幻の「便利アイテム」で、寒さがいくらか緩和された―――とは云っても、薄着のままでは周囲りから不審がられてしまうので、少しばかり衣装を着こむリリア達。
ここは―――凍てついた大地・・・
今まで、自分達が住んでいたような、温暖な気候ではなく、吐く息さえ凍えそうな・・・そんな過酷な環境。
けれど、だからと云って、いつまでもそこで立ち止まっていても、物事は一向に解決へと進まないので、
取り敢えずは、近隣の・・・人が生活を営んでいる集落を目指す事にしたのです。
第六十一話;紫電
そして、二時間ほど歩いたところ、一つの集落を見つけました。
そこで、こんな噂を耳にしたのです。
リ:はあぁ〜〜暑っつい―――いや、いくら怪しまれないと云ってもさぁ〜ちょっとこれ、温か過ぎだよ。
・・・どうした、蓮也。
蓮:・・・いや、ここに入った途端、周囲りの眼が、拙者達に集中しているように感じまする。
それは、蓮也だけが感じていたわけではありませんでした。
勿論、リリアや市子も。
それに、リリアには感じていたのです。
この村の人間達の視線は、どちらかと云えば、蓮也や市子にのみ、集中していると。
この事からも判るように、この二人に共通していた点―――それが、エクステナー大陸にある東の最果ての国、「常磐」の出身・・・
明らかに東洋風の顔立ちをしている二人が、注目をされる謂れとは・・・
その理由を知る為、蓮也は敢えて村人の集団の一つに近付いたのです。
蓮:もし・・・そなたらにモノを訊ねるが、拙者達に注目をする所以は、いかなることがあって・・・なのですかな。
その蓮也からの質問に、村人たちは顔を見合わせるだけで、理由の一つも述べなかったのです。
そのことに、もしかすると、自分達の言葉が通じあわないのでは・・・と、さえ思ったのですが、
しばらくすると、村の代表と思われる初老の男性が現れ・・・
長:ほんの少し前、あんたらと同じ顔立ちをした人間が二人―――この村を訪れましてな、
まだ若い娘と、女児じゃった・・・
その二人は、しばらくここに滞在して居ったが、或る時、「トロイア」の連中が、この村に立ち寄ってな―――・・・
なに、いつものことよ、また勝手に村に上がり込み、やりたい放題・・・
あんたらも気付きなさらんか、この村に、若い連中がおらん事を・・・。
その事を聞いただけで、リリアの血が沸騰し始めました。
強い癖に、弱者を甚振って、悦に浸る者―――
長老からの詳しい説明を聞くまでもなく、リリアには、その時の光景が目に浮かんでくるようでした。
凌辱―――簒奪―――蹂躙―――・・・
どれ一つをとっても、人間のする事ではない・・・
しかし、それとこれとでは、蓮也と市子に注視をする理由にはならないのです。
そう・・・長老の話しには、まだ続きがあったのでした。
長:一通り、奴らが所業を済ませると、娘の方から、なぜあのようなことをするのか・・・と、理由を聞いてきましてな。
そうしたら、次に奴らが来る日取りを聞いてきたのじゃ。
市:すると・・・その娘さんは、どうされたのですか。
長:何かを仕掛けておったようじゃったから、ワシらも手伝おうか・・・と、申し出たら、
「いいですよ、あんた達の手は借りない、それに・・・鴉の罠に鶴が掛かっちゃいけないしね。」・・・と、云うてきてな。
そうしておる間に、奴らは再び来た―――
じゃが、そのすぐ後の事じゃ、襲い来たトロイアの連中は、ほうほうの体で戻ったのじゃが、例の二人もまた・・・行方を眩ませてな。
それから間を置かず、今度はあんたらが・・・注目せずにはおかれんじゃろう。
総ての説明を聞き終えると、蓮也と市子は、それぞれにある事を―――
蓮也は、発動済みの罠の跡と、市子は未発動の罠の場所に―――
そして、二人とも調べ終えて、判った共通点が一つ。
それは、紛れもなく―――・・・
蓮:・・・やはり、この形跡は、九魔特有の―――
市:(!)まだ罠は生きていましたか、それにしても、やはり思っていた通り、「娘」と云うのは・・・
蓮也と市子に共通し、或る特定の忍が使う罠―――
その事を知っただけで、蓮也と市子は、ある一人の人物に突き当たったのです。
そう・・・九魔の抜け忍である、あの「娘」―――
それでも二人は、更なる確証を得る為に、その「娘」の特徴を聞き出そうとしたところ、
とある村人の一人が、賊と抜け忍が、刃を交わし合っていたのを目撃していたようで・・・
村:ああ、そう云えば―――おらが見たとき、あの娘っ子・・・まるで紫の電光の様な、素早い身のこなしをしていただなぁ・・・。
しかもさ、あの娘っ子一人だけかと思っていたら、次から次へと数を増やしていっちまって・・・
その村人の説明を聞いただけで、市子は戦慄を覚えました。
まるで、紫の電光のような身のこなし・・・
そして、次から次へと増える実体・・・
それは、間違いなく「紫電」である―――と・・・
「紫電」・・・その脚に気を込め、常軌を逸した速度を得る忍術。
その際、身体には紫の電光を帯び、宛らにして、一条の雷光に見えるとも云われている・・・。
しかも、その忍術の更なる上達者は、その雷光を足場に留めさせることにより、多重の残像を―――いわゆる処の「分身」を創り出す事が出来ると云う・・・。
而して、その忍術は、ある忍の里特有のモノであり、代々の頭領は、「加東段蔵」の名も、同時に受け継いだとされる・・・。
間違いない―――九魔の抜け忍である、加東紫乃は、父の仇敵である「カイエン」を追って、この凍てつきの大地まで、足を踏み入れたのだ・・・。
そのことを、市子はリリアに話そうとしたところ―――・・・
リ:ふぅん〜凄ぇな・・・大した奴もいたもんだ。
願わくば、一度闘り合ってみたいもんだな。
おっしゃ、判った―――で?その二人、どこへと向かったんだって。
長:この先、5Kmも進めば、ここよりも大きい街にあたる―――
だが・・・気を付けなされよ、そこには、トロイアの連中も数多くいる。
油断をしてしまえば―――
リ:弑れっちまうよなぁ〜〜w
いいじゃない―――いいじやない、スリル大いに結構!
ここんとこ刺激が少なくってさぁ〜モノ足りない―――って、思ってたところなんだよ♪
ふんじゃ、邪魔したな。
長老からの注意があったにも拘らず、リリアは更なる期待に胸躍らせていたようでした。
しかも、トロイア兵のやり様にも憤り、血を滾らせてもいた為か、その対象を「紫電」にも向けていたのです。
それはそうと―――先行をするこの二人は・・・
しのとたまもは、最初に立ち寄った村から、近くの町に来ていました。
そして、そこでも見てしまうのです。
トロイア兵の暴虐を―――・・・
だから、つい、起こしてしまうのです・・・
その暴虐から、眼を背けられない、若さや純朴さ故に。
=続く=