自分達「人間」では、敵わないとする相手・・・「塊閻」―――こと、「ストゥク=カイエン=グワゴゼウス」・・・
その「彼」の、身柄を確保すべく、布かれた「呪術式方陣」の在り方に、
古くから、そうした手段に通じていた、たまもは、ただ、戦慄するしかありませんでした。
そして、彼の者の弁を反復するのです。
「君達人間では、敵わない・・・」
ならば―――彼の者は、「人間」ではないと云うのか・・・
その事を、最早訊くまでもなく、「彼の者」である「大皇」は、自らが持つと云う、強大な顕現を、行使し始め・・・
まるで造作もなく、この場に遺された、「塊閻の欠片」を、折伏てしまったのです。
そして・・・思う処となった、たまもは―――
た:そなたは・・・本当は、何者なのじゃ―――
「只の人間」・・・などと、云い逃れが通用するとは思わぬ方がよいぞ。
ジ:おやおや、恐いね―――
ならば一つ聞くけど、君は、「塊閻の欠片」に、この人達全員が殺されたとしても、何もしないつもりでいたのかな。
た:・・・そのような事、なってみなければ―――
ジ:なるさ。
そのことは、君が一番心得ている事だろう。
君とあと一人・・・君達の故郷では、「朱天童子」と呼ばれている存在と、同等に准えられている「崇徳上皇」―――
「鳥羽院」の側室の一人でもあった「玉藻前」も、どこか判っていたはずさ・・・
「彼」の政敵でもある「玉藻前」達が張り巡らせた政略により、「讃岐」の地へ流された「彼」が、
その、あまりもの深い「憎しみ」や「怨み」により、「大魔障」へと変わり果ててしまった時の姿・・・
往時には、穏やかな性格で知られる「彼」の姿は、見る影もなくなってしまっていた・・・
た:(!)なぜ、それを・・・そなたが―――?!
ジ:まあ、そこの処のネタは、既に上がっているんだけれどね・・・。
その当時、偶然、「グワゴゼウス」が降り立った地が、「讃岐」だとしたらば・・・
それに、他にも色々な事は知っているよ。
丁度、その当時の常磐は、混迷の時代に突入していたみたいだったからね。
だけど・・・それが精一杯だった―――なにしろ、こちらも、色々としなければならない事が多すぎたしね。
でも、そんな事は、本当は理由の一つにしては、ならないのかもしれない・・・。
こんなにも、総ての事情に精通し、難敵でさえも、軽く捻り上げてしまうジョカリーヌの事を、たまもは「神」ではないかと疑いました。
それに、先程、ジョカリーヌが云い置いた内には、蓮也や市子が、史実として学んだ事柄も含まれていたのです。
但し―――その事実を・・・常磐の「歴史」を学んできた彼らよりも、常磐出身者ではない者が、誰よりも詳しかった・・・。
それこそが、「管理」―――
それは、未だ続いていると云う、「宙外」からの来訪の「統計」―――
けれど・・・皮肉な事に、地球側は、その制度を取り入れたばかりであり、
況してや、現在より数百年前は、地球上の諸勢力の、「誰」が、責任を負える立場であったか、甚だ疑問とされていた時代だったのです。
つまり―――ジョカリーヌにしてみれば、常磐で起こっていた「政変」は、「認知」はしてはいたけれども、
自分達の地域でも、そう云った「政変」は頻発としており、とても、常磐にまで気をまわす事が出来なかったのです。
しかし―――ここまでの諸事情を聞いていたリリアは、ある事に気が付くのでした。
リ:・・・じゃあ、ジョカリーヌさんが進めていると云う、あの「計画」―――
ジ:フフ・・・そう云う事、意外と呑み込みが早いようだね。
そう・・・これから、この地球には、誰彼問わず―――実に様々な思考を持った者達が、「宙外」から来訪してくることとなる・・・。
勿論、中には、疚しい考えの連中もいる事だろう・・・だから、そこで、この「地球」としての意見を、出しておかなければならない。
けれど・・・もしそこで、意見を一つにまとめられなかった場合―――そうした考えの連中は、間違いなく、そうした隙を衝いてくる。
確かに、種々様々、十人いれば十人―――百人いれば百人、一億いれば、それだけの思考があり、主張があるのだとすれば、
それはそれで喜ばしい事だし、歓迎すべき点ではあると思う。
だけどね・・・決めるべき時に決められないようであっては、それはまさしく連中の思う壺でもあるんだよ。
意見の多様性を認めながらも、やがては、そうしたモノは一つに纏める必要性がある事を、ジョカリーヌは説きました。
そして、その事を、初対面の時から聞かされていたリリアは、今にして思う処がありました。
「なぜ・・・あの時・・・この人は、ああも熱く、「地球の統一」を唱えていたのか・・・」
「それに、ジョカリーヌが、ならば「人間」ではないとするなら、どうしてこうまでも、自分達に尽くしてくれるのか・・・」
その理由は―――リリアは、どこか判ったように思えました・・・。
「恐らく・・・この人は―――私達の事が・・・」
その一方で、自分達が知らない処で、こんなにも大切な事柄が、進行しつつある事を知った、「トロイア国」の「新たな王」は・・・
イ:さすがはリリア姉サマ―――こんな、素晴らしい考えの方とも、友誼を結ばれているなんて・・・
それに、今にして思えば、先生からも云われた、あのお言葉・・・
タ:ほう―――ようやく決心がつかれましたか、それは僥倖。
・・・と、云うわけで、ジョカリーヌ様、空いていた「北の評議員」の席の件―――
ジ:それは良いんだけど・・・私が見ている分には、簡単に安請け合いしてしまっているようだけど―――大丈夫なのかい。
イ:はい・・・姉サマや先生、それに、この惑星に住むと云う、人達のその想い、この私が―――
ジ:そこまで難しく考える事はないよ。
寧ろ、リリアみたいに、気軽に考えてくれていた方が良い・・・。
ならば、一つ聞いてみるけど、リリアがこのエグゼビアに現れた時、そんな事を臭わせた処があったのかな。
その一言―――その一言が、総てを物語っていました・・・。
イリスは、北西部落の住民達との話し合いを、急遽纏めると、すぐにその足で、タケルと共に騒動の現場へと駆けつけていました。
するとそこでは、すでに何者かが―――と、云うより、先程、自分の制止を振り切って、外へと飛び出した、あの「見習い」が・・・
見上げんばかりの怪物を、手玉に取っていた・・・
しかも、後々タケルから聞いた処によれば、あの「見習い」こそ、僅か数年前まで、「パルーシア国」を援助してきた、さある大国の主だと云うのです。
その事に驚いていた処、矢継ぎ早に明らかにされてくる新事実・・・
なんとも、既にこの惑星には、「宙外」からの来客で溢れていると云う・・・
それも、「望む」客も、「望まぬ」客も、十把一絡げに―――・・・
そこで、イリスは思い出すのです。
タケルや婀娜那から、常日頃から何を云われていたのかを。
「自分たち一人の力は、小さいかもしれない・・・けれど、小さな力も、併せる事が出来れば、大きな勢力に対抗することが出来るかもしれない・・・。」
当時―――その時、イリスには、何の事を説かれているのか、さっぱり判りませんでした。
とは云え、「トロイア国」を取り巻く勢力は、どこも強豪だったがため、自分の国を護る手段の為、常に「同盟」の意識を持たなければならないのかもしれないと思っていました。
けれど、それは―――・・・遠からずの処では、当たってはいたのでしょう・・・。
しかし、運良く、エグゼビア大陸の覇者となった今日に至って・・・
そして、ガルバディア大陸に覇を唱えた、「パライソ国」の「大皇」の、気高き理想を知った現在―――
イリスもまた、その「理想」の為に、骨身を惜しまない同志の一人となったのです。
第八十八話;イリスの決意
=続く=