婀娜那の死に際し、その場にいた有志のみで、彼女の為の葬送の儀が執り行われました。
それに、タケルに婀娜那は、元々、このエグゼビア大陸土着の人間ではなかったので、そうした祭祀は、今の居住いで執り行うしか他はなく、
荼毘に附すにしても、近隣の住人に迷惑がかからないように、夜半に執り行われたモノだったのです。
こうして、黄泉に旅立つのに、故人が淋しくならないように、故人と親睦があった者達が集まり、故人との思い出などを話すなどして、御霊を送り出す儀式が、
そうした事に長じていた、たまもと市子の手により、進められたのでした。
第六十六話;もう一人の伝承者
その翌日―――改めての紹介の場を設け、また、知人がどうしてこの町にいるのかの、理由を訊く為の場も設けられたのです。
タ:この度はわざわざ、手間を取らせて申し訳ありませんでしたな。
それより、イリス様、こちらの方が、以前お話しした事のある、リリア殿になります。
イ:この方が―――・・・
タ:それからリリア殿、こちらの方が、この国―――トロイア国の姫にして、一軍を与っている将軍でもある、イリス様になります。
リ:ほほう―――こいつがそうか・・・とある町で、弱い民を虐げていた、自軍の兵を処断したって云うのは。
イ:その噂で―――もしやここまで・・・?
リ:ああ―――なにしろ、私は強い奴には眼がなくってな、是非とも手合わせを願いたいと思っていた処だ。
それに―――「紫電」てヤツも、探しているんだが・・・
し:(げ・・・)
た:(・・・・・・。)
市:(・・・。)
リ:こっちの方は、トンと当てがなくってなぁ〜。
けど、目的の内の一人が見つかって、安心したよ。
タケルからの紹介により、偶然、彼の家にて鉢合わせとなってしまった、お互いの素性が明らかとなり、
イリスは、以前、何かの機会で、「南の評議員」となった、リリアのことを聞かされていました。
年の頃は、自分と同じで、やはり自分と同じく、王侯貴族の身分なれど、そうしたモノの枠組みに拘泥せず、
国としての利権が、どちらかと云えば王侯貴族や富貴層ではなく、庶民側にある―――と、云った様な、
或る意味、封建社会の頂点にいる自分達からしてみれば、画期的にして前衛的なモノの考え方をする人物に、憧れの念さえ抱いていたのです。
一方リリアも、いつもの悪い虫が騒ぎ出し、本来の目的はどこへやら、強い奴が目の前にいるから、いつになく興奮してきたのです。
しかし、その前に・・・実はリリアは、予てからタケルに訊きたい事があったのです。
それに今は、なんとも都合が付いている事に、タケル本人がいるのです。
だから、イリスとの手合わせの前に、礼のことを聞いてみた処・・・
リ:あ、あ〜っと、その前にだな・・・なぁ、タケル、ちょいと訊いて貰いたい事があるんだが―――
タ:なんでしょう。
リ:いや・・・な? 以前、あんたから貰ったコレ―――巧く刀身が出せないんだよ。
そう、ここで、リリアがタケルに訊きたかった事とは、貮漣の刃の出し方。
「盾」の方は、なんとか出す事が出来たのに、(・・・とは云っても、あれ以来、意識して出そうと思っても、出せてはいない。)
「刃」の方が出せれないでいたので、前の所有者であったタケルに、骨でもあるなら教えて貰いたいとしていたのです。
そんな事を聞くのに際し、リリアから棒きれの様なものを見せられた時、以前、何かの偶然で、リリアに救われた事を思い出したしのは・・・
し:―――あっ、それ・・・確か、ボク達を助けてくれた、光の盾の様なものを出した時に、持っていたモノですよね。
タ:(うん?)それは、真ですか。
し:真も何も・・・だって、あの光の盾が防いでくれなかったら―――ボクだけじゃなく、たまちゃんや、そちらにいるお二人・・・それに、源蔵だって無事では済まなかったと思いますよ。
そこで知らされた、更なる事実―――
しのの証言に、嘘偽りがないとすれば、あの時リリアが引き起こしたケースは、非常に稀であったらしく、
しばらくリリアを見つめていたタケルは、こう思うようになったのです。
「ワシでさえ、血の滲むような修練の果てに、ようやく会得した「晄楯」を・・・それを、この方は、「偶然」とは云え、出す事が出来た。」
「ふっ・・・やはり、ワシの目立てに狂いはなかったようだな。」
実を云うとタケルは、「晄楯」よりも前に、「晄剣」を会得していました。
けれど、ある契機をして、血の滲むような努力の果てに、ようやく身につけた技能―――それが「晄楯」だったのですが、
そんなタケルでさえ、習得するのに一入の苦労では済まされなかったモノを、曲りなりとは云え、「偶然」で出せてしまったリリア・・・。
しかし、タケルは、「師」譲りの分析で、そうした「偶然」性も有り得ず、あの当時、むざむざと敬愛していた義姉を喪ってしまった事もある為、
今回リリアが引き起こした「偶然」を、「偶然」だとは捉えなかったのです。
それに、タケル自身も、思う処があったから―――なのか・・・
タ:すみません、少しばかり拝借いたします。
・・・イリス様、これを持ってみて下され。
イ:え? これを・・・私が―――?
リ:おいおい、冗談はよしとけ・・・ってw
だってそいつは、私でなきゃダメなんだろ? そう―――タケルの口からも・・・
一時的に、リリアから貮漣を借りたタケルは、何を思ったのか―――イリスに渡してしまったのです。
そんな光景を目にして、以前、自分が譲渡を断ろうとした時でも、タケル自身からの強い要望もあり、渋々受け継ぐしかなかったリリア―――
そんな時のことを、云ってみたりはするのですが・・・
すると―――イリスが、剣を手にした途端・・・
イ:う―――うわっ?! えっ・・・ちょっ、ナニ―――これ・・・
た:おお〜なんと眩い・・・光の剣ではないか!
蓮:それよりも・・・これが・・・この剣の真の姿・・・
市:凄まじい―――凄まじいまでの圧迫感を感じます。
し:こ―――こんな凄いのに、あの時の光の盾が加われば・・・鬼に金棒だ!
タ:(やはり―――・・・)
イリス自身、そんなには意識はしていなかったのに、なんと・・・いとも簡単に、光の刃である「晄剣」の方が出てしまったのです。
それに、周囲りの者達も、イリスが出した美しい剣に、暫し心を奪われているようでした。
それにしても、よもや自分に、こんな能力があるモノだとは、思ってもみなかったイリスがいたわけですが、
片や、「自分しかいない」と、持て囃されていた、この人物は―――・・・
リ:え゛え゛え゛え゛え゛〜〜?!!
な、なんで〜?! なんであんたが出せて、持ち主である私が出せないんだよぅ!!
イ:あ・・・コレは失礼―――
リ:〜ったくう・・・〜―――にゅぐぐ・・・って、やっぱ出ないぃ〜?
どうなっちゃってんだよう〜タケル―――!
急に渡されても、「晄剣」を出す事が出来たイリスを見て、タケルは確信に至りました。
とは云え、イリスと初めて出会ったときは、タケル自身でさえ目を疑ったモノでしたが、
やはり疑問を払拭させるには、現実を見定めるのが一番―――
その為には、現在リリアが所有している貮漣を借り、イリスに渡すことで、その適性を見極めようとしたのです。
そして・・・タケルの思惑通り―――
イリスも、緋刀貮漣の、正統な所有の権利を有していた―――と、云う事だったのです。
=続く=