とある場所―――・・・これまでのお話の流れから推測されるに、自分の国「オデッセイア」の最北端と国境を接している「プロメテウス」・・・

その国に近い自分の国の町―――そこの石牢に囚われていたリリアを救い出したのは、

リリアが石牢に繋がれる以前に、身売りの際に監禁する為、檻に入れられていた少女の「ような」者でした。

 

ところが―――実はその少女の正体とは、実際にリリアを捕縛した人物・・・ラスネールが敬語で言葉を交わす、彼にしてみれば「主」のような存在だったのです。

 

而して、ラスネールから「侯爵様」と呼ばれた謎の少女とは・・・不死にして永遠の刻を与えられた種族―――ヴァンパイア・・・

 

 

今回の一件にて、第一級の邪魔者だったリリアの首実験に立ち会う為、この町に訪れたプロメテウスの官でありましたが・・・

思わぬところに思わぬ邪魔が入り―――しかも、恥の上塗りの証拠隠滅を図るため、この石牢内にいる三名の抹殺を図ろうと云うのです。

 

こうして―――石牢と云う限定された空間内には、瞬くの間にプロメテウスの兵士で埋め尽くされてしまいました。

けれど「侯爵様」と呼ばれた少女は、(むし)ろこんな不利な状況を愉しんでいるようにも見え―――・・・

 

 

 

マ:フッフ〜ン♪ ちょいと我慢しなよ―――こちとら「上」の云い付けでやってるだけだかんね。

  ――――『烈風拳』!

 

 

 

「今・・・この人も、「上からの云い付け」―――って・・・」

「―――じゃあ・・・ラスネールよりも・・・この人よりも偉い人がいて、今回この人たちに命令を下した・・・」

「それにしても、尋常じゃない―――この強さ・・・こんな強い人を(ぎょ)せられる事が出来るなんて、その偉い人もやはり強いんだろうか・・・」

 

自分や蓮也のように武器で闘わない―――いわゆる徒手空拳にて、プロメテウス兵に立ち向かっていく侯爵・マキに、

それと―――そんな強さを持つ者達を配下に置く彼らの「主」に、リリアは一入(ひとしお)にして興味が湧いていました。

 

第六話;未だ見ぬ期待

 

しかし、それはリリアの(なか)での理論―――「強い者には従うべきである」・・・が、根底としてあっただけであり、

何よりも未知なる存在に、自己の欲求を見出(み い だ)していたのは間違いなかったようです。

 

けれども・・・リリアは知らない―――

侯爵・マキやラスネールが、終生、忠誠を誓った人物―――その人物に、彼らは「強さ」のみにて服従しているのではないと云う事を・・・

そしてその事を、いずれリリア自身が体感していくと云う事を―――・・・

 

 

 

マ:おぉ〜っしゃい! これで終わりぃっ―――!!

  ――――『ジェノサイド・カッター』!

 

  ふぅ〜ん・・・何だか物足りないんダヨネ―――

 

ラ:そいつを云っちゃ、折角必死になってかかってきている、こいつらが可哀想・・・ってなもんでしょうよ。

 

マ:だぁ〜ね、ま・・・雑魚同然のモブ兵君達にそれを求めるってのも、少々酷な話しかw

  ところで〜大丈夫? 怪我なかった?

 

 

 

先程の修羅場とは打って変わって、あどけない仕草に表情で迫ってくる侯爵・・・

自分達が、この石牢から出ようとした背後には、屍山血河が築かれていたと云うのに―――

 

けれどもそれでは、未だ半分も見てはいない事をリリアは知るのです。

 

それというのも・・・彼女達が石牢から出た時には、そこを取り巻くプロメテウス兵―――(およ)そ一個中隊・・・が、完全に包囲していたからなのです。

 

しかし―――以外にも、この絶体絶命の状況を、寧ろ侯爵は・・・

 

 

 

マ:あ〜りゃりゃ・・・せぇっかく逃げるチャンス上げたと思ったのにぃ〜〜―――

ラ:フ・・・しかし、ま―――それじゃあ、奴らの面子(め ん つ)・・・てヤツの問題もあるんでしようよ。

  それに―――今やお嬢は絶体絶命のピンチ、それに引き換え奴らにしてみれば千載一遇のチャンス到来・・・と、なるでしょうからなぁ。

 

マ:そんなもんかにゃ〜とは云っても、ちょっちこの人たちの事が気の毒に思えてきたよ。

 

 

 

思わぬ多勢に囲まれても、彼らは余裕綽々(しゃくしゃく)―――()じるどころか、逆に彼らの心配さえしてあげていたのです。

その内にも、リリア達の掃討の号令が下ると、プロメテウス兵達は一斉に群がってきました。

 

そこでリリアは―――侯爵の驚くべき特性を目にしたのです。

 

今度ばかりは、さすがに無傷ではいられない―――事実、侯爵の身体を無数の刃が襲いましたが、自然に・・・次の瞬間には、斬られた箇所はなんともなっていなかった―――

その事には、リリアよりもマキを斬った兵士本人が驚いていました。

しかしそれが・・・実はヴァンパイアの持つ特性と云うもの―――驚異の再生・復元能力・・・

 

しかも、この特性を助長させるかのように、その日は―――・・・

 

 

 

ラ:フフフ―――それにしても、なんとも可愛い事をしてくれる奴らよ・・・。

  それよりも、なぁ・・・お嬢、このワシがなんと呼ばれているか―――覚えているか。

リ:はあ? なんだよ―――こんな時に・・・でもそれって、「黒狼」だろ? で―――確か・・・その名は傭兵をしてる時の・・・もう一つの名前みたいな・・・

 

ラ:まあな―――そいつ自体は間違っちゃいないんだが・・・実はな―――その名は、ワシ「自身」なのさ・・・

 

 

 

何を急に奇妙な事を云い出したりするものかと思っていた途端―――人間だったラスネールに著しい変化が訪れました。

 

黒く・・・墨の様な体毛に―――(まなじり)は逆しまに裂け、耳元まで裂けた口には鋭利な牙が何本も生えた・・・野獣―――

そんな身の毛も弥立(よ だ)(けだもの)変化(へ ん げ)した彼は、天空を見上げると遠吠えを一つ―――

そう・・・紛れもなく、それは―――・・・

 

 

 

マ:あれま・・・正体露わになっちゃったよ―――けど、ま・・・仕方ないっか〜♪

  なんてったって今宵は満月―――満月こそは、アタシら闇の眷族が強化されちゃうんだよね〜〜♪

  つ・ま・り―――ちみたちは謀られたのさ・・・アタシのサーヴァント君―――黒狼のバルちゃんに、ね♪

 

 

 

「人狼」―――陽のある内は人の姿を借り、夜・・・それも満月になると、獰猛な「狼」に変じるとされる獣人(ライカーン・スロープ)―――それがラスネールの本来の姿でした。

しかし―――この地の人間達にとっては、いくら斬りつけても死なない・・・不死身の少女や、人の皮を被った(けだもの)の存在は初めての経験であり、未知のモノでもあったのです。

 

それに・・・そこでの殺戮は一方的―――いや・・・そも、「殺戮」と云う表現ですら生温(なまぬる)かったのです。

そこであったのは・・・等しくは・・・「生命(い の ち)の簒奪」―――

欲しい(まま)生命(い の ち)を貪り、血を渇望し続けた後の―――宴の後・・・だったのです。

 

そして、その凄惨な宴が終了した後は・・・リリアの番―――かと思いきや。

 

 

 

マ:あっ―――ごめんごめん、ちょっとここまでするつもりじゃなかったんだけどね・・・久々だと、抑制きかねーつか・・・

 

 

 

こんな惨事の後だからか、マキの目にリリアは茫然自失しているように見えました。

そんなリリアを気遣ってか、侯爵・マキは低姿勢で接するのですが―――それでもまだ無反応のまま・・・

 

だからマキは、てっきり―――自分(リ リ ア)を騙して化け物(ラスネール)(けしか)けた事に、怒っているモノかと思えば―――・・・

 

 

 

リ:―――あんた達・・・凄い! すごく強いんだね!それも桁外れに!!

  あのさ・・・私ってね、強い奴には眼がなくって―――それに聞いていれば、あんた達には主がいるんだよね・・・

  それも―――とびっきり強い・・・ううん、云わなくても判るよ、強い奴に従うのは尋常(よのつね)・・・だからね

 

 

 

当初抱えていた自分達の思惑とは、やや違った方向に事態が向きつつありましたが、今回の主目的であるリリアは、ある程度一定の理解をしているモノと踏まえ、

侯爵・マキは、その場に・・・どこかへと転移する事が出来る魔法陣を描き始めたのです。

 

そう・・・(およ)そ10年もの間―――ただ静かに、この南の大陸を任せられるだけの器量を持つ人間を見定め続けていた侯爵・マキが、

今回敢えてリリアの前に姿を晒したのには、総てがこの時の為に―――でもあったのです。

 

自分達が仕える―――ある人物に、リリアと云う人物を合わせる・・・その為に。

 

 

しかし―――この時のリリアは、まだ気付かずにいたのです。

力の「強さ」だけが、この世を統べる「総て」ではないと―――

世界を包みこめるだけの「優しさ」が、それを可能とするモノであり―――

云うなれば、その「優しさ」こそが、また別の・・・違った意味での「強さ」なのであると―――

 

そして・・・それを持つ「たった一人」にこれから出会い―――それまでの価値観が・・・書き換えられて行く事を・・・。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと