こんなはず・・・ではなかったのに―――

「こんなはず」、当初、リリアの目論見としては、仲間である蓮也と市子を、ジョカリーヌに会わせ、物のついでに地球を見せる―――と、云う、()()たりなモノでした。

 

それが、どこから狂ってしまったのか―――・・・

 

思えば、サライ・オデッセイア共和国の首都であるユーニスに向かう道中、「しの」と云う抜け忍に出会ったり、

また、彼女と入れ替わり立ち替わりに、「たまも」と云う、不思議な女児に出会ったり・・・と、予定外の出来事は多々ありましたが、

ひとまずの主目的である、大皇(おおきみ)・ジョカリーヌとの接見を果たしたところ、なんとその場には、地球の未来を左右していると云う、「評議員」達までもいたのです。

 

しかも、ジョカリーヌ達は、未だ埋まらない二つの席、「北」と「南」・・・その内の一つである、「南」の評議員の席をリリアに―――と、模索していたものと見られ、

この度のリリアの来訪を機に、リリアに決意の程を伺ったのです。

 

しかし、部下の一人であるラスネールからは、相反する性格の報告を受けていた為、「推挙」の決定はしていても、

ジョカリーヌは焦ることなく、裏付けや・・・更なる判断材料となるべきモノを集めたのです。

その内の一つが、この程公表された、サライ・オデッセイア共和国・国王―――ソフィアの語録・・・

 

昔から自分のことを知っている人間からの証言により、逆に断り辛くなってしまったと感じたリリアは、

ジョカリーヌからの要請を、受け入れざるを得ませんでした。

 

そして思うのです。

()ず、故郷(く に)へと帰ったら、ソフィアを見つけるなり、開口一番―――

 

 

 

リ:おい!コラ! お前―――どう云うつもりなんだ!

 

 

 

鼻息荒く、施政方針のための会議を行っている部屋の扉をけたたましく開けながら、リリアの「開口一番」は、見事なまでに集約されていました。

 

だから、それ故―――「集約されていた」からこそ、会議室にいた者達は、喧嘩腰口調のこの女性に、目を白黒とさせていたのです。

 

けれど、ソフィアは―――・・・

 

 

 

ソ:場を(わきま)えなさい―――今は、大事な会議の最中なのですよ。

リ:大事もへったくれもあるかぁ! こんのやろ・・・私に一杯食わせやがって!

 

ソ:厳粛な場を、その様な粗野な言葉で(けが)すなんて・・・ギルバート! この者をつまみだしなさい!

 

リ:あっ・・・このヤロ! なにすんだ―――離しやがれ!!

ギ:リリア様、云い分ならば後でじっくりと聴きますから・・・ですから、今は何卒(なにとぞ)―――

 

 

 

実に澄ました顔―――「したり顔」で(たしな)めるモノだから、余計にリリアの、怒りの熱は冷める事がなく、

国王からの(めい)を受けたギルバートにより、背後から羽交い絞めにされ、それでも罵詈を吐きながらの退場となったのです。

 

 

それから数分後―――納得がいってないリリアと、彼女に随行してきた蓮也と市子が待つ、ソフィアの私室に戻ってきたところ・・・

 

 

 

ソ:お待たせ、その様子だと―――

リ:納得のいく、説明でもしてもらおーか・・・

 

 

 

今にも、跳びかかりそうな野獣の目つきをしたリリア―――

実際、彼女を(なだ)めようとした(らしい)、「鉄腕宰相」ギルバートは、宜しくリリアからの洗礼を受けたようで、部屋の隅で、蓮也と市子から手当てを受けていた始末だったのです。

 

しかし、ソフィアには心得がありました。

こんな、暴走一歩手前のリリアを、どのようにすれば、その怒りを収めさせる事が出来るか・・・を。

 

 

 

ソ:今更、そんな回りくどい事をしなくても、既にあなた自身の胸の内に、決めていた事なのではないのですか。

  だから、私をこの国―――サライ・オデッセイア共和国の王に据える為の工作をしたり、大皇(おおきみ)様に会わせるように駆けずり回った・・・違いますか。

 

 

 

「赤心」あるのみ―――昔からリリアは、嘘偽りが嫌いでした。

それに、そうした嘘を見破る能力は、幼少の時分(じぶん)から特化していたものと見られ十中(じゅっちゅう)の内の「八」乃至(ないし)は「九」、他人の吐く嘘を看破出来ていたのです。

 

だから・・・その時もソフィアは、あるがままを伝えました。

本当は、リリア自身が「そう」なりたかったのではないか―――と・・・

 

リリア自身が、蒼く美しき天体を見初(み そ)めた時、自分自身の手で護りたい―――そう思ったからではないかと、投げ返したのです。

 

するとリリアは―――しばらく、無言のまま・・・でしたが。

 

 

 

リ:―――フッ・・・ククク・・・ア〜ッハッハッハ!

  そうか、バレてたか―――ならしゃあない・・・

  だけどな、云うタイミングだってあるんだぞぅ?

 

ソ:「タイミング」・・・でも、遅くはありませんか。

 

リ:なぁに―――逆に、遅いくらいが丁度いいもんさ。

  現に、この大陸は、一つとなってまだ日も浅い・・・それに、あの「プロメテウス」の残党の動きも気がかりだしな―――

 

ギ:そのことなら・・・心配は無用ですよ―――

 

リ:おう、さっきは悪かったな・・・。

  ―――で? どうして心配無用・・・なんだって?

 

ギ:残党の連中ならば、ヱリヤとエルムと云う二人の人物によって、その(ことごと)くを討ち平らげられました。

 

 

 

そこで知らされる真実の数々―――

元々リリアは、この地球の美しさを維持したいと思い始め、いつかはジョカリーヌに、そうした意見を述べてみたい―――と、さえ思ってもいたのです。

ところが、そうした事をする組織めいたモノは、もう既にかなり前からあるらしく、図らずも今回、ジョカリーヌの方から打診をされた・・・

しかも、その経緯を辿って行く内、どうもソフィアからの口添えもあったらしい―――と、くれば、何やら一杯食わされた気分になり、

それが今回の、あの喧嘩腰口調に収まってしまったわけなのです。

 

それに、リリアにしてみれば、そうした話を持ち出すのにしても、時期的な問題もあったのです。

それと云うのも、「サライ」と「オデッセイア」―――この二国間の間で一つとなった、「サライ・オデッセイア共和国」は、未だ不安定な要素も数多く、

最低でも、国内外が収まった時期に―――と、そうした考えもあったのです。

 

そこで気になってくるのが、この度制圧した、同じ大陸内に在る北方の雄―――「プロメテウス」・・・その残党の動向。

この連中を大人しくさせなければ、いつまた国が割れてしまう様な事にも成りかねない・・・

だから「例の話」は、この連中を鎮めてからでも遅くはないと、リリアは踏んでいたのです。

 

ところが・・・

これが、なんとも、いともあっさりと解決してしまっていた―――

 

以前、プロメテウスの南進を食い止めるため、協力をしてくれた者達は、未だに古巣であるパライソ国には戻っておらず、

厄介者であるリリア達がいなくなったのを機に、蜂起しようとしていた者達を待ち受け、一気に力で捻じ伏せたのです。

 

 

第五十八話;改   

 

 

こうして、後顧の憂いのなくなったリリアは、改めてこの場で、パライソ国で持ち上がった議題の一つを、ソフィアに打診してみることにしたのです。

 

 

 

リ:まあ〜〜奴らの事は、収まったとして―――・・・

  それより、あのな・・・ソフィア―――私達の国についての事なんだが・・・

ソ:私達の・・・「国」が、どうか―――?

 

リ:いやな・・・いつまでも、「サライ・オデッセイア共和国」―――って、不便だろう・・・って、ジョカリーヌさんが云うからさ。

  わ、私は別にいいんだけどな? その・・・お前が、もしかしたら―――って、思って・・・

ソ:ウフフフ・・・「遠慮」ですか、あなたらしくもない。

  それにあなたは、今やこの「エクステナー」の意思を表明してくれる人、私如きがどうこう云う筋合いは・・・

 

リ:いや、それでは(まず)いんだ―――やはり、国を治め、その方針を決めるのは、「王」である人間がやらなければいけないんだ。

  それより、私の立ち位置(ス タ ン ス)は、民衆側の方がいいと思っている。

  役人や貴族共の云っている事ほど、当てにならないモノはないからな。

 

 

 

リリアの政治的理念は、一つのことを貫き通していました。

それが―――王侯貴族達の政治ではなく、民衆の為のそれ・・・

常に、福祉や恩恵などは、彼らにこそあって然るべき―――と、考えていたのです。

 

だから、王侯貴族でありながら、彼ら民衆の生活の在り方を知っている・・・この自分こそが、

南方の大陸・エクステナーの現状を訴える事の出来る、唯一無二の存在である事を自覚していたのです。

 

そして、意識的な改革も必要だとも思っていました。

そのまず初めに―――国号の改称・・・

「サライ・オデッセイア共和国」とは、初めて耳にした者には、未だにこの国は一つにまとまってはおらず、いつまた分離するかもしれない・・・

そんな、脆くも儚い印象を持たせていたのです。

 

そこでリリアは、ジョカリーヌ達との別れ際に、この事の相談を持ちかけてみたのです。

すると・・・彼女達の一人であるユリアから―――

 

 

 

リ:へっ? 「テラ」・・・?

ユ:はい、そうです。

 

リ:ふぅ〜ん・・・なんだか、面白そうな名前だな、ありがと―――それ、貰っとくよ。

 

 

 

幸い、国は一つとなりました・・・。

けれども、国を呼ぶモノが、二面性があっては(まず)かろうと思い、

三人いる評議員に相談をしてみたところ、その内の一人から、もれなく「テラ」と云う称号を貰う事になったのです。

 

それに、その称号は、一度耳にすると、「寺院」と同じ音を感じ、また短く覚えやすい・・・

そう感じたリリアは、自分達の国の呼び名を、「それ」にする事に決めたのでした。

 

あとは・・・ソフィアからの承認を得るだけ―――

 

 

ただ・・・リリアは知りませんでした。

その名称―――「テラ」が含む、重大な意味のことを・・・

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと