志を一つにする仲間の命を狙われ、自らが手にしている史上最強の剣で対抗するイリス。
しかし、現状は―――なんとか、一撃目は防ぎ切ったものの、柄に目を落としてみれば、亀裂の様な罅が入っていたのでした。
その事に、イリスは少なからず動揺してしまうのですが、幸いなことに、その事実を知っているのは、自分一人だけ・・・
なればこそ、何もなかったように振る舞うのでしたが―――・・・
ア:・・・ファファファ―――あれを防ぐとはな!
だが・・・これではどうかな?
「そんな・・・まさか・・・たったの、あの一瞬で―――見抜かれた?」
イリスは、焦りました・・・。
それもそのはず、アレクセイは、自慢としている術を防がれ、さぞかし落胆しているものだろうと思われたのに・・・
それが―――まるで、剣の柄に異状が発生したのが判ったかのように、今度は緋刀・貮漣に対し、術の集中砲火を浴びせかけてきたのです。
そして―――破綻は、終に・・・
イ:あ・・・っ―――あ、ああ・・・そ、そんな〜!!
強力な術の、集中砲火を浴びた所為もあるのか―――
終に耐え切れなくなった、緋刀・貮漣は―――
硝子細工が砕けるように・・・脆くも崩れ去ってしまったのです。
しかし―――そう・・・この剣こそは、「史上最強」として謳われており、こんなにも、脆く崩れ去ってしまうモノなのか・・・と、疑問すら浮かんでくるのです。
ですが、なんと、先々代の所持者の云うべくには・・・
タ:ほう―――これは、砕けてしまったようですな、いや、残念。
リ:・・・「ほう」? つて―――ちょっと、ちょっと?? タケルさん、アレ―――アレ―――!
タ:ハハハハ―――仕方がありませんでしょう。
形あるモノは、いつしか崩れる・・・それに、ワシとしては、よく500年以上も、酷使に耐えたモノだと、感心すらしております。
蓮:500年以上も―――では・・・
タ:ええ、つまるところ、耐用期限が来てしまったのです。
緋刀・貮漣の、モノの寿命としての―――ね・・・。
第七十六話;六枚の翼
史上最強の剣の破綻を、目の当たりにしてしまったので、動揺をしてしまうリリアとイリス―――
それなのに、以前まで緋刀・貮漣乃所持者であったタケルは、動揺するどころか、寧ろ当然の様に、惜しむ気さえ見せなかったのです。
しかし、これで、一気に形勢はアレクセイ優位に傾き、リリア達の命運も、ここに尽きたか―――に、思えたのですが・・・
ア:フォフォフォ―――これで厄介なモノが一つなくなった・・・。
そろそろ観念するがいい!
リ:ああっ・・・くっそぉ〜〜どうすりゃいいんだ―――
タ:リリア殿、一つ確認しておきたい事がございます。
リ:は? なんだよ〜この立て込んでる時に〜〜―――
強力な武器を失ったとしても、平然としているタケル―――
その彼が、リリアに「ある事」を訊いてきました。
それが・・・彼自身が、緋刀・貮漣をリリアに譲り渡し、それ以降あった出来事のことを。
以前、九魔の抜け忍であるしのを襲い、自爆まで考えた者より、宜しく全員を護ったと云う・・・「あの現象」―――
リ:あ・・・ああ―――確かに、その場にいた、しのや蓮也、市子達を護りたい・・・って、強く願った時に・・・
タ:そう云う事でしたか―――(やはり・・・)
では、あの当時のことをよく思い出して、同じように念じてみてください。
リ:はい?? いや―――でも・・・それ〜って、アレがなけりゃ・・・
タ:出せませんか―――なるほど。
「晄楯」―――自分や仲間に降りかかる災厄を、須らく防ぐ「史上最強の盾」・・・
しかも、その在り様は、普通の「木」や「鉄」で出来た「盾」ではなく、何か・・・薄い光の膜の様なモノが、剣であろうと魔法であろうと、寸分の隙もなく遮る・・・
それ故、緋刀・貮漣の継承者には、いかなる攻撃手段も、無用―――だとするのが、この世の通説だったのです。
けれど・・・今ここに―――緋刀・貮漣は、脆くも砕かれ、原型すらも留めていない・・・
だからリリアは、剣がない状態で、「晄楯」を出すのは、無理があるのではないか―――と、云いたかったのです。
けれど、タケルは―――・・・
タ:お前達もよく聞くがいい―――お前達が今まで目にしていたのは、単なる「モデュール」でしかない。
『剣とは、持ち主自身の潜在能力を引き出す為の、道具でしか有り得ない―――』
これは、このワシの師で在られる方の辞だ・・・。
そのタケルからの言葉に、全員は一様にして、耳を疑いました。
そう・・・今まで自分達が目にしていたのは、単なる「道具」であり、やもすれば、「飾り」の様なモノでしか有り得ないと、指摘されたのです。
けれど―――ならば・・・
「緋刀・貮漣」とは、一体なんなのでしょうか・・・。
イ:それよりも―――タケル先生の様な方にも、先生自身の・・・師が―――?
タ:ええ、何よりワシ自身、未だ不勉強な上、知りたい事も山積しておりますので・・・。
ですから、その方を「師」として仰ぎ、足らぬ処を補っている始末なのです。
ア:ぬぅぅむ―――まさか・・・お前自身の師とは・・・
タ:おや、どうやら聡いのに一人、勘付かれたようですな―――
それで・・・? このまま逃走ですか―――折角の好餌が、二つもぶら下がっていると云うのに・・・?
ワシならば、先ず、見逃さんでしょうな―――滅多と、こうした機会は訪れませんでしょうから・・・
言葉巧みに、アレクセイを誘導させるタケル―――
そこには、自分の身の危険よりも、「実績」や「点数稼ぎ」と云った、「甘い誘惑」に駆られてしまった、アレクセイの姿があったのです。
そう・・・アレクセイは、タケルが「喩え」に引き合いに出した、「好餌」の二人・・・リリアとイリスの存在に、釣られてしまったのです。
ア:ファファファ―――云われてみれば、確かにな・・・
どうやら、「覚醒」ですら、至っておらぬように見受けられる・・・
それに、史上最強と謳われた剣も、今は最早ない、剣は・・・力を貸してはくれなかったのだ!!
「そんな―――なぜ、今、敵にアドバイスを・・・」
「どうして・・・?」
イリスにしてみれば、日頃からタケルを「先生」と呼んで慕っていただけに、今の発言によって、自分達が「見限られた」モノだと思ってしまいました・・・。
嘗ては、自分が城から抜け出した折に、どう行動を取って良いか―――の、助言を受け、つい先程までも、的確な指示をしていたタケルが・・・
なぜ、今になって、敵方であるはずの、アレクセイにアドバイスを―――?
けれど、敵であるアレクセイ以外は、味方であるイリスも、リリア達でさえも、知らない・・・
彼―――タケルの、師である者の存在を・・・
ア:ファファファファ! ならば今こそが好機―――!
喰らうがよい! 私が有する、最強最大の呪文を!! ――=デバステイト=――
リ:くっっ・・・そおぉ―――っっ!!
またしても・・・「あの時」と、同じ状況―――
自分と、仲間の身が危険だと判断し、全員を護ろう―――と、強く願った、「あの時」・・・
リリア達は、奇蹟的に、命を取り留めていました。
そして、今―――・・・
この国の姫将軍と、自分の命が狙われ、今までよりも、強力な術の効果が、リリア達を容赦なく襲おう―――と、した、次の瞬間。
全員が、異様な光景を目の当たりとしていたのです。
そう・・・リリアは、緋刀・貮漣を喪った―――にも拘らず、自分とイリスを狙って放たれた、アレクセイの攻撃呪文を・・・
蓮:な―――なんでござろうか・・・アレは・・・
あの時とは、全くその形状を異ならせて・・・
し:でも―――なんだか、とっても綺麗・・・
まるで、六枚の翼が・・・リリアさん達を護っているかのようだよ・・・
リリアは、無我夢中で―――「あの時」と同じ様に・・・
左手を相手に差し向けるようにして、自分達の身を護るように、強く願いました・・・。
すると―――
掌の、僅か数cm先で、光の輪が形成され―――その光の輪は、徐々に大きくなると、やがて、左右からは独特の形・・・
しのの言葉を借りるならば、対になった六枚の翼が、リリア自身とイリスの命を保護したのです。
そう・・・緋刀・貮漣を喪ったにも拘らず、リリアは―――
「晄楯」を・・・しかも、より発展させた象で、具象化させてしまった事実のみが、そこにはあったのです。
=続く=