一方その頃、加東しのは、たまもの卦によって弾き出された、仇敵のいる場所を目指し、エグゼビア大陸の「北西部落」へと来ていました。
あらゆる難関・難所を踏破し、ようやく、どうにか辿り着いたものの、直後に激しい疲労に襲われて、そのあと二日間も眠りこけてしまったのです。
やがて、二日が経ち、外の騒がしさに目が覚め、隣りにいたたまもに訊いてみると、
貴重な時間を、惰眠を貪って費やしてしまった事に、大後悔をするしの。
しかし、そこをたまもは―――・・・
た:まあ、しのが悔しがるのも無理はないが、ここに辿り着くまでにも、お主は疲労困憊しておったのじゃぞ。
それをな・・・もし、その状態であ奴と闘ってみよ、段蔵の無念を晴らすどころの話しではなくなってくるぞ。
この、たまもの苦言に、しのは項垂れるしかありませんでした・・・。
そう、これからしのがやらなければならないのは、「最善」で、亡父の仇を討つ事。
「最悪」で、相討ち―――もっと「最悪」なのは、返り討ちに遭ってしまう事なのでした。
しかも、この「もっと最悪」の状況ともなれば、これまでしのが、危険を冒してまで、九魔の里から抜け出したことも、何の意味もなさない―――
そのことが、痛いほど判っていただけに、しのは反省し、万全の機会を伺う事にしたのです。
それはそうと、外の騒がしさが、少し異様に感じたしのは―――
し:それより・・・この辺の住人じゃない人達が、見えてるようなんだけど・・・
た:ほほう、よくぞ気付いたな。
いや、実はな・・・わしらがここへと着いた前後、どうやら「街道」が開通したようでな。
し:・・・ええ〜〜っ?!! なんなんだよ、それ〜〜―――
じゃ・・・ボク達が、あんなにまで苦労して〜〜・・・
た:かっかっかw まあ、若い内の苦労は、買ってでもせよ―――と、云うでなw
し:たまちゃん・・・笑い事じゃないよぅ・・・ボク達、死ぬ寸前まで逝くようなこともあったんだよ?
そう、しの達が、必死の思いまでして、ようやく「剣閣」を越したかと思った、その前後・・・
タケルが計画した、街道の開通が実を結び、それからの彼らは、なんら苦労をする事もなく、この地を行き来していたのです。
そして、今回の計画の上で、初段階が終わった事を、トロイア国女王となったイリスに奏上したタケルは、
彼自身の故国である、パライソ国との、太いパイプを活用し、彼自身が選定した外渉団を率い、
今回の、「北西部落」との交渉に、自分達の中にイリス自身も加わってみては―――と、誘いの弁をかけてみたのです。
第八十五話;随行員
その弁に、イリスは、自身が王位に就いてから、初めての大仕事と云う事もあり、緊張の中にも、タケルからの誘いを快諾するのでした。
しかし・・・今回の為、タケルが満を持して選定したと思われる外渉団の内に、どうしても気になる者が、目に付いたため―――
イ:その事は承知いたしました。
・・・が―――そちらにいるお一人だけ、どうして・・・
タ:フードを目深に被っているか―――ですか。
実を申しますと、こちらの者は「見習い」でして、今件に随行させる事により、経験を積んで貰おうと・・・
そこで、イリス様さえよろしければ、許可をお願いできませんでしょうか・・・。
随:未熟な者で・・・頑張りますので、宜しくお願い致します。
イ:先生が、そこまで仰られるのなら・・・私は、構いません。
只一人、異彩を放つその随行員は、「未熟だから」だと、敢えて表情を他人前には晒さないのだと云うのでしたが・・・
どこか気の置けない―――そんな雰囲気を漂わせてもいた為、イリスも気にはなっていたのです。
ところが・・・イリスが支度の為、席を離れたのを確認するかのように、タケルがその随行員の側により、囁くのには・・・
タ:他人目がありますので―――傾頭は控えさせて頂きますよ・・・。
随:それで十分だよ。
それにしても―――迷惑だった・・・かな。
タ:とんでもない―――感激をしているくらいです。
それにしても、お姿を拝観した時には、ワシとて些か驚きましたよ・・・ジョカリーヌ様。
そう、イリスも気にはなっていた、件の随行員こそ、パライソ国大皇・ジョカリーヌ―――その人だったのです。
しかし、この大尽が、自分の身分を隠してまで、どうして―――・・・
タ:それよりも、なぜ・・・なのですが。
ジ:―――マキからの報告によると、「北方大陸統一化」への局面が、最終段階に向かっていると聞いて、じっとしていられなくてね・・・それではダメかな。
タ:十分通用すると思いますよ。
後は、マイ・マスターの、匙加減次第・・・と、云う事になりますが―――
ジ:タケルも云うようになったね。
だったら、私が責められそうになった時、パック・アップの方、宜しくお願いしておく事にするよ。
タ:は、は―――承知、承知。
実は・・・この度、ジョカリーヌがこの地へと現れたのは、全くの突発的な行動であり、
今頃某国では、国家の宗主がいなくなっている事に、大慌てになっている事だろう―――と、タケルは思うのでしたが、
そこはそれ、総統であるミトラが、既に何らかの便宜を図っていたモノと見え、騒ぎは最小限に押しとどめられている事を、
タケルは、携帯式の端末によって、知る事が出来たのです。
つまり・・・この惑星の、治の頂点に立っている人物が、こんな一地域に来ている事は、イリスやリリアは云うに及ばず、その他諸々・・・
云わば、この秘事は、タケルのみが知っている事だったのです。
それにしても・・・ジョカリーヌの、真の目的とは―――?
自分が寵愛していた、タケルに逢いたかった為・・・?
エグゼビア大陸統一の局面が、最終段階に入ってきたと云うのも、満更間違いではなさそうなのですが・・・
それもどうやら、彼女の真の目的とは、程遠かったようです。
ともあれ、この度の外交を、成功に修めさせる為の一団は、トロイア国の首都「グロリア」を出立し、翌々日には北西部落へと到着したのでした。
そして、その翌日―――思わぬ事件が・・・
その日は、早朝より、この日の為に、少なからぬ犠牲を払って、街道を築き上げた事を、声高に主張し、思い通りの展開に運ぶ、タケルの姿が―――
その横には、この度、新しくトロイア国女王の座に就き、長年の問題であった、北西部落との問題を解決するため、態々足を運んできたのだ―――と、部落側から視られていたイリスの姿もあり、
このままいけば、この事案は、なんら滞ることなく、時間が解決に導いてくれるものだ・・・と、そう思った瞬間―――
突如、まるで獣の様な雄叫びが、辺り一帯に木霊し・・・
イ:(!)なに・・・今の嘶き!
民:や・・・奴だ―――また、奴が・・・!!
イ:「奴」? 「奴」ってなんのことなの―――
民:王国の、あんたらは知るはずもねぇ・・・。
「奴」は、ここ半月も前から現れ出して、人や―――家畜や、オレ達の食糧を、食い散らかして行きやがるんだ!
イ:なんてこと・・・では―――
民:ああ、そうさ。
今んところ、あんたらの条件とやらを、殆ど丸呑みにしたのは、「奴」を退治して貰いたかったからさ!!
長いモノには、捲かれたくはない―――とはしながらも、現在、部落が被っている損害を知らないわけではない為、
今の処は、トロイア側の云うがままに、従うしかないのだ―――と、交渉の席に着いた、部落側の代表たちは云いました。
それに、その事には、イリス自身にも、思う処がありました。
自分の家族が、おかしくなり始めた前後に―――同じくして、北西の地に、禍いの星が堕ちた・・・
そんな、巷での、「噂」―――・・・
そんな噂は、所詮「噂」でしかないとはしながらも、真相に迫れる証もなかった為、
実際、今日まで、部落の人間から、話されるまで信じる事が出来ないでいたのです。
とは云え・・・折角、締結した、交渉上での約定を、反故にはしたくはない為、
イリスも、すぐに返事をしようか―――迷っていた処ではありましたが・・・
なんと、ここで、タケルの外渉団の一員である、あの「随行員」が―――・・・
随:それはよした方がいい―――・・・
イ:・・・えっ? あなた・・・どうして―――
随:君達、「人間」には、荷が重すぎると思ったから。
イ:「人間」・・・って、あなたも―――
イリスが、そう云い掛けると、その「随行員」は微笑み、
また、タケルに目配せをすると、自分だけはさっさとその場から去り、
禍の事象点へと向かったようなのでした。
=続く=