自分の父の仇敵の行方を知る為、後先を考えなかったしのは、自らが得意とする「紫電」の術を発動させ、
「紫電」を、自分の好敵手の一人と見定めていたリリアの知る処となってしまい、唯一の味方である、たまもをハラハラとさせたモノでしたが、
そんな事で挫けてしまっては、危険を冒してまで、自分の里を抜けた事が無駄になるモノと思い、
そうした事情を知っていた、たまもにより、「言の葉」での支援が行われたのでした。
その事により、大いなる加護を得たしのは、先駆ける一条の、紫の電光と成りて、デイドリヒに立ち向かって征ったのです。
第七十一話; 嚢
し:えいっ―――やあっ―――たあぁっ!
リ:おお・・・凄ぇ―――凄ぇぞ、しの! 奴が、全く捉えきれてねぇじゃねえか!
へへへ―――凄ぇ・・・こんなにワクワクするのは久しぶりだ!
デ:ちぃ―――ちょこまかと、鬱陶しい!
リ:うおお・・・っと、フン―――腕が多くある分、あいつに分があるなぁ・・・
た:そのような、気弱な「言の葉」を紡ぐのではない。
喩え、一瞬たりとて、口から紡ぎ出され、無形なれども、言葉自体が、強力な効力を持ってしまう事がある事を、知るモノと心得よ。
なぜ、今までたまもが、前向きな事を云っていたのか・・・
それは、たまもが、「言の葉」を紡ぐことによって、状況を善くも悪くも出来る術を知っていたからなのです。
自分達が、普段使っている「言葉」・・・その事自体に、何某かの効力があり、また、意味があるのか―――
リリアには判りませんでしたが、たまもの説明が、妙に説得力を帯びていたのも、渋々認める処ではあったのです。
しかし、逆にその事を厄介だと感じ始めていたデイドリヒは、しのを追い詰める一方で、リリア達に対しても、何らかの手段を・・・
それも、空に何やらを記し始めたのです。
その事を見ていたタケルは―――
タ:(むう・・・あれは―――)「魔文字」・・・気をつけて下され、相手は何やら仕掛けてきましたぞ!
リ:なんだと・・・
―――うわっ?! なんだ、これ・・・地面から無数の手が??
た:うぬ! 飽くまで、しのとわしらとを引き離すつもりか―――そうはさせまいぞ!
デイドリヒが、しのを相手とする一方で、リリア達も相手にするための対策を講じてきました。
しかもそれは、自分の身体的特徴を活かし、複数ある腕の一組を使い、空中に、何やら文字を記しだしたのです。
その様相を見て、タケルは、ある一人の大魔導師のことを頭に思い浮かべ、その人物が得意としていた魔術の形態を口にしたのです。
それは―――「魔文字」・・・
そして、デイドリヒが行使した術式により、先程たまもが仕掛けた「金生水」の理により、ぬかるんだ地面から、無数の泥の手が・・・
その所為もあって、しのとたまもとの間には隔たりが生じ、これでしのの近くに向かうには、少なくとも「泥の手」達を駆逐して征かなければならなかったのです。
しかも・・・更には―――
た:ぬうっ! 奴らめ、一つに集まりだしおったぞ!
タ:たまも殿、ここは一つ、「木克土」を!
た:うむ、そうじゃな・・・
無数にある「泥の手」は、一つの集団を残す一方で、別の集団が結集し、「人」の形を呈してきたのです。
そこでタケルは、たまもに、「土」の弱点である「木」を生じさせるよう促せるのですが・・・
術を唱えるには、精神の統一、または集中を要するモノである―――
つまり、その間の術者は、全くの無防備であり、誰か護衛につくか、または、結界を張って、術者自身を護らなければならないのです。
ところが―――
タケルが―――リリアが―――気付く前に・・・先程、デイドリヒが行使したとみられる「魔文字」の効果が、また別の象で、たまもに襲いかかったのです。
そう・・・実はあの時、デイドリヒが行使していたのは、「泥の手」を生じさせる「魔文字」だけではなく、
リリア達の、全く死角となる場所で、「真空波」を生じさせる「魔文字」も、行使していたのです。
そしてそれは、なんと―――
やはり先ほど、「水生木」の理により生じていた巨木に対し、効果は発揮されたのです。
そう・・・云うまでもなく、「真空波」によって、伐られた木は、たまも目掛け―――
リ:(!)危ねえ―――!
た:むおっ?! 〜〜痛つつつ・・・リリアの奴め、よくも―――
リリア?! お主―――・・・
先程、「鉄の巨人」を駆逐する為に使用し、生じさせた巨木が、たまもに向かって倒れかかってきました。
巨きくて、重そうな木は、小さなたまもに直撃すれば、先ず無事では済まないでしょう。
そのことに、いち早く気付いたリリアでしたが、如何せん状況が差し迫っており、とても、声を掛けただけでは間に合わないだろうと判断し、出した決断が・・・
たまもを突き飛ばす事でした。
それに、たまもは、「木克土」の理を、唱えるべくの体勢に入ってもいた為、いきなり、リリアに突き飛ばされた事に、腹を立てたモノでしたが・・・
自分が元いた場所には、自分の身代わりとなって、巨木に当たってしまい、怪我を負ってしまっていたリリアの姿が・・・
そして、その事実を目の当たりにした、たまもは―――
た:お主・・・わしを庇って―――
リ:へ―――へ・へ・・・じ、自分でも莫迦みたいだぜ・・・なんで、お前なんかを助ける為に・・・
けど―――なぜか身体が、勝手に動いちまった・・・あそこで、お前を突き飛ばさなければ、お前は今頃・・・
ほぼ、成人になりつつあるリリアだったからこそ、怪我程度で済んだのかもしれない―――
でも、見た目も女児であるたまもならば、重傷でも済まなかったのかもしれない―――
その事が先に頭に浮かび、喩え、日頃些細なことで喧嘩ばかりしていても、リリアは・・・たまもを庇う事に、躊躇することなく、先んじて行動に移していたのです。
それにしても、どうしてリリアは、喧嘩相手でもあるたまもの事を、庇ったりしたのでしょうか。
実は―――その理由には、「その事」が、大きな関わり合いを持っていたのです。
リ:それによ・・・「喧嘩」―――ってのは、「相手」がいないと、出来ないんだってな。
そうだよな・・・「一人」じゃ、出来やしない―――・・・
以前までは、ソフィアの奴が相手だったけども、今じゃ、あいつもお国のお偉いさんになっちまって、喧嘩の一つも出来やしなくなっちまった・・・
そんな処に―――お前達が来てくれて・・・私の寂しさを紛らわせてくれた・・・感謝してるんだぜ、これでも・・・。
この時、現在のリリアの胸中が、語られました。
そしてそこには、以前タケルから説かれて、リリア自身も思う処となった心境、そのままがあったのです。
それが・・・
「相手がいてこその喧嘩」―――
その道理を説かれた時、不思議とリリアは、共感するところがありました。
そしてその事を、直接リリアから聞かされた、たまもは―――
た:・・・うつけ者が―――お主は、どうしようもない、うつけ者よ・・・
―――タケル殿、恥を承知の上で、如何ばかりかの頼みがありまする・・・。
タ:それは一向に構いませんが、なぜ「恥」―――などと・・・
た:・・・わしは―――
実は、たまもは、エグゼビア大陸へと赴く直前、ロマリア共和国の、然る重要人物から、「あるモノ」を授けられてしました。
而して、その・・・「重要人物」と、「あるモノ」とは―――
ユ:たまもさん、彼の地へと赴く前に、これを―――・・・
た:むん? なんですかな、これは・・・小さな嚢のようにも見えますが―――
ユ:その嚢、ご自分達が窮地に立たされた時、「どうしても―――」と、云う場合に限り、お開けになって下さい。
そうすれば、災いは、自ずと去りましょう・・・。
た:ふむ・・・しかし、恐らくその機会は巡っては来ぬと思いますが・・・まあ、用心のために、頂いておきましょうかな。
「東の評議員」である、ユリア=フォゲットミーノット=クロイツェル―――
その人物より授けられた、小さな布の包み一式・・・
それに、ユリアからは、たまも達自身の、存亡の危機に際し、一度だけ―――と、注意を促されたのです。
けれど、たまもにしてみれば、じぶんとしのが、窮地に立たされることもないとしていた為、敢えて聞き流す程度でしたが・・・
しかし、そう―――・・・
その時、たまもの頭の中にあったのは、自分としの―――のみ・・・
よもや、タケルやリリアの事は、考えてもみなかったのです。
けれど、現実としてあるのは、自身の危険を省みず、自分を庇って傷ついてしまったリリアが―――
それに・・・思いもよらない、喧嘩ばかりをしてきた相手の―――想い・・・
そうした、「状況」が積り重ねられたことで、たまもは、ユリアから授かった、嚢を紐解く事にしたのです。
=続く=