人知れぬ処にて仕事をこなす「掃除屋」に対しても、臆面することなく啖呵を切るリリア―――

そんな、殺伐とした気を放つ彼女の身体の一部に、或る変調が訪れようとしていました。

 

普段通りに過ごしていたなら、その部分は「ターコイズ・ブルー」のままなのに・・・

気が(たかぶ)ったり、興奮してきたりすると―――・・・

 

 

 

し:ああっ・・・リリアさんの左眼が―――真紅(あ か)く染まっていく!?

 

 

 

左右(いず)れかの眸の色素が、違う事を「オッド・アイ」だとか「ヘテロクロミア」だと云いました。

しかしそれは、生まれながらの―――「先天性」のモノ・・・

 

けれど、リリアの「それ」は、自分の感情によって左右されてしまう、云わば「後天的」なモノとして捉えられなくもありませんでした。

 

ところが、「掃除屋」達は、そうしたリリアの変化にも動ずるところがなく、(あらかじ)め仕組まれていたかのように、定位置に収まり始めたのです。

 

 

 

タ:ふむ・・・これはどうやら、まんまと(おび)き出されたようですな。

リ:なんだって?! だとしたら・・・先に行った、蓮也に市子は・・・

た:しのよ・・・気付いておるか、国の都とは云え、人がいなくなっておる事に・・・

し:うん・・・それに、奴らが、ボク達と距離を置いて、円陣を組み始めたと云うのも・・・

 

 

 

どうやら、いち早く手を講じてきたのは、トロイア側―――

しかも、リリア達を待ち受けていたのは、単なる「掃除屋」ではなく、リリア達が敢えて二手に分かれるのを待っていたかのように、行動を取り始めた・・・

それに、リリア達から一定の距離を置くと、円陣を組んで、先行したイリス達が戻ってきても、加勢出来ないように、通常空間から切り離したようにも見えたのです。

 

すると、こうした彼らの行動を、(つぶさ)に観察していたタケルは・・・

 

 

 

タ:(なるほど・・・これは、「次元隔壁」―――

  それにしても、こうも高度な術を行使するとなると、かなりの使い手がいると云う事に・・・)

 

 

 

現実の化学でも、未だに解明できていない、そんな超高度の魔術を操る者が、トロイア側にいると云う事実―――

それに、その事実を知っただけで、タケルは、現在、自分が主と仰いでいる人物の懸念が、当たりつつあるものだと予感していたのです。

 

では、その懸念とは―――・・・

 

この惑星の「評議長」を務める、自分の主の「妹」ですら認識していない者達が、張り巡らせたネットワークの間隙を縫って、自分達に抗おうとしている・・・

しかも、この「懸念」を、次に出現した「あるモノ」を見て、タケルは「確信」に変えざるを得なかったのです。

 

而して、その「あるモノ」とは―――・・・

 

 

 

し:・・・あっ? あ・あ―――!! な・・・なに、あれ・・・てっ―――鉄の塊が・・・動いている??

  そんな・・・ボク達、九魔が培ってきたのは・・・木の傀儡なのに・・・

 

 

 

金属の外装を持ち、内部も、金属のカラクリによって「自走」する―――

そんな、「傀儡」とも思えない様な、複雑で高度な構造で動く物体に、しのは驚愕しました。

 

けれど、既に出来上がってしまっていた、リリアにしてみれば、どこ吹く風か―――

 

 

 

リ:しのっ!(おび)えるんじゃない! 相手は只の木偶の坊じゃねえか!

た:やれやれ―――物の本質を捉えておらんようじゃのう。

 

リ:ン・が・・・こんのやろう―――お()ぇ、どっちの味方なんだよ。

た:ふっ・・・じゃが、確かにあのままでは、アレはお主の云う通りよ。

  しかし―――ああ云ったモノは、術者から与えられた責務を全うする為に、(おのれ)で考え、(おのれ)で動く類と見受ける。

  それに、わしもしのも見るのは初めてじゃからの・・・そこの処に、しのは戸惑いを隠せぬのじゃよ。

 

 

 

味方が混乱する(なか)、どうやら、たまもとタケルのみが、冷静に状況を把握しているようでした。

 

一見(いちげん)しても、手強そうな敵―――

恐らくは、剣如きでは、傷一つ付けられなさそうな、そんな難敵―――

 

けれど、そんな心構えでは、この先に控えている、もっと手強い障害が、自分達の前に立ちはだかった時、どうやって切り抜ければ良いのか・・・

そこの処も、たまもは十分理解していたと見え―――

 

 

 

た:ふふふ・・・じゃがのう、リリアよ―――そなたが云うのにも、一理あるのじゃよ・・・。

  面妖(めんよう)(ともがら)とて、わしらが怯む道理は、どこにもありはせぬ!

  なればこそ―――そこの「木偶の坊」を、本当にそうしてやればよいまでよ!

 

 

第六十九話;陰陽の(ことわり)

 

 

この「鉄の巨人」を、無力化―――云うなれば、リリアの言葉を借りるならば、「木偶の坊」にする事が出来る(すべ)を身につけている・・・と、たまもが述べると、

次には、そうした(すべ)を体現化させる体制を整えたのです。

 

そうした準備―――所謂(いわゆる)「構え」を見たタケルは・・・

 

 

 

タ:(ほう―――あれは・・・どうやら、ワシのマスターが興味を示し、以前習得されたと云う「陰陽道」。

  それにどうやら、中々の使い手のようだ・・・)

 

 

 

タケルは、現在、自分の(マスター)である人物が、その道義の(ことわり)に興味を示し、立ち所に修めてしまった「術式」であることを理解しました。

それに、タケルも、(マスター)に付き合わされる格好で、その道義の神髄を習得していたモノだから、

これからたまもが、何をしようとしているのかを、理解出来たのでした。

 

しかも、どうやら、タケルにしてみれば、たまもはかなりな使い手らしく・・・

今も、何もない処から―――

 

 

 

リ:う・・・うわ? な、なんだ? ど―――どうしていきなり、「水」が・・・

 

た:なに・・・そう難しい事ではない。

  「金生水(きんはみずをうむ)」―――わしが修めておる、陰陽の理の一つ、「五行相生(ごぎょうそうせい)」に(なら)い、そうしたまでのことよ。

 

リ:おお―――そうか!なるほど! 足場を水浸しにして、あいつの動きを止めようって魂胆だなぁ?

 

た:判っておらん奴は、黙ってみておれ。

  今のは、そうする為に、そうしたわけではない―――

 

 

 

たまもが、独特の手指の運びをすると共に、突然、その場に生じ始めた「水」―――

これは、陰陽道の奥義の一つ、「五行相生(ごぎょうそうせい)」によるモノで、そうなった事に、初めてこうした術式を見るリリアは、驚いたモノでした。

 

そしてすぐに、こうした術の効果を、「鉄の巨人」の動きを鈍くするモノだ―――と、そうリリアは捉えるのですが・・・

たまもにしてみれば、そうすることが目的で、金属で出来た人形から、水を生じさせたのではない・・・と、したのです。

 

すると―――では・・・一体、たまもの真の狙いとは・・・?

 

 

 

た:まあ―――見ておれ、むんっ! 「五行相生(ごぎょうそうせい)」「水生木(みずはきをうむ)」―――!!

 

リ:おおっ! (すげ)え〜―――巨木が幾つも生えてきたぞ?!!

  そうか! こうした木の牢獄で、奴の動きを封じ込める為に・・・

 

 

 

或る意味で、術の規模や威力は、術者の魔力に比例すると云う・・・。

 

そこで、たまもが新たに唱えた(しゅ)は、樹齢百年相当の巨木を乱立させ、かの「鉄の巨人」―――「アイアン・ゴーレム」の動きを封じ込めようとしていたのです。

 

しかし―――今一人、陰陽の神髄に通じている人物、タケルは・・・

 

 

 

タ:―――いえ、あれではダメです。

  あれでは逆効果だ・・・。

リ:ナニ? ―――本当か?それ・・・

 

た:ふふ―――どうやら、そこの御仁には判っておるように見受けられる。

  努々(ゆめゆめ)、油断ならぬモノよ・・・。

リ:なんだってぇ? どう云う意味だよ―――それ・・・

 

タ:たまも殿が今まで唱えたのは、「五行相生(ごぎょうそうせい)」と云う、陰陽の奥義の一つではありますが、

  同じくして、相反する奥義に「五行相克(ごぎょうそうこく)」と云うのがありまする。

  その(ことわり)によれば、「金克木(きんはきにかつ)」―――

  つまり、あのような巨木を、幾つも乱立させようとも、「金」で出来たアイアン・ゴーレムには、余り意味をなさないのです。

 

リ:はああ〜? ―――じゃ、なんで・・・そんな無意味な事を?

 

た:「無意味」―――ではない・・・。

  それもこれも、総て次への布石。

  この世にある(ことわり)とはな、万事(ばんじ)(すべか)らく巡っておるのよ。

  さあ―――刮目(かつもく)するがよい! かの「木偶の坊」が、わしの術によって滅び逝く様を!!

 

 

 

まるで、「木の牢獄」の様に、アイアン・ゴーレムを取り囲む巨木群。

 

しかし、それでは、全く逆効果である事を、タケルは説いたのです。

 

そして、このタケルの言により、タケルもまた、自分と同じく陰陽の道を深く知る者だと云う事を、知るたまも・・・

 

それと云うのも、総ては次のタケルの説明に要約されていたのでした。

 

 

「木」は―――いかなることがあろうとも、「金」に打ち勝つ事は出来ない・・・

 

だとしたら―――

 

ならば、なぜ、たまもは「無意味」と思えるような、術の発動を繰り返したのか・・・

 

それは、総ては、次に発動する、術の布石に他ならない・・・

 

それに、術式と云うモノは、単発で使用するよりかは、複合させた方が、より威力も効果も増すこととなる・・・

だからこそ、たまもは、最終的な術の発動を行う為に、幾つもの手数を踏んだのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと