その二人は、顔を付き合わせる毎に、口を開く毎に―――互いを非難し合い、罵り合う事も少なくありませんでした。
だとするならば、二人とも・・・互いのどこが嫌いで、どこが気に食わなかったのでしょうか。
いえ、実は―――・・・
彼女達のことを、よく知る仲間から、その事をよく表す証言があり―――
「二人とも、似た者同士」・・・
所謂、「同族嫌悪」とも云うのでしょうか・・
つまり、自分と性格や行動が似ている、赤の他人を見ていると、どうしても自分の姿と重ね合わせてしまうようで、
そうした処が、歯痒くも腹立たしくもあった・・・
しかしならば、やはり自分が同じ立場であった時に、どうしていただろうか・・・
そこは、何をか況や―――ではなかったでしょうか。
ともあれ、自分の身代わりとなって、傷付いてくれた「喧嘩相手」に、たまもは・・・
エグゼビア大陸へと赴く際、ロマリアの、「東の評議員」であるユリアから、授かった「嚢」を、懐中より取り出し、開けたのです。
すると―――・・・
リ:うおおっ!? な―――なんだ、この噴煙は??
し:(!) この気・・・まさか、たまちゃん―――?!
デ:フ・・・刃を交わしている最中に余所見とは―――私も、よくよく舐められたモノだな!
し:ぅわっ―――しまった・・・
その嚢の内に入っていたモノの所為で、立ち所にその場は、噴煙に包まれてしまいました。
しかし、同時に―――その女児と長く付き合ってきた抜け忍には、身に覚えのある「妖気」が立ちこめるのも知覚したのです。
そう・・・「妖気」―――
斯くも畏ろしい・・・この世に、禍いのみを齎してきたと云う、強力で、禍々しい、悪しき気・・・
そんな「気」を、友の契りを交わした女児から感じたしのは、一瞬の隙を生じさせてしまい、デイドリヒにつけ狙われるところとなってしまったのです。
それよりも、辺りに立ちこめていた煙は、収まるどころか、尚一層の濃度を増して行き、終には、リリア達の視界を遮るまでとなってしまったのです。
しかも―――・・・
デ:むっ?! これは―――「変わり身」か!
おのれ、どこへ逃げた―――!
仕留めるのに、手応えは感じた―――と、デイドリヒが、獲物であるしのの死亡を確認しようとした時、彼の武器が捉えたのは、しのの命などではなく、只の切り株でした。
そう、しのは、九魔忍術の一つでもある「空蝉」を使い、自身は、皆が互いを認識し合えない中、的確に傷付いたリリアの下に駆け寄っていたのです。
し:大丈夫ですか―――
リ:ああ・・・しの―――しまんねえな、逆に助けられちまった・・・
し:いえ・・・それよりも、今はここから離れましょう。
リ:え? でも、あのデイドリヒとか云う奴を、なんとかしなくちゃ・・・
し:この結界を形成している、円陣は消失しない―――判っていますよ、そこの処は・・・
けど、あの人に任せておけば、なんとかなります・・・
第七十二話;金毛白面九尾狐
傷付いたリリアを抱えあげると、素早くその地点より離れるしの―――
彼女には判っていたのです。
この噴煙の向こうに、何者がいるのか・・・
嘗ては、常磐を恐怖の渦に巻き込み、数々の悪行を尽くして、人間に討伐された・・・
而して、その怨念は、日月を過ごすと共に増大し続け、やがて、封印されていた「殺生石」より、滲み出でた妖気は、女児の姿を形成するまでになったのです。
しかしながら―――・・・
謎:ふ・ふ―――フフフ・・・
変わってしまったのは、姿・貌のみ・・・
変わらなかったのは―――・・・
妖:よもや―――とは思うておったが・・・やはり・・・な。
リ:(!)なんだ―――今のは!?
し:(たまちゃん・・・)
変わらなかったのは、強力過ぎる、禍々しき「妖気」―――
「東の評議員」である、ユリアより授かった、「アーティファクト・ツアラツストラ」の欠片により、嘗ての姿―――
色白く、世の男共を誑し込ませるまでに、艶のある美貌に―――金色の眸、白金色の長髪・・・そしてなにより、金色に輝ける九つの尻尾が確認されたのです。
すると、噴煙は一気に切り払われ―――
リ:うおっ―――たま・・・お前、その姿は・・・
玉:・・・ぬしよ、ようもわしらを弄玩んでくれおったな―――これは・・・わしからの、ほんの礼じゃ―――受け取るがよいぞ。
ほんの少し―――ほんの少し、気を込めただけ・・・でしたが、たったのそれだけで、目の前の、邪魔だった泥の手や人形共は、悉く崩れ去り、一切の障害は取り払われたのです。
玉:フ―――・・・脆いモノよ・・・。
わしの戯れで、こうも容易く崩れるモノとは、な。
これでは、ぬしの上に立つ者の実力も、多寡の知れると云うモノよ。
玉藻前は微笑んだ―――
その、不敵なまでの微笑みは、嘗ての全盛期の能力を取り戻せた事の歓喜によるモノなのか・・・余人は知るべくもありませんでした。
ですが、このままでは終われよう筈もなく―――
デ:く! 罵られたままでは不本意だが、ここは一旦退くに限る!
玉:逃すものか! ぬしには聞きたい事が色々とあるのでな―――
それに、今のわしの能力・・・如何ほどのものか、ぬしで篤と試させて貰うとしよう―――
『オン・ダキニ・ササハラキャンテイ・ソワカ』――――――=天地魔境陣=―――
その者が、呪式の文言を唱え終ると、天地の理を示した魔法陣が形成され、対象者を捕縛すると、結界内を弾け飛び、やがては上空より巨大な火柱を伴って、爆縮・暴発をする・・・。
この術こそが、一代で玉藻前を、恐怖の代名詞としてのし上げ、「最凶」の名を欲しい儘としてきた、「鬼道・荼枳尼乃術」なのでありました。
だから、それ故に、術の対象と成り得てしまったデイドリヒは、さぞかし無惨な骸を、晒しているモノとばかり思えば―――
し:あっ―――いない・・・逃げられちゃった。
リ:ち・・・くそっ、追うぞ―――!
玉:待て、そう急いだとて無駄じゃ・・・
リ:そうは云うけどなあ・・・
玉:リリアよ、今は急いて焦る時ではない。
それより、見るがよい、術を操っておった者がいなくなったお陰で、通常空間に戻って行く。
それに・・・時間じゃ―――
リ:あ・・・あ〜〜―――・・・それよりさあ〜〜って、あれ? お前、また縮んだ?
た:仕様がなかろう、これが、今のわしの本来の姿。
先程のは、この嚢の内に入っておった、「珠の欠片」の様なモノのお陰で、一時的に、昔のわしの能力が戻ってきた、
それに伴い、わしの昔の姿に戻れた・・・と、こう云う事よ。
リ:はあ〜? なんだか、訳の判らんやっちゃなぁ―――
た:無理に判ろうとせんで良い。
莫迦が、余計に莫迦になってくるぞ。
リ:こ・ん・の・ヤロ〜〜一言余計だっつーの!
た:しかしな・・・わしは、嬉しかったぞ。
それに、わしとお主とは、どこか似た者同士―――だから互いの事がよく見える。
それであるが故に、お互いの厭な処も、よく目に付く―――と、云った処よ。
リ:ん゛・む゛〜〜なんか、巧いことはぐらかしやがったな―――
それよりよ、あんの野郎、どこへと行きやがったんだよ。
た:ふむ、それはじゃな―――おろ?!
タ:それより、先を急ぎましょう。
リ:あっ・・・タケルさん―――そう云えば、今までどこに行ってたんだ?
タ:その事も併せて、道中でお話しいたします。
それよりも、急ぎませんと、先行したイリス殿達が危のうございます。
例の・・・たまもが授かったと云う、嚢の中身が、「珠の欠片の様なモノ」・・・
それが、「東の評議員」である、ユリアが所有する「アーティファクト・ツアラツストラ」である事を、一体どれだけの者が理解できていたでしょうか・・・
しかしながら、「珠の欠片」と云えども、強力な力を宿していモノは、確実にたまもに作用し、女児の在りし日の姿―――「金毛白面九尾狐・玉藻前」として復活を果たしたのです。
けれど、その効力は無限ではなく、またしかも、短く限られてもいたのです。
そのことを、たまももどこか判っていたものと見え、自身が行使する内でも、「最大奥義」を発動させ、現在敵対している者が、いずくにへと逃げるのを見極めようとしていたのです。
すると、デイドリヒは、玉藻前が意図していた処とは、別の方向へと逃げ去り、だから、彼を追おうとしたリリアを引き留めたのです。
けれど、自分達を隔離していた、魔法陣の形成をした術者本人がいなくなった事により、結界が無効となり、晴れて通常空間に戻って来られた・・・
それと共に、お約束通り―――たまもの姿も、元へと戻ったのです。
するとこの時、いつの間にやら姿を消していたタケルが、再び姿を現わせ、リリアの質問攻めに遭っていたのです。
嘗ては、「パライソ国」の、政治の中心に在り―――先代の緋刀・貮漣の所持者にして、清廉の騎士でもあった彼が、闘争の場より離れてどこにいたのか―――
そしてまた、危うく、玉藻前の術の餌食になりかけたデイドリヒは、どこへと逃げ去ったのか―――
総ては、これから一つとなろうとしていたのです。
=続く=