最初に立ち寄った村から、しばらく離れた距離にある少し大きい町―――

とは云っても、云う程にそんなには大きくなく、あの村よりかは、気持ち流通があり、住み易いから人が集まった・・・そう解釈した方が正しかったようです。

 

そんな町で、またも、しのとたまもは目撃してしまいました。

 

トロイア国の下級兵士と思われる数人が、ここの町人達が経営する露店で、その店主に向かい、無理難題を吹っかけている処を。

 

 

 

兵:おうおうおう―――お前〜誰に断って、ここに店を出してやがんだ?

店:だ―――誰・・・って、ここに出してる店は、皆、自由意思で出せる事になっている。

  そんなことは、あんたらに云われるまでも、随分と前から決まってた事じゃないか!

 

兵:あ・あぁ〜ん? 随分と、偉そうなことを仰りやがる様じゃ、あ〜〜りませんかw

  だけどなぁ―――オレ達が来たからには、オレ達が法律なんだ。

  オレ達が認めねぇ―――つったら、認めねえんだよ!

 

  おい、お前ら・・・この店を、お取り潰しておやり―――w

 

兵:へいっ―――兄貴! おらおら、邪魔だ〜!!

 

店:ああ―――止めろ・・・止めてくれ〜!

  な、なんて事をしやがる・・・オレが一体、何をしたって云うんだ〜!

 

 

 

それこそは、まさに傍若無人(い い が か り)―――

一体、この店の店主のどこに、落ち度があったと云うのか―――

 

とは云え、事実その店は、数人のトロイア兵の徒党により、壊し尽されようとしていました。

 

云われなき暴力―――難癖―――

 

今までにも、常磐で任務についていた時、数多く見てきたモノでした。

けれど、しかし・・・見慣れてきたとはいえ、そんな事に、見て見ぬふりが出来る程、しのは出来あがってはいなかったのです。

 

だからこそ、あの時の―――あの村の様に・・・

 

 

 

し:くそっ―――あいつら・・・

た:待て、しの―――

 

し:たまちゃん? どうして―――・・・

た:お主、またあの時の様に、あのような奴らを懲らしめてやろう・・・と、考えておる様じゃが、

  一時(しの)ぎでどうする―――今、あの店を救う為に、お主が飛び出して、あ奴らを懲らしめた処で、

  また時を改めて・・・か、もしやすると別のどこかで、あ奴らめらは、他の誰かをいじめておるのやも知れぬのじゃぞ。

 

し:判ってるよ・・・その事は、あの村の時でも聞いた―――

  けどさ・・・判ってるけど! だったら今―――目の前で起こってる事には、眼を瞑れって云うの?!

た:やれやれ―――甘いのう・・・じゃが、そんなお主の甘さに、わしは惚れ込んでおる。

  だがな、心配は要らんと思うぞ。

 

 

 

ちょっと―――自分の得意な忍術を発動させて、悪漢どもを蹴散らす考えのしの。

けれど、そんな彼女を思い留めさせたのは、たまもでした。

 

そんなたまもが云うのには、今、現実として目の前で起こっている不条理に目を向けるよりも、

どうすれば、未来に()いて、弱者たちが、こんな不条理に遭わないようにする事が出来るかを説いたのです。

 

勿論、その事はしのの方でも判っていました。

判ってはいました―――が、「今」と云う現実から、眼を背けられるほど、しのには割り切られていなかったのです。

 

そんなしのを、「甘い」―――と、たまもは一蹴しました。

が・・・そんなしのの甘さのお陰で、自分は救われ、しのと云う「友」を得られたのだと、口にしたのです。

 

それに、たまもには、わざわざしのが出向くまでもない事を感じていたのです。

 

そう―――・・・この、トロイア兵の暴虐ぶりを、少し離れて静観していた人物が、彼らに近づき・・・

 

 

 

誰:―――もう、その辺で止めたらどうなの・・・。

  それだけ好きに出来たら、気が済んだでしょう・・・。

 

兵:あ・あ・あ〜〜ん? 何だ、手前(て め え)は―――格好つけてんじゃねえ!

 

誰:ご主人・・・済まなかったわね、今日の処は、この私に免じて、この者達を赦してやって貰えないかしら・・・。

店:(!!?) ま―――まさか・・・あなたは?!

 

兵:くんのやろ〜! オレ達を無視すんじゃねえ!

  それに、そのスカした、頭に巻いているモノを取ってみろや―――ならぁ!

兵:げ・・・あ、あいつ―――いや、あの方(・ ・ ・)は!!

 

 

 

トロイア兵達の、横行が余程に目に余ったのか、素姓の判らぬ誰かが、彼らの仲裁に入りました。

一見すると、この「素姓の判らぬ誰か」・・・は、この下級兵士達の上官ではないか―――と、思われましたが・・・

それにしては、言葉遣いが至極丁寧―――だからこそ、この店主は、この「謎の誰か」の正体が判ってきたのです。

 

しかし、明らかに自分達を無視して、事態を収束しようとしている、この「謎の誰か」に、

業を煮やした下級兵士の内の、「兄貴」と呼ばれた者が、素姓を隠している「謎の誰か」の、頭に巻いている布切れに手を伸ばし、その布切れを取ると―――

そこには、「謎の誰か」の容姿がはっきりとしたのでした。

 

而して、その正体とは―――

女性・・・それも、朱色の長髪を後ろで纏め上げ、凛とした顔つきに―――蒼眸・・・

しかも、下級兵士達は、この女性が誰であるのか、すぐに判ったらしく、(もっと)もらしく彼女の名前を呼んだのです。

 

 

第六十二話;その名―――イリス

 

 

兵:イ―――イリス・・・イリス=グゥワイゼナヴ=アディエマス姫!

 

イ:あら・・・この私を一目見て、イリスだと良く判ったわね。

  けれど・・・私は哀しいわ! 自分達の国の兵士が、自分の国の町や村で暴虐を働いている―――そんな、根も葉もない噂だと思って調査をしていたら、こんな有り様なんて!!

 

兵:うう・・・ぐぬうぅぅ・・・ま―――まさか、姫将軍、自らがお出ましになるとは・・・

  こ―――こうなったら〜〜・・・

 

イ:愚か者が! 死をもって、この者達に詫びよ!

――=鳳燐剣(ほうりんけん)=――

 

 

 

その女性の名―――イリス=グゥワイゼナヴ=アディエマス。

ここ最近、話題となりつつある、トロイア国の姫君にして将軍。

だから、下級兵士たちも、自分の上官も同然である彼女の顔を、知っていて当然だったのです。

 

けれど、(まず)い事には、自分達の所業を、余すことなく見られてしまった・・・

ならばこの上は、喩え玉砕覚悟であったとしても、目撃者を消さねばならなかったのです。

 

が―――・・・

 

所詮、兵卒は兵卒、将軍にまで昇っている者の腕前には敵わず、姫将軍が放つ必殺剣の前に、露と果ててしまったのです。

 

しかし―――ここで、しのにたまもが感心したのは、この直後の出来事・・・

 

 

 

イ:真に―――申し訳ない!

  「多寡が・・・」の、云われなき風聞の類と思い、今まで放置していた、我ら上層部の過ちを、どうか赦して頂きたい!

 

店:イ―――イリス姫様・・・お顔をお上げください、それに、なにもそこまでされなくとも・・・

 

イ:いえ・・・今の私は、こうせずにはおれないのです。

  この不届き者達の血で、この往来を穢してしまった・・・これも私の罪!

  この上は、どのようにして、あなた達にお詫びをしていいかも、それすらも私は判らない!

  だから私は、せめて・・・こうするしかないの!

 

 

 

暴虐な噂しか立たなかった某国―――トロイア。

 

しかし、果たして、この国にも「清流」は存在していました。

それが、イリス―――某国の姫にして、軍を(あずか)る将軍の一人・・・

 

その将軍自らが、自分の軍の所属ではないにしろ、トロイア国の兵士達の、悪しき所業を詫び、また自らの手にて処断を下したのです。

とは云え―――自分の軍に所属していない兵士達を、その時の自分の一存だけで処断するとは、

他の将軍たちや、彼らが所属していた軍の将軍にしてみれば、全くの越権行為であり、少なからずの衝突を生じさせてしまう危険性があるのですが・・・

 

けれど、軍全体で鑑みてみれば、不祥事件でもあったがため―――あとそれと、イリス自身が現行として視てしまっていた為、抑えられない感情も儘にしてあった・・・

 

そこの処を考えてしまうと、それは全くと云っていいほど、先程のしのが感じていた事に他ならず、

イリスもまた、しのと同じ人種である事が判るのです。

 

 

そして、また―――イリスこそは・・・

あるきっかけをして、リリアとも、離れられない深い関係を築いて行くことになる・・・

 

そう―――(いにしえ)の彼女達がそうであったように・・・

リリアとイリスもまた、「アレロパシー」だったのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと