アレクセイが、邪魔だと感じていた、トロイア国のイリス姫・・・

そして今回、そのイリス姫を助ける為に現れたリリア共々、纏めて亡き者にしようと、アレクセイが放ったモノとは―――

アレクセイが修得した(なか)では、最も強力を誇る最大の呪文―――「デバステイト」でした。

 

そして、この呪文によって、イリスとリリアは、抵抗の出来ないまま、滅び()宿命(さ だ め)でもあったのです。

 

ですが、その結果も―――「以前のまま」だったら・・・の、話し。

けれど、「現在」は、違う―――

 

今までは、剣が自分に力を貸してくれていたように感じてはいたけれど、実際には、そうではなかった・・・

剣は、自分が潜在的に持つ、能力を引き出す為の「モデュール(道    具)」でしかなかったのです。

 

そして、今・・・自分達を滅し()く為、アレクセイが放った、最強の呪文「デバステイト」が迫りくる中・・・

リリアは、夢中で―――「あの時」のように、左手を対象に差し向けるようにして、皆を護りたいと・・・ただ、それだけを強く願った―――

 

すると、モデュール(媒   体)だった「緋刀(ひ と う)貮漣(に れ ん)」を、(うしな)ってしまったにも拘らず、リリアは「晄楯」を―――

総て、己に降りかかる災厄や、障害の一切を無効にすると云う、「最強の盾」を、それも、より発展した(かたち)で発現させてしまったのです。

 

 

 

リ:こっ・・・これは―――・・・

イ:これが―――・・・

 

蓮:なんとも、清らかにて(まばゆ)い・・・それに、形状の方も、あの時とは(いささ)(こと)にしているように見受けられますな。

市:それにしても・・・なんとも、圧倒的な力―――先程の剣とは、比べ物になりませぬ。

  しかし―――依り代もないままで、どのように・・・?

た:ふむ・・・()にも、そら畏ろしい味方を持ったモノよ。

  あ奴が、敵として現れなんだのが、せめてもの救いかのう。

し:うん・・・それに、どこか、相手の方も怯んでいるように見えるよ。

  逆転の一手を試みるのなら、今の内に―――

 

タ:まあ、お待ちなさい。

  その気持ち、判らないではありませんが、追い詰め過ぎると、逆に手痛い竹箆(し っ ぺ)返しを貰ってしまいますよ。

  (それにしても、お見事・・・第一段階は、これでクリア―――と、云ったところですかな。)

 

 

 

リリアの、左掌(ひだりてのひら)中央部より生じた光輪は、次第に大きくなり、やがては光輪の左右より、対になった三枚―――計六枚の翼の形状をしたモノが現れ、

その翼が、アレクセイ最大の攻撃呪文の(ことごと)くを、防ぎ切ってしまった―――

それが、新たなる「晄楯」でもあるか―――と、でも云うように・・・。

 

しかし、自分がご自慢としている、最強にして最大の攻撃呪文を、見事に防がれてしまった当人としては、

怒りは心頭―――収まり処もなく、ですが・・・今、リリアが発現した現象が、何であるかを判っていたモノと見え・・・

 

 

 

ア:ぬ・ククク―――お・・・おのれぇ〜い・・・そ、それは、お前自身が出していると云うかぁぁぁ〜っ・・・

 

タ:まさしく、その通り―――と、云ったら・・・?

 

ア:フ・・・フフ―――このような重大事項は、早速あの方の耳に入れなければ・・・

  それに、有り難く思うがいい! ここは大人しく退いてやるわ!

 

リ:あ・・・っ? ま、待ちやがれ―――この野郎!

  その前に、お前が操っていた奴らを、ちゃんと元通りにして行きやがれ!!

 

ア:フハハハ―――さらばだ!

 

リ:あっ! 〜の、クソ野郎・・・厄介な事を押し付けて、いなくなりやがった。

タ:いえ、それも心配には及びません。

  この国の者達を、強く縛りつけていた者自体がいなくなれば、「呪縛」と云うモノは、(おの)ずと消え去る・・・

  いくら強力な洗脳を仕掛けたとは云っても、原理・構造とは、至極簡単なモノなのです。

 

 

 

歯噛みをし、地団駄を鳴らすも、「それ」を出されたのでは、自分には到底勝ち目がないモノと判断し、

アレクセイは、程度の棄て台詞を吐きながら、どこか遠くへと転移してしまいました。

 

けれど、そうする前に、アレクセイが洗脳を施した、トロイアの王族達を元通りにするよう、リリアは要請したのですが・・・

アレクセイは、その事に関しては素知らぬ顔を決め込み、足早にその場から去ってしまったのです。

 

そして、このままでは、事態は変わらないまま―――

(やま)しき人物に、操られたままの数千人を、どう相手して好いモノか―――と、悩みあぐねていた時、

タケルからは、操っていた大元(おおもと)がいなくなったのだから、そんなには気にする事はないと云われたのです。

 

けれど・・・ここに、一つの、「気にしなければならない」ことが―――

 

そう・・・兵達の症状は、(かか)りが浅かったモノと見え、アレクセイがいなくなると同時に、呪縛からは解き放たれたのですが・・・

残念ながら―――イリスの家族は、既に・・・

 

 

 

イ:うわああ〜〜っ・・・!ああ〜〜―――っ・・・

  そ・・・そんな―――そんな〜〜―――! (とう)様―――(かあ)様―――(にい)様〜〜!!

 

  ・・・ごめんなさい―――私が、もっと早くに気付いてあげるべきだった・・・

  それに・・・私が、現実から目を(そむ)けて逃げてしまったから―――

  ごめんなさい・・・なにもできなくて〜―――・・・

 

リ:・・・イリス―――

 

 

 

イリスは、(さなが)らにして、己を恥じ―――また、悔いたモノでした・・・。

家族の変貌を知りながら、その現実から目を(そむ)け、逃避行動を取ってしまった事に―――

 

しかし、ここで、奇蹟的に―――

 

 

 

フ:イリス・・・我が娘よ―――もう、嘆くな・・・

イ:(!)・・・(とう)様―――?

 

 

 

他の、母や兄達は、強力過ぎたアレクセイからの呪縛に、魂まで喰らい尽くされ、既に亡くなってしまっていましたが、

トロイア国王である父は、僅かに耐性があったからか、息を吹き返し・・・今わの(きわ)を語る為、余力を振り絞ったのです。

 

 

 

フ:私は・・・不甲斐なくも、あの者に屈してしまい・・・云う(なり)にしか、ならなくなってしまった・・・

  その為、ヒルダやシャルンホルスト―――クラウゼビッツ・・・更には、お前までも巻き込もうとしてしまった・・・

  私は・・・愚か者だ・・・真に恥じ、悔ゆるのは私なのだ・・・

  だから・・・お前が・・・そうするべきでは・・・ない。

  ヒルダ達には・・・あの世に逝った時、私自身が謝ろうと思う・・・

 

  だが・・・お前には・・・重大な、やるべき事がある―――

  私が・・・このようになってしまって・・・混乱してしまったこの国を・・・どうか、お前が立て直してくれ・・・

 

  済まぬ―――末のお前に・・・重き荷を、背負わせることになってしまって・・・

  本当に―――申し・・・訳・・・な・・・・・・・・

 

イ:―――(とう)様? (とう)様・・・いやああ〜〜っ!!

 

 

 

最期の力を振り絞り、唯一、生き残った実の娘に、後事を託し、事切れてしまったトロイア国王・フレデリック・・・

そんな彼を看取り、張り裂けんばかりに、声をあげて泣く、イリス―――

 

先程までは、敵対し、血肉を分けた家族同士で傷付け合っていたとしても、その最期の瞬間では、なぜか哀しみの情と云うモノが、湧いて出てきたモノでした。

 

そんなイリスを見るにつけ、蓮也や市子、しのやたまもは、かける言葉さえ失っていましたが、

只一人・・・リリアだけは―――

 

 

 

リ:・・・もう、泣くのはよせ、それだけ泣ければ十分だろう。

  それに、上に立つ人間が、いつまでもメソメソしていたら、お前を慕ってくれている連中は、どうしたらいいんだ。

 

イ:けど・・・! だからと云って・・・

 

リ:はあ〜・・・こんな事は、別に、他人に話す様な事じゃ、ないんだけどな―――

  いいか、よく聞け。

  この私も、もう二親(ふたおや)はいない。

  母は―――この私を産んですぐの事らしいから、顔も覚えてやしない。

  だけど、親父(お や じ)は、この私が国を空けていた時に、亡くなってしまってな・・・葬儀にも間に合わなかったんだ。

 

  だからさ・・・私には、泣く暇なんて、有りはしなかったのさ―――

 

  それにな、あんなに頑健だった親父(お や じ)が―――って、(にわ)かには信じられなくてさ、

  今でも思い出す事はあるけど、涕なんかは出てきやしない―――なんでか・・・って、そりゃ、私が泣いた時には、親父の奴が出てきそうで・・・な。

 

 

 

哀しみの淵にいるイリスを、どうにかして励まそうとするリリア―――

その例として、自分のことを挙げ、最後には嗤い話にして、落そうとしているのですが・・・

イリスはまた、違った捉え方をしていたのでした。

 

「きっと・・・この方のお父上は、この方が寝付くまで、決して眠らなかったのだろう―――」

 

その事は、どれだけリリアの父が、リリアのことを溺愛していたかに、反映してくるのです。

 

とは云え、そんな父が亡くなったとしても、涕の一滴すら流さないとは・・・

 

ところが―――リリアですら思ってもみなかったところから、そんな想いを真っ向から否定する言葉がなされたのです。

 

 

 

蓮:()は云えども、リリア殿は毎朝、亡くなられた父君―――並びに、ご母堂殿のご冥福を、祈られているではござらぬか。

  それも、拙者が目にするようになってからも、一日も欠かさずに・・・

 

リ:あ〜〜っ! それ、云うな〜〜―――って!!

  こっ恥ずかしいじゃんかよう〜〜

 

市:でも、蓮也殿の一言で、安心いたしました。

  それまでは、なんとも、情の薄い方だろう―――と、思ってしまいましたから・・・

 

た:かっかっかw お主と云う奴は―――つくづくに、悪役が似合うものよなw

  善行を暴かれて、恥入るモノとは―――いや、結構結構♪

 

し:ああ〜ん・・・たまちゃん―――どうも、すいません、すいません・・・

 

 

 

「なんて―――面白い方達なんだろう・・・私を、こんなにも愉快な気分にさせてくれるなんて・・・」

 

哀しみに、暮れかけていたイリスは、そこにいた、愉快な仲間達のお陰もあり、少しづつですが、元気を取り戻す事が出来たようでした。

 

そして、こうも思ったのです。

(ひとえ)に、ここまで自分を、立ち直らせてくれた、リリアのことを―――

そこで、思い切って、「ある事」を、提案してみることにしたのでした。

 

 

第七十八話;義姉妹(ぎきょうだい)の契り

 

 

イ:有難う御座います。

  皆さんのお陰で、どうにか立ち直る事が出来ました。

  その・・・次いで―――と、云ってはなんですが・・・

  あのっ、リリアさん、どうか私の「姉」に、なって頂けませんでしょうか?!

 

リ:・・・へっ?!

  なぁ―――・・・い、今、なんて??

  おま―――ちょっ・・・頭おかしいんじゃねえのか?!

  大体、私とお前とは、血の繋がりもない・・・ってのに―――

 

た:いぃ〜や、そうとも限らんぞ〜?

  恐らく、イリス殿が申して居るのは、「義姉妹(ぎきょうだい)の契り」の事であろう。

 

リ:ギ―――キョウダイ?? なんだぁ?それ・・・

 

市:喩え、血は繋がってはいなくとも、実の兄弟よりも濃いモノとされる・・・と、云われる、あの事でございますか。

蓮:それに、一度(ひとたび)杯を交わせば、その繋がりは、より強固になるモノとされておりまする。

 

 

 

仲間からは、口々に善いことばかりを(はや)し立てられ、すっかりと逃げる機会を逃してしまったリリア。

 

けれど・・・そう―――血縁関係にはないけれども、赤の他人を、「姉妹(きょうだい)」と呼ぶ事に、抵抗があったリリアは・・・

 

 

 

リ:ええ〜〜っ、ああ〜〜っ、うぅ〜〜っ・・・

イ:・・・リリアさん―――

 

リ:〜〜だああ〜〜っ!判った―――判ったから!

  他人を、そんな目で見るな・・・

  あ、あんたの―――好きにしたらいいだろ・・・

 

 

 

こんなにまで、苦境に追い込まれた事はなかった―――とは云え、眸を潤ませて、哀願してくる姿には、とんと弱いモノと見え、

しかも、深く考えることにも、面倒だと思い始めた、いつもの悪い癖が顔を覗かせ、

リリアは、イリスからの―――「義姉妹(ぎきょうだい)の契り」の要請を、あっさりと受け入れてしまったのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと