その場所に、今回招待した・・・また招待された者達は、今日までの経緯の事実―――「歴史」と云う名の「記録データ」を見せられ、
誰しもがモノも云えない位になっていました。
「栄光」と「挫折」―――「信頼」と「欺瞞」―――「繁華」と「凄惨」・・・
人や物に歴史ありき―――とは良く云うけれど、自分達が知る過去の事実は、主な要項を掻い摘んで学んできたモノ。
それを、こんなにも濃度の濃いモノを見せられて、それでも現在では笑いながら話し合う事が出来ている者達を見て、自分達が未熟だと痛感させられたモノだったのです。
リ:なるほどな・・・私達が「現在」を存在することが出来ているのは、「過去」の歴史がこうあったからなのか・・・
それにしても判らないな、どうして今、こう云うモノを見せる気になったんだ。
ジ:う〜ん・・・君にもそろそろ、本当のことを話しておいた方がいいかな―――そう思って。
リ:なら、どうしてソフィアの奴にも―――
ジ:その事を、気付かない君ではないだろう・・・
そのジョカリーヌの言葉に、彼女とは初対面であるはずの蓮也・市子・しの・たまもは、一瞬にして理解をしました。
そう、今のこの場に、ソフィアがいない―――と、いうのは・・・
リ:そう云う事か・・・あんにゃろうめ、あの時断ったのは、私より先にこの事を―――
ユ:彼女のことを、余り悪く云ってしまうモノではありません。
確かに、事実を公表したタイミングが、「遅い」「早い」の違いはございますが、彼女はその上で―――
た:ふぅむ、なるほどにのう・・・わしとしのの二人は、そのソフィアなる者の事は理解しきれん所があるが、大体の事情は飲み込めた。
それにしてもお主・・・中々に計算高い様だの。
ジ:お褒めに預かり、光栄と云った処だよ。
さて、そこで、ここからが本題になってくるんだけれど・・・
元々の存在が「女禍」であったジョカリーヌは、初めて接した時の印象からしても、謀多き人物とは到底思えませんでした。
いえ、寧ろその逆―――どちらかと云えば、詐欺に遭い易い、「お人好し」のタイプ・・・
けれど、今回の一件で、意外に謀略を得手としていることから、普段はそう云った皮を被っているのではないか・・・と、誤解を与えてしまいがちになるのです。
それよりも―――ジョカリーヌが、この時の為に温めておいた本来の計画が、今こうして実を結ぼうとしていました。
その為の、「東」と「西」の評議員の招聘―――
つまり、現在リリア達が、地上より遠く離れた「空中庭園屋上」に招かれていると云うのも、
これから、「南」の評議員の選出と、それによる「証人」が必要だった・・・
だから、「今回」と云う機会を逃しては―――と、云う事だったのです。
しかし、リリアは―――・・・
第五十七話;撰ばれし者
リ:・・・どうして、私なんだ―――
ジ:ん〜〜君が適任だと思ったから。
リ:じゃあなくて!
私が、どんな人間だか、判ってるんだろう―――
だったら、そんな私を、こんな御大層なお役目に就けたら、それこそ―――・・・
ジ:それはおかしいね、だって私は、この結論に辿り着くまでに、色々な準備をしてきたんだもの。
ほら、君に付き纏っていたラスネールや、彼の主人であるマキだって、一括り的には私の部下だ。
その事を知らない君ではないし、ソフィアには、その事をよく踏まえて貰った上で、私自身が直接面談を行っている。
それも、君に固辞された場合を見越しての「次善」としての彼女を―――と、思っていた処だったんだけど・・・
そしたら彼女、なんて云ったと思う。
リ:―――・・・。
市:・・・なんと、仰られたのでしょう。
ジ:『あの人は、ああ見えて責任を人一倍に強く感じています。
だから、あなた自身が強くお求めになれば、そうした態度には出てこなくなるでしょう。
それに・・・私は、私の国を良くすることで精一杯でしかないのに、あの人の目には、そんな私より遥かな先を見据えているのです。
どう転んだところで、私があの人に敵うはずもないのですよ。』
・・・ってね。
リリアの性格は、「評議員」の「適性」を見極める為に張りつかせて置いた、ラスネールからの報告にもあるように、「豪放磊落にして面倒臭がり」―――
けれど、別の報告では、「困っている者達を見ていると、放ってはおけなくなる」―――
こうした、別の性格を持つ理由とは・・・
そこでジョカリーヌは、ある「仮説」を立ててみることにしたのです。
本当は「面倒見がいい」のに、「面倒臭がり」とは、もしかすると、後から褒められたり、礼をされたりするのが苦手なのではないか・・・
その事も見極める為、しばらくの間、ラスネールを同行させ、真偽の程を確かめさせていた処・・・
やはり、必要以上の報酬を求めたがらない―――
そこは、リリア自身が王族出身で裕福だから・・・とも、思えなくもありませんでしたが、常に何かしらの「違和」が付き纏っていました。
その「違和」の正体が、この「仮説」だとしたなら―――・・・
すると、リリアからは―――
リ:あんにゃろうめ・・・余計な事を。
折角あいつを、エクステナー大陸の覇者に仕立て上げてやろうとしていたのに。
ユ:ウフフ・・・そしてゆくゆくは、ご自分は楽隠居―――と?
それは、時代が赦さないと云うものでしょう。
あなたの様な人物こそ、本来人の上に立って然るべき。
そう云えば、ジョカリーヌの時もそうでしたわね。
ル:そうそう―――『もう自分の役目は終わったんだから・・・』って、捏ねて捏ねて・・・。
だから、条件付きで「大皇」になって貰った様なものですものね。
し:条件―――?
ユ:それより、ジョカリーヌやルリは、肩書きの上では「大皇」や「国王」になっていますが、ならばこのわたくしはどうなのでしょう。
蓮:やはり・・・お二方と同じく、「王侯貴族」なのでは―――
し:いやいや、確かこの人、「花屋」の経営者だよ。
セ:貴族や王室御用達の?
し:いんや―――普通の・・・ボクが世話になった時も、お客で来ていたのは、近隣の人たちだったなぁ・・・。
市:・・・と、云う事は―――
ジ:そう、私もルリも、便宜上でそんな肩書だけど、ユリアに関しては一般人・・・
それに、この私を、どうしても「大皇」に落ち着かせたいと云うのなら、私にとって所縁が深いこの二人を、
二人が住んでいるそれぞれの地域・・・「東」と「西」の評議員になって貰う事で、一応の折り合いをつかせて貰ってね。
市:そして、今回はリリアさんを―――
ジ:そう云う事。
それに、評議会では、全会一致で、君を「南」の評議員に据えることに賛成でね。
た:いや、そもそも、「北」と「南」がいないではないか。
よく考えてもみよ、ここにいるのは、どう考えても三人―――それも、地域を限定させている事だし、
もし全員が出席をしているのであれば、少なく見積もっても四人はおらぬと不思議じゃろう。
それを・・・「全会一致」などと、よくも云えたものじゃな。
ジ:フフッ―――いや、さすがは・・・
確かに君の云う通り、「北」と「南」の評議員は、「現在」はいない―――
だから「多数決」を採り、その二票は「無効」とはしても、私達三人が、「善し」とすれば―――・・・
ユ:それに、これからリリアさんが、そのお役目に就いて下さると云うのであれば、「南」の意思も反映されてくる事になるのです。
今までは、その意思すら提示されないまま―――でしたからね・・・。
様々な思惑が交錯したその場で、図らずも知ってしまうジョカリーヌの「立場」。
本当はこの人も、市井に埋もれて、農耕作や植物の研究などに没頭したかったに違いない・・・
けれど、ユリアの云うように、「時代」が彼女をそうさせてはくれなかった。
永かった「戦乱の時代」は、終焉りを告げ、次第に「治世の時代」へと移って行く・・・
そこには、「女禍」であるジョカリーヌの能力は不可欠なモノだとして、ある者達の意向を受けたユリアにより、説得工作が為されたのでした。
その時に、同じくしてジョカリーヌからも、その説得を受け入れる代わりとして、各大陸の代表制―――「評議員制度」を提唱し、
先ず、平定されている「中央/ガルバディア大陸」「東/ロマリア大陸」「西/ランド・マーヴル」から、各一名づつを選任、
その人選には、ジョカリーヌ自身に所縁の深い、ユリアとルリを選出することで、基本的合意を得ていたのです。
そして、それから500年―――長いようで、短いようにも思えた歳月は、
この時を境に、確実に・・・それでいて急速に、その形態を一つにまとめようとしていたのです。
=続く=