城下にて、リリア達一行が、火花を散らし合っていた頃―――
同じくして城内では、先行組のイリス達が、当初の懸念通り、待ち伏せに遭い、周囲りを囲まれていたのでした。
蓮:フフ―――これはこれは、こちらの予測していた通りの、展開になったようでござるな。
市:蓮也殿・・・しかし、これでは、あちらの思う壺―――ではございますが・・・
蓮:いかにも、その道理は、一つ裏を返せば、こちらの「思う壺」にもござります。
トロイア国を治める、王の一族がいるとしても、既に敵と認知をしていて、包囲するトロイアの兵士達・・・
けれど、こちらも、こうした状況を想定して乗り込んでいるので、包囲された状況に陥っても、動揺するはずもなく、
逆に、この国の、そうした闇の部分が浮き彫りにされた―――と、云っても、過言ではなかったのです。
しかし、それであっても―――依然として、例の「呪術師」の姿は、そこにはなく・・・
イ:(く・・・)アレクセイ―――姿を現しなさい! 私ならここにいます!
トロイア国を治める、王の一族―――「姫」にして、一軍を率いる「将軍」でもある、イリス=グゥワイゼナヴ=アディエマスは、
この国を・・・自分が愛するこの国を、こんなにまで変貌させた、首謀者の名を、声高に叫んだのです。
この人物さえ―――この国に来なければ・・・そして、自分の父も、この人物にさえ会わなければ、
この国も、ここまで変わらなかっただろう―――
いや、それよりも、この人物に誑し込まれてしまった父を、諌めるより・・・
そんな父を避け―――家族とも距離を置いてしまった、自分を恥じなければならない・・・
なにより、この国の王は、自分の父であり、王妃は母であり、太子達は兄妹なのだから・・・
だから、先ず、正気だった自分が、彼らを正道へと糺さなければならなかった―――・・・
それなのに・・・未だもって、得体の知れない人物に、怖じ気を感じてしまい、彼らを見棄てて、距離を置いてしまった・・・
「結局の処は・・・私も、本当の意味での敗北者であり、彼らとまともに向き合えなかった、卑怯者なのだ―――」
けれど、今は違う―――
今は、自分が認めた「師」があり、また、その師より噂で聞かされていた、憧れの人物とも知り合う事が出来た・・・
最早自分は、一人ではない―――
だからこそ、強気になる事が出来たのです。
しかし、そんなイリスの意気込みを、見透かしたかのように、イリス達の前に現れたのは・・・
兄:イリス―――・・・
兄:兄は・・・兄達は、哀しいぞ―――
イ:シャルンホルスト兄様に・・・クラウゼビッツ兄様―――
おのれ・・・アレクセイ! 兄様達ではなく、お前が出て来い―――!!
シ:イリス・・・なんと云う事を―――今すぐに、あの方にお詫びをするのだ。
ク:そうしないと、兄達や母上が、あの方に対し、申し訳が立たぬのだ。
第七十三話;この国の現状
イ:「あの方」・・・?
素姓も判らぬ者に、この国の政治を任せたお陰で、この国はすっかりと変わってしまった・・・
それに、なぜ、一言目が「王」である父様ではなく、「あの方」なのですか!!
シ:イリスよ・・・もういい―――良く判った。
どうやらお前とは、相容れぬ仲・・・
それに、お前は大きな勘違いをしている。
この国が、エグゼビアの覇者となれたのも、偏にアレクセイ様のお陰―――
ク:それを、アレクセイ様のことを悪く云うようでは・・・
イリスよ、どうやらお前には、お仕置きが必要なようだな。
目は虚ろ・・・まるで、死んだ魚のように濁っており、口調もどこか悖らない―――
しかも、最敬の人間を侮蔑する―――と、云った、不貞を働くイリスに対し、申し訳なく思う対象も、
統治者であり、実の父でもある、トロイア国王に―――ではなく、得体の知れない者に・・・でした。
それに、血を分けた実の兄妹であるにも拘らず、アレクセイ某に対しての不敬の数々に、
二人の兄、シャルンホルスト=ジェラザード=アディエマスと、クラウゼビッツ=ヴォン=アディエマスは、イリスに刃を向け始めたのです。
そして、この様子を、逐一見聞していた、蓮也に市子は・・・
蓮:なるほど―――見ていて、反吐が出るようでござる。
市:ええ―――それに、最早、酌量の余地など、垣間見れるところではないモノと見受けました。
イ:し・・・しかし―――・・・
蓮:イリス殿―――兄妹を傷付けるのを、畏れるのであれば、それは全く、見当違いも甚だしいでござる。
市:如何にも―――それに、この者達は、既に人間ですらあり得ません。
その証拠に―――はっ!! ――=神薙・横一文字=――
イ:ああっ! 兄ぃ―――
シ:ぅぬぐおぉぉ・・・おのれ―――! よくも私の腕を・・・だが!
イ:―――様・・・
な、なぜ―――斬り落とされたはずの腕が・・・生え変わった?!!
シ:クフフ・・・どうだ、イリスよ、素晴らしいだろう!
アレクセイ様は、只の人間である私達に、こんな素晴らしい力を、お与え下さったのだ!!
ク:だからイリスよ・・・今からでも遅くはない、今までのことを詫び、私達と共に、あの方の為に邁進するのだ。
市子の得意とする、居合の抜刀術で、相対的に近くにいた、シャルンホルストの片腕を、斬り落とした―――の、でしたが・・・
通常の人間の、身体構造では考えられない現象が、そこで起こってしまったのです。
それが、腕の生え変わり―――「再生能力」とでも云うのだろうか・・・
しかも、この再生のあり方は、「再生者」や、「ヴァンパイア」の「それ」とは違い、どこか「蜥蜴」のモノに近しくあったのです。
けれども、これではっきりとした事が判ってきました。
そう・・・市子が云っていたように、これでは、到底「人間」とは呼べない―――
最早、家族は、自分一人を残して、全員が「化け物」の類に変わってしまったのだ・・・
けれども・・・そんなになってまでも、イリスにしてみれば、所詮、兄達は「兄」でしかなかった・・・。
幼い頃より、共に学び―――共に遊んだ、兄達・・・
なにより、一番、妹である自分を、可愛がってくれた、兄達・・・
しかし―――もう・・・あちら側は、こんな自分を、そう云う風には見てはくれないのだろう・・・
それを裏付けるかのように、手下の兵どもに、一斉に襲いかかるよう指示を出す兄達・・・
シ:さあ―――者共、かかるがよい・・・!
ク:だが・・・イリスだけは殺してはならんぞ・・・なぜならば―――クフフフ・・・
兄達の、いやらしさを含んだ、その笑みで、自分の身に降りかかろうとしている、災厄の内容を読み取るイリス・・・
自分を―――彼ら自身の「妹」である自分を、亡者共の慰みモノにしようとしている・・・
そんなことが、果たして、人道的に赦されるべき行為なのだろうか―――
而して、イリスの肚は決まりました。
もう―――迷いませんでした・・・
だから―――・・・
イ:―――愚劣極まる者には、死あるべし!!
シャルンホルスト・・・クラウゼビッツ―――覚悟ぉ!
喩え、血肉を分けた兄達だとしても、既に人間ではなく、畜生にも劣る思考の持ち主である彼らの名を、呼び棄てたイリス・・・
そんな彼女の覚悟を受けた蓮也と市子は、自らの持てる武技をして、イリスの覚悟に応えようとしたのでした。
すると、ここで・・・邪魔者達の排除に手間取っている、不出来な部下を叱咤する為、この人物が―――
妃:何をしていると云うのです―――さっさと始末しておしまいなさい!
シ:―――これは、ヒルデガルド様・・・申し訳もございません。
ク:イリスめが来たまでは良かったのですが、余計な者までもが来てしまいまして・・・
ヒ:云い訳は宜しい、この上は、妾が直接手を降してくれる!
イ:母・・・様―――そ、そんな・・・
市:(なんと云う、禍々しい気・・・)
蓮:(最早、この女性も、化生の類にござるか・・・)
嘗ての―――あの優しかった笑顔は、そこにはなく・・・
人に非ざる者に成り果ててしまった、兄達と同じ様に変わり果ててしまった、母、ヒルデガルド=ブリリアント=アディエマスの姿―――
その姿を見て、判ってはいても、イリスには、自分の内にある闘気が、徐々に萎えて行くのが判ってきました。
それに加えて、まだあちら側は、戦力を温存させている―――
この国の王であり、また、イリスの実父でもある、フリードリヒ=セバスチャン=アディエマス・・・と、
最初に彼を洗脳し、生ける傀儡としてしまった張本人、アレクセイ=セルゲイビッチ=クドリャフカの存在。
最早、進退窮まったイリス達に、選択の余地は残されていないのでしょうか。
=続く=