その人物は・・・本来ならば、こんな場所には、居てはならない存在―――
さある大国、「パライソ国」の、象徴的存在・・・「大皇」。
そんな人物が―――どうして、こんな場所に・・・
それがリリアの、素直に疑問としていた処でした。
それに、リリア以外の者達も、「意外な事実」に、驚いていたのです。
市:そ・・・そんな―――あの、リリアさんが・・・
し:けっ・・・けっ・・・「敬称」をつけて、人の名を呼ぶなんて〜〜?!
た:め・・・面妖な―――これは、この世の末が、来る前触れか!!
リ:お前らなぁ〜・・・だったら私は、どんだけ失礼な奴なんだよ!
いつもは、他人を呼ぶ時には、「敬称」は抜きで・・・少し傍目から見ると、馴れ馴れしい態度を取ってくるリリア。
けれどそこが、彼女の良い処であり、他人との間に垣根を造らないから、誰とでも親交を深めずにはいられなくなるのです。
そんな中で、実に千人に一人くらいの割合で、「敬称」を付けて呼ばれた時・・・
それは、リリアが心底慕う人物なのだと判ってくるのですが、そんなケースは滅多と見られるでもなく、
この時のように、彼女の仲間達は、皆、口々に云い囃し立てたりしたものだったのです。
けれど・・・今、一番重要なのは―――
リ:それはそうと・・・ジョカリーヌさん、あんたが直接ここへ出っ張ってきたってことは・・・
ジ:流石はリリア、鋭い処を衝いてくるね。
そう―――この私が、直接ここまで足を伸ばした本来の目的とは、「グワゴゼウス」の身柄を確保すること・・・。
だけど、彼の本体は現在、最初に降下してきた場所・・・「常磐」へと戻っている。
その事は、今しがた、探索衛星で確認済みだ・・・そう云う事でいいね、タケル―――
タ:いかにも、ワシも今少しばかり、早くリアクションを起こしていれば・・・と、後悔している処です。
ジ:・・・まあ、そう云う事にしておこう。
では・・・そろそろ始めようとしようか―――
この惑星で、一番の権威を誇っている「大皇」―――
そんな存在であるジョカリーヌが、しのと云う、抜け忍の親の仇一人の身柄の確保の為、こんな辺境にまで来ている・・・
そんな事は、不釣り合いではないか―――と、リリアは思うのですが。
次第に、重要な情報も、ジョカリーヌ自身によって、齎されようとしていたのです。
それが、今現在、自分達の目の前にいる怪異は、しのの父親の仇と目されている「塊閻」の「欠片」であり、
「塊閻」の本体は、「最初に降下してきた場所」・・・それが、蓮也や市子達の故郷でもある、「常磐」であるとしたのです。
いや・・・それにしても、それではまるで―――・・・
とは云え、そんな事よりも、しのにしてみれば―――
し:ちょ―――ちょっと待って下さい!
どこの誰だか知らないけれど・・・目の前にいるのは、塊閻とは違うんですか??
だとしたら、ボク達・・・
ジ:満更、そうでもないよ―――
彼の居場所は、ユリアも云っていた通り、ここ数日までは、この場所―――だったからね。
し:えっ? あの人の事を―――・・・
ジ:まあね、彼女とは、結構な昔から永い付き合いだから・・・。
しかし、何者かによる情報漏洩によって、私がこの場所に現れると云う経緯を、「グワゴゼウス」に知られてしまった為、
彼は、寸での処で命拾いをした―――と、こう云う事なんだよ。
リ:「命拾い」・・・つて、あのヤロウは、私達「人間」じゃ、敵わないってんだろ?
ならなんで―――ジョカリーヌさんが・・・
しのの父親の仇である「塊閻」は、リリア達が「人間」である以上、とてもではないが、敵いはしない・・・
その事は、先刻、ジョカリーヌ自身より仄めかされていました。
けれど今度は、こんな自分達になり替って、ジョカリーヌ自身が「塊閻」を退治・・・
いや、退治するよりかは、相当困難であり、高度な技術が要される、「身柄の確保」に及ぼうとしている・・・
しかも、そんな、自分達にとっては「難敵」とも云える塊閻が、「命拾いをした」・・・と、云った時に、
リリアは堪らず訊いたのです。
ならば―――どうして、ジョカリーヌに、それが出来るのだ・・・と。
すると、ジョカリーヌは云うのです。
自身の「存在意義」、そのモノに係わる、ある重要案件を・・・
第八十七話;肆寶圏
ジ:それは、実に簡単な事なんだよ。
この私自身、突き詰めてみれば・・・彼らと同じ―――「宙外より来た者」だから・・・。
「宙外より来た者」=「異星人」=「宇宙人」・・・
この惑星を―――地球を―――・・・
夜空にさんざめく、数多の「星」の一つであると知っていたリリアは、
この時、ようやくにして、「真実」と云う理解に至る事が出来ました・・・。
どこか―――自分達、「人間」の知る、常識の範疇ではない技術や事柄を、リリアは、ジョカリーヌから多く学びました。
では、その「出処」は・・・?
その「解」の在り方を、至極簡潔にしてしまえば、先ず迷うことなく―――
それらの総ては、「宙外より来た者」(達)・・・つまり、ジョカリーヌ自身の手によって、齎されたのだ―――と、理解しなければならないのです。
だとするなら、またなぜ―――ジョカリーヌは、この時機で・・・?
すると今度は、その理由を訊く暇もなく・・・
ジ:グワゴゼウス―――無駄に足掻こうとも、最早逃れられないよ。
この彼らの様に、満足に武器を扱えない私が、何の準備もなしに、この場にのこのこと現れるとでも思ったのかい。
準備は万端―――喩えそこにいるのが、本体であろうとなかろうと、絶対に逃れられない手は打ってきているからね。
まあ・・・少々残念だけど、今ここにいるのは、「抜け殻」にも等しい―――
けれどそれでも、彼ら「人間」には、荷が重すぎる・・・だからこそ、この私が出てきたんだ。
「小魚」を獲るのに、些か大きすぎた「仕掛け」にはなってしまったけれど・・・それでも、是非もない事なんだよ―――
それに・・・「お前」は―――・・・
「宣告」・・・「確定戦域の属性変動」―――
た:(!! なんと?? まさか―――あの者は・・・!!?)
「欠片」ですらも・・・人間達が、束になっても敵わぬ相手を―――まるで、服に付いた埃を払うかのように、折伏をさせる存在・・・
たまもが知る上で、そんな事が出来うる存在は、「神」か、それに近しい者でしか有り得ない・・・と、感じていました。
そして、その者の「宣告」により、この場だけが、現在の次元より隔離されてしまった・・・
つまり、「ジョカリーヌ」と「塊閻」が、直接戦闘に及ぶ場―――「確定戦域」が、「ジョカリーヌ」自身の「内的宇宙空間」に切り替わってしまった・・・
しかしそれこそが、「ジョカリーヌ」自身が持つ、顕現の正体・・・『肆寶圏』が、顕在化し始めた証拠でもあったのです。
それに、その場に顕在化し始めた「呪術式方陣」の在り方に、再びたまもは戦慄したのです・・・。
現代に措いては、知る者も少ない・・・況してや、たまもですらも、読めなかった文字が、その「呪術式方陣」に使われていたのです。
而して、その文字こそは―――神代の文字・・・「エノク文字」・・・
地球の歴史よりも旧く―――また、強力な「言の葉」を宿す事で知られる、その「文字」こそは、
確かに、「本体」の「抜け殻」であるとも等しい怪異を、「確保」するにはうってつけと云えました。
だから・・・「ジョカリーヌ」が云っていたように、彼女自身がこの場に現れた時点で、「塊閻」は確保されて然るべきだった・・・
―――はず・・・だったのですが、「ジョカリーヌ」の思惑は、寸での処で躱され、「塊閻」の「本体」は、常磐へと逃れていると云うのです。
その事にしのは、自分本来の目的を果たす為、もう既に、心は・・・自分が生まれ育った故郷、「常磐」に跳んでいるのでした。
=続く=