未だ、足取りさえも掴めない、仇敵の行方―――・・・
大陸の、ほぼ全土を領有させた、トロイア国の隅々を、隈なく探した、しのにたまもではありましたが、
現段階で得られた成果は・・・「確かにカイエンは、この大陸、この国に入った形跡がある―――」ことのみ、だったのです。
けれど、その事が判っていながらも、依然として、掴めなかった「足取り」なのですが・・・
そこでたまもは、少しばかり乱雑でしたが、「ある推論」を、しのに聞かせてあげたのです。
た:ふむう・・・こうなるとすれば、考えられる事は、只一つ―――
未だ、この国が従えてはおらぬ、「北西の地」しか、あり得ぬかのう・・・。
し:あそこか―――・・・
高い山や、切り立つ崖―――おまけに、深い渓谷や、流れの速い川まであるなんて・・・九魔の一人であるボクだって、ちょっときついかなぁ〜・・・。
た:そうであって欲しい―――と、あ奴の方でも、願うておるやもしれんでな。
だがな、しのよ―――・・・
し:・・・判ってるよ、お父の仇敵である、カイエンを追い詰めるまで、ボクは・・・決して諦めはしない!
「好い顔に、好い返事をするようになったものだな―――」
昔のあどけなさを、陰に潜ませ、本来の目的に邁進するしの―――
そんな彼女の姿を目に収め、たまもは協力を惜しまなかったのです。
第八十二話;状況の進捗
一方その頃、トロイア国王宮内では、新女王として、政治を見ていたイリスの下に、
何らかの解決策を献じに来た、タケルの姿が・・・
イ:あっ―――先生?!
タ:今回のが、最善とまでは云いませんが、どうかと思うモノを、持参してまいりました。
少しばかり、お時間―――よろしいですか。
タケルが、何らかの策を献じて来てくれた事に、イリスは眉を開かせました。
それに、彼自身、最善―――とまではいかないモノの、自身の献策を、その場で披露してみたのです。
タ:よろしいですか―――対外勢力を従えさせるのに、武力を行使せねばならないのは、実は、下の下策でもあるのです。
それでは、なにをもって、最上とするのか・・・お判りですか。
イ:え・・・と―――
タ:答は、「話し合い」―――外交なのです。
イ:でも、そんなことは―――
タ:よろしいですか、イリス様。
先ずは、彼らの要望としている処を、なんであれ、全面的に認めるのです。
その内に、約定を改訂させるなどをして、彼らを馴染ませて行く―――
それでも、意見を激しく対立させるようであれば、そこはもう仕方がありません・・・改めての、決戦の口上なりを、申し述べればよろしいまでのこと。
「武力行使」=「戦争」を、否とするならば、最早考えられる事は、只一つ・・・「話し合い」=「外交」でしか有り得ないと、タケルは説いたのです。
けれど、そんな事は、トロイア側も、当初からやっていた事ではあったのです。
ですが、こちらからの要望は、聞き入れて貰えず―――況してや、あちらからの要望は、無理難題でもあった・・・
だからこそ、実力行使の案も浮上してくるのですが、いざ、「北西部落」に攻め入ろうとしても、先程しのが述べていたように・・・「剣閣」―――
その部落を、取り巻く地形そのモノが、天蓋の要衝でもあったのです。
それゆえ、互いに無駄な時間ばかりを費やし、やがてその重荷は、イリスに凭れ掛ってきたのです。
そこで―――過去には、ある国家の名軍師として、数々の功績を残してきたタケルが、得意としている戦略を披露してみたのです。
その戦略の、驚くべき処は・・・先ず、こちらからの要望は一切出さず、あちらの要望として掲げている処を、全面的に呑み、
その内に、なし崩し的に、トロイア側に馴染ませる・・・と、云った、所謂、「懐柔策」を申し入れてきたのです。
その献策を、初めて耳にしたイリスに、トロイアの官の多くは、ざわめき立てたモノでしたが・・・
次にタケルは、最初に度量の広い処を、相手に見せつけることで、相手を認めさせると共に安心させ、
現在のトロイア国が、信頼のおけるモノだと思わせるのも、外交をする上での、最も肝心な部分である事を、説いたのです。
そして、このタケルからの一言で、当初から、「北西部落」の要望の第一に掲げられていた、「街道の開通」を、
トロイア国側の負担で推し進めてみよう―――と、云う事になったのです。
その、もう一方―――リリア達は・・・と、云うと・・・
マ:おりょっ?! 王宮から、結構人が出てるようだけど・・・ありゃ、工兵隊だねぇ。
蓮:堤や橋などを、どこぞかに造ると云うのでござろうか。
リ:ふん・・・なら、後を尾けてみよっか―――
トロイアの首都である「グロリア」の飲食店で、ここ数日の、トロイア国側の情勢を伺っていた、リリア一行―――
すると、王宮から続々と、土木工事に要る工具等を運ぶ、工兵達が出てきたのです。
それを見た蓮也は、国内の土木整備だろうと、予測するのですが・・・
リリアからの一言に、工兵達の後を尾けてみると―――・・・
リ:はあ〜? またなのかよ・・・これじゃ、奥地まで踏み入っちまうぜ?
マ:う〜ん・・・それに、こっから先だと、結構険しい道とか、続いちゃうんダヨネ。
市:あっ! 痛つつ―――・・・
リ:大丈夫か?市子・・・しっかりしろ。
市:・・・ありがとうございます―――
蓮:道の方も、随分小石が目立つようになりましたな・・・
このような道では、さぞかし行軍も、ままにはなりますまい。
リ:そうだな―――
そう云えば、市子は、本当は目が見えるんだからさ、瞑ってないで、開けろよ―――
市:―――・・・。
蓮:(・・・うん?)
存外に、長い道程・・・依然、現場には到着せず、未だ先に進む事に、リリアは辟易していたのです。
しかも、段々悪路になりつつあり、蓮也は、行軍するにも一苦労だと述べる一方で、
座頭である市子が、小石などに躓き始めたのです。
けれど、市子は、本来目が見えるのだから―――と、リリアが、思い出したように云ってくるのですが・・・
なぜか、市子からは返事がないまま―――・・・
そのことに、蓮也は気付く処となり・・・
蓮:市子殿・・・もしや、そなた―――本当に目が・・・
市:・・・ここ、数日前より、薄くなってきてはおりますが、完全に見えないわけではありません・・・。
まだ、人の顔が、判別できるくらいには・・
マ:・・・ウソ吐いちゃダメだよ〜〜―――本当の事云わなきゃ・・・。
リ:(!)なんだって・・・それじゃ―――
マ:うん・・・その人、結構な前から、もう何も見えていないはずだよ・・・。
目が見えなくなっている事を、蓮也に見抜かれ、市子は、苦し紛れの弁解に奔ったのです。
けれど、それは―――ヴァンパイアの侯爵である、マキには容易に見破られ、
随分な前から、完全に失明していた事を暴かれてしまったのです。
ではなぜ、市子は、仲間に嘘を吐いてまで、一緒に行動をしようとしたのか―――
そしてまた、嘘を吐かれていた事を、知った今でも、リリアは市子を、責めたりはしなかったのか―――
そこには、ただ・・・彼女達の、深い友情があったから―――では、なかったでしょうか。
=続く=