あの人物に・・・
市:あら―――この方達は・・・
たまもが、そうした心配をするよりも速く、渦中の人物である市子が、たまも達に近付いてきたのです。
「これは拙い―――本格的に拙い・・・」
只でさえ、たまも自身を怪しんでいる上に、この姉妹の既成事実が知られでもしたら・・・
だから、たまもは、市子の注意を逸らせるかのように、振る舞ってはみたのですが・・・
た:あ・・・ああ〜〜―――な、なんでもないぞ。
わしの勘違いであったから、先を急ごう―――・・・
市:・・・怪しい、今になって、なぜそのようなことを。
「万事休す」「百年目・・・」
数々の、危機的―――絶望的な形容の言葉が、瞬時にたまもの頭の内を巡りました。
それでなくとも、市子は、当初からたまものことを、「或いはそうではないか」―――と、疑ってかかっているのだから。
すると―――こんな、たまもの危機的状況を・・・なんと、この人物が・・・
リ:おお―――コみゅに乃亜じゃないか。
どうだ〜元気してたか〜。
コ:あっ、リリアしゃん―――おげんこで〜す♪
ほら、乃亜、リリアしゃんだよ―――
乃:・・・・・・・・・・・・・・。
リ:け、相も変わらず、可愛くね〜のな。
乃:・・・・・・・・・ふん。
リ:(!)益々もって可愛くねぇ―――こっちから、声掛けてやってんだろによ。
どうやら、この姉妹とは、以前来た時から顔知りになり、そのことで挨拶を交わそうとするリリア―――が、いたのですが・・・
対照的な、「愛想の好い姉」と「無愛想な妹」―――
しかも、珍しくリリアの方から謙って、挨拶を交わしたにも拘らず、無視する一方で、鼻でせせら笑われた感じがした―――
そのことで、リリアが頭に血を昇らない理由は無くなってしまい、同時に、いつ火花が散っても可笑しくない状況になりつつもあったのです。
そんな様子を見て、呆気に取られていたのは、云うまでもなく、市子とたまも―――
自分達の間で、こうも気拙い空気になっているのは、まさにそう云う事でもあるのに・・・
リリアと乃亜の争点は、そう云う処にはなかったことに、市子や蓮也に、たまもは、驚きを禁じ得なかったのです。
それに―――・・・未だに、一言も口を利いていない乃亜の、驚くべき理由が、更に彼らを驚かせたのです。
乃:・・・どして、めうえのものが、めしたのものに、きをつかわなければならんのみぅ。
こんなにも―――見かけも幼すぎる児童が、リリア・・・いや、やもすれば、彼女の他の仲間達を含めても、その誰よりも「目上」である―――
しかも、驚くべき処は・・・
リ:うにゅぐぐぐ・・・しょ、それはどうも―――すいませんしたぁ〜〜・・・乃亜先輩〜〜
つ、つきましてはですねぇ―――可愛い後輩から、挨拶してんスから〜〜
乃:・・・ふう、まあ、しかたないみぅね。
こんどから、きをつけるみぅよ。
た:ち―――ちょっと待て・・・すると、やはり、お前達は、わしのように、何千年も前から存在しておる・・・
コ:ほえ? あたし達が存在してるのは〜―――そでしねぇ・・・軽く見積もっても、30万年位は、なるでみゅか?
30・・・「万年」―――?!!
自分が、この世に存在してきた、「2700年」を軽く上回る数値に、たまもだけではなく、市子も度肝を抜かれていました。
しかし―――只一人、蓮也だけは、たまもが口にしていた、ある重要なことを、聞き逃してはいなかったのです。
蓮:自身が存在してから、何千年―――とは・・・やはり、そなたは・・・
蓮也も、市子やしの、それにたまもと同じく「常磐」の出身であった為、以前から疑いを掛けていたしの以上に、たまものことを怪しんでいたのです。
ただ・・・今一つ確証が持てなかったからか、敢えてその事を口に出さず、態度にも表していなかっただけ。
ところが、このように判断材料が増えてくると、疑問としている事を聞かないわけにもいかなくなった・・・
そして、これによって、たまもの身の周りは、「八方塞がり」も同然―――
黙秘を貫き通すのも、愈々もって、この辺りが限界か―――と、そう思われていた時・・・
マ:ちょっとぉっ―――何やってんのよさ・・・
あたしが、ちょいと目を離した隙に、いなくなっちゃったかと思えば・・・
それより―――コみゅちゃん、乃亜ちゃん、お早うごぜぇまぁ〜っす♪
コ:お早うですみゅ―――侯爵サマ♪
乃:・・・おい、おまえ―――「ちゃん」じゃなくて、「サマ」だろう。
マ:・・・え゛っ?
あっ―――ああ〜〜あははは・・・いや、そでしたね・・・どもすみません。
リ:マキさん―――この、クソ小生意気なちびすけ、今すぐにシメちゃいましようよう。
マ:リリアちゃ〜ん・・・ちみ、この子達が「凄い」の、知らないからそゆこと云えるんだよ〜〜
蓮:「凄い」―――とは・・・拙者や市子殿も含めてなのですか。
マ:云っちゃなんだけど、あたしのおかぁたまよりも―――なんだけどね。
引率をしてきたマキが、玉座までの道すがら、説明をしているのにも拘らず、相槌すら返してこなくなったので、自分の背後ろを振り返ってみると・・・
誰一人としていなかった―――
それどころか、遙か向こうが、何やら騒がしくなっているので、急遽引き返してみれば、血の気の多い騒動好きのお姫様が、スピリッツの姉妹とひと悶着を起こしそうになっていたのです。
そこで、どうにか矛先を収めて貰うように説得するのですが・・・
気になったのは、マキの「強さの基準」―――
皆が一様にして、畏れる「スピリッツの姉妹」の、「強さ」とは―――・・・
なんと、あの、マキの母にして、リリアも蓮也もその実力を知っている、公爵・エルムよりも「凄い」事が知れ、
尚一層のどよめきが、そこであったのです。
それにしても・・・こんな小さき、幼い身体のどこに、そんな実力が内包されているのか―――
詰まる話し、リリアの興味が尽きなかったのは、その一点に措いてだけに・・・だったのです。
=続く=