事の、成り行き次第で、トロイア国姫君であるイリスと、「義姉妹(ぎきょうだい)」の契りを交わしてしまったリリア。

 

しかも、この姫君―――他人前(ひ と ま え)では気丈に振る舞い、この国の次代(じ だ い)を継ぐに相応(ふ さ わ)しい、器量(う つ わ)の持ち主だと思っていたのに・・・

それが、中々どうして・・・一転して、他人目(ひ と め)(はばか)るようになると、末っ子としての性分が現れてくるのです。

 

そう―――「甘えん坊」としての・・・

 

市井(し せ い)の人々や、家臣達の前では、そんな素振りは一向に見せずにいたのに、

一部の家臣―――その(なか)でも特に親しかった者や、この度「義姉妹(ぎきょうだい)」になったリリアの前では、そんな「甘えん坊」としての性格が、如何(い か ん)なく発揮されたと云いますから、

当然、リリアの方でも・・・

(ちな)みに、家臣の(なか)でも、特に親しかった者達は、イリスのこの性格のことを、よく心得ていたため、敢えてここでは特筆する様な事はない。)

 

 

 

市:リリアさん・・・少し、やつれましたか。

リ:あ゛あ゛〜〜やっぱ判る??

  あいつったら・・・私と一緒の時だと、ひっついて離れやしないんだよ〜〜

  こんな事になるんだったら、もちっと考えれば良かったかなぁ〜〜・・・

 

た:慕われておる証拠だろうに―――贅沢よのう、お主は。

リ:おまいが、ンな事云えるのは、当事者じゃねえからだよっ!

  ・・・たくぅ、人の気も知らいで―――

 

た:の・ほ・ほ・ほw わしに口答えする元気があるようでは、まだまだ大丈夫じゃよ。

リ:こ・ん・の・ヤ・ロ〜〜―――

  ・・・でも、なんか、もうどうでもいいや・・・。

 

 

 

ここ数日間、「リリア姉サマ」と云い寄ってくる、可愛い妹分を殴る気にもなれず、いつもイリスの為すがまま―――の、リリア。

 

かつて、この国を転覆させようと企んでいた悪人の、如何わしい術中に嵌った、イリスの二人の兄達のことを、無下(む げ)にも批難(ひ な ん)できないモノだ・・・と、リリアはそう思うのでした。

 

 

それはそれとして―――イリスを残し、この国の王族は彼岸へと旅立ってしまったので、現在のトロイア国の王座は、空位のまま・・・

そこで、取り敢えずとしては、イリスが「摂政」として、国政を見てはいるのですが、喪が明けてしまう時分となってしまえば、いつまでも、王座を空位のままにしておくわけにもいかず、

イリスは、タケルに、この先どうすればよいかの、アドバイスを受けていたのでした。

 

そこで―――・・・

 

 

 

イ:私が・・・ですか?

タ:そうです。

  今や、人心も穏やかになり、ここに、新たな王位の正統継承者である、あなたが立つ事によって、

  民達の心の中にも、ある種の安心感が芽生え、国の情勢も安定してくると云うモノなのです。

  それは、あなただけにも拘らず、先人(せんじん)たちもそうしてきたモノなのです。

 

イ:どうしても・・・私でなければ―――?

タ:いけません。

  何よりあなたは、前王であったフレデリック王の、正統な血筋を引き継いでいます。

 

イ:し・・・しかし―――私は・・・()だ若輩者で・・・

 

 

 

タケルと婀娜那の夫妻に初めて出会い、人としての「道」を説かれた時、イリスは(いた)く感動をして、それ以降タケルのことを「師」と仰いだものでした。

そんなタケルも、イリスの(なか)に秘める、「何か」を見出したらしく、彼女に乞われるがまま、様々な道理・教義等を教授して行ったのです。

 

そして今―――・・・「王」としての、一人の君主としての在り方を、説いたのです。

 

しかし・・・イリスはまだ、迷っていました。

 

 

自分は「末っ子」で、どこをどう取り違えた処で、兄達を差し置いて、そんな立場になる事はないだろう―――・・・

()してや、自分は、年端もいかない若輩者なのだから、「一つの国を治める」・・・と、云う、重き荷が、背負えるはずがない・・・

そして、また、背負うにしても、経験も、知識も(はなは)だ未熟なのだから―――・・・

 

今にして思う・・・父王が、今わの際に遺して云った、あの言葉の意味を―――・・・

 

しかしながら、タケルが説いた点も、道理が(とお)っていたのでした。

そう・・・イリスは、誰がなんと云おうと、この国に唯一残された、王家の血を引く者―――

その事を、判っているが故の、イリスの苦悩―――・・・

 

未だ若輩者である、イリスにしてみれば、苦しみ悩みあぐねている処なのでした。

 

それに、こんなにも重要な事を、即断即決するものではないモノとし、しばらく検討してみることで、少しばかりの時間の猶予と云うモノを稼いだのです。

 

 

第七十九話;新たなる王

 

 

とは云え・・・一人で悩んでいた処で、適切な解答が得られるわけでもなく、

その足は、自然と・・・この度、「義姉妹(ぎきょうだい)」になってくれた、「あの人物」の(もと)へと運ばれていったのです。

 

そして―――・・・

 

 

 

イ:・・・ああ―――リリア姉サマ〜!!

 

 

 

どこか、こう・・・「ほっ」としたのか、今更ながらに、涕が堰を切ったかのように流れ、あとは事態の流れるままに、リリアに抱きついたのです。

その、抱きつかれた当人であるリリアは、当初、「またか・・・」と、云うような表情でしたが、

考えてもみれば、イリスは「末っ子」で、それが一度に肉親を奪われるような事態に陥ってしまった事に・・・

そこの処も思う処があったのかもしれませんが、しばらくはイリスが泣き止むまで待ってあげたのです。

 

そして、イリスが泣き止んだところで・・・

 

 

 

リ:・・・ま、これで顔を拭け。

イ:はい・・・ありがとうございます・・・

  ・・・あの、少し話しを、よろしいでしょうか。

 

リ:ん? なんだ?相談事か?

  まあ・・・構わないけど―――

イ:ありがとうございます・・・リリア姉サマ・・・。

 

 

 

少し落ち着いてきたところで、改まって相談事を切り出すイリス。

(いま)だ若輩者で、未熟な自分が、国家の統治者である「王」を継いでいいモノなのかどうか・・・

家臣の(なか)でも、納得しない者達もいるだろうとする、この時分(じ ぶ ん)に、本当に自分が、新たなる王を僭称(せんしょう)していいモノなのかどうか・・・

 

師である人物は、「象徴」としての王がいるからこそ、国民が安心して生活が営めるモノだ―――とするも、

こうも急に、自分が王位に就くのは、最初から、そうした気があったからではないか―――と、周囲(ま わ)りが揶揄(や ゆ)するのではないか・・・

等々、尽きぬ悩みを、リリアにしたのでした。

 

ところが・・・リリアは―――

 

 

 

リ:なぁんだ―――つまらん事で悩んでんだな・・・お前。

イ:・・・え? 「つまらない事」―――?

 

リ:ああ・・・。

  なんだか聞いてれば、お前は色々勘繰っているようだけどさぁ。

  だったらこっちから訊いてみるけど、お前が今まで、その目で見てきた奴らは、お前が急に王になったからと云って、批判する奴らばかりだったのか。

イ:いえ・・・それは―――

 

リ:それに・・・さ、十人いれば、その(なか)に一人として同じ顔がいないように、お前のことを、批難する奴もいれば、賛同してくれる奴らもいる・・・

  しかも、その(なか)にも色々な奴らがいて―――・・・ま、要するに、私が云いたいのはだな、それこそが、人それぞれの「個」性であり、

  その内、色々判ってくれるもんだと思ってるんだ。

 

 

 

イリスが悩んでいる事の「それ」を、「つまらない事」だと、きっぱりと切り捨てた―――

そんな、意外過ぎる言葉に、イリスは耳を疑ったモノでしたが、リリアのそうした思想の中心部分―――所謂(いわゆる)、「矜持(きょうじ)」と思える部分がそこで語られ、

だからこそ、イリスの悩みが、小さい事に拘泥(こ だ わ)っている―――つまり、リリアから云わせてみれば、「つまらない事」に通じていたのです。

 

そうした、リリアの「矜持(きょうじ)」を伺っていたのは、何もイリスだけではなく―――・・・

 

 

 

た:ふむ・・・少々大雑把な処はあるが、中々良い処を衝いておる。

  そんなお主から見てみれば、まさしくイリス殿の悩み―――(こま)かき処と映ろうな・・・。

  じゃがな、リリアよ・・・わしから一言云わせてもらえれば、民草がお主の様に達観しておるモノとは思わぬモノぞ。

 

リ:はあ〜〜? なんだよ―――ややこしい云い方すんな・・・って。

  だったら、私が云ってる事、間違っていると云うのか?

 

た:そこまでは申してはおらん―――ただ・・・お主は難しく考え過ぎなのじゃ。

  要は、単純至極で構わん。

  それに、現体制に不満があるのならば、要望を掲げれば良いまでの話しではないか。

  だがの・・・民草からの、そうした声を無視し続ければ―――(いず)れは・・・

 

 

 

イリスも、どこか判りかけてきた部分も、あった―――

けれど、それを―――たまもは、リリアが矜持(きょうじ)としている部分でさえも、「難しい処だ」と、していたのです。

 

嘗ては、常磐の(ちょう)に取り入り、時の天上人(てんじょうびと)でさえ操ったことのある、玉藻前だからこそ、云えた道理・・・

「独裁」とは、総てが己の意のままであり、気に喰わない者―――逆らう者でも、好きに出来た・・・

しかしながら、「盛者必滅(じょうしゃひつめつ)」の(ことば)にもあるように、そんな専横が、いつまでも長続きするはずもなかった・・・

(いず)れは、民衆からの反発を招き、やがては己の身を、破滅へと導く処となる・・・。

 

たまもは、嘗て自分が経験したことを物語り、これから新たなる王となろうとしている者に、そうならないよう、云って聞かせたのでした。

 

 

それから程なくして―――イリス=グゥワイゼナヴ=アディエマスは、新たなるトロイアの国王の座に収まる事を、決意するのでした。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと